ペルソナ3 if ─Chronos─ 作:イソフラぼんぼん丸
「崩れるぞ。離れろ」
「ワンッ!」
エントランスを抜け、俺達はタルタロスの外へと脱出する。足を一歩外へ出した瞬間、地鳴りと共にタルタロスは跡形も無く崩壊していく。シャドウの巣は一切の痕跡を残すこと無く元の学園へと姿を変える。影時間が──終わる。
「終わった、か」
「ああ、ご苦労だったな」
「お疲れ様でした〜、真田先輩と荒垣先輩のおかげでバッチリ動けました!」
「フッ、当然だ」
「ワンワンッ!」
「フフ、コロマルも頑張ってたね。偉い偉い」
コロマルを褒めながら頭を撫でる汐見。コロマルはすっかり身を任せている。あの懐きようは、誰にでも見せる訳ではないはずだ。コロマルもどこか感じている所があるんだろう。
「……よし。いつものホテルを抑えた。荒垣への説明も兼ねて、まずはそこで状況を整理するとしよう」
「そうですね──」
某ホテルエントランス。俺達は、大理石のテーブルソファーに腰を下ろす。俺もかなりの頻度で利用している、桐条グループ系列のビジネスホテルだ……ビジネスホテルといっても、桐条らしい高級感が全面に押し出されてある。仰々しい装飾品の数々がそう物語っている。
俺達はこれまでの事を全て、シンジに説明した。仏頂面なシンジは、途中で話を止める事も無く、終始無言で頷くばかりであった。
「……なるほどな。大体の事情は分かった」
「何? 石頭のお前にしては、随分飲み込みが早いな」
「筋肉バカに言われたくねェよ。ま、オメーらの悪運にゃ、つくづく頭が痛くなるがよ。何がどうなったら、世界の命運を2度も背負うことになんだ?」
「未来から来た事や、汐見がいる並行世界の事を、すぐに理解しろとは言わない。だが──」
「ワリィがこの先の話は今はする気はねェ」
「何!? シンジ……頼む、力を貸してくれ! お前がいれは俺は──」
「疲れてんだよ。身体も頭もな。これ以上んな話聞かされちゃ、気が滅入っちまうぜ。俺は先に寝る」
シンジはため息1つ吐くと、そそくさとホテルのエレベーターへと姿を消す。
「くそ、シンジの奴め。久しぶりの再会だと言うのに……」
「荒垣先輩、なんだか思い詰めた顔してたけど、大丈夫かなぁ」
「クゥーン……」
「……荒垣にも思う所があるんだろう。一晩明かしてから、また改めて話を聞こうじゃないか」
そう言うと、美鶴も自室へと向かっていった。シンジ……闘争というアドレナリンの渦から解放され、こうして興奮が冷めた所でようやく実感する。お前がそこにいると。二度と会う事は無いと……前を向くと誓ったアイツに。くそ、頭が揺らぐ。俺もまだ混乱しているな。
頭を抱えていると、一気に疲労感がやってくる。今日の所は……寝るとするか。俺もなんとか足を動かして、エレベーターへと乗り込む。汐見の「おやすみなさい」という、声音に不安のこもった小さな呟きを背に。
────
──
早朝。冬の寒さが微かに残った朝風に、美鶴は少し身震いをする。ホテル外の小さな庭園のベンチに腰掛けた、一人の待ち人を確認すると、美鶴は白い息でその名を呼ぶ。
「荒垣」
「……ああ、来たか。ワリィな朝早くに」
「この時間帯はとうに起床している。気にしなくていいさ。朝弱いのはお前の方ではなかったのか?」
「昔の話だ……」
昔の話。そのどこか違和感がある言葉に、美鶴はある疑問を抱く。が、その問いが美鶴の口から出る前に、荒垣が懐からある一枚のカードを取り出し、美鶴へと押し付ける。そのカードを見た瞬間、美鶴の表情は固まる。
「シャドウワーカー……エクストラナンバーズの隊員IDだと……? 何故お前がこれを……!?」
「オメーから誘ったんだろうが……って言いてェとこだが、どうやらその反応からして間違いなさそうだな」
美鶴は、IDと顔写真が貼られたカードを目を凝らして眺める。偽造などは見受けられない。隊を率いる自分が見間違えるはずもない。これは、正規に発行されたシャドウワーカーの証明証だ。美鶴はそう確信する。そして、聡明な美鶴はすぐに理解した。
「汐見を知っていた……まさか荒垣。お前は──汐見と同じ世界から来た、未来の荒垣なのか……?」
「……あァ。さっきの話を踏まえりゃ、そういう事になるな」
見た目こそ高校生だが、年齢は現代の美鶴達と同年齢。この荒垣は、あの事件で死亡する事無くなんらかの形で生還し、その後も病を治療して生存した、
「なんという事だ……」
「この事は汐見に絶対話すなよ」
「あぁ……同じ世界の違う時間軸に生きる者同士だ。情報交換が危険なのは言うまでもないな」
「アキにも話すな。オメーだから明かしたんだ」
「何? なぜだ」
「……ガキだからなアイツは。俺が生きてる世界があるって分かったら、またウジウジと引きずるに決まってるからな。気持ちよく人が寝てる前で、前を向くだの口煩く言っておきながら、情けねェ事はさせねェ。俺は高校生で、これからの事を何も知らねェ人間だ……カエサルを見た時も、知らねェフリをして一芝居打っておいた。そうやっときゃ、アイツも一時の夢だと思ってすぐ忘れんだろ」
「お前は……そうか。分かって……いたんだな」
「フン。アキとオメーの、その死人を見るような顔見りゃすぐ分かんだよ。そっちの世界の俺は死んでんだろ?」
「……」
「まァ、俺も今生きてるのがあり得ねェくらいだ。2度死んだからな……末路は予想付く」
荒垣は、首に下げられた年季の入った懐中時計を手に取る。時計は不自然にヒビ割れており、もう動かないものだ。それを眺める荒垣は、固く拳を握って立ち上がる。
「話はそれだけだ。手前取らせたな」
「荒垣……」
「あァ……勝手ながらお前にも救われたからな。気は乗らねェが最低限の協力はする。戦いの時は呼べ。ペルソナの心配はすんな……誰かさんのお陰で、薬はもう必要ねェからよ。好きに使え。んじゃな」
荒垣はそれだけ言い残すとホテルへと戻っていった。難航すると見通してた、荒垣の協力要請はアッサリと終わった。だが、美鶴の心は晴れなかった。
「変な所で意固地なのは相変わらずか……全く、子供なのはお互い様だな。荒垣──」
ピリリっと美鶴のスマホが突然鳴り響く。通話の宛先は──白鐘直斗。公安警察からも依頼を任される現役高校生探偵。彼……いや、彼女は美鶴達と同じペルソナ使いであり、ここでは語れぬ程の様々な経験を積んでいる。美鶴とは、かつて起きた
『桐条……ん! よ……やく繋がっ……』
「白鐘君? どうしたんだ。こんなに朝早くに」
『すみ……せん……ただ、今は非常事態なん……す。誰とも連絡……付か……今やっと貴女の……携帯……』
「どうしたんだ? やけにノイズが走っているな」
『詳細な経緯を話す事……今……八十稲羽に……不可解な建造物が──』
美鶴のスマホはツーツーと音を鳴らす。通話は不自然に途切れて終了した。断片的に聞こえてきた直斗の言葉。美鶴の背に何か嫌なものが這い寄る。この予感は、すぐに的中する事になるのであった。様々な思惑を胸に、歪んだ世界の時は進んでいく。
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