エルヴィンの組織はベルタ王国のおもな都市にはかならずアジトを構えているはずだ。
俺を襲った四十名全員の顔はイーリスがデータ化し、偵察ドローンが定期的に撮影した高解像度写真を常に精査している。あとは確率の問題だ。確認された顔の持ち主の出現頻度が高い場所に連中の隠れ家はある。すべての構成員がずっと仮面をかぶって行動しているならともかく、かならず集合場所は明らかになるはずだ。
結果、俺とカトルが現在向かっている先は、イーリスによると九十八%の確率で彼らのガンツ支部ということだ。
「アラン様、ここはガンツの旧市街地であまり治安はよくありませんよ」
「とくに問題はないが」
直掩機は常に俺の上空にいるわけだし、以前の失敗に懲りて警戒はしている。いまのところ武装した人間は近くにいない。
「アラン様が負けるはずがありません。ですがここは悪所です。悪い評判がつかぬかと」
ん? よくみると暗い路地のあちこちにこの時期にしては薄着の女たちが立っていた。カトルに言われるまで気が付かなかった。……守るべきは評判か。
「カトル、クレリアには内緒だぞ」
「はい」
仮想スクリーンにマーキングされた場所は三階建の建物だった。かつては旅籠だったものか、みあげると朽ちかけた看板が間口の上に残っている。だが階上に用はない。連中はここでも地階に隠れているらしい。王都でも地下に連絡通路をつくっていたな。
「カトル、後ろについてこい。離れるなよ」
「はい」
地下室への階段を降りていく。カトルのために手のひらにライト魔法を展開した。石組みの階段はずいぶん古いものだ。ガンツの歴史は大樹海に出入りする冒険者の起点、宿場町が起源というが、その頃からあるのかもしれない。
ドアをノックする。
「だれだ!」
しまった。なんか合言葉があったらしい。いきなり警戒感ありまくりの声だ。
「ユリアンからの手紙を預かっている。エルヴィンに渡してほしい」
「なんだと。ユリアンは街にはいないぞ。とんだ嘘つきだな」
「ドアを開けてくれないか」
「だめだな」
……面倒くさいな。俺は電磁ブレードナイフを引き抜いて蝶番を切断、ドアを蹴った。
「なにしやがっ、」
それはこっちのセリフだ。せっかくノックまでしているのに殴りかかることはないだろう。男は威勢のいい声の割には鳩尾を軽く打っただけで尻餅をついている。
部屋の中にはあと二人の男がいた。机にはグラスと酒瓶、地図らしきものが広がっている。一人は年若だが、目付きが鋭い。頭上にマークアップが展開した。
「お前は俺を襲ったときにその場にいたな」
「……ア、アラン様?!」
「そうだ。さっきも言ったがユリアンに頼まれてな。手紙をもってきてやった」
「おい、フランツ。こいつ何者だ」
「だまれ! 死にたいのか」
「シャイニングスターのアランだ。よろしくな」
「シャイニングスター……ってドラゴンスレイヤーで貴族で魔法使いの?」
「まあ、そんなとこかな」
いきなり、男は跪いた。さっき倒れた男もあわててあとに続いた。
「この二人は里の者か? あの場所にはいなかったな」
「はい。いったいどうやったらそんな事がわかるのでしょうか」
「前にも言ったが、俺の手は長い……。エルヴィンはこの街にいないんだな」
「はい。いまは王都にいます。実はアラン様ご依頼の件が思いのほか難航しておりまして」
ギニー・アルケミンか。国家機密だから俺も簡単に手に入るとは思っていない。
俺は懐からもう一通の手紙を机に投げた。
「これはライスター卿からだ」
フランツと呼ばれた男は手紙を読み始めたとたん愕然としている。
「こ、これは……。ライスター卿が自らアラン様に従うよう書いてこられるとは」
「そうだ。お前たちは現宰相のバールケと袂を分かった。それを元宰相として認めた上で、俺の配下につくようにと言っている」
「この二つの手紙はかならず、エルヴィンに渡します」
「頼んだぞ。ああ、それから俺に連絡したいときはこの街のホームにつなぎを入れてくれ。俺から連絡するときは……もっと別な場所に居を構えたらどうだ? まともな兵士の住むところじゃないぞ」
俺は金貨の入った小袋を机においた。
「これでなんとか場所を変えろ」
「アラン様、いま兵士とおっしゃいましたが」
「そのとおりだ。お前たちは我が兵、国のために情報収集をする兵隊だ、武器を振るうことは少なくても、知恵と知識が武器にまさることはある。大剣を振るう猛者をもしのぐ働きを期待しているぞ」
今度はフランツも含めて三人がいきなり跪いた。
「この命、アラン様に捧げます!」
感激のあまりか声が上ずっている。よほど日陰者あつかいが腹にすえかねていたと見える。
「エルヴィンによろしく頼む」
「「はっ!」」
航宙軍の情報小隊時代に叩き込まれたモットーをすこしばかり調整して、演説してしまった。少しやりすぎたかもな。この惑星に降下直前に受けた艦長教育の影響が残っているらしい。
俺とカトルは地階から地上に戻った。
「アラン様。ほんとうに生きた心地がしませんでしたよ。あんな連中でもアラン様には従うんですね」
「あんな連中とは言い過ぎだな。かつてはライスター卿の右腕としてベルタ王国のために働いて来た者たちだ。決して見下すようなことはするなよ」
「はい」
裏路地から大通りに出た。夜も更けたがあちこちに人だかりがしている。商店にはたくさんのランプが吊り下げられ、通行人はいまだに多い。秋の大祭はたしか来週だったな。クレリアたちと一緒にお忍びで来てもいいかもしれない。
警護はまた問題になるだろうが……。
まもなく街の中心部に豪壮な屋敷が見えてきた。サイラス邸の門は明かりが煌々と灯っている。
手提げランプを持って門扉のそばに立っていたのはカリナだった。到着時刻を伝えたつもりはないが……。商業ギルドは守備兵とつながりがあるんだろう。