ペルソナ3 if ─Chronos─ 作:イソフラぼんぼん丸
終わりを告げる月の塔──タルタロス。
俺は急いで寮の外へ出る。稲羽市で見た赤い塔とは違う。あの薄気味悪い形状……あれから幾年経過しようが、見間違えるはずもない。タルタロス……あの塔が、何故また出現した!?
まさかニュクスが、と最悪な状況が一瞬過ったが、今見た通り月は無い。あの翡翠色に不気味に輝く月は、どこを見ても存在しない。いや、存在してたまるか。あれは……アイツが命を掛けて封じたものだ。あんな事は、二度と起こり得ない。
「……クソッ!」
だが現に、起こり得ない事態は起きてしまっている。このどうしようもない憤り。俺の足は、自然とタルタロスの方へと歩を進めていた。
「行くぞコロマル!」
「ワンワンッ!」
────
──
「着いたな。本当に……タルタロスだな」
「グルルル……」
辰巳ポートアイランドに位置する私立月光館学園高等部。俺の母校だ。ここに来るのは随分と久しい。だが今は懐かしんでる場合じゃない。あるはずの校舎は消え、影時間の中だけ現れる迷宮──タルタロス。
近くで見ると、どうも妙だ。見た目は完全にタルタロス。だが眺めていると、まるでそこに存在しないかのような……ハリボテを見ているような錯覚に陥る。真夏日の陽炎のようにユラユラと塔全体が蠢いているのも、何かおかしい。
「まあいい……そこにあるのなら、もう一度踏破するまでだ!」
「待て、明彦!」
勇み足でタルタロスへ踏み入る寸前、後方からバイクの駆動音と共に、聞き慣れた声が近付いてくる。
振り返ると、そこには焦った様子でバイクから降り、こちらに駆け寄ってくる白いコートを羽織った女性の姿があった。
「美鶴……!」
「ワンワン!」
「やはりここにいたか。コロマルも一緒のようだな……全く、召喚器も装備も無しに立ち入るつもりなのか? 相変わらずだな、お前は……」
美鶴の言葉で思い出す。そういえば無防備だったな……まあ、数年前に踏破したものに、今さら遅れを取るとは思えないが。過去の自分を越えるという意味でも、拳一つでどこまで行けるか試してもいい。
「それより美鶴、お前どう思う? この今起きてる事を」
「名状し難いとはこの事だな……目の前の光景が信じられない。影時間にタルタロス──一体何が起きてるんだ……?」
美鶴は目を細めてタルタロスを仰ぎ見る。従来と同じ影時間ならば、明けるまで約一時間近くはある。ここで足踏みしても、何も得るものは無い。俺は校門の敷居を跨いだ。
「明彦……?」
「俺は行くぞ美鶴。この時間が存在している以上、ここでただじっと待っている事など出来ん。ここならば、何か分かるかもしれないしな」
「……仕方ないのないヤツだな。止めても無駄なのだろう? 念の為にと持ってきたものが、まさか早速必要になるとはな」
美鶴はバイクのシートからキャリーケースを取り出し、中に入っていた銀色の物を俺に差し出す。手に取ると、しっかりとした重みが掌に密着する。召喚器──まだ残っていたのか。よく馴染む金属の感触が懐かしい。
「召喚器はあるが、装備等は持参していない。犬用の召喚器も流石にな……今から踏み入るのはよく知る場所であれど、情報が無い以上未知の危険を多く孕んでいる。くれぐれも慎重に行動してくれ」
「分かっている。武器など……この拳だけで十分だッ!」
俺達はタルタロスの中へと入っていく。召喚器の無いコロマルをそのまま待たせる訳にもいかず、俺達と共にタルタロスへ潜入する事になった。
異変はすぐに起きた──エントランスへ入った瞬間、突然目眩のような感覚に襲われる。視界全体が揺らぎ、重心がおぼつかない。クッ……ノックアウトされた訳であるまい……! 美鶴も俺と同じように、体勢を崩して地面へ膝を突いてしまう。コロマルも耳を畳んで悶えている。
だが、それは耳鳴りと共に、すぐに終わった。俺と美鶴は、お互い顔を歪ませる。
「なんだこの感覚は……」
「分からない……ひどい頭痛だった。まさか、何かの攻撃を──」
美鶴がそう言いかけた瞬間、その表情が一瞬にして怪訝なものへと変わっていく。美鶴は顔を上げ、階段の先の迷宮の方を睨む。
「どうしたんだ?」
「まさか、なんて事だ……この反応は……生体反応だ!」
「何!?」
美鶴の頬に冷や汗がつたる。美鶴のペルソナには、微力だが遠隔支援の力がある。生体反応……シャドウに反応は示さない。それはつまり──人間がいるという事だ。
「すぐ近くだぞ。反応は2つ……1つは気を失っている……! 何故人間の反応が……いや、悠長にしている場合ではないな。緊急事態だ、急ぐぞ!」
「ああ!」
「ワンワン!」
エントランスを抜け、いよいよタルタロス内部へ。中は、外郭やエントランスと同じで、当時のまま何も変わっていなかった。崩壊した学校設備のオブジェが、天井にまで乱雑している。タルタロスの第一層の光景と同じものだ。まさか中身まで一緒とは。
「──オイ、いたぞ!」
美鶴が指差す方向、曲がり角の直線、約20m先。床に倒れている少年を庇うように──月光館学園の制服を着た少女が、シャドウへ向けて武器を構えていた。
「月光館の生徒か!? 待っていろ! 今助けるぞ!」
俺はすぐに腰を深く落とし、臨戦態勢を敷く。そしてシャドウへ向けて重心を前に倒し、一気に距離を詰める。
遠くで見えなかったが、近くに来てようやく視認出来た。彼女の左腕に巻かれていたものに俺は目を疑った。その巻かれた赤き腕章には──『S.E.E.S』と書かれていた。少女はアップにしている赤茶色の髪を翻し、こちらに気が付くと目を丸くして驚いていた。
「え!? 真田先輩に桐条先輩……と、コロマル!? どうしてここに!?」
俺と美鶴は、彼女に駆け寄りながら顔を見合わせる。何故俺達の名前を知っているんだ……? それに、あの腕章は──そう過った刹那、彼女の背後からシャドウの手が伸びて来ていた。
「……! 危ない!!」
混沌とした状況の中、彼女は冷静に背後のシャドウと相対すると、腰に下げていた白いガンホルダーから銀色の塊を取り出す。それをこめかみに当てると、俺達へ向けて横目で微笑を浮かべる。
一瞬の動作のはずだが、その動きはとてもスローに見えた。ジャブを打たれる寸前のように、時が止まったような感覚だ。そして……彼女はゆっくりと口を開く。
「大丈夫ですよ、先輩。
「
「来て──オルフェウスッ!」
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