惑星アレスの魔女   作:虹峰 礼

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城塞都市ガンツ

 翌朝、俺はガンツへ馬を走らせていた。

 休みを入れても昼過ぎにはガンツに着くだろう。例によって俺に護衛をつけるのつけないの、クレリアが一緒に行くとか行かせないとか諸々の問題が噴出しそうだったので、夜が明けきらないうちに単騎で出てしまった。セリーナたちには連絡していおいた。ま、戻ったとき戻ったときだ。

 カトルと仕入れ担当は先日、ガンツへ向けて街を出ている。ガンツのホームで合流し、サイラスさんの邸宅にお邪魔する予定だ。

 

 曙光さすあたらしい街道を走るのは実に気持ちがいい。最初は苦手だった乗馬もだいぶ上手になった。タースもよく俺になついてくれる。最近はナノムやアップロードに頼らずに覚えるのが楽しくてならない。

 

『ディー・ツーよりアランへ』

 なんだよ。せっかく一人旅気分を楽しんでいたのに。心配性のイーリスが上空に直掩機を置いているのは知っていたが、なんの用だろう。

『千五百メートル先で戦闘行為が発生しています』

『仮想スクリーンに投影しろ』

 俺は手綱を引いてタースの速度を落とした。スクリーンに上空からの画像が出る。荷馬車が一台横倒しになっている。倒れたまま動かない人影が二体。丸腰の若者を剣を持った三人の風体の怪しい男たちが取り囲んでいる。

 どう見ても盗賊だな。若者は横倒しになった荷馬車に背を預け、もう逃げ場がない。

『ディー・ツー、三人を抑止しろ。殺す必要はない』

[了解]

 スクリーン上に三人の男たちがズーム表示され、大腿部にマーキング表示が点滅する。

[発射]

 男たちが転がりまわっている。若者が上空を見上げた。ふと思いついて俺はドローンに指示する。

『ステルスモードを一時的に解除、攻撃地点を周回ののち、再度ステルス化しろ』

[了解]

 

 いきなり若者は跪いて手を合わせた。布教完了だな。

 これで噂話があたりに広がってくれれば、樹海も祝福された場所になるかもしれない。ベルタ王国内での大樹海のイメージは最悪だ。これを何とかするには宗教でも何でも使うしかない。街を成長させるにはまず人を集めねばならないのだ。

 

 画像を見ていると跪いたままいきなり崩れ折れた。怪我をしているのか。少し急いだほうがいいようだ。新拠点とガンツをむすぶ街道は定期的に魔物を間引きしているが、かわりにこういう強盗まがいが湧いて出る。盗賊狩りも再開すべきだろうな。

 

 近づいていくにつれ、のたうち回っていた盗賊どもはあきらめたのか動かなくなっている。若者も横たわったままだ。よく見ると俺より明らかに年下で、繊細そうな顔つきから少年と言ってもいいくらいだ。肩にまでとどく長い金髪が女性的な印象を与える。衣服からすると平民ではなさそうだが、たったひとりでこの街道を移動する理由がわからない。

 近くに転がっていた二人は黒焦げだ。どうやら若者は火魔法の使い手だが二人を倒すところが精一杯だったのだろう。

 

 外傷はなさそうだが念のため全身に治癒魔法をかけた。

「おおっ」

 盗賊共が驚いた声を出した。若者はまだ目が覚めないし、こいつらの事情聴取といくか。こちらを反抗的な目つきでにらんでいる髭面に声をかける。

「そこのお前、名前は何と言う」

「うるせえ」

「元気そうで何よりだな。ところでこの馬車を襲った理由を聞かせてもらおうか」

「護衛もつけない荷馬車なんて獲ってくださいって言ってるようなもんだ。俺たちはその通りにしてやったのさ」

 すばらしい自己正当化だな。奴隷鉱山でも同じ理屈が通用するかな。

 

 さっきまでぐったりしていたもうひとりが言った。

「荷馬車の横板を見てみろ。ガンツ伯の家紋が付いてるだろ。奴らが俺たちから酷税でうばったものを取り返したのさ。どこが悪い」

「さっきよりはマシな理由だが、どれが本当なんだ?」

「全部ほんとうだって!」

「といって、襲っていい理由にはならないが」

 

 荷馬車は倒れて馬も逃げたようだ。四人をタースに担ぎ上げるわけにもいかない。

「お前たちはここにいろ。あとからガンツの守備兵に回収に来てもらおう」

「ええっ」

「樹海の真ん中に置いていくんですかい」

「魔物が来たらどうすんだよ!」

「魔物が現れる前に守備兵が来るのを祈るんだな」

 

 倒れた荷馬車の横に倒れている黒焦げ死体を改めて観察する。けっこうな火力だ。俺のファイヤーボールよりずっと火力がありそうだ。必死で全力投球したんだろう。ということは怪我じゃなくて魔力切れによる昏倒か。クレリアもファイヤーボールを連続で三十発以上発射すると丸一日は寝込んでしまうと行っていた。この少年がすぐに目を覚ます可能性は低い。

 倒れている若者をタースにのせ、俺はまだ文句と哀願を連呼している盗賊どもを無視して進むことにした。

 

 

 ガンツに近づくに連れ、道を歩く人々が俺の顔を視認するたびに会釈を返してくる。シャイニングスターの盗賊退治とドラゴンを巡る騒動で俺もクランもガンツではすっかり有名人らしい。

 

 タースは身動きできない人間を載せているのがわかるのか、ゆっくり歩みを進めている。賢い馬だ。乗馬を覚えたのはこの惑星に来てはじめてだったが、エルナに教えてもらってからはすっかり好きになった。教官が教え上手だったのもあるだろう。冒険者時代は馬車で移動するときはいつも御者台に俺とエルナが並んでいたものだが……もうずいぶん前のような気がする。

 

 ガンツに着いた頃にはすっかり日は傾いて大門が夕日に染まっていた。

 門前の広場は以前ドラゴンを解体した場所だが、今は広く整備されている。カトルによれば今年から収穫後のガンツの大祭ではここが会場の一つになるということだ。

 

 守備兵詰所に顔をだしたとたん、守備兵の一人が奥に駆け込んだ。すぐにギード守備隊長が現れた。

「アラン……様、お久しぶりでございます」

「途中でけが人を拾ったんだ。一応、治癒魔法をかけておいたが念のため手当を頼む。この若者を襲った下手人は街道に放置してある。荷と一緒に回収を頼む」

 俺が抱きかかえた若者を見るとギード隊長の顔色が変わった。知り合いなのかな。

「わかりました。すぐに回収させます。討伐報酬は明日までに報告いたします」

「よろしく頼む」

 

 ドラゴンを見せてからというものギード守備隊長の態度は一変した。王都の盗賊を一斉捕縛した話もおそらく伝わっただろう。護国卿の盾を出さずともたいていの話は通りそうだ。

「このところの守備状況はどうだ」

「残念ながら、アラン様に一度は一掃していただいたのですが、最近になってまた不埒な輩が徒党を組んでいるようです」

「今日も新しい道の近くに潜んで荷馬車を狙ったらしいな」

「はい。交通量が増えておりますので。商人たちによるとガンツを出るときより戻るときのほうが危険だそうです。もう一度お力を拝借したいところです」

 やはりな。商人たちはガンツの日用品や穀物などを樹海産の珍しい商品と交換しているようなものだ。だから帰りの荷馬車が襲われるわけか。盗賊たちも利に聡いとみえる。

「考えておこう。俺の街への物流をとめる訳にはいかないからな」

「ありがたいお言葉でございます」

 ギード隊長は頭を下げた。

 

 

 ガンツのホームに戻ったのはひと月ぶりだ。

 今週はサテライトの八班が当番のはずだ。班長はケニーだな。少々軽いところがあるが任務はしっかりやる男だ。

 門のところにはすでにカトルとケニーの姿が見える。

 ケニーのやつしばらく見ないうちに、すっかり身ぎれいにして鎧も新調している。給料の支払いはつづけているし、どちらの拠点でも風呂に入れるからな。

「アラン様」

「今日は入植希望者がいないみたいだな」

「カトルからアラン様が来られると聞いていたので、今日は受付していません。人が集まっているところにアラン様が現れたら大混乱になりますよ」

 それもそうだな。

「ケニー、こっちに来る途中で強盗を捕まえたんだ。あとから連絡があるから対処してくれ」

「了解です」

「カトル、準備はいいか」

「アラン様。あとでガンツのホームの者たちにも声をかけていただけるとありがたいのですが」

「わかった」

「それからそのお召し物だと目立ちすぎます。どうかこれを」

 言われてみればそのとおりだな。今日はサイラス邸に招かれているから航宙軍の制服のままで来てしまった。市中では確かに目立つ。

 カトルからフード付きのローブを受け取って身にまとう。カトルも同じ服装だ。

「アラン様。この荷物は?」

「サイラスさんへの土産だよ」

「では私がお持ちします。町中は大変混んでいますので馬で行くのは難しいです」

 

 しばらく街を歩いているとカトルの言葉に納得した。ガンツの町中は秋の大祭が近いせいか、商業街の賑わいは王都に引けを取らない。こうやって歩いて町中を行くのもよいものだ。

「我々の街もこれぐらいになるといいですね」

「共存共栄できればいいがな」

 

 星間貿易ではありがちなことだが、とある星系に居住可能な惑星が発見された瞬間に、それまで繁栄していた星区が経済的な優位性を失う、ということはよくある。だからバグスの本拠地を探す以上に民間の惑星探査も盛んに行われている。

 ただし、ワープアウトした先の惑星がバグスの植民惑星だったらただではすまない。多くの民間探査船が消息を絶っているのも事実だ。

 狭い惑星内ではなおさら、一つの街の繁栄は他の街の滅びの序曲ともなりかねない。それは為政者が一番良くわかっているはずだ。

 特に莫大な税収を得ているガンツ伯は俺たちの新拠点が栄えるのを望まないだろう。

 

 ガンツ伯くらいになると酒場で情報収集とはいかない。ビットによる収集にも限界がある。こういうとき必要なのは収集に特化できる現地の人間だ。

 

「カトル。サイラス邸に行く前にちょっとよるところがある。付き合ってくれ」

「はい」

 

 ユリアンに預かった手紙をエルヴィンの配下に渡しておこう。本人がいるといいのだが。

 

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