ペルソナ3 if ─Chronos─   作:イソフラぼんぼん丸

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#7 黄金の賢者

『諸君は──いや、名を聞くのはやめておこう』

 

 燐光の中から、一際強い光を放つ金色の蝶が俺達の前に姿を現す。コイツが声の主か……?

 

『突然呼び出した事は詫びよう。諸君を招いたのは他でもない。この世界で起きている事についてだ』

「お前は誰だ?」

『私は意識の狭間に住まう者として、人々を見守る存在。私はかつて、ペルソナ能力を授ける立場にあった』

 

 ペルソナ能力を授けるだと? ペルソナは自らの影を抑制した、謂わばもう一つの自分のようなものだ。他者から与えられるものではないだろう……美鶴の一部の能力は例外だが。眉を寄せる俺に構わず、蝶は話を続ける。

 

『しかし、"彼ら"を見てから私は考えを改めた。力は与えられるのではなく、自らの力で掴み取るものだと。人は変わったのだ。諸君が自らペルソナ能力を開花させたようにな。それを境に、私は人々の前に姿を見せる事をやめた。仮初めの姿だが、人間と話すのは久方ぶりだ』

 

 俺達のペルソナ能力を知っている……あの老人、イゴールと同じ立場の者なんだろうか。

 

『二極化した世界──かの世界とよく似ている。しかし、交わる世界は一つ二つでは無い。運命とは幾万の可能性が存在するものだ。この世界は今、決して交わる事の無かった運命が集束しつつある。私は忠告に来たのだ』

「それはイゴールさんから聞きましたけど……どうなっちゃうんですか?」

『この世界は終わりを迎える』

「終わる!?」

 

 また唐突な……何故世界が交わっただけで、終わりを迎えるんだ。そもそも世界が交わるとはなんだ?

 

『うつし世には、多様な世界が存在しているのは知っているかね? 諸君の言葉で言うパラレルワールド……並行世界と言えば聞き馴染みはあるだろう。小さな綻びが大いなる波紋を呼び、あらゆる運命の可能性を秘めたるもの』

「回りくどいな……つまり、どういう事なんだ?」

『極端だが……明日、どこかの並行世界で、地球を揺るがす大地震が起き、人類文明が滅ぶとしよう。その世界は破滅を迎えるが、君達を含めた別の世界では、変わらぬ日常を過ごしている事だろう。だが、その全てが強制的に集まり、ある一点の世界となる。何が起きるか分かるかね?』

「あっー!」

 

 ずっと静かに唸っていた汐見が、突然声を張り上げて納得したように手のひらを叩く。

 

「地震だったり、戦争だったり、災害だったり。そういう色んな可能性を秘めた未来が一つになるって事だから、それが一辺にやってきて世界がメチャクチャになっちゃうって事なんだ!」

『左様だ』

「な、なんだと!?」

 

 冗談じゃない……そんな厄災が一辺にやってくるだと? 文明の崩壊どころではない。世界が滅ぶだろう。間違いなく。

 

『かつて、諸君が築いた絆の力は、星々のように遥か彼方へと散っている。捕らわれた者達を救い、この世界の破滅を阻止する方法は、かの塔を上り、真実を見つける他ない』

「タルタロスを再び上る……そうすれば、崩壊は止められるんだな?」

『塔は一つでは無い。全ての道が開かれし時、世界は再び、蝶が羽ばたくように波紋を広げでいくであろう……ふむ。時が来たか。どうやら、ここまでのようだな』

 

 声が切れた刹那、辺りの燐光が強く揺れ、空間全体が震える。この場所に何か異変が起きているのか!? 蝶はより一層光を強め、その姿を霞ませていく。くっ、まだ話は終わってないというのに。

 

「まて! まだ聞きたい事が──」

『私はうつし世から身を退いた者。本来、諸君とこうして言葉を交える事が、元より理から外れているのだ。これも綻びの一つ。多くは語るまい。諸君の手で、真実を掴みとってみせよ。人間が起こす奇跡を……見せてほしい。私は常に見守っている。だが用心したまえ……我が……半身は……す……ぐ……近く……に──』

 

 これまで一番強い光が辺りを包む。聴覚が遠退く感覚……再び目を開けた時には、元の地下施設へと戻っていた。

 

「元の場所に戻ったのか?」

「誰だったんだろう。でもなんだか不思議な気持ち。私、会ったことあるような……うーん、気のせいかな?」

「塔を上り、世界救う、か……全く、この世界は何度危機に陥るんだ。しかし、事は既に起きている。今はアイツの言葉を信じるしかないだろうな」

「捕らわれた者達という言葉にも引っかかるな……」

「道は実にシンプルだ。タルタロスを上り、世界の集束を止める。今日の影時間、タルタロスに潜入するぞ。それでいいな?」

「ああ。0時まで時間はある。その間に、本部へと戻って準備を進めよう。真相も確認したい。行くぞ」

「はいっ」

「ああ!」

 

 俺達は病院を後にする。本部へと戻る道の空は、まるで様々な色の絵の具を、混ぜて滲ませたような……そんな淀んだ色をしていた。俺はまだ自覚していなかったんだ。この事件の重大さ、そしてこの世界に迫る危機を──

 

 ────

 ──

 

 真田達が去った後の地下病棟。精密機器の音が、静かに響く白い病室で、少年は意識を取り戻す。その身体をゆっくりと起こし、遅れてやってくる頭痛を感受する。額を手で押さえながら、自分に問うように掠れた声で呟く。

 

「僕は──一体誰なんだ……?」

 

 

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