物流を担当しているカトルによれば、二千五百人分の食糧をガンツに依存し続けるのは難しいという。クレリアの決断で辺境伯軍がどれだけ残るかわからないが、ほかにも職人、商人、そして教会のメンバー、育ち盛りの孤児たちと若い冒険者がいる。将来にわたって食糧は一貫して問題であり続けるはずだ。
民を飢えさせた時点で為政者失格だ。
馬を走らせていくと、北門の手前に四棟の建物がある。平屋構造の高さ四メートル、奥行き四十メートル幅は十メートルの倉庫だ。南門付近の民家とは違って、航宙軍仕様の合理性一辺倒のシンプルな作りだ。
『イーリス、開けてくれ』
巨大な扉は内部に控えていた汎用ボットが開けてくれた。外壁の扉を閉め、内部扉を開くと冷気が流れてくる。
『イーリス。汎用ボットの外装プレートがだいぶ損傷しているようだが』
[工事をかなり急がせたので、数体の汎用ボットが運用限界を迎え機能停止しました。ご覧になっているものは機能停止したものからパーツを取り外して再利用しています]
『機能停止は消耗パーツの代替がないからだな?』
[はい。今後、人口増加に伴う市街地の拡張もあるだけに、構築能力の低減は無視できない問題です]
『交換パーツを作る工場は作れるか』
[道具や動力機を作るところから始めねばなりません。またパワー半導体は無重力下で製造する必要があります]
『わかった。いまおいておく、とにかく中を見せてくれ』
倉庫の中に入った。天井には複雑な魔法陣が描かれたプレートが格子状にならんでいる。ガンツでドラゴン肉を保存していた冷凍施設を真似たものだ。風魔法との複合魔法で部屋いっぱいに冷気を満たすことができる。
イーリスの設計で断熱効果に優れた部材を使用しているので少ない魔石でも効率的に冷却が可能だ。カトルには見せなければならないが、最初はまたひと騒ぎしそうだな。
通路を歩きながら中身を確認していく。想定していたよりかなり多い。
ガンツまでの通路を工事中に捕獲したビッグ・ボアやネズミウサギなどの冷凍肉がずらりとつるされている。これは……黒鳥か。ガンツに来る前はよく狩っていたものだ。「豊穣」でバースと一緒に唐揚げを作ったこともあったっけ。
これはビッグ・ブルーサーペントじゃないか。しかも五匹分もある。頭を撃ち抜かれた状態で保存状態もいい。これは高く売れそうだ。ポトも一山ある。この惑星ではまだ品種改良という技術がないから、小さな野生種しかない。これも要改善だ。
『イーリス、四棟全部がこんな食糧用なんだな』
[三棟だけです。残りは魔物などの資源物です]
そこも見ておこう。食べてしまうより売ったほうが良いものはその代金で穀物を買い付ければいい。まもなく収穫シーズンが始まる。ひと冬の間だけでも乗り越えれば、来年の作付けもできるだろう。
俺は二重扉を抜けて一番奥の倉庫に向かった。
『イーリス、やはり穀物とかはないんだな』
[はい。最短で春に収穫する小麦の播種をおこなって半年後です。この惑星の地軸の傾きからおおよその夏季・冬期の期間がわかりますが、長期観測データがないので精度はよくありません]
あまり期待できないな。予想以上に人数が増えたら、たちまち飢餓がやってくるだろう。
倉庫の二重扉を抜けて、中に入る。倉庫の中は相変わらず寒い。雑多なものが並んでいる。
『イーリス。倉庫内の物品を量が多いものからリスト表示してくれ』
[了解]
仮想スクリーンにリストが流れていく。
グレイハウンドの魔石 五百九十二個、証拠品となる右手同数。
オークの魔石 百四十二個 証拠品となる右耳同数。
ジェネラルオークの首 二個。加工のため耳は切断せず
ジェネラルオークの魔石二個。
オーガーの魔石二十二個、証拠品となる右手首同数。
……
……
街道工事の区間にあったオークの巣は二箇所か。偵察用ドローンなら瞬殺だったろう。そのほか俺の生まれたトレーダー星系では見たこともないような生き物が凍結してある。
『グレイハウンドの頭数が多いな』
[樹海内では繁殖率が非常に高いようです。建設が始まって駆除を三回実施しましたが、絶滅に追いやることはできませんでした。現在も頭数を増加させています]
これもまた問題か。耕作地にまで侵入するようなら生産や最悪の場合、人的損失があるだろう。
続いて鉱物のリストが続く。
……
……
『希少ってもんじゃないな。希少金属元素がこんなに大量にあるとは』
[樹海奥地で比較的浅い地層に分布している個所があります。さらに良質な鉄鉱石の露頭を発見しました]
これは良いニュースだ。俺達にとってナノムは命綱だし、将来的に新メンバーにナノムを投与しなければならないことを考えるとレアメタルが豊富なのはありがたい。鉄はもとより金属資源は各種の工業にも必須だろう。使い方を広めれば需要も増すというものだ。
スクロールするリストから上がってきた次の項目はよくわからない。
[建設地の近傍で採取した植物のうち、将来的に食用が可能と判断したものの遺伝子資源です]
なるほど、人類に連なる者たちがいる惑星の植生はよく似通っているというが、ここでも同じようだ。
『今は食べられないのか』
[品種改良が必要です。遺伝子解析の結果、最短でも第三世代に渡る交配が必要です。遺伝子加工アセンブラがあればもっと早く可能ですが]
コンラート号の医療区画にあったはずだ。しかし地上に下ろす手段がない。品種改良はずいぶん遠い将来になりそうだ。
まだまだリストは続いたが、俺は後からじっくり見ることにして、倉庫を出た。
馬にまたがってゆっくり歩かせる。倉庫を確認してわかったことは、
食糧はなんとかひと冬は持ちそうだが、いずれ穀物は不足するだろう。
汎用ボットの劣化が進んでいるが修理する手段がない。
品種改良は当面無理で、魔物との戦いはこれからも続く。
……難題山積みだな。
『イーリス、頼んでおいた広間の討議状況を再生してくれ」
当然ながら広間には最初からビットが打ち込んである。