[……以上はコルネリウス伯爵家の開拓記録から発見された手記となります]
あいた時間をみつけては、財政面から過去の開拓記録を読んでいた。どの貴族家も初期の入植基地を設営するだけでも莫大な費用を投じている。
道路の建設と魔物との戦い。人員の補充。はじめのころは相当の人間が魔物にやられたらしい。
イーリスによれば、この開拓記録はベルタ王国で最初期のものでおよそ百二十年前という。財政ではなく開拓監督官の個人的な手記というのが興味深い。
伯爵家もかなりの兵力も動員していたようだが、最初の植民地は壊滅し、撤退した。その後コルネリウス伯爵家は王命に背いたかどで廃絶となっている。力をもちすぎた伯爵家をつぶす政争という側面もあるだろうが、ほかにもこれまでに四つの貴族家が開拓を試み敗退している。
過去の失敗をかえりみずに何度も樹海に入植するのは理由は何なのか。
この記録では魔物から開拓民を守るためにS級魔術師が護衛についていたが、その多くが途中で熱にやられている。一方で爆発的に魔力を増大させたものもいるが、記録を見る限り魔力を使い尽くして命を落としている。最後に残った魔術師などは大樹海を焼き払うべく火炎魔法を使用した挙げ句、スタンピードを巻き起こしてしまい、結果的に植民地は滅びた。
『今回の記録でいくつか気になったことがある。一つは魔法の適性を持つ者が奥地に長期間滞在すると魔力が増大すること。まれに発熱をともない、樹海熱とも呼ばれるらしい。もう一つは開拓に失敗すると廃絶される可能性があることだ』
『今回はアランの希望でこの地を望んだのですから、失敗したところで地位を追われることにはならないでしょう。そうなったとしても新拠点はもうできているのですから問題はないかと』
『問題なのは病気です。いまのところセリーナも私もとくに体調に問題はないですが』
『セリーナの言う通り、廃絶の可能性は低いな。魔力の増大が病の原因なのかを知る必要がある。今後しばらくは情報収取につとめよう。セリーナ、辺境伯軍のなかに魔力増加を感じる術者がいるか調べてくれ。孤児院の子供たちの中にも魔法の才能をもつものもいるだろう。樹海でそれが開花するかもしれない。シャロンは子供たちの魔法適性について観察、記録するように」
『『了解』』
『イーリス、この惑星に大樹海のような場所はほかにあるのか』
[規模が小さいものはいくつかありますが、この場所が最大です]
『上空からの探査も限界がある。地上班による現地調査が必要だろう。地形や植生情報などから最適な探索ルートを設定してくれ。第一次調査隊は約二週間を目途とする』
[了解しました]
三人がARモードを解除して、執務室は俺一人だけになった。
冒険者時代の仲間意識を呼び戻そうとして、予想外の事態を引き起こしてしまった。魔法についてはまだ謎が多すぎる。
魔法の源泉でありながら、多くの住民に忌避される土地。
他の惑星世界にもこのようなものはないだろう。
例外が、エリダー星系の第二サルサで発見された未知のエネルギーだ。原生動物が瞬間移動に使用していたということだ。だが知的生命体が利用できるほどに魔法が発達している世界はここが唯一だろう。
大樹海と魔力、女神ルミナスと魔法。この惑星のすべての問いに対する答えのような気がしてならない。
もう一つ気になる記述がある。
記録には大樹海の魔物に対して爆裂魔法を使用した記述が何箇所かある。この当時はまだ使える術者がいたようだ。クレリアによるとファイヤーボールよりはるかに強力な魔法だがいまはそれを使える者はいないという。俺のファイヤーグレネードをみるまで、エルナもクレリアもこの魔法を見たことがなかったらしい。
昔はもっと大規模に魔法を使った戦争があったのだろう。戦闘は爆裂魔法やさらに強力な魔法をつかった激しいものだったはずだ。それを憂いた聖職者たちが魔法書の工程をあえて難解かつ効果の小さいものだけにして、無制限の魔法による殺戮をやめさせようとしたのではないか。
エルナも魔法書の工程を一字一句操作することをやめて自由に扱えるようになった。これはつまり、俺が過去の封印を解き放ってしまった……のか?。
想像だけでは何にもできない。明日、ガンツの商業ギルドに行く際、魔術ギルドにもよってみるか。