アラム聖国、王都上空……。
ベルタ王国の建造物がせいぜい三階建てくらいだったのに対し、五階以上の高層建築が結構ある。建築や構造学の正しい知識があるのは間違いなさそうだ。
王都の中心に無灯の領域がみえた。アラム聖国の王城だ。ほぼ地下構造のため入り口付近だけ灯火が見える。イーリスの分析によれば、正門から百五十メートルほど離れた地点に開口部を作れば目的のフロアに最短距離で到達できる。
この地下要塞には二千年にわたる憎悪を継承する狂信者たちがいる。その中で少佐はいったい何をしているのか。強力な指導者として君臨していて、ルドヴィークの金属板が俺を呼び寄せる手段―― つまり罠 ――という可能性も捨てきれない。
万が一俺がここで命を失ったとして、セリーナとシャロン、拠点には実体を得たイーリスがいる。そして大きく成長したクレリアは王国の女王としてやっていける。
[突入機D-75は作戦行動に入ります]
戦闘直前の刹那の不安はイーリスの声で消えていった。
仮想スクリーンでは一機の偵察ドローンが高度二万メートルまで急上昇していく。積載上限ギリギリの金属弾頭を積んで、このままラムジェットエンジンを全速にして機体ごと突入するのだ。
残りの三十機には武装化した汎用ボットが機体のフックをつかんでぶら下がっている。偵察ドローンのステルス機能は本体以外には作用しないので、地上からはまるで人間の形をした何かが飛来しているように見えることだろう。
『イーリス、目標地点を拡大表示』
[了解]
俺の仮想スクリーンに画像が展開、直ちに熱源探知モードになる。
地下要塞の大門周辺が赤く染まった。地下からの排熱が漏れている。その周囲に散らばる輝点は警備兵たちだ。
[目標高度に到達、降下開始します]
偵察ドローンが赤外線モードで確認できる排気煙を光跡にして、極超音速で突入していく。目標地点が一瞬の閃光に包まれた。突入したドローンの運動エネルギーの一部が熱に代わったのだ。
[目標に弾着を確認]
『全汎用ボットはただちに降下せよ。汎用ボットB-1からB-10は突入通路を確保、残りは後衛として開口部を守れ』
[[[了解]]]
高度20m付近でボットは次々とフックから手を放し、スラスターを駆動して着地していく。俺の乗った機のハッチが開くと南国特有の暖かい風が吹き込んできた。この作戦はスピードがすべてだ。アラム聖国の兵士が押し寄せる前に手早く片付けよう。
先行するボットはすでに開口部から次々と侵入している。後続のボットは入り口付近に待機して防御態勢を取っていた。
ボットに続いて強めの傾斜を滑り降りる。たちまち第一層、第二層を通り抜け、薄暗い第三層に到達した。
先頭のボットのあたりから、暴徒鎮圧用の可塑性樹脂弾の射出音が聞こえた。同時に悲鳴が上がる。あれは痛いなんてもんじゃないからな。一日は動けなくなる。
[開口部にてB-11からB-30が会敵、戦闘に入りました。偵察ドローンは航空支援を行います]
あの警備の状態ではかなりの人員がいるはず。おそらく地下にも相当な人員がいることだろう。急がなければ。
地下三階フロアを横断するように一群となって進む。バグスの地下営巣地とは違って、突然バグスが飛び出してこないだけましだ。
轟音とともに先頭のボットが倒れた。つづいて次々と爆裂音とともにボットが倒れていく。周囲には燃焼ガスの刺すようなきつい臭いと煙が充満している。
[火薬を使った滑腔弾のようです]
くそっ。砲を作れるなら銃もというわけか。どこまで技術が進んでいるんだ。
大勢の兵が構える銃口の向こうには高さ三メートルくらいの大扉があった。あの中に守るべき者がいるというわけか。俺はパルスライフルを抱え、熱源探知モードで照準を設定、発射する。
「ぎゃっ!」
「うわっ!」
悲鳴で部屋が満たされてなお、アラム聖国の兵士たちは突っ込んでくる。手や足を狙っているとはいえ、けが人の山を作っているようなためらいを一瞬感じる。
唐突に銃撃はやんだ。おそらくあの銃はまだ量産品ではなかったんだろう。俺は転がった兵士たちを飛び越え、扉に近づく。だが開かない。
突然、扉の向こうから爆発音が聞こえ、扉の隙間から煙が出ている。一体どうなってる。
金属製の扉はボットには開けられそうもない。扉には鍵穴らしき小さな穴があった。周囲を見渡すと兵士たちに交じって一人の女官が倒れている。腰に金属製の輪とそれにぶら下がっているのは鍵だ。
鍵をリングから外して鍵穴に入れると、扉は静かに開いていく。