「族長―――――っ」
しまった。盛大にドラゴンの咆哮が響きわたる。人語に解釈できるのは俺たちのナノムだけで、当然ながら隊列は動揺している。
「くっ!」
強力な羽ばたきでおもわず落馬しそうになってしまう。突風を巻き上げながらグローリアは着地した。
後ろを眺めると矢を構えているものもいる。数人は魔法の集中に入っている。民間人は……大騒ぎになっている。ああ、数名、落馬したようだ。
「ダルシム、サテライトの数人をやってグローリアが味方だということを伝えてくれ」
「了解しました」
さすがにダルシムは一度ドラゴンの背に乗っただけあって冷静だ。号令とともに先頭班が後続に走っていく。
あとから合流した元辺境伯軍の集団と冒険者たちはまだグローリアと顔合わせしていない。話では聞いていても実物を見ると驚くのは当り前だ。
「グローリア」
「族長、こうやって会うのも王都でお芝居したとき以来ですね」
ARモードでは何度かあっていたけどな。というか言い含めておけばよかった。とはいえ、グローリアも悪気があったわけではない。
「出迎えありがとう。でも今ついたばかりの連中はグローリアのことをよく知らないんだ。あとで紹介するよ」
「うれしいです! ここにいる人たちは族長の一族なんですか」
「今はクレリアに従う者たちだ。ここに住むかどうかはこれからクレリアが決める。きっと良い方向になると信じてるよ」
「人間の住む街でこんなにきれいな街は見たことないですよ」
「だといいがな」
「一緒に暮らすことになったら、族長の力が強くなるってことですよね!」
「そうだ」
しばらくのあいだドラゴンの声に耳を傾けている俺を見ていたクレリアだったが、
「グローリアはなんて言っているの?」
「仲間が増えたのかって」
「そうじゃないかと思っていたわ。なんとなくそんな感じがする。言葉はわからないけど」
『イーリス』
[はい]
『ドラゴンの感覚がよくわからないんだが、人数が増えただけでそんなにうれしいものなのかな』
[グローリアの話によれば、ドラゴンは大昔、族長を頂点とする大きな勢力がいくつもあったそうです。理由は不明ですが現在では個体数は激減しています。そのうえグローリアは長いあいだ孤独でしたから、喜んでいるのでしょう]
『そうか。だったらグローリアを責めるわけにはいかないな。あらかじめ伝えておかなかった俺の落ち度だ』
『『グローリア!』』
「セリーナ、シャロン!」
隊列の半ばを警護に当たっていた二人が走ってきた。
馬から降りた二人にグローリアは首を伸ばした。
『しばらく見ないうちに、太ったんじゃない?』
『シャロン、そこは成長したって言わないと』
「ええ、すごいでしょう。頑張ってたくさん食べたんですからねっ!」
グローリアは高々と首を持ち上げ、自慢げに胸を張った。
騒動で気がつかなかったがほんとにでかくなってないか。
[建設の支障となる魔物の巣を当初は偵察ドローンで排除していたのですが、グローリアが手伝いたいと]
駆除した魔物を食べていたというわけか。以前、オークの集落を襲撃したときも、グローリアが倒したオークを頭からぽりぽり食べていたっけ。
ドラゴンの食糧問題か。魔の大樹海は広大だし、魔物は湧いて出るとはいうものの将来的に問題になりそうな気がする。
大門近くの町の広場に全員が整列した。サテライトの十班、その後ろに後発の元辺境伯軍の兵たちとその家族。シャロン達がつれてきた孤児と冒険者たちが荷馬車からおりて並んでいる。広場は縦二十名、横百名程度なら完全に余裕だ。
「姫様からのお言葉である!」
ダルシムが叫ぶと、一斉に兵士とその家族はひざまずいた。後ろの冒険者や孤児たちは少し遅れて膝をつく。
「皆の者、此度は遠路ご苦労であった。この地を新たな拠点とするか否かを自ら判断し、不適と思うものは去って己が道を行くがよい。私も十分に見分の上で判断を下そうと思う。まずは案内に従って長旅の疲れをいやし、明日の夕刻にもう一度ここに集まってほしい」
「アラン様からも何か一言」
「ほとんどクレリアを慕ってきてくれた人たちだからな……。グローリアの紹介だけはしておこうか」
少し距離を置いて待っていたグローリアに俺は近づいた。
こうしてみるとやはり体高も首回りもずいぶん大きくなっている。こころなしか皮膚が以前より深い赤色になっているようだ。
「俺はアラン。この領地の代表だ。クレリアに従う人たちが俺の開拓地に協力してくれるならば歓迎する。もちろん決して強制はしない。よく考えてから判断してくれ。それとこのドラゴンは俺たちの仲間だ。名前はグローリアという」
俺が合図すると、グローリアは大きく羽ばたきながら舞い上がった。そして集団を祝福するかのように上空を何度か周回すると、咆哮を上げ、満足げに去っていった。たぶんイーリスが用意した居住区に行ったのだろう。
人々は唖然としてしばらく空を眺めていたが、セリーナとシャロン、そしてサテライト各班の案内に従ってそれぞれの宿舎に向かっていった。