惑星アレスの魔女   作:虹峰 礼

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難題

 

「まず、本題に入る前に確認したい」

 

 俺は執務室の机を囲んだセリーナ、シャロン、そしてクレリアを見渡した。仮想スクリーン上ではイーリスも制服で姿を現していた。まるで机のそばに立っているかのように見える。

 

「シャロン、エルナの容態は」

「治癒魔法のおかげで、身体的にはほぼ回復しています。回復訓練も進めていますが、微熱が続いています」

「熱を下げる魔法がないか後で調べよう」

 

 クレリアがいるので話しにくいな。ナノムや先進的な医療の話はできないし。

 

「セリーナ」

「部隊編成ですが、選抜に難航しています。希望者が多いわりに能力要求にこたえられる人材が少ないです」

「希望者が多すぎるとは意外だな」

 

 それまで黙っていたクレリアが言った。

 

「皆はアランの直轄部隊ということで期待しすぎているのだと思うわ。ダルシムもそれを懸念しているの」

「セリーナ、希望者のリストをみせてくれ」

 

 通常なら仮想スクリーンでスクロールするだけだが、クレリアの手前、紙をめくるしかないな。もともと紙版はダルシムにも見せるためだろう。

 

 ざっと見ると、近衛と辺境伯軍の希望者はガンツから俺と一緒にこの拠点まで来た初期のメンバーが多い。エルヴィンの配下からはフランツほか数名。フランツはエルヴィンの右腕だった。おそらくエルヴィンは俺のやり方を探る気持ちもすくなからずあるのだろう。

 

「セリーナ、名簿には冒険者見習いとか、かなり若い世代もいるが」

「どこで聞きつけたのか、彼らも役に立ちたいと。当初の予定にはありませんでしたがリストには入れています」

「戦闘経験がないのは問題だな。若年ゆえ、ナノム適合性は高いが……」

「ナノムテキゴーってなに?」

 

 ……しまった。セリーナとシャロンがいるものだからつい、航宙軍のブリーフィングになっていた。

 

「それは、」

「私たちの大陸で使っている軍事用語です。若い人ほど訓練しやすい、というような意味ですよ」

「無意識のうちに故郷の言葉が出てしまったということ?」

「そうなんだ。すまない」

「私もアランの言葉を覚えるべきね」

「……続けていいかな?」

 クレリアはそれ以上突っ込みを入れることなくうなずいたので、俺は話を続ける。

 

「ここは俺たちの大陸の軍の選抜方式をとらせてもらう。ただし、それに脱落したからと言って俺が切り捨てたということではないよ。あくまで適材適所に振り分けるだけだ、ということをクレリアからも説明してもらえないか」

「わかったわ」

 

 本題に入ろう。俺は机に大陸の地図を広げた。

 

「これはセリース大陸の地図? これほど詳細なものは見たことがない」

「そうだよ。俺の……国で作ったものだ」

「ということは、アランの国は私たちの大陸のことをよく知っているのね? それにアランは別の大陸から来たんでしょう? この地図には書かれていないの?」

「俺たちの大陸はこの地図の外に位置している。この地図は部分的なものだよ」

 

 最近、クレリアの洞察力というか理解の解像度が上がってきた。どこまで教えるか微妙になってきたな。地図については嘘ではない。俺が来たのは惑星外だ。

 

「アロイス王国のロートリンゲンはアラム聖国にそそのかされて動いている公算が強い。もともとスターヴェークの南部貴族はアラム聖国に近いこともあってつながりがあったんだろう。今も食料支援を受けている」

 

「アラム聖国を従えれば、それに頼っているアロイス王国を制することができる、ということね」

「その通り。そのためには食料だけでなく、経済的な対抗策も必要となる」

「そのためにはルドヴィークの廃城に眠るギニーアルケミンが必要……?」

 

 ようやく理解してくれたか。

 

 しばらく地図を眺めていたクレリアは言った。

「ルドヴィークへは絶対にアランと同行する。私の母上の出身地でもあるし、私も何度か出かけたことがある。きっと何かの手助けができるはず」

「…………」

 

 思わず絶句する俺と、シャロンの目が合った。小さく首を横に振っている。しかたないな。あまりこの手は使いたくないんだが。

 

「わかった。ダルシムが認めたら連れて行こう」

「それは卑怯だわ! ダルシムが認めるはずないのを知っててそういうの?」

「クレリアこそダルシムが反対するのを知りながら前線に出かけるのか。たまには気持ちをくんでやれ。近衛は主を守護するためにいるんだ。対象のお姫様がしょっちゅういなくなるのはおかしいだろ」

「ガンツに行こうといったのはアランでしょう」

 

 いや、二人の衛兵を振り切って拠点を出たのはクレリアだろ。

 

「アラン、リアを連れていきましょう。我々がいれば十分護衛できます」

 

 シャロンが間に入った。俺とクレリアに気を使っているのはわかるが今回ばかりは譲れない。

 

「ギニーアルケミンは国宝だ。秘匿している場所にトラップがあるかもしれない。俺とクレリアが二人して引っかかったらどうする」

「罠に落ちるかもしれないアランを心配して待てと言うの?」

 これ以上、言い合っても答えは出ないな。

 

「クレリア、この件については一晩考えさせてくれ。明日の朝食までには結論を出す」

「わかった。私もすこし言い過ぎたわ。でも王室関係のことは私にもう隠し事をしないでほしいの」

 

 それだけ言うとクレリアは執務室を出ていった。

 

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