ペルソナ3 if ─Chronos─ 作:イソフラぼんぼん丸
不定期更新なのはご容赦ください。
「オルフェウス……だと?」
少女が引き金を引くと──背後より影が現れる。彼女の髪色と同じ赤茶色の長髪。ハート型に湾曲した琴を背負った神秘的な姿。彼女のペルソナはどこか……本来のオルフェウスを彷彿とさせる見た目をしていた。
見知らぬ少女が俺達の名前を呼んだと思えば、腕章と召喚器を携え──オルフェウスという名のペルソナを顕現させる。目の前で起きるあまりにも衝撃的な事実に、俺も美鶴も驚きを禁じ得なかった。
「大抵の事には驚かない自信があったが……これは……!」
「アオーン……」
夢か幻覚攻撃の類いかと戸惑う。それが普通だろう。ただ目の前で繰り広げられている現状が信じられない。きっと美鶴も、同じ顔をしているに違いない。
そう俺達が尻込みをしてる間に、辺りのシャドウは彼女によって一掃されていた。彼女は汗を一つ拭うと、俺達に笑顔を向ける。
「もう大丈夫ですよ。バッチリ倒しました!」
正体は分からないが、危険な人物ではないようだ。多くの話を聞く必要もある。俺は美鶴と顔を合わせ頷く。美鶴は表情に困惑の色を残しながらも、彼女に歩み寄って軽く頭を下げる。
「助かったよ。目の前の現状に理解が及ばないが……一先ず、怪我人をエントランスへ運ぶぞ。君の知り合いか?」
「分かりません……私がここに来たとき、彼は既に倒れてて。シャドウに襲われそうになってるを見て、助けたんです」
「そうか……とにかく運ぶぞ」
「はい!」
倒れていた少年を抱えて、エントランスへと戻る。彼を安全な場所で寝かせ、俺達は一息つく。
「見た所、気を失っているだけのようだな。影人間ではなさそうだ」
「そうだな、目立った外傷も無い。安静にしてれば、その内起きるだろう……ん? オイ、どうした?」
不思議そうな顔で辺りをキョロキョロと見渡す少女。まるで何かを探しているように見える。
「どうしたんだ?」
「扉が無い……3つあったはずなのに……ベルベットルームもっ!」
「何の話だ?」
「っていうか、他の皆は!? 私、ゆかり達と組んでタルタロスに入って、それで……!」
「待て、何故岳羽の名前が出てくるんだ?」
「え? アイギスと一緒に2年生同士で行ってこいって言ったの、真田先輩じゃないですか!」
「何を言ってるんだ? 一体何の話をしている……!?」
「待てっ」
声を荒げる俺を制するように、片手を前に突き出して、咳払いを一つする美鶴。そして改めて、少女の顔をじっと見据える。
「これ以上話が拗れる前に一ついいか?」
「はい?」
「単刀直入に問うが、君は一体──誰なんだ?」
「はい!?」
美鶴の問いに、少女はエントランスに響く大きな驚きの声を上げる。驚いているのはこっちなんだが。
「ちょっと待って下さいよ! 先輩どうしちゃったんですか? はっ、まさか悩殺か混乱状態になって──」
そう彼女が美鶴に詰め寄った直後。美鶴に近付いた少女の足が突然止まり、2歩3歩と、後退りをしていく。その顔には、驚きと焦りを孕んでいた。
「違う……先輩だけど、私が知ってる先輩じゃない……高校生に見えない……え、どういう事〜!?」
頭を抱えて膝から崩れる少女。酷く困惑しているようで、しゃがんでブツブツと何かを呟いている。彼女は一体、何者なんだ? タルタロス、そしてイゴールの言葉……否定しようとしても、俺の中で一つ、胸懐に秘めた思惑が浮上してきていた。とても言葉では言い表せないものだ……俺の口は、自然と美鶴に助け船を求めていた。
「美鶴、あまりにも馬鹿馬鹿しい事だと思うが……俺はどうしても──この少女を
「お前も同じか……ああ、私も同意見だ。容姿や所為は全くと言っていい程異なる。しかし、まるで双子を見ているような、筆舌尽し難いデジャヴが鮮明に脳裏に焼き付く。こんな経験は初めてだ……」
歯噛みする美鶴。俺は今日あった出来事──光る不思議な蝶に導かれた事……その先の群青の部屋でイゴールという老人が放った、世界が歪み、交わるという事。一言一句漏らさず美鶴に伝えた。美鶴は顎に手をやり、暫く考えを巡らせると、小声でそっと呟く。
「……お前の話と老人の話を全て事実だと仮定すれば、彼女は"別の世界"の過去からやってきた"彼"の可能性がある」
「何?」
「パラレルワールドやマルチバースに通ずるものだな。私達の事や仲間達の名前を知っているのも、オルフェウスも……全て納得がいく。飽くまで壁越推量だがな。その技術の究明は果たされていないものだが……事は今まさに目の前で起きている。それらの可能性を易々と等閑視は出来ないだろう」
「確かに……いや、そうとしか思えん。でなきゃ辻褄が合わん。それにこんな不思議な事なんて、今まで何度も起きてきたからな。もう何も驚くまい……まあ、今回ばかりは少し異常だが」
「ああ。多少のトラブルには、今後動揺はしないだろうと思っていたが……別世界からの来訪者とはな。この目にしても尚、信じられない」
「どうする? 美鶴」
「とにかく、まずは怪我人を辰巳記念病院へ搬送する。彼女も念の為、診て貰った方がいいだろう。影時間関連のイレギュラーなら、何か分かるかもしれない」
「ああ。だが、彼女にどう説明するんだ? こんな話、一層困惑させるだけだと思うが」
「問題はそこだな……突如出現したタルタロスに、"彼"と似た彼女……問題は山積みだ。とりあえず、話は病院で聞くとしよう」
「そうだな。ここでは落ち着けん。影時間も間も無く終わる。さっさと退散しよう」
「ワフッ」
「あ、あの〜……」
おそるおそると、彼女が俺達に声をかける。少し声が大きかったか。会話が聞こえていたかもしれない。
「あの、本当に真田先輩と桐条先輩なんですか……?」
「……ああ。君の知る私達とは違うかもしれないがな。ところで、名を聞いても? 君からしたら妙な質問かもしれないが」
「は、はい──」
美鶴の問いに、彼女はたじろぎながらも、礼儀よい姿勢で答える。
「汐見琴音です」
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