鬼神先生あしゅら   作:久木タカムラ

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ただ好き勝手に生きる人達。
 


第八目 『関係ない』

 ――邪魔だから踏み潰した。

 

 突き詰めてしまえばただそれだけの事なのだが、乱入を果たした阿修羅とブレア以外の面々にとっては――どうやら戦いを放棄して唖然呆然と立ち尽くすには十分な衝撃があったようだ。

 片や、リアス・グレモリー率いるお子様あくま団。

 片や、痴女じみた堕天使率いる黒フードの不審者一同。

 だからどうしたと言う訳でもないが、激突する寸前だったらしい両陣営の出鼻をくじいた鬼神と黒猫は、周囲の視線など意にも介さず帽子や肩についた土埃や細かい石片を叩き落としていく。

 

「何だ……誰だ貴様たちは!?」

 

 黒フードの一人が叫んだ。

 唐突に生まれた静寂の中で、迂闊にも叫んでしまった。

 それがどういう死に様をもたらすのか、考えもせずに。

 

「あーららら、にゃ」

 

 三眼のカボチャマスクで顔を隠すブレアが『やっちゃったー』とでも言いたげに首を振る。

 いきなりの大声にビビッてしまった阿修羅の行動は迅速だった。

 彼の顔を覆い隠し、腕代わりとなる二対四本のロングマフラー。

 その内の一本が大気を裂いて槍の如く伸長し、叫んだ黒フードの口内に潜り込み、いとも容易く穿ち貫き、そのまま上へ勢いよく――跳ね上がった。

 ベキッ、ブチリッ、と骨肉を断つ音。

 下顎を残して頭部を弾き飛ばされた黒フードの成れの果てが、切断面から鮮血を吹き出しながらその場にがくりと崩れ落ちる。

 阿修羅もブレアも、そちらを見ようともしない。

 彼と彼女にとって羽虫を払うのと同義――この程度は視認する価値すらないのだ。

 

「う――うわあああああっ!?」

「貴様よくも!!」

 

 そして恐慌が恐慌を呼び、新たな犠牲者が次々に増えていく。

 四本に増量されたマフラーが宙を走る度に一人、また一人と、半狂乱の形相で光の剣を振り回すはぐれエクソシストだか神父だかの肉片が飛び散り、後には魂だけが残る。

 あまりにも一方的な屠殺。

 

「とりあえず……味方と判断して良いのかしら」

「そう考えるには少し得体が知れなさ過ぎですが……」

 

 可愛い下僕を援護するために颯爽と駆け付けたリアスたちだが、先日のバイサーの一件で手痛い指導を受けた記憶が蘇り――敵しか殺されていない現在の状況から、ひとまず下手に刺激しないで様子見に徹することにした。

 そんな悪魔たちの思惑に気付いているのかいないのか、やけに肌色の多い格好のブレアが気安く話しかけてきた。特に小猫に興味があるようで、マスク越しに彼女の矮躯を矯めつ眇めつする。

 

「んー、初めまして……でいいのかにゃ? 元気ー?」

「え、あの……」

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよー……黒歌からも話は聞いてるし?」

「姉様を知っているんですか!?」

 

 塔城小猫。かつての名を白音。

 その姉である黒歌が何故はぐれ悪魔として手配されたのか――阿修羅もブレアもその経緯を本人から聞かされて知っている。

 そもそも、二人がこの場に現れた理由からして黒歌が絡んでいるのだ。

 

「私たち……と言うかウチのご主人様の目的はここに連れてこられた金髪シスターちゃんの魂なんだけど、あの色情猫から『妹に会ったら気に掛けておいて』って頼まれちゃってるんだよね。心配なら自分で助けてあげればいいのにねん?」

 

 などと話している間に大勢いた神父たちが全て魂だけの存在にされ、血と肉片と死体が散乱する廃教会の只中で、小腹を空かせた鬼神が食事を始める。

 ゴキュリゴキュリと飲み込まれていく、くすんだ色の魂の群れ。

 

「食べているのは神器――ではないようね」

「神器って言うのがどんな形をしているのかは知らないけど、吸い込んでいるのはさっきまでここで生きていた奴らの魂だにゃん」

「魂……?」

「そうそう、ウチのご主人様がやる気になるのは魂を食べる時くらいなのフギャ!?」

 

 マフラーが閃き、その奇妙な三角帽子ごとブレアの頭を殴打する。

 この駄猫は放っておくと余計な事までぺらぺら話してしまうから始末が悪い。鬼神の存在が他の陣営に露見したらどうなるかくらい分かりそうなものだが。

 すっかり食べ終えてこの場にいる理由もなくなった阿修羅。

 魂感知を行うと、見知った波長が三つ――廃教会の敷地内でくすぶっている。

 

 一つは、深紅と龍の波長をまとった半人前悪魔。

 一つは、命絶えて間もない穢れなき聖女。

 一つは、純粋な狂信渦巻く堕天使。

 

 何とも面白いと言うか珍妙と言うか。

 おそらく――今回誰よりも不運だったのは、鬼神の目の届く範囲で迂闊にも美味しそうな波長を垂れ流しにしてしまったレイナーレだろう。

 甘い物は別腹、なんて逃げ文句があるように、たとえ腹が満ちていても食欲を刺激する『何か』があれば食らわない理由にはならない。

 それがはぐれ悪魔同様、滅多に食べられない代物なら尚更。

 思うが早いか、二本のマフラーが壁を貫き、目的の物を捕獲して皆の前に引っ張り出す。

 

「イッセー、アーシア! それにあれは……レイナーレ!?」

 

 阿修羅から見て右のマフラーには抱きかかえるように巻き取られた一誠と事切れたアーシアが。

 そして左のマフラーには首を締め上げられて苦悶の表情を浮かべるレイナーレの姿があった。

 

「ぐ……ぎ、あぉ!?」

 

 鬼神は全てを狂わせる。

 道理も信念も筋道も関係なく、ただ食らいたいから食らい、全てを恐れ戦き逃げ隠れる。

 悪魔だろうと天使だろうと堕天使だろうと例外はない。

 故に――

 

 ベキリッ、と。

 

 首魁の堕天使は、恐怖を拭い去るためにあっけなくその命を奪い去られた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「あ、阿修羅おかえりー。お風呂にする? ご飯にする? そ・れ・と・も、交尾しちゃう?」

「どーも旦那、お邪魔してるっスよー」

 

 図らずも珍味の魂を食し、珍しく上機嫌で安アパートに帰宅した阿修羅とブレア。

 そんな二人をトリ鍋を突きながら出迎えたのは、例によって例の如く入り浸っている駄猫その二こと黒歌と、そして何故か我が物顔で御相伴に預かるイカレ神父ことフリードだった。

 黒歌はともかくフリード、お前はさっきまであの廃教会にいただろうがと思わなくもない。

 

「なぁにが『交尾しちゃう』よこの万年発情猫! てか妹の面倒見させといて自分はのんびりお鍋食べてるとか私を馬鹿にしてんの!?」

「しょうがないじゃん白音も私と同じで鼻が利くんだから! それにあの場にのこのこ出てったら堕天使の次に私が殺されちゃうでしょ!」

 

 帰って早々喧嘩を始めた駄猫二匹は捨て置き、フリードの正面に腰を下ろす阿修羅。

 

「にしても鬼神様も人が悪いッスよねー。来るなら来るって先に言っといてくださいよ。いきなり屋根がぶっ飛ばされてボロッちいアジトがさらにボロボロ。俺様ちゃんってばこっそり抜け出すのも一苦労だったんスからね?」

「……俺が来なくともあの堕天使を見限るつもりだと思っていたんだが?」

「あーらら、やっぱ鬼神様にはお見通しッスか。まあ悪魔狩りは俺っちの趣味兼生業みたいなもんですし、ぶっちゃけ誰の下についても関係ないっちゃ関係ないっしょ」

 

 すぐ脇でその悪魔がキャットファイトを繰り広げている訳だが、あえて見て見ぬ振りをするのも人間の美徳であり愚かな一面と言える。

 

「お前が何処の誰に使われようが知った事じゃないが、食った分の食費は払えよ」

「次の雇われ先にも一応当てがあるんで、その辺は安心してください。ところでアーシアちゃん、神器抜かれて死んじゃったんですよね? 魂は食っちゃったんで?」

「……兵藤やグレモリーたちが寄越せとうるさかったから引き渡した。大方、あの妙な駒を使って悪魔にでも転生させるつもりだろうな」

「はぁー。これでアーシアちゃんも晴れて異端の仲間入りって訳ッスか」

 

 次会ったらどういう風に斬ろうかなー、と悩みがマイナス方面に吹っ飛んでいるフリード。

 それでも灰汁をこまめに取ったり煮え具合を確かめたりと手が忙しく動き回っているのだから、余計にそのイカレた精神具合を存分に窺い知る事が出来た。

 

「――と、こんなもんッスかね。姐さん方もそろそろ止めましょうか?」

「…………放っておけ。腹が空いたら勝手に止めるだろうさ」

 

 具の入った器をフリードから受け取り、湯気の立つ汁を一口すする。

 かつてフリードが書いた履歴書に『特技:料理』と記されていた事を阿修羅は知らない。

 

「世界はこれからどうなっちまうんでしょうねぇ」

「さぁな。だが少なくとも――」

「少なくとも?」

「どうなろうと俺には何の関係もないさ」




フリード何気に準レギュラー化。
こいつにぴったりな魔武器といえば、やっぱりアイツしかいませんよね。
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