ペルソナ3 if ─Chronos─   作:イソフラぼんぼん丸

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#8 世俗の塔テベル①

 

「ん、美鶴のヤツもう出てきたぞ」

「ワンワン!」

 

 シャドウワーカーの本部がある、桐条グループの高層ビル。その入り口から、難しい顔をした美鶴が出てくる。まず現状を確かめると言って、1人でビルへと入った美鶴だが、数分もせずに帰って来た。

 

「美鶴、どうしたんだ?」

「……何から話せばいいのか。端的に言うと、シャドウワーカーという存在が消えていた」

「消えただと? 一体どういう事だ」

「グループのどの人間に聞いても、そんな名前は聞いた事が無い……そんな組織は存在しない……とな。それに加え、シャドウワーカーや先日までの事を話そうとすると、会話に必ず齟齬が生まれ、怪訝な顔を浮かべられた。影時間に関する話は可能だったのを踏まえれば……私だけ未来に飛んだかのように、時間感覚のズレが生じている。この事態はそう解釈出来るだろう」

「何?」

「一応私自身で、内部の情報を端末から探ってはみたが、シャドウワーカーという名が痕跡一つ残さず消えていた。非公認の部隊とはいえ、警察組織と共同設立した部隊だぞ。どのデータからも、存在が完全に抹消されているのは、明らかに異常だ。ある年を境に、それ以降の情報が全て消えていたとなると……まさにタイムスリップだ」

「何だと!?」

 

 あり得ん。だがシャドウワーカーが存在しないとは……それこそ信じられない話だ。汐見がタイムスリップしたのではなく、本当は俺達が過去に来たというのか? バカな。町の景色等は変わっていなかったぞ。最近新しくなった施設もそのままだったしな。

 

「どうやら、都合良くシャドウワーカーだけが、消えているらしいな。これもヤツ()が言ってた、崩壊の始まりに違いない」

「俺達だけ記憶があるのは不自然だな……ああ、それと、俺も順平や山岸に通話をかけたが、応答はしなかった」

「参ったな……そうなると、バックアップが完全に停止される事になる。データベースも閲覧不可能となると、今後の作戦に支障が出るぞ……」

「フン、丁度いいんじゃないか? 最近はどこか、組織の支援に頼りきっていた節もある。この際だ、俺達だけで解決してやるのはどうだ? まさに、あの時と同じようにな」

 

 こんな所で躓いていられん。また、無力感に苛まれるのはゴメンだからな。元々、庇護めいた大勢のサポートがある状況は、俺は気に食わなかった。孤軍奮闘にこそ、己を成長させる糧がある。俺達だけでやってやるさ。そう拳を叩いた時、俺の顔をじっと正視する汐見の視線に気が付く。

 

「う〜ん……」

「なんだ? 人の顔をジロジロと」

「なんか、変」

「な、何?」

 

 目を細めて唸る汐見は、俺と美鶴の顔を交互に眺める。暫く腕を組んで首を捻っていたが、突然思い出したかのように声を張り上げる。

 

「あーっ! そうそう、若いんですよ若い!」

「え?」

「先輩達、お互い見て気付きません? なんだかタルタロスで会った時より、若返ってますよ。大人な先輩達見た後に、すぐいつもの先輩達になってたから、余計に混乱しちゃってたんだ私」

「何!?」

 

 汐見がそんな衝撃的な発言をする。若返ってるだと!? そんな事があるのか? 俺と美鶴は急いで顔を見合わせる。俺の顔と身体を観察する美鶴は、徐々にその表情に焦りを浮かばせる。

 

「言われてみれば……20代にしては瑞々しい。もっと筋肉質な体型をしていたはずだ。今のお前はまるで……本当に、高等部在学時のような……」

「本当か!?」

「くっ、私はどうだ?」

「……」

「明彦?」

「…………すまん。違いが分からん」

「明彦……!」

 

 一瞬、美鶴の眉が吊り上がる。一体何年共にいるんだと、怒りと呆れが混じった目で語ってくる。若いままだと言っているようなもんだろう、そんな顔で見ないでくれ。

 どうりで身体が軽いと思った……くそ、肉体改造は楽じゃないんだぞ! 早急にプロテインを摂取しなければ……!

 

「ワンワン!」

 

 足元でコロマルが元気に吠える。なんだ、やたら食い付いてくるな。腹でも減ったのか?

 

「コロマルも若返ってますよ」

「何? 何故分かるんだ」

「えー! この毛並みと顔付き見たら、一目瞭然ですよ! さっきまでのオジサン臭いコロマルと違って、今はハツラツとしてますもん」

「クゥ〜ン……」

 

 オジサンと言われてショックなのか、耳を畳んで項垂れるコロマル。汐見は再び腕を組み、辺りをうろうろと歩き回る。

 

「私だけ変わっていないのを見ると……先輩達、未来の人間が若返ってます。もしかして、世界に都合がいいように、事実を作り替えてるのかもしれません」

「事実を作り替える?」

「そうです。先輩達の会社が無いのも、過去と世界が交わったせいで、事実がまだ出来ていない状態……謂わば過去の世界になりつつある。だから身体も過去のものとなってしまった!」

 

 ビシッと指を差す汐見。名探偵のように、明後日の方を見つめる姿は、あまりにもバカらしく見えた。俺達の冷ややかな視線に気付くと、わざとわしく咳払いをしてみせる。

 

「……まあ、勘なんですけど。これが女の勘ってヤツかな〜?」

「女の勘ってそういうものなのか?」

 

 だが一理あるかもしれん。世界が交わる中、過去の世界に合わせようと、事実を書き換える。メチャクチャな話だが、理屈としては合っている。

 

「冗談じゃない! 既に世界は交わり、身体がメチャクチャに……くそ、急ぐぞ! これ以上自分の身体を、好き勝手にさせてたまるか。俺達だけでも、タルタロスを制覇する!」

「それしかないようだな……時は一刻を争う。危険だが我々だけで行動する。行くぞ」

「はい!」

「ワンワン!」

 

 

────

──

 

 

 

 

 

 そして、影時間の月光館学園前。俺達は諸々の準備を終え、目の前に直下立つ、タルタロスに足を踏み入れる。

 

「改めて確認するが、今回は我々だけの作戦だ。バックアップは私が行う。山岸程正確ではないが許してくれ。明彦、汐見、コロマルの3名のみで前線に出ろ。敵は未知数、そして少数での行動だ。かなりの危険が伴うだろう……十分に警戒してほしい」

「あ、リーダーはどうします?」

「お前がやってくれ。適任だろう」

「……分かりました。バッチリやってみせます!」

「頼んだぞ」

「ワンワン!」

 

 エントランスから階段を駆け上がり、俺達は内部へと潜入する。この先、どんな試練が待ち受けているのか。世界の崩壊が進んでいるというのに……この胸の高鳴りは止まらない。ワクワクするな。俺は自然と口角を歪ませ、シャドウの巣を走って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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