「アラン・コリント男爵は貴族として、新拠点の最高位として領地を治める。民の教育並びに大陸統一にかかる権限をアラン・コリントが統括するものとする。
クレリア・スターヴァインは上記以外の全ての項目について権限を有するものとする。ただし、教育並びに大陸統一に係る事項と重複する案件については両名の協議によるものとする。
なお、アラン・コリントの私的団体であるシャイニングスターは今後とも存続し、アラン・コリントを指揮官とする直轄組織として活動を行う。シャイニングスターの次席指揮官はセリーナ・コンラート。活動詳細については別記のとおりとする。
シャイニングスターの下部組織であったサテライトはシャイニングスターのメンバーであるクレリア・スターヴァインの直轄とする。アラン・コリントの指揮下にはあるが、スターヴェーク王国復興にかかる案件についてはクレリア・スターヴァインの意向が優先する。
ヴェルナー・ライスター並びにその子息アベル・ライスターはクレリア・スターヴァインの政務補佐とする。
ロベルト・セリオ準男爵は旧辺境伯軍の統括及びアトラス教会との交渉担当とする。さらに…………」
クレリアがここを拠点にすると宣言した話が住民たちに広がった結果、だれ一人反対するものはいないことが午前中のうちに判明した。
午後になってあらためて民を広場に集める必要もないということで、サテライトの隊長と主だったメンバーが城館に集まることになった。議題は「新体制」だ。
素案を俺とクレリアがそれぞれが考えたのだが、まったく意見がまとまらない。特に問題になったのが、サテライトの位置づけとダルシム副官の立場だ。
これまではシャイニングスターを守護する意味でサテライトの十個の班は存在していた。
いまはスターヴェーク王国再興という目標が明確化し、冒険者としての意味は失われている。近衛と旧辺境伯軍は亡命政府のれっきとした軍組織だ。
だから俺の直接の指揮下にサテライトを入れず、クレリア直轄とした。ダルシムもクレリアの近衛隊長として復帰してもらう。というのが俺の素案だったのだが……。
「サテライトは解散なの? アランの部下はシャロンとセリーナだけになる。もしこの拠点が攻められたら、三人だけで戦うつもり?」
俺の素案を提示した途端、クレリアの声が広間に響き渡った。
まあ、イーリスと俺たち三人に偵察ドローン全八十二機を加えればこの惑星のどんな軍にも負けるつもりはないが、まだ詳細は話せない。俺の直属の諜報機関の構想もあるが、例のエルヴィンたちを紹介しようにもユリアンを迎え入れるだけであの騒ぎだ。まだ時期尚早だろう。
第一、エルヴィンはかつてヴェルナー・ライスターの宰相時代に影の実行部隊として長きにわたり忠誠を誓っていた。いきなり俺の直轄というのもためらわれる。ライスター卿への確認がまず先だ。
「サテライトは解散しない。組織上の位置づけでクレリアの直轄とするだけだ。それに俺とセリーナ、シャロン、そしてグローリアも含めればほぼ無敵だ。拠点を守ることぐらいはできる」
「ここはアランの領地であると同時に我々の拠点でもある。一緒に戦うのは当然でしょう!」
「クレリアにとってはスターヴェーク王国の再興が最重要だ。俺の目的のためにクレリアの部下たちを一人も失ってほしくないんだ」
口を開きかけたクレリアは急に黙った。俺の言葉の意味するところがわかったらしい。要は他人の部下の命を使ってまで俺が目的を遂げるつもりはないってことを。
それまで沈黙を貫いてきたダルシムが口を開いた。
「アラン様、近衛隊長復帰については了解しました。もともとスターヴァイン王家の護衛としての任務を拝命している以上、当然の措置と考えます。……ただ、ひとつ質問してよろしいでしょうか」
「何でも言ってくれ」
しばらく間をおいてから、ダルシムは静かに言った。
「私は副官の器ではないと?」
急にあたりが静まり返った。ダルシムは近衛にとって傑出したリーダーであることは全員の認めるところだ。
「そんな事は言っていない。クレリアの王国復興軍においてダルシムの能力は不可欠だ。ダルシムにとって俺の目的よりクレリアの目的が何より優先するだろう?」
実は俺も直言してくれるダルシムを副官として留め置きたい。心の底からそう思う。現時点での用兵と戦争技術の範囲内では、現地人としての意見は貴重だ。
しかし今後の軍の近代化を考えると科学知識は必須となる。いかにダルシムが優秀だとしてもいつか理解が及ばなくなるだろう。それは本人にとっても辛い出来事であるはずだ。
「能力の優劣ではない。目的の優先度から考えての配置だ」
「……了解しました」
「俺からは以上だ。クレリアからなにかあるか」
「アランが私たちのことを考えてくれているこはわかった。けれど、この拠点が危機にさらされるようなことがあれば、私がサテライトや辺境伯軍の人たちに立ち上がるように言うわ。アランがなんと言おうとね。……皆もよいな?」
「もちろんです」
「この拠点を守るために戦います!」
全員が強く賛同するさまにすこしばかり、こみ上げるものがある。が、なんとか顔に出さずにすんだ。
「では今までの討議内容をまとめたから、読み上げるぞ……」
◇◇◇◇
ようやく組織体制も大まかだがまとまって、近衛のエルナとクレリアを残して、残りのメンバーは兵舎に戻っていく。ライスター卿とその子息は元貴族なので城館への滞在を勧めたのだが、固辞されてしまった。
「いまはクレリア様配下として、ベルタ王国時代の爵位は無きものとお考えください」
こう言われると俺も引き止める理由がなくなってしまう。このような人物が国政の一翼を担ってくれるとありがたいのだが。
とうに日付は変わって、ここから見る商業エリアは寝静まっているようだ。兵舎の一部に明かりが見える。不寝番の班が巡回しているのだろう。
今日の打ち合わせで一つだけ決まらなかったポストがある。そこそこの大国ならば必ずある「通商大臣」だ。
カトルにはそれとなく伝えたのだが、
「自分は商業ギルドのメンバーで、しかもまだ修行中の身です。父タルスからは政治に近づきすぎると商人の本分を忘れると厳しく言われていますので」
ということでやんわり断られてしまった。
タルスさんは立派にカトルを教育していたようだ。商業ギルドの中では自分の商会を最優先する人間も多い。サイラスさんが聞いたら苦笑することだろう。それぞれの考えがある以上、無理強いはできない。
風呂でも入って寝ようかと思ったが、兵舎の給湯システムを先につくってしまい、城館の給湯はまだだった。やれやれだ。