ソラを駆ける衛士   作:タリズマン

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今回は簪とヤンがメインです。


第二十二話

4月も終わりゴールデンウィークが近づく中、学生たちは大まかな学園の構造を把握しこの生活に慣れてきたことだろう。

しかしながらあいも変わらず未だに学校で迷子になる男が一人いた。

 

「うん?ここどこ?」

 

ヤン・ウォーカー(20歳)である。

 

 

僕はキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く。

あっという間に迷子になるからガイド役をつけて行動しろとカズキに散々言われてると言うのに...。

誰か人に聞こうにも人をほとんど見ないためどうしようもない。

 

「はぁ...ホントにどうしよう。」

 

ため息をつき考えを巡らせていると、どこかで見たような水色の髪をした少女が部屋に入っていくのが見えた。

ちょうどよかった、あの子に聞いてみよう。

 

部屋の前に立ち標識を見るとそこには整備室Bと書いてあった。

 

「あ、ここって整備棟だったんだ。」

 

ここでようやく大まかな位置がわかった。

加えていえばここに来るまで標識を何も確認してなかったことに気がついた。

このことを話すと本音にジト目で呆れられるんだろうなと、少し気が重くなるが取り敢えず確認を取るのが先だと整備室に踏み込んだ。

 

中に入ると水色の髪をした赤い瞳の少女がおり、こちらを見て大層驚いていた。

こんなに人がいないなら普段からそうなんだろう。

そこにいきなり男が来れば驚きもするか。

 

「邪魔しちゃったかな?」

 

「あ、その、大丈夫です...」

 

少し吃りながらも返事をしてくれた少女に対して少し笑みが溢れる。

すると笑われたと思ったのか少しむくれる少女。

 

「ああ、ごめんごめん。馬鹿にしてるわけじゃないんだ。」

 

手を合わせて謝罪する。

こういうのは素直に謝るに限る。

ジト目ではあるが取り敢えず納得はしてくれたようだ。

 

「これも何かの縁だし自己紹介させてもらうよ。僕はヤン・ウォーカー。よろしく。」

 

「....知ってる。"3人目"でしょ。私は更識簪よろしく。」

 

更識会長の親族の人か。

ネクタイの色から見て一年生だし妹さんかな?

 

「更識さんって...」

 

「簪でいい。あんまり更識の方で呼ばれたくないから。」

 

「......そっか。よろしく簪さん。僕のこともヤンでいいよ。」

 

危うく地雷を踏むとこだった。

家で嫌なことでもあったのかな?

まぁ深く踏み込む必要はないか。

 

「それでヤン....くんは整備でもしに来たの?」

 

「いや、ただの迷子だよ。」

 

「え?」

 

目を丸くして聞き返してくる簪さんに説明する。

 

「いや、僕は昔から方向音痴でね。空軍にいた頃もよく"お前が方向音痴でなければ..."なんて感じで隊長に嘆かれてほどだからね。」

 

そう説明しハハッと乾いた笑い声を上げてみせるとすごい呆れた表情でこちらを見てきた。

 

「元はパイロットなのに方向音痴だなんて...。それで私を見かけて道を聞きにきたってこと?」

 

「そういうこと」

 

それを聞くと簪さんは立ち上がり道を教えてくれようとするも、僕はそれを止める。

 

「折角だしキミの作業を見学してもいいかい?動かすだけじゃなくてある程度は自分で整備できるようになりたいし、興味もあるからね。」

 

ついでに一緒に帰れば迷わずに済むからね。

そう付け加えて確認すると少し驚いた表情をするが、邪魔をしないことを条件に許可してくれた。

 

 

凄いものだ。

素直に感心する。

彼女は目にも止まらぬスピードでキーボードを叩き試行錯誤を繰り返してOSを組み立てる。

無論何をやってるかまではわからない。

だが、彼女は必死にキーボードを叩き続ける。

 

だが、感心と同時に少し違和感を感じる。

OSとは作ってはデバッグ作業を繰り返しバグを見つけて修正する。

この繰り返しの作業だ。

デバッグ要員とOSの組み立てを行う人間は複数いるのが普通のはず。

加えていえば機体そのものも未完成で並行して作っているようだ。

にも関わらず彼女には手伝う人もおらず一人で必死に齧り付いている。

まるで何かに囚われているように。

 

チラッと時計を見るともうすでに七時を回っている。

終わるまで待つって言ったことを軽く後悔したものの後悔後に立たず。

取り敢えず続けるにせよぶっ通しでずっとやってるので流石に休憩を挟んだ方がいいだろうと思い至り簪さんの肩を叩く。

 

「結構長くやってるし終わりにするにせよ続けるにせよ、一息入れなよ。」

 

「....邪魔はしないんじゃなかったの。」

 

「いや、邪魔じゃなくてね。ずっと続けていたって思うように進まなくなってイライラしちゃうよ。だからコレは提案。」

 

「アナタがここから離れたいだけじゃないの?」

 

少し苛立つように簪さんは反論してくる。

こりゃダメかなと思ったその時、

 

きゅ〜〜〜〜

 

可愛らしいお腹の音が鳴った。

簪さんを見ると顔を真っ赤にしながらお腹を押さえていた。

 

「なんだ、お腹空いてるじゃないか。痩せ我慢は良くないよ。」

 

「っ〜〜〜〜‼︎」

 

僕の言葉に顔を真っ赤にしてワナワナとし出す。

 

「わかった!行けばいいんでしょ!」

 

最初の吃りからは考えられないような大声を出し現状のデータを保存して機材の電源を落とす。

そして「行こ!」と一言言うとズンズンと進んでいく様を見て思わずクスッと笑ってしまうがどうやら聞こえてはいなかったらしい。

少し小走りで横に並ぶと一つ思いついた。

 

「はいはい。それじゃ可愛らしいことも見れたことだし僕が夕飯を奢ってあげよう。」

 

「っ〜〜〜〜〜〜〜!」

 

からかってやると簪さんは顔を真っ赤にしてキッとこちらを睨みつけてくるのを見て肩をすくめた。

 

 

なんなのあの人!

 

結局あの後断ったもののご飯を奢られて部屋に帰った私はベットに飛び込み今日出会った変な人のことを考えていた。

 

いつも通り学校終わりに整備室で打鉄弐式の作業を進めようとしてたら急に入ってきた赤毛の白人。

ヤン・ウォーカー。

"3人目"の男性操縦者。

そんな年上の有名人が急に来たため声をかけられた時は思わず吃ってしまった。

その様子を見ておかしそうに笑みを浮かべるし、挙句、お腹の音を聞かれて恥ずかしい思いをする羽目になったし!

そのことを揶揄ってくる始末。

 

「ムカつく。」

 

うつ伏せで枕に向かってひとしきり叫ぶと仰向けになる。

 

「でも、あんなにしっかりしたご飯久しぶりに食べたな。」

 

打鉄弐式の開発が止まってから自分で完成させると決意してここまで続けてきた。

でも、お姉ちゃんみたいに上手くいかずにただ時間が過ぎていった。

それに焦ってもっと時間をと思ってからはご飯なんてほとんど取ってなかった。

カロリーメイトやゼリー飲料に野菜ジュースなど健康に良いとは思えない食生活を送ってきた。

 

「美味しかったな....。」

 

思わず口から溢れる。

しかし、食事をとる私を見ながら終始ニコニコしていたアイツを思い出して少しイラっとする。

 

「結局何がしたかったんだろう...。」

 

そういえば別れ際にまたねって言ってきてたけどまさかね...。

 

 

「ねぇ、本音。」

 

「ん?な〜に〜?」

 

今日出会った簪さんの事を思い出してベッドでゴロゴロしている本音に聞く。

更識家の従者らしいし何か知ってるだろうと思ってのことだ。

 

「今日、整備棟で更識簪って子にあったんだけど何か知ってるかい?」

 

「かんちゃんに会ったの?」

 

こちらに問いかけにガバッと勢いよく起き上がる。

 

「ああ、会ったよ。ISを作ってて驚いたよ。まさかOSを組み立ててるとは思わなかったけどね。」

 

「そうなんだ...。」

 

本音の表情が曇る。

しばらくすると本音はポツリポツリと話し出した。

 

「かんちゃんはね。たっちゃん会長と色々あったんだ。昔は仲が良かったんだけどたっちゃん会長がいきなり更識の当主になってね。色々と忙しくなっちゃったんだー。」 

 

ふむ。

聞く限りだと軽い姉妹喧嘩かな。

 

「それでたっちゃんは妹第一主義みたいなのがあって危険な家業には関わらせたくなかったんだ。」

 

「しかもいきなりの当主就任で余裕がなかったのか?」

 

「そうそう。それで詳しくは知らないけど何か失言しちゃったみたいで、それからかんちゃんは落ち込みがちになったんだ。」

 

なるほどなー。

根本的な部分は楯無会長に教えてもらわないと解決できそうにないな。

 

「それでね。かんちゃんはたっちゃんの為に頑張ってたんだ。追い付いて手伝う為に。自分も役立つ為にって。でもそのタイミングで例の失言を受けちゃって、追いつくためにっていうのがそのまま劣等感に置き換わっちゃったんだ。」

 

「まさか、それで一人でISを?」

 

「.....うん。」

 

なるほど。

なぜああも介入を嫌うのは劣等感の裏返しということか。

 

「だが、一人で作ることはないだろ。楯無会長がいくら優秀とはいえ一人で作り上げるなんてできないだろ。」

 

「そうなんだけど。完璧超人って評価のあるたっちゃんもISを作ったんだ。流石に一人じゃないけど。でも噂って尾びれがついちゃう物でしょ?」

 

「なるほどね。」

 

ようやく色々と納得がいった。

日本国家代表候補生ということで基本的な情報はもらってたし、白式開発に人員を取られて打鉄弐式の開発が実質的な凍結状態なのも知っていた。

そしてその点がようやく線に繋がった。

 

「ねぇ、やっくん。」

 

「うん?」

 

本音が珍しく真剣な表情でこちらを見据えている。

 

「私がかんちゃんと会ってもたっちゃんからの指示だと思われて拒絶されちゃうと思うんだ。だから...」

 

「様子を見ておいてってことかい?」

 

「うん。私も手伝いたいんだけど...」

 

しゅんと落ち込んでいる。

それはそうだろう。

自分の友人を他の人に頼むしかない歯痒さもあるだろうし近くにいるのに何もできないのは辛いだろうし。

...僕にもよくわかることだしね。

 

「別にいいさ。僕に任せてよ。」

 

そう胸をたたきながら言うと少し笑顔になる本音。

ただ、僕から一つ忠告をしておこう。

 

「本音。僕にはせいぜい見守るぐらいしかできない。直接君たちの仲をどうこうできる立場にはない。」

 

「うん。」

 

「だから、後悔する前にしっかり話し合うといい。本当に失ってからじゃ手遅れだ。だから....キミの覚悟が決まってからで良いからできるだけ早めに話し合うんだ。いいね。」

 

「そうだね。うん。ありがとうやっくん!」

 

今度は少しの笑みではなく満面の笑顔だ。

やはり本音はこうでなくては。

いつだって笑顔を振りまく太陽のような子でなくては。

そう思いつつもニヒルと笑ってやる。

 

「そりゃ、年上の甲斐性ってものさ。」

 

 

なんて言ってカッコつけたは良いものの大きな問題が一つあった。

 

ヤンが方向音痴であることだ。

 

うろついて気付いたら着いていただけで自ら行った場所ではないのだ。

帰りは一緒に行ったが簪を揶揄っていたし辺りも暗かったため覚えているとは言い難いのである。

 

どうしようかと悩みつつも生徒会室にて作業を続ける。

今は学園内の部活から来ている概算予算要求を確認して前年度額と比べたり用途の妥当性を確認し会議の為の資料の作成を続けている。

カズキは各部に顔を出し予算要求の気になる点を聞き回っていえてここにはいない。

部屋にいるのは会計の虚さんと会長の楯無さん、そして僕の3人だ。

 

カタカタとキーボードを叩く音と紙を捲る音だけが響く中、楯無さんに声をかけられた。

 

「ヤンくん。」

 

「どうしました?会長。」

 

ふと思い出したように声をかけられ作業を続けながら返事をする。

 

「昨日、整備棟で簪ちゃんと会ったでしょ?」

 

「会いましたが、何か?」

 

「いえ、その、簪ちゃんの様子はどうだった?」

 

昨日の本音の話からして楯無さんは妹第一主義の相当なシスコンのようだし、心配なのだろう。

一旦作業をやめ楯無さんの方を向く。

 

「元気そう、と言いたいところですがあまり体調は良くなさそうでした。何かに囚われているかのように一心不乱に作業してましたよ。あの様子じゃ、食事や睡眠を十分摂ってるとは言い難いと思います。」

 

正直に僕が思った通りのことを話す。

何も誤魔化す必要はないだろう。

 

「....そう。食事や睡眠をしっかり摂れてないと思ったのはどうして?」

 

正直に話すと楯無さんは表情を曇らせながらさらに問いかけてくる。

 

「顔色や態度、後はゴミ箱ですかね。」

 

「ゴミ箱?」

 

「ええ。ゴミ箱にはカロリーメイトやゼリー飲料のゴミが多く見られました。それに整備室の利用状況をみたところ簪さんが基本的に使っているので、あの部屋のゴミは基本的に簪さんの出したゴミだと考えられます。」

 

今日、作業に取り掛かる前に整備室の利用者名簿を確認した。

するとそこには毎日簪さんの名前があり入り浸っている様子が見られた。

 

「あと、顔色ですが目の下に隈がありましたし肌荒れが結構みられました。アレは多分、食事の栄養バランスが悪いのと睡眠不足が原因でしょう。あと足取りも悪かったですし、少しふらついていました。」

 

「よく見てるのね...。」

 

「部下の様子を見て休むように言うのも士官の役割ですよ。それに目に見えて体調が優れていなさそうでしたのでしっかり見ただけです。普段は流石にここまで見てないですよ。」

 

少し引いた様子で言う楯無さんにしっかりと説明する。

パイロットとはいえ士官は士官。

直接の部下はいなくとも整備兵を気にかけていたためそういうのはよくわかる。

特に女性は肌に出やすいのだ。

 

「そう。これからも簪ちゃんに会うつもりなのかしら?」

 

「一応はそのつもりです。本音にも頼まれましたしあんな様子を見てほっとく気にはなりませんよ。お節介かもしれませんがね。」

 

「私には簪ちゃんを直接助けてはあげられない。だからヤンくん、お願いね。」

 

「約束はしかねますが、わかりました。」

 

そう言うと楯無さんは「正直者ね」と笑った。

 

 

結局、カズキに案内してもらうことになった。

事情を話すと「そうか。」と小さく呟き快く案内を引き受けてくれた。

ただ、引き受けてくれた時少し表情が曇っていたが、何かあったのだろうか?

 

「ここだろ。お前が行こうとしてた整備室は。」

 

前を歩いていたカズキに声を掛けられハッとする。

 

「おい。ぼーっとしてんじゃねえよ。お前が自力で行けるようにならないといけないんだからな。」

 

「ああ、ごめん。」

 

「ったくしっかりしろよな。」

 

整備室に入ると相変わらず水色の髪の少女が一人でいた。

こちらへ振り返り僕を見ると露骨に嫌そうな顔をした。

 

「やぁ、昨日ぶりだね。」

 

「ホントに来た...」

 

挨拶をするもスルーされ、何か呟かれただけだ。

うーん、コミュニケーションっていうのは難しいな。

そんなことを考えていると横からカズキが簪さんに声をかける。

 

「アンタが更識簪か?」

 

「そうだけど。アナタは"二人目"?」

 

「おう。カズキ・センドウだ。好きに呼んでくれ。」

 

簪さんはそれを聞くと「よろしく」とだけ返して作業に戻った。

 

「あ、オレはコイツのエスコートが終わったから帰るぞ。じゃコイツの寮までの誘導よろしく。」

 

「えっ?ちょっ。」

 

時計を見たカズキは回れ右をして帰り始める。

思ってもなかったセリフに簪さんは驚き振り返り声を上げた。

 

「すまないが、仕事があるんでね。」

 

そう言うと右手を上げ本当に帰った。

簪さんはカズキを止めようと手を伸ばしたまま固まって呆然としている。

 

「すまないけど、そう言うことだ。安心してよ。今日もご飯をご馳走するからさ。」

 

「そんな勝手に!」

 

「勝手なのは十分承知しているが、そんな露骨に顔色が悪い子をほっとく訳にはいかないよ。どうせゼリー飲料とかで栄養を摂ってるんだろ。」

 

こちらのお節介に苛立ちを隠そうとしないが仕方ないだろう。

焦燥感に襲われてる中お節介焼いてくるやつなんてウザいだろうし。

睨みつけられる中、僕は続ける。

 

「食事と睡眠をしっかり摂らないと良い仕事なんてできないよ。苛立ちもするだろうし集中力も続かない。普段はやれたことだってできなくなるよ。何かを成すにはしっかりとした休息は必須だよ。」

 

この言葉に何も反論できず「勝手にすれば!」と作業に戻った。

 

「そうだね。精々これから勝手にさせてもらうよ。」

 

僕はニッと笑みを浮かべそう宣言する。

 

 

僕はこの日から毎日簪さんのいる整備室に足繁く通うこととなる。

簪さんからは相変わらず睨まれるが...。

休日は朝食を抜いて整備室に行っていたのでつまみながら作業ができるようにサンドウィッチを作り持っていき、昼はカロリーメイトで済ませようとするので弁当を作って行くようになった。

最初はいらないと言っていたがそれなら「これは廃棄するしかないなぁ...」とチラチラ見ながら言うと「食べれば良いんでしょ!」と食べるようになった。

やはり、見ず知らずの迷子の男を寮に案内してくれたりするあたり根は良い子なのだろう。

 

こうして、ほとんど言葉を交わすことはないがお節介を焼き、お節介を焼かれるという不思議な関係が始まったのだ。




今回は早く出せました!

少し簪のキャラがブレてるかもしれませんが許してください。
今回ヤンをメインにした理由は簡単。
ヤンの出番少なすぎんだろ!と思ったからです。

できればこれぐらいのペースで出したいですがどうなるかは分からんので期待せずに待っていてください。
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