新しい拠点となる建物は事前にVRで把握していたが、こうして実物を目にするとすこしやりすぎなんじゃないかと思うね。
街に入る門はガンツ側の南門と耕作地帯と未開地が残る北の門だけだ。東西は四千メートル級の山裾が広がっていて、木々が生い茂っている。防衛上の観点からそのままにしておくつもりだった。
南門の直近に商業エリアが広がっている。大工や金物などの工房はその背後におかれていて、生産拠点を外敵から守る構造になっていた。居住区は高くても二階建て、兵舎は平屋だ。
その中で街の中心からやや北よりにある五階建ての城館はあまりにも目立ちすぎた。尖塔までついている。街全体はごく穏やかな傾斜が南から北に走っているので、街からもはっきり見えるし、尖塔からは街を一望にできるというわけだ。
俺とクレリア、近衛の主立ったメンバーと辺境伯軍のセリオ準男爵がひとかたまりになって馬を走らせ、さらに後ろからはライスター卿とその子息、アベルが続いている。道は馬に乗った集団を楽に通せる幅がある。左右の建物は完成しているがまだ誰も住んでいない。
「こんな建物をたった一年で作り上げるなんて」
「ちょっとやりすぎたかな」
「貴族の住む場所には権威の象徴が必要なの。これくらいは当たり前よ。男爵位でこんな城館をかまえる者は少ないと思うけれど……」
「アラン様の支援者というかたはよほどの財力をお持ちのようですな。たった一年前、ここが大樹海だったというのも信じられません」
ロベルトたちには合計で七百万ギニーの支援金を送っているから、そんな感想が出るんだろうな。
送ったギニー貨幣の半分はコンラート号のデュプリケーターで作ったものだが、今は稼働していない。地元の経済を崩壊させるわけにもいかないが、コンラート号が自己修復を行った現在、艦内には十分な重金属資源がない。これも頭の痛い問題だ。
城館の周囲を擁壁がとりまいていて、一つだけある門から館まではしばらく距離がある。平坦に均された土地は畑として利用可能だ。すでに汎用ボットの手で、試験的に作物が植えられていた。
「建物の形がこれまで見たこともない作りです」
「たしかにエルナの言うとおりだ。立派だが様式がずいぶんと異国風だ。王都でもこのような建物は見たことがない」
「きっとアラン様の故国ではこのような建物が主流なのでございましょうな」
このデザインについてはイーリスとかなりやりあったのだ。イーリスは軍用モデルだからどうしても「基地建設」に流れてしまい、この惑星では絶対に見かけないような形になりがちだ。一方の俺は入植者たちのために現地の建物に似せるようにしたい。結果、どことなく現地風ではあるが航宙軍地上基地にすこし似た外観となった。
城館の正面で馬を降りた。
「馬と荷物はここにおいてくれ。後で中に運ばせる」
「アランもここは初めてなんでしょう。どうやって中のことがわかるの」
「あらかじめ図面はもらっていたからな。協力者たちもまだ数名残っている」
『イーリス』
[はい]
『俺が全員を広間に集めたらクレリアたちの荷物は居室に運んでおいてくれ。汎用ボットは姿を見られないように』
[了解しました]
街の主な建築が終わった今は、ほとんどの汎用ボットは城館の地下倉庫に格納している。
機高が二メートル近い人型汎用機は目立つし、見つかって説明するのもまだ時期尚早と判断した。しばらくは人の目に触れない場所で稼働する予定だ。
城館は地上五階、地下二階で、地下には俺の魔法実験や酒造り用の秘密工房を設営中だ。ほかに倉庫と稽古場もある。
中庭は三十メートル四方で、ほとんどなにもないが、実は偵察ドローンが発着できるようにしている。最上階の俺の執務室以外はすべての部屋の窓は外向きに作られており中庭を見ることはできないつくりだ。
皆を広間に案内する。
ガンツにある旧拠点の食堂はサテライト全員がはいるとかなり手狭だったが、ここでは余裕だ。
いまのところ一枚無垢の大きな机が中央にあり、椅子が八脚あるだけだ。奥行きのある広間に南面した窓から陽が指している。大窓からは街と城壁がみえた。
「おお、これは! なんとすばらしい」
「ロベルト、褒めてくれるのは嬉しいが、まだ街は完全にできたわけではないよ」
「いえ、この窓でございます。これほど大きな板ガラスは見たことがありません。透明度もしかり、王都でもこれほどのものはないでしょう」
そっちか。少しばかりこの世界とは相容れないかもな。強化ガラスは石を投げたくらいでは傷一つかないと言ったらどんな反応を示すか知りたい気もしたがやめておく。科学教育はまだこれからだ。
「アラン、せっかくここまで用意してもらって悪いのだけれど、私たちには考える時間が欲しいの」
「わかった。俺は席を外したほうがいいな。この広間を使うといい。街の設計図は机にある。言うまでもなく軍事機密だから扱いには気をつけてくれよな」
俺はクレリアたちをそこに残し、再び馬上の人となった。俺には最優先でやらねばならないことがある。