ペルソナ3 if ─Chronos─   作:イソフラぼんぼん丸

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#2 開く扉

 

「一体なんなんだ? この妙な蝶々は」

 

 走る事数分、(真田)は厳戸台駅へと辿り着く。やれやれ……光る蝶を追ってここまで来てしまうとは。コート姿で走ったせいで余計に疲れた。丁度いいロードワークにはなったがな。

 俺は改めて蝶を眺める。相変わらず、俺の目の前を飛んでいるだけだ。こんな目立つものすぐに人目に付くと思うが……道行く人は、この光る蝶を見てもそれらしい素振りを一切見せない。

 

「この蝶、他の人間には見えていないのか? 一応、美鶴(みつる)に連絡を入れておくとするか」

 

 俺は最新型の携帯──スマホを取り出し、美鶴へ直接メッセージアプリで報告を入れる。桐条(きりじょう)美鶴。戦いの日々を共に過ごした1人。中学以来の古い付き合いの友人だ。形式上、今は俺の上司となっている。

 美鶴が率いるシャドウワーカー──その隊員の俺は、日本で仕事を続けている。俺はかつて、修行の一環で世界各国を飛び回っていたが、今、日本に腰を落ち着けているのには理由がある。"胸騒ぎ"だ。それだけかと言われるかもしれないが、これは本能的な何かだと確信している。近い内、何かが来る。あの時(P4U)と似た感情だ……そんな予感が俺の頭から離れない。

 その胸騒ぎも、今まさに当たっているかもしれない。先ほどまでずっと飛んでいた蝶が止まった。どうやら、目的地はここらしい。顔を見上げた時、思わず声を漏らしてしまった。

 

「"厳戸台分寮"……またここに来るとはな」

 

 蝶が導いた終着点。そこは、かつて俺達が過ごした、戦いの日々の拠点。一度閉鎖されたが、あの時の一切の設備を取り払って改修し、再び寮として月光館学園の生徒達が利用しているらしい。

 蝶は木に止まり羽根を休めたかと思えば、突然羽ばたき、寮の扉の中へと吸い込まれるように消えていった。

 

「中に入れっていうのか? しかし、こんな時間に入っていいものなのか……卒業生とはいえ、流石に──」

 

 そう頭を捻って、入り口の扉に手を掛けた瞬間だった。感触で分かる……扉が開いている。まだ消灯時間ではないのか? スマホの画面は23時50分を指している。もう結構な時刻だ。こんな時間まで扉を開けているのか。入れるには入れるが、このままでは不法侵入になる。

 

「……まあ、少しくらいスリルがあった方が面白いかもな」

 

 元卒業生、そしてシャドウワーカーの隊員。言い訳はいくらでも出来る。今はこの胸騒ぎの元を追うのが先だ。俺は扉をそっと開けて中に入る。意外にも、中は無人であった。生徒達は寝ているのか?

 

「懐かしいな、何も変わっちゃいない」

 

 内装はあの時のままであった。改装したとは聞いていたが、ソファー、カウンター、床のカーペットに壁の装飾……どれも当時のままの姿だった。俺はいつも座っていたソファーに腰掛ける。

 

「いつもここでグローヴを磨くか、海牛の牛丼を食べていたな」

 

 らしくないな。年を食ってヤキが回ったか? 今は感傷に浸る時ではない。

 俺は立ち上がって辺りを見渡す。蝶は……いたな、階段付近で漂っている。その蝶に近付こうとしたその時だった。

 

「ウゥゥゥ〜……」

 

 動物の低く唸る声が足元から聞こえてくる。下に視線を移すと、そこには見慣れた白い犬が顔をしかめて威嚇していた。

 

「お前は……コロマルじゃないか」

 

 コロマル──コイツもかつての日々の仲間だった。今でもシャドウワーカーの召集には、エクストラナンバーズとして天田と共に参戦している。そういや天田と一緒に、この分寮に住んでいるんだったな。

 侵入者の俺に対し、暫し警戒をしていたコロマルだったが、俺だと分かるとすぐに威嚇を解いた。成る程。夜は吠えないよう、よく訓練されている。まあまあな年のはずだが、相変わらずタフな犬だ。俺も見習わないとな。

 

「コロマル、あの蝶が見えるか?」

「ワフッ……」

 

 もしやと思い、俺は階段前でヒラヒラと舞う蝶を指差し、コロマルにそう促す。コイツは賢い犬だ。人の言葉は理解出来る。

 すると案の定、コロマルは俺の指先の蝶を目で追っていた。どうやら見えているらしい。まさかペルソナ使いにだけ見えるのか? この疑問を確信に変えるべく、俺はこの場所にいる、もう1人のペルソナ使いの場所をコロマルに問う。

 

「コロマル、天田の部屋は分かるか? 連れていって欲しいんだが」

「クゥ〜ン……」

 

 が、コロマルは耳を畳んで項垂れるだけで、その場から動かなかった。なんだ無理なのか? 連れていけないのか、今は不在なのか、寝ているから起こすなって意味なのか……分からん。長年一緒にいるヤツだが、流石に犬とツーカーとまではいかない。アイギスがいればいいんだが。

 

「なら、一緒にこの蝶を追ってくれ」

「ワフッ」

 

 今度は了承したのか、立って俺の後を付いてくる。俺とコロマルは、蝶を追って2階へと階段を上っていく。蝶は2階の部屋が連なる廊下の奥へと舞っていく。ここもひどく懐かしい。俺の部屋は誰か入ってるのか? 天田はこの部屋をまだ使っているのか?

 

「ここは……」

 

 蝶が止まったのは一番奥の部屋──"アイツ"の部屋だ。何か様子がおかしい。蝶が扉の中へ消えた瞬間、扉の隙間から青い光が漏れ出したのだ。ここを開けば、何かが起きる。俺はそう直感する。

 久しぶりだ、この感覚。この年になって言う事ではないかもしれないが──

 

「ワクワクするな」

 

 俺は扉を開けて、中へと踏み入る。

 

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