ペルソナ3 if ─Chronos─ 作:イソフラぼんぼん丸
「影時間までまだ時間がある。が、ただ漫然と時を無駄にするのも忍び無いな」
「あ、ならやっぱり温泉入りましょうよ! 決戦の前に、スッキリと心と身体を整える事も大事ですからね」
「悪くはないが……湯に浸かるだけの利用でもいいのか?」
「ええ。ここの旅館は温泉施設だけでも利用出来ますよ。宿泊客以外にも気兼ね無く入れるようにと、解放してあるみたいですね」
「そうだな……では、夜まで少し休むとするか」
「やった!」
汐見の言う通り、今はなるべく休息を取るべきか。シャドウワーカーを預かる身として、日々業務に明け暮れていたから、温泉なんて修学旅行以来かもな。
我々は再び旅館に再び立ち入る。事情を把握した旅館は、我々を快く受け入れ、コロマルの面倒も外で見てくれる事に。至れり尽くせりだな……素晴らしいサービスだ。有り難く寛ぐとしよう。
────
──
「ほう……中々の広さだ。露天風呂じゃなくても、貸切だとこう心躍るものがあるな。シンジ、どちらが先に根を上げるか勝負だ」
「だからしねーよ」
「わぁ、広いですね」
「お前もこい……ん? そういえば、お前の名前を聞いてなかったな。名前、覚えてるか?」
「あ……あの、それが……覚えてないんです。自分が何者だとか、そういうの全部……」
「そりゃ難儀なこったな。テメェの事何も知らねェのに、この旅についてくるなんざ、お人好しがすぎるぜ」
「仮にでも、何か欲しい所だよな…………うむ……ん……そうだ! うみうしでどうだ?」
「正気かアキ。オメーの頭はどこまで肉なんだっ」
「う、うるさいな……じゃあシンジ。お前が何か考えろ」
「……ミナトでいいだろ」
「ミナト? 何故だ? 突発で思い付くには、随分凝った響きに聞こえるが」
「うるせえな。オメーのうみうしより何百倍もマシだ」
「ミナト……ミナト……いいですね。気に入りました! ありがとうございます!」
「む……なんだか敗北感があるな。だが湯船我慢勝負には負けんぞシンジ!」
「しねーっつってんだろっ。勝負だとしても、昔っから我慢できねえオメーには負けねえよ」
「言ってろ──」
────
──
「それで……この2人はどうしたんだ?」
「まるで茹でダコですね」
「はは……」
困った様子で、2人の中央に立って肩を支える少年。なんとなくは想像つくが。どうせ意地の張り合いでの、無益な勝負の結果だろう。
「情けねェ……くそっ」
「ミナト……すまんな……」
「いいんですよ。これくらい」
「ん、ミナト?」
「あ、はい。僕の……仮の名前です。荒垣さんがつけてくれたんです」
「ミナト……いい響きだね。似合ってるよ!」
「ありがとうございます」
偏屈なき笑みを見せるミナト。眺める程に不思議な少年だ。面識など無くとも、遠い友人に久しぶりに会ったかのような……自然と惹き付けられる。刹那に見せる瞳の奥には、何か圧倒されるような闘志がある。少し……彼や汐見に似てるかもしれない。
「では、影時間まで各自自由に過ごすように。くれぐれも時間厳守でな」
私の呼びかけに、各々返事をする。私は私で少しやる事がある。貸して下さった自室へ戻り、作業をしながら影時間を待つことにした。
────
──
旅館内を散策する美鶴を除く一行は、小角に設置されたゲームコーナーで足を止める。
「お、射的ゲームじゃねえか。ガキん頃よくやってたぜ」
「何故老舗旅館に、こんな最新鋭のガンシューティングがあるんでしょうか……普通置くのは、レトロゲームなのでは」
「折角だし試してみるか。俺達は銃の扱いには長けているからな」
「まあ、使ってるっちゃ使ってますけどね……自分に対してですけど……」
「お、銃に関しちゃ直斗も負けてねーぜ。なんなら勝負しないスか? 丁度2人用みてェだし」
「べ、別に僕は……」
「よし、受けて立とうじゃないか。白鐘、本気で来い──!」
直斗に真田は勝負を仕掛けるが、直斗の銃の腕は凄まじく、真田、荒垣、汐見と3人続けて見事に撃沈した。
「負けた……! 直斗君強い……!」
「ピンチなった時、何回か自分に銃口向けそうになってたぞオメー」
「お前だぞシンジ。いや、俺もだが……」
「どうよ! これが直斗の実力だぜ。これぞベンケイの泣き所ってヤツだ!」
「それを言うなら弁慶に薙刀です……」
「頼むミナト! 俺達の仇を取ってくれ!」
「ぼ、僕ですか……」
渋々銃を持つミナトだったが、トリガーに指を掛けた瞬間、顔付きが変わった。直斗に勝るとも劣らず、次々とスコアを重ねていく。
「同点……! すごいじゃないかミナト!」
「マジかよ! 射撃で直斗と並ぶヤツがいるなんてよ」
「向かってくるゾンビに対して、迷いのない正確な射撃。お見事でしたよ。僕も久々に熱くなってしまいました」
「その冷静な判断力は、付け焼き刃で身に付けれるもんじゃない。立派なものだぞミナト」
「あ、ありがとうごいます」
そんな一時の休息を嗜んでいる内に、時間はあっという間に深夜を回る。美鶴達は旅館屋上で静かにその時を待つ。時刻は──深夜0時。
「──やはり来たか」
「グルルル……」
「影時間……!」
「おぅわ!? 空が急に変わりやがった!」
0時を回った瞬間、空が深緑色に染まる。ここまでは想定通りだな……後は──
「あ、あれを見てください!」
「あれは──!」
白鐘君が指差す方角に、それは存在した。闇夜に佇む影の迷宮──タルタロスだ。あの場所以外に本当に現れるとはな……信じ難い事だが、これも歪みの産物か。蝶の言葉を鵜呑みにするのであれば、あの頂に我々がよく知る人物が囚われている。こうなっては一刻を争う──早々に乗り込まねばな。
「待てよ……ありゃ学校がある場所じゃねえか……!?」
「ええ、どうやらそのようですね。あの時と非常に良く似ている……急ぎましょう」
「ああ──準備は整った。これよりタルタロスへ向かう。行くぞ!」
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