ペルソナ3 if ─Chronos─ 作:イソフラぼんぼん丸
黙ってないで返事くらいしろよ
お前はいつもそうだ
いつも黙って勝手に行っちまう……
力さえあれば、どんなものでも守れると思ってた……
いくらカッコつけて走ってみたって……結局このザマだッ!
うあああぁ……
「……俺は俺である事からは逃げられん、か」
「シンジ……」
────
──
「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう」
人通りが出始めたビル群の静かな朝──ホテル前のプラザに、汐見の挨拶が響く。今朝はやたら元気だな……昨日までの思い悩んでいた表情は吹っ切れ、血気溢れた顔をしている。何か決意をしたようだな。
「集まってもらったのは他でもない。新たなタルタロスが発見された」
「新しいタルタロス……」
「ああ。先程、白鐘君から連絡があってな。情報は断片的だったが、恐らく八十稲羽市にタルタロスが出現している」
「八十稲羽!?」
「なんだ汐見。知ってるのか?」
「えっと、はい。先月部活動の合宿で行ったばかりです!」
「そうなのか。八十稲羽……俺達も深く関わっている場所だ。妙な縁だな」
「電話口の白鐘君は緊急事態のようだった。未確定な情報ではあるが、時間が無い。このまま手を拱いて、宛もなく彷徨する訳にもいかない。早速出発しようと思う」
「移動手段はどうするんだ? またあの仰々しい車で行くつもりか?」
美鶴の顔が一瞬強張る。あのリムジンの事は哄笑を超えて最早失笑もんだからな。美鶴はわざとらしく咳払いをすると、スマホを取り出す。
「……車は社用車を使う。大人数用の一般的な車だ。ホテルの駐車場に止めてある」
美鶴は足早にツカツカと先導していく。駐車場にあったのは、イタリア製の高級ミニバン。もうあまりツッコまないほうが良さそうだ。
「……シンジ。お前も来るのか?」
「……行くつもりは無かったが、美鶴の奴に言いくるめられてな。ったく、面倒くせェったらありゃしねえ。俺は早く帰りてェだけなんだがな」
「そうか……なら、いいんだ」
「……いいかアキ。この世界でお前が今まで、どんな経験してきたかは知らねえが、俺は俺でお前はお前だ。いつまでも後ろ向いて、小せえ事をクドクドと気にしてんじゃねえ。オメーは前だけ見てろ。いいな?」
「分かってるさ……」
それを言われるのは何度目だろうな。分かってるんだよ……そんな事。だがこの肉体より湧き出る、むしゃくしゃした感情はなんだ? 自分でも分かるくらいに、俺は酷く動揺している。身体だけでなく、精神まで退化したのか? 前を向いたつもりでも、荒垣と汐見を見ていると、どうしても昔を思い出しちまう。クソ……考えるだけ無駄だ。さっさと向かおう。
4人と一匹を乗せた車は、八十稲羽へ向けて走り出す。が、事件は早速起きてしまった。
「あ、あの……」
「ん……オイ!?」
人がいるはずの無い荷室から人影が現れた。運転席の美鶴を除く全員が後ろを振り返る。コイツは……汐見と一緒にいたヤツじゃないか!
「な……病院にいたはずだろ! なんで車内にいるんだ?」
「参ったな……高速に入った以上、すぐには引き返せないぞ」
「す、すみません! でも、どうしても我慢出来なくて……」
「どういう事だ?」
「あの……僕もついていっていいですか!」
「何?」
「病院抜け出して、勝手ながら皆さんの話を聞いて……居ても立っても居られず、忍び込んだ事はすみません。でも、僕に出来ることならなんでもします! 決して皆さんの邪魔はしません!」
少年はそう頭を下げるが、美鶴の反応は渋いものだった。
「病床を抜けた事に関しては……緊急時故に追及はしない。が、君の加入に関しては承服し難い。危険だと知って尚も参加を望む姿勢は、感心しないな……これは我々だけの問題だ。一般人の君を巻き込む訳にはいかない」
「お願いします! ただついていくだけでいいんです! あなた方についていけば、僕に関しての記憶も分かるかもしれない……このまま黙って傍観は出来ません」
「しかしな……」
少年の必死の懇願に、難色を示す美鶴。見かけに寄らず正義感が強く、アグレッシブなヤツだ。
「別にいいんじゃないか? 身元不明で行く宛がなく、影時間関連で見つかった身柄だから、今は一応グループの管理下なんだろ? 離れた所で変に動かれるよりはいいだろう。それに、根性ある奴は嫌いじゃない」
「そうですよ。彼も私みたいに、別世界からやってきた人かもしれないですし、話を聞くべきです。何かあったら荒垣さんが、ちゃんと叱ってくれますから」
「んで俺なんだよ……」
「……分かった。だが、君は保護対象である事を留意しておいてほしい。くれぐれも危険を冒さず、万全の注意を払って行動してくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
俺と汐見に押され、美鶴も承諾する。なんで後押ししたんだろうか……分からん。なんだかコイツには、得体の知れないパワーを感じた。ただそれだけだ。
全員で話し込んでいる内に、旅路はすぐに終わった。八十稲羽に到着した。車を降りると、山に囲まれた昼下がりの田園風景が広がる。懐かしいな……かつての戦いの場は記憶に新しい。
「白鐘君と連絡を取りたいが一向に繋がらない。参ったな……誰も彼も、連絡手段を絶たれるとこうも厄介とは」
「影時間を待ってタルタロスを確認するしかないな。まだ半日もあるが。まず落ち着ける宿でも探したらどうだ?」
「あっそうだ! 折角なら旅館行きましょうよ! んえーっと名前なんだっけな。確か……」
「天城屋旅館か?」
「そうですそこそこ! 先月泊まった時、すっごい良かったんですよ。雪子ちゃんも可愛かったなあ」
「何? 彼女を知っているのか」
この町の人間とは、本当に妙な縁がある……ペルソナ使いはペルソナ使いにひかれ合うってか。
「そうだな……彼女の無事を確認する為にも、一度足を運ぶべきか。一息付ける場所も欲しい。向かうとしよう」
俺達は再び車へ乗り込む。俺は晴れ渡った空を見上げる。世界の危機なんて知らないように、ムカつく程に清々しい天気だ。
シンジ……お前の言う通り、今だけは目の前に集中するよ。この戦いが終わった時、また話し合おうじゃないか。どんな状況であろうとも、今度こそ隣で守って見せるさ。もう誰も失わせない。俺が俺である為に、俺は前へ進んでやる──
真田目線は一旦終わりです。
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