セイカさんと、酒を飲むだけ

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精華の夢

突然だが僕はお酒で酔ったことがない。

これだけ聞くと酒豪であることを自慢しているのかとネガティブな意味として解釈されてしまうかもしれない。確かにお酒には少々強いが何杯飲んでも潰れないレベルでではないとは思う。

というのも今までお酒を大量に飲んだことがないのだ。せいぜい350ml缶を1缶飲む程度だ。

理由としては僕がそこまでお酒が好きではないこと、友人たちも一人を除いてお酒は嗜む程度であることがあげられる。

でも一番の理由は―――

 

「っぷはあああああああああああああああ!! やっぱりビールはさいっこう-----っ!!」

 

―――すぐ近くに、一番の反面教師がいるからだ。

 

このビールが入ったグラスを片手に喜びの雄叫びをあげながら謎のダンスを舞っている珍妙な生き物は一応人間である。

彼女の名前は京町セイカ。僕の幼馴染だ。

普段の彼女は人の嫌がることを進んでやる(人に、の方の意味ではない)といったきわめて真面目な優等生タイプ。

学生時代では、先生からの評価は高く、クラスメイトから頼られることも日常茶飯事だったし、性別問わず告白されることも多かった。

まあ幼馴染という関係以外は平凡な僕からしたら高根の花だった。

社会人になってからは会社が違うから分からないけど、きっとその性格は変わっていないだろう。

 

「あーーーーーーーーーーーーーーー、なんでもかんでもわたしをたよりすぎじゃーーーーーーーーーーーーー!

たまにはほかのひともたよれーーーーーーーー」

 

……まあ、頼られ過ぎることに不満がないってわけじゃ、なかったみたいだけど……。

で、まあそんな彼女も大好きな酒を大量摂取するとあのような酔っ払いのお手本みたいな姿へと変貌する。いつもの見慣れた光景だ。

因みに居酒屋……ではなく僕が住んでいるマンションの一室だ。あることがきっかけで次の日が休日である金曜日の夜、僕とセイカはここで二人だけの宅飲みをするようになった。

セイカが結構騒いでいるけど、防音対策を結構しっかりしてるからこの声が周りに聞こえることはない。だから問題はない。

……ごめん嘘。ある。

それは―――

 

「もー、はなしきいてるー? てかのめー」

 

「わひゃあっ⁉︎」

 

突然右の耳元から感じた変な感触に驚き、僕は反対方向に倒れ込む。

右耳を押さえながら振り向くと、そこにはニヤついたセイカの姿があった。

てか格好が下着にワイシャツを適当に着てるだけの姿だから地味に目のやり場が困る……。

 

「わひゃあ、だってかわいいー。もういっかいきかせろー」

 

「うわっ」

 

そう言うなりセイカはうつ伏せになってる僕に倒れ込むようにのしかかってきた。

 

「ふぅー」

 

「ひゃわーっ!」

 

「ひゃわー、だってあはははははははっ」

 

 

彼女は酔っぱらうとスキンシップが多くなるんだよー!

しかもだんだんとエスカレートしてきてるんだよー! 最初は座ってると距離を詰めてくるだけだったのにー!

てか耳は止めて耳はー! 耳元がぞわっとする感覚苦手なんだよー!

あと背中に柔らかい感触があるのもすごい気になる。てかこの柔らかさまさか着けてなーーー

 

「止めろー! 降りろー!」

 

「やだー!」

 

「やだー、じゃない!」

 

駄目だ! もがいているけど全然どかせない! いや、本気だせばどかせそうだけどそれだとセイカが怪我するかもしれないし……。

 

「なんではなれなきゃいけないのー!?

あー、もしかしてー」

 

 

 

「わたしのことすきだからてれてるんだー」

 

 

そうだよっ!!!!!

 

 

(なんて今言えるかあ!!)

 

……そう、僕は京町セイカが好きなのだ。それもLikeじゃなくてLoveの意味で。

いつから好きだったかはわからない。彼女を目で追っていくうちに自然に好きになっていた。

最初にお酒に酔ったときだって最初は面食らったけど……それでもそれも彼女が見せた新たな魅力ということで好きになった。それほどまで惚れてしまったのだ。

でもだからこそ、今この気持ちをばらすわけにはいかない。

 

「そそそそ、そういうわけじゃないし!」

 

でも上手い返答は思いつかなかった。馬鹿がよ……。

 

「へー、ふーん……」

 

あ、怪しまれてる……!

 

「い、いや、別に僕は大丈夫だけど、こうやって酒の勢いとはいえ異性に抱き着くと勘違いしちゃうからやめた方がいいかなーって」

 

何言ってんだ僕? 頭大丈夫僕? 酔っ払いよりか会話できてなくない僕?

 

「うーん……?」

 

「えっと、そうそう、あまり人の前で酔っぱらうまで酒を飲むのは---」

 

 

 

「大丈夫、私貴方と二人きりでしか酒は飲まないから」

 

 

「……は?」

 

今、とんでもない発言が聞こえたような……?

 

「それって、どういう……」

 

今のセイカの発言が気になって、振り返ると……

 

 

 

「スヤァ……」

 

 

 

至福の表情で眠るセイカの姿があった。

 

「……はあ~~~~~~~~」

 

あー、またやられた。

酔っぱらった彼女は最終的にはそのまま寝落ちするのだが、その前に僕に気があるような意味深なことを言うのだ。

その発言に僕がドキドキして聞き返すと彼女は寝ているというのが、この飲み会の閉幕の合図だ。

因みに彼女は酔っているときの記憶はないため、真相は闇の中だ。いや、でも―――

 

「まったく……」

 

とりあえず彼女が寝たため緩まった拘束から抜け出し、そのまま彼女の背中に左手、膝裏に右手を当て、そのまま持ち上げる。

そのまま寝室まで運び、ベッドに下ろす。

 

「ふうっ」

 

そこで僕は一息つき、地べたに座る。

そこで思いだすのはさっきの言葉。

 

 

『私貴方と二人きりでしか酒は飲まないから』

 

 

僕と二人きりじゃないと飲まない。つまりそれは僕にしかあの姿は見せないってわけで―――

 

「~~~~~っ!」

 

顔が熱くなったように感じて思わず片手で顔を仰ぐ。

……いや、本当は分かってる。セイカは僕のことが好きだ。多分これは自惚れじゃない。

じゃなかったら彼女が言った通りそもそも僕と二人きりで卓飲みなんてしない。

だから告白すれば晴れてカップルになる……なるんだけど……。

 

果たしてそれでいいんだろうか?

 

彼女は酔っている時の記憶が無い。だから僕に想いが伝わっていることを知らない。

つまり、僕だけが両思いであることを知りながら告白することになる。それはなんか……不可抗力とはいえ酒を利用しているような感じがしていやだ……。

だからこそ告白するときは彼女が酔っている時の奇行も伝える必要があると僕は考える。

だけど、それを伝えた場合彼女はどうなるか、それが怖い。

事実を隠していた僕が嫌われるのも怖いし、彼女が酒を飲まなくなるのも……いやだ。そうしたら彼女は今までためこんでいたものを発散する方法がなくなってしまう可能性がある。

でも一番怖いのは、この二人きりの卓飲みがなくなることだ。

 

……でも、やっぱりいつかは伝えなくてはならない。いつまでもこんなフワフワした関係ではいられない。

まあそもそもセイカが僕をただの幼馴染って思ってることもあるからね! 

……自分で言ってなんだけどちょっとへこんだ……。

 

「さて、と」

 

とりあえず、セイカが吐いたときのための用意をしよう。泥酔したまま放っておくと命に関わることもあるし今日も徹夜だ。今まで一回も無かったからって油断はできない。

まずは洗面器だ。あとは袋とかも用意しないと。

そう思い僕は立ち上がってその場を後に……

 

 

「……好きだよ、セイカ」

 

 

これぐらいは、いいよね?

 

ああ、どうか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛)

 

私、京町セイカは枕に頭をうずめて全力で悶えた。

時刻は午前5時。私が吐かないか心配そうに見ていた彼の姿は今はもうない。

私の顔色を見て大丈夫そうだと感じた彼は今頃は別の部屋のソファで熟睡しているころだろう。

え? なんで私がそのことを知ってるかだって。

 

だって私記憶が飛ぶほど酔っぱらってないんだもの。せいぜい気が大きくなるだけ。

なんなら今までの飲み会の記憶(やらかし)も全部覚えてるわよ。

だからこそ今悶える事態に陥っているのよ……。

あああああ、今回なんて攻めすぎよ。あ、あんな露出が多い格好であんなことを……うぅ……。

しかも最後本音言っちゃったし……また寝たふりをするはめになっちゃったわ……。

ううっ、明日誤魔化せるかしら……。

……それにしても……

 

 

 

『……好きだよ、セイカ』

 

 

 

「えへへ……」

 

好きな人からの聞きたかった言葉に思わず頬が緩む。

最初は彼との距離を縮めるためお酒の力を借りたけど、彼の私に対する想いまで聞けるとは思わなかったわ。

うん……。

果たしてこれでいいの……?

 

彼は私が酔っている時の記憶が無いと思っている。だから私に想いが伝わっていることを知らない。

不可抗力とはいえ、こんなやり方で想いを知ったということを彼が知ったら、きっと私に幻滅するわよね……。

……でも、いつかは伝えなくてはならないわ。だって、こんなの不誠実なのだから。

 

 

 

でも、それまでは

ああ、どうか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この夢よ、醒めないで……』



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