「兵舎に入ってまず驚いたのがその広さです。兵士の居室に加え、共同浴室や武器庫が一体となっています。兵舎群の中央には訓練のための広場までありました。浴室はレバーを回すだけで湯が出ます。案内してくれたセリーナ隊長によると、アラン様の軍では清潔が何より重要視されたとのこと。戦闘の前に伝染病や疾病で倒れることなどないように最新の設備が用意されるようです」
「本当かヴァルター。兵がそのように贅におぼれるとろくなことがないぞ」
「いいえ、ロベルト様。それだけアラン様が兵一人ひとりを大切にされているということではないでしょうか」
「その兵舎は隊長クラスの専用だったのではないか」
「サテライト全班と後続の辺境伯軍全員が利用できます」
「……すでに利用可能なのか」
「はい。それだけではありません。シャロン隊長から聞いたのですが、アラン様は兵の中から治癒魔法に優れたものを集めて教育し、兵のための医療隊を作るおつもりです。戦時においてすぐさま傷病兵を治療するのが目的と聞いております」
「アラン様はそこまで我らを助けてくださるのか。何というお方だ。まるで使……」
「ダルシム副官、このなかで私ほど信仰にうるさいものはいないと思うが、その一言はかるがるしく口にしてはなりませんぞ。とは言え思わずその言葉が口の端に上るのも理解できないではないが……城を追われ、農村に姿を潜めていた頃に比べればさぞ士気があがるだろうな」
「ありがたいことです」
「ヴァルター、兵舎のほかはどうだ」
「実は商人たちの方も同様でした。兵舎に兵を割り当ててから、商業エリアにむかったのですが、騒ぎが起きていました。そこにいた鍛冶屋の親方にたずねたところ、各戸になんと魔石を使った加熱器があるとのこと。そればかりか兵舎と同様に水の管が配され金具を回すと水が出てくる仕組みになっておりました」
「ガンツの拠点でも使っているのをみたが、あれは一基四万ギニーは下らないぞ。それが各戸にあるというのか。アラン様はどれだけの財力をお持ちなのか……」
「この噂が流れようものなら、入植者は殺到するでしょう。中には間諜のたぐいも紛れ込んでくるのは間違いありません。入植者の選定についてはアラン様とも相談せねば」
「ダルシム」
「は」
「もうここを新拠点にするつもりで策を練っているようだな」
「これは失礼しました。我々は姫様のご命令に従います」
私は立ち上がって皆を見回した。
「もはやこれ以上議論を重ねる必要もないだろう。我々はこの地を当面の拠点として力を蓄えたのち、スターヴェークを奪還する!」
「「御意!」」