時間にすればわずか五分ほど。
ほとんど朽ちかけていたので崩れるのも早かったが、たったそれだけの短時間で、姫島朱乃は廃屋を見るも無残なガレキの山へと変貌させてしまった。
木材もコンクリートも関係なく消し炭になるか木っ端微塵に吹き飛び、さながら爆発事故の起きた現場か、あるいは廃材の投棄場所と勘違いしてしまうほどの荒れ具合――これを一人の美少女が容易くやってのけたのだから、正しく悪魔の所業と言い表す他ない。おっそろしいポニテお姉様である。でもおっぱいは大きくてマーベラス、ぜひ揉みたい。
「さすが朱乃、見事だわ」
「うふふふふ――お褒めの言葉光栄至極。でも壊れ方がいまいちですし、こんなのはまだまだ手加減の範疇ですわ。部長の魔力だったら跡形もなくいけるでしょう?」
「まあ当然ね」
この程度、私なら十秒で消し飛ばせるわ――と。
虫も殺せないようなアルカイックスマイルで物騒な会話を繰り広げるお姉様ズ。
焚きつけるだけでまだ何もしていない部長様は元より、雷の雨なんて非常識なものを降らせた副部長も疲労らしい疲労はないらしい。むしろ良い運動になったとばかりに頬を紅潮させて悩ましげな息を吐く姿が滅茶苦茶にエロく、このまま見続けていたら思春期ど真ん中のマイサンがとんでもないことになりそうだ。
とある部分が急激に自己主張しつつあるイッセーに、何時の間にか隣にいた小猫が視線を下げてぽつりと、
「……先輩、かなりおっきくなってます」
「ふおっ!? ど、ドコのナニがかね小猫ちゃん!?」
「いえ、さっきから吐いてるため息が」
「………………」
「………………」
もしかして、もしかしなくてもハメられた。
だーいせーいこーう、と無表情のままバンザイする後輩に対してどうにか先輩の威厳を示したいものだが、何故だろう、完膚なきまでに返り討ちに遭う展開しか思い浮かばない。
年下の、しかもロリ系美少女に下ネタでまさかの完全敗北(妄想)。
そしてとばっちりを食わないよう少し離れて苦笑している木場。こっちもこっちで相応にムッツリーニなイケメンだったようだ。
「と、ところで部長、これからどうするんですか?」
「んー、とりあえずバイサーの生死の確認かしら。死体の一部でも焼け残っていれば手っ取り早くて分かりやすいんだけど……掘り返すのも面倒ね」
自分で命令したクセに。
けれども確かに、大公の依頼とやらはそのバイサーなるはぐれ悪魔の討伐だ。某有名狩りゲーのようにクエストクリアのファンファーレでも鳴れば話は別だが、ただ廃墟をぶっ壊しただけでは決定的な証拠になるはずもない。それどころか、崩壊に紛れて姿をくらませた可能性だってある。
とすると、やっぱりこれから死体探しをしなければならないのか。
イッセーよりもリアスとの付き合いが長い木場や子猫などは、巨大なコンクリート片を軽々と持ち上げたり魔剣で切り裂いたりして一足先に夢のない宝探しを始めている。
仕方なくイッセーも発掘作業に参加するが、せっかくのカッチョイイ籠手型神器もこんな状況では軍手代わりにしかならないのが物悲しい。
「そういえば俺、バイサーの顔とか知らないんですけど……」
「外見はあれよ、ギリシア神話に出てくるケンタウロス。人間の上半身に獣の下半身ってヤツ」
流石にケンタウロスくらいは知っている。もっとも、その知識の出所は人外娘の調教や異種族恋愛物のエロゲーなので胸を張って言うことではなのだが。
そしてイッセーのイメージではケンタウロスは総じて全裸ムキムキの男性であり――
「……何が悲しゅうて馬男を総出で探さなきゃならんのでしょうね」
「あらイッセーくん、バイサーは女ですよ?」
「マジですか!? 女は女でもお婆さんでしたとかそんなオチじゃないですよね!?」
「大公からの情報では結構若いそうですけど」
朱乃の余計な説明で俄然やる気になったイッセー。
偏見の混じった『ケンタウロスは服を着ない』という妄想はそのままに、都合よく『マッチョで汗臭そうな馬男』が『若くてキレーな馬女』に切り替わって脳内が一気に桃色ヒートアップ。もうはぐれ悪魔とかそんなのはどうでも良くなっていた。
目指すはワイルドホースなオッパイただ一つ、いや二つ。
魅惑の双丘を求めて残骸を破砕していくイッセーと愉快な仲間たちだったが、
「……臭いがします。これは――」
ふと、小猫が手を止めて空気を嗅ぐような仕草をした。
彼女の嗅覚には定評があるのか、リアスも朱乃も木場も真剣な表情で小柄な少女に注目する。
ピン――と張り詰める空気に、イッセーは堪らず唾を飲み込んだ。
やはりバイサーは生き延びていて、何処かで自分たちを狙っているのだろうか。
「小猫、臭いってどんな? 方角は分かる?」
「あっちです」
リアスの質問に小猫はコクリと頷き、さほど離れていない一軒の住宅を指差す。
まさか、あそこにバイサーが?
不意打ちを見越して別の場所に退避を?
「小猫ちゃん。本当にあの家に?」
「はい先輩、間違いないです。あの家で――」
たっぷり十秒は溜めた後、
「あの家でお魚が焦げてます。たぶんサンマです」
「そう、それは一大事ね。オカズが一品減ってしまうわ」
「シリアスな顔して言うことじゃねぇ!? 俺の緊張を返せ! そして部長が『オカズ』って言うと何かエロくてアリガトウゴザイマス!」
「――というのは半分冗談で」
今度は敷地の片隅に、小猫は細い指を向ける。
まだイッセーたちが手をつけていない一画。そこには廃材が不自然なまでにうず高く積み上げられていて、傍目からは歪で巨大な卵にも見えた。
卵。そう、卵だ。
まるで、中に何者かが潜んでいるかのような。
「あれです」
「朱乃」
「はい」
言うが早いか、応えるが早いか。
朱乃の手を振り下ろす動作に合わせて、極大の稲光が卵を一飲みにする。一棟丸ごと壊滅させた雷撃を防ぐ術などないはず。卵はあっけなく爆発四散した。
しかし――
「朱乃の攻撃でもビクともしないなんて……」
「あれは……結界でしょうか」
イッセーたち五人の視線の先。
無数に浮かび上がる梵字を『点』として『線』が結び形作る多面体。それを半分に切ったようなドーム型の結界に守られて、ゆらりゆらりと立つ誰かがいた。
はぐれ悪魔バイサー……なのだろうか。
「ねえイッセー」
「え? あ、はい」
リアスはイッセーの顔を見て、
「あれ………………誰?」
「いや知りませんよ!? バイサーじゃないんですか!?」
外見は、三眼の紋様が入ったロングマフラーで顔をグルグル巻きにした背の高い人間だ。性別こそ定かではないが少なくとも半人半獣には見えないし、非常に残念なことに朱乃から聞いた特徴とはまるで食い違っている。何より全裸じゃない! おっぱいを鑑賞できない!
「おっぱい目指して三千里だったのに人違いかよ! いや悪魔違い? それとも馬違い!?」
「落ち着くんだ兵藤くん、まだ人違いとは決まってないよ。一定以上の力がある悪魔は姿を自由に変えられるんだ。もしかしたらバイサーも……」
「良い読みだとは思うけど祐斗、間違いなくバイサーじゃないと断言できるわね。そもそも魔力を欠片も感じないから悪魔ですらないかも」
「チクショー!!」
一縷の希望さえ絶たれた。
地面を殴ってイッセーは涙ながらに心情を吐露する。
「俺のおっぱいが! おっぱいが!!」
「先輩のじゃないです。そして見苦しいです」
「あれだけ張り切ってたから落ち込み振りも酷いなあ」
そんな三人をよそに、我らが部長と副部長は闖入者を冷静に観察する。
「隣に倒れてるのってウチの生徒よね。周りに浮かんでるあの
「他人から奪ってここに集めていたのでは? だとすると、神器狙いでイッセーくんを殺したあの堕天使の協力者という可能性もありえますわね」
勘違いに勘違いを重ねた議論を展開するリアスと朱乃。
その誤解を肯定するかのように、覆面の闖入者は――まだ正体がバレてはいない阿修羅はようやく行動に移る。誤解させる行動に移ってしまう。
自分と女生徒を覆っていた結界を解除し、厳重に巻いたマフラーから口元だけ露出して、
「――ぅうぎゃああああぁぁあああああああああああぁぁぁぁああああああああっっ!!!!」
吼えた。
狂気に満ちた悲鳴を。
怯えと恐れに染まった慟哭を。
ただ、ただただ叫ぶだけ叫び、身を竦めて耳を塞ぐ少年少女たちを――
――見た。
主人公の台詞が叫び声だけって……(汗
阿修羅とイッセー御一行のバトルは次話に持ち越しです。
書いていたら目安の3000文字どころか5000字超えそうだったので二つに分けます。
楽しみしている方がいたらゴメンナサイです。