惑星アレスの魔女   作:虹峰 礼

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新たなる攻勢

「……ン艦長! アラン艦長!」

「はい、起きています!」

 条件反射で飛び起きた。イーリスのやつ、聴覚刺激が強すぎるぞ。

 眠っていたのか。さっきまで稽古場にいたような気もするが。

 

「アラン!」

 なぜ俺の居室にクレリアがいるんだという疑問は直ちにどうでも良くなった。クレリアが泣いている。なんとエルナまでが目が真っ赤だ。セリーナとシャロンもいる。

「一体どうしたんだ」

「鍛錬場でいきなり倒れたの。たぶん魔力切れよ。初心者でもめったにやらないのに……馬鹿じゃないの……ほんとうに心配し、」

 あとは言葉にならない。クレリアは手で顔を覆った。

「心配させてすまない。すこし調子に乗りすぎたみたいだ」

「あんな馬鹿みたいに魔法力を使うから! アランは魔法を覚えて一年もたっていないのを忘れたの?」

「そうだな。少し魔法を使えるからといい気になっていたな」

 魔法の修行には何年もかかるみたいだ。俺は基本的なことは何一つ知らないままナノムの力を借りて魔力だけを増大させてきた。そのツケがきたのだろう。

 シーラギルド長の話していたのはこのことか。大樹海の影響で魔力が増した人間は魔力に取り憑かれるのかもな。

 

「アラン……」

 エルナも俺の名を呼んだまま、言葉が途切れた。

「エルナのせいじゃない。新しい魔法になれてなかった俺が悪い。……まあ、最後のエルナの一撃は少し、きつかったかな? 次の対戦には俺も木剣をつかうことにするよ」

 エルナは突然踵を返すと、俺の部屋から出ていった。

「エルナを許してやってほしい。最後の一撃でアランの治癒魔法を全開にしてしまったと悔やんでいる。私も今まであんな動揺したエルナは見たことがない」

「むしろ手を抜かず全力できたエルナは褒められるべきだ。だから気にしてない。気になるのはクレリアの体調だ」

「私の?」

「以前、ファイヤーボールを連続で三十発で魔力切れになると言っていたけど、今日は一度に三十二個だ。クレリアはなんともないのか」

「感覚的にはもう一組を余裕で使用できる。ここに来てから魔法の調子はほんとうに良くなっている」

 ……やはりそうか。これからも魔力上昇は続くのだろうか。

 科学教育を推進するはずの俺がすっかり魔法にのめり込んでしまった。

「クレリア、俺はもう大丈夫だ。魔法の使い方には注意するよ。心配かけてすまない」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 みんなが各自の居室に戻ってから、ARモードを起動する。

 待ち構えていたかのように、イーリス、セリーナ、シャロンが制服姿で現れた。

『イーリス。どれくらい俺は気を失っていたんだ?』

[約二時間です。身体データには異常が見当たらないのに意識が戻りませんでした]

『起こしてくれてありがとう。心配かけたな』

[魔法の扱いは気をつけねばなりません]

『エネルギー供給を忘れて全力にしたのが良くなかったな。いつもなら魔石を携行しているんだが』

 

『アラン』

『セリーナ、シャロン。すまない』

『魔力切れのことは聞いていましたが、いきなり倒れるとは』

『ずっとイーリスがアラン艦長に呼びかけていたんです』

[当然です。アラン艦長にもしものことがあれば、私は宇宙のゴミになってしまいますからね]

『一番俺を心配してくれたのはイーリスだったみたいだな』

[もちろんです。艦長]

 

『それより、エルナが心配です。さきほども廊下で涙をこぼしていました』

『エルナは感情が極端だな。……もうこの話はやめよう』

 俺はエルナを責めるつもりは毛頭ない。ただ彼女の気性があまりにも一途すぎるような気はする。

『アラン、今日の執務はどうなさいますか。ご体調がよろしくなければ明日に順延しますが』

『構わない。魔法を使わなければ大丈夫だろう。何かあったのか』

『サイラスギルド長が面会を希望しています』

『もう来ているのか』

『はい。拠点の商業ギルドにいます』

『会おう。こちらから出向く。クレリアは今何をしている』

『自室にいます。エルナも一緒です』

『二人には知らせなくてもいい。セリーナも同行してくれ』

『了解』

 

 サイラスギルド長が来るとは、例の化粧品販売の話かな。いや、それならカリナだけでも十分だろう。醸造用の蒸留器は第一号が引き渡し目前だ。それにしたって期限はずっと先の話だが……。

 

◆◆◆◆

 

 商業ギルドに入ると中には誰もいない。今日は休みなのだろうか。

 ギルド内の内装はガンツのそれよりも規模は小さいが、支店にしては素人目にも良い家具を使っている。ドラゴンの競売でかなり儲けたらしいな。

 窓口からカリナが現れた。

「アラン様。お呼びくださればこちらから伺いましたのに」

「いいんだ。まだ完成してから来たことがなかったからな」

「どうぞこちらへ」

 

 招かれた先は応接室で、すでにサイラスさんが待っていた。

「よう、アラン。元気そう……でもないか。顔色が青いぞ」

「貧乏暇なしですよ」

「お前が言うと嫌味に聞こえるな」

 サイラスさんと話すときは虚礼廃止だ。肩のこらない会話ができるのはありがたいが、気を抜くとひどい目にあう。油断は禁物だ。

 

「化粧品の話をカリナから聞いたぞ。この話は当然、うちの商会が手掛けるが販売手数料についてはちょっと難があるな」

 始まったか。値切り攻勢かな。化粧品の潜在的な市場はサイラスさんなら俺よりよくわかっているはずだ。俺と魔術ギルドが丸儲けなど黙って見ているはずがない。

 

「……という話はあとにしよう。アラン、俺の得た情報だと、近々この植民地に王都から査察団がくるらしい。王都の商業ギルド本部ではその話で持ちきりだそうだ」

 

 査察とは穏やかじゃないな。

『イーリス』

[王都で入手した書物によると開拓状況を調べ、王都に報告する調査団です。開拓が遅れていたり、不祥事があると開拓が中止になることもあるようです]

『例の伯爵家の樹海開拓を失敗と断定したのも査察団か』

[はい]

 

「王都のギルド本部では数十年ぶりの開拓ということで、市場の拡大を見込んでこの植民地には期待している。ところが査察団が派遣されると聞いて、入植希望者の間にも動揺が広がっている」

「別にやましいことはしていませんが」

「アラン、査察団というのは、普通は開拓がある程度進んでからくるものだ。ところがまだ三ヶ月もたってないこの時期に来るってことは、開拓が失敗しかけてるんじゃないかとみな恐れているんだ」

 

 ようやく俺にも事態が読めてきた。バールケ侯爵一味は私兵を使ってギニー・アルケミンを奪還するのを諦めたんだな。かわりに開拓地調査の名目で査察団を送り込んで、こちらに過ちが少しでもあれば攻撃材料にするつもりだろう。

 

『アラン、この話は一度引いて主要メンバーで検討すべきです』

『わかった。セリーナはイーリスと共同して査察団対応について調べてくれ』

『了解』

 

「植民地だけでなく俺の商会の存亡もかかっている。アランからの技術供与がなければ、商売も上がったりだ。査察合格のためできるだけのことはしよう。アランには対策があるのか」

「一旦この話は持ち帰って検討したほうがいいですね。それからサイラスさんに頼むこともあるかもしれません」

 

「わかった。カリナ、茶を頼む」

「はい」

 カリナが席を立って出ていく。

 

「アラン、最近カリナの様子はどうだ? 俺もあいつに仕事を任せれば安泰だが、なにぶん女の身だからな。今後も植民地の成長には商業ギルドは必須だ。これからもいろいろと手を差し伸べてやってくれ。俺からも頼む」

 珍しいな。サイラスさんがこんなことで頭を下げるなんて、意外と部下思いなのかもな。

 

 カリナが茶器をもってくると、サイラスさんは声を大きくして言った。

「さて、化粧品の話だが、この契約内容では魔術ギルドが強欲すぎだろう。そこで俺から提案なんだが……」

 強欲という言葉がサイラスさんの口から出るとは思わなかった。契約の話は長くなりそうだな。

 

 

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