ソラを駆ける衛士   作:タリズマン

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第二十九話

日々は流れて行き着々とクラス代表戦に向けた準備が進んでいった。

鈴は相変わらずオレに愚痴を吐きながら一夏を打ち倒さんと励んでいるようだ。

一夏もなんだかんだ言いながらセシリアとの模擬戦を重ね動きは格段に良くなっていると箒から聞いている。

ヤンは相変わらず簪の世話を焼いているようだが、最近本音が「2人とも仲良くなりすぎ。」と不満げに語るぐらいには仲が進展していた。

 

そしてオレはというと、生徒会と国連軍の二足の草鞋となり仕事量が倍増して地獄を見ていた。

現場での打ち合わせや学園のISチーム向けの交戦規定の設定や各種マニュアルの作成、人員の配置と外の警備を行う歩兵部隊との打ち合わせなど仕事は膨大だ。

この有様に同情した楯無の配慮で生徒会の仕事が激減したのと、中佐の配慮で下士官を1名従卒として付けてくれたおかげでなんとか持っている。

この時ほど楯無と中佐に感謝した事はないだろう。

加えて愚痴を全力で吐ける鈴の存在もかなり助かっている。

愚痴を聞く側だったはずが吐く側へと回ってしまった。

まぁ、互いに愚痴を吐いて聞いてるのだが。

 

ともかくそんな日々を過ごし気がつけば代表戦は明日に迫っていた。

 

 

仕事は前日までにあらかた終わらせ最終確認を済ませるだけで終わったため早くに帰ってきているオレと楯無。

 

「それで、警備の方は万全なの?」

 

ベッドでくつろいでいる楯無からそんなことを聞かれた。

 

「万全かは知らんが、やれる事はやったさ。」

 

「それなら仕事を肩代わりした甲斐はあったみたいね。」

 

「そうだな。これらがせいぜい無駄になることを願うだけだよ。」

 

オレは肩をすぐながら言うがこれは本気だ。

備えは備えでしかないのだ。

その備えが無駄になるとは何も無かったということである以上、無駄になる事が最も良い事なのだ。

軍隊に仕事がない方が良いことと同じだ。

 

「だけどヒラの隊員でしか無かったオレが、いきなり責任者になって真面目に書類纏めるなんて理不尽だろ..。」

 

「いっつも私に仕事を振ってやらせる人が何言ってんだか。」

 

オレの愚痴に対してそんなこと言ってくるがコイツがサボるのが悪いのだ。

それにコイツがやらなければオレに仕事が回ってくるのだから押し付けることも兼ねて仕事をやらせるのは当然だ。

楽するために全力を出すのがオレなのだから。

 

「その癖に仕事を増やして帰ってきちゃ意味ないでしょうに...。」

 

「うるへー。好きで増やしたわけじゃねぇよ。」

 

「はいはい。」

 

呆れたように笑みを浮かべながら言ってくるのが少しムカついた。

 

「そういえばさ。」

 

「何よ?」

 

「最近ヤンが簪とかなり仲良くなってるって本音が不貞腐れてたけどお前さんは何も思わんのか?」

 

オレの言葉に俯きプルプル震え出す。

ダメなとこに踏み込んじまったかなと自分の不用意な発言に少し後悔していると、バッと勢いよく顔を上げた楯無が吠える。

 

「何も思わないじゃないっ!あの簪ちゃんをたぶらかすなんてっ.....。」

 

「たぶらかすって....。」

 

思いの外元気そうな楯無に軽く引くも楯無の咆哮は止まらない。

 

「私だって簪ちゃんとしっかり話したいのにぃ〜〜!」

 

「じゃあ話せばいいだろ。」

 

「それが出来たら苦労はしないのよっ!」

 

オレの言葉に机を叩き叫ぶ。

その形相は鬼気迫っており思わずたじろぐ。

しかし、その形相はすぐに無くなり落ち込み気味に呟き始める。

 

「それに....私のせいで追い込まれてるみたいだし....。」

 

コイツも難儀なやつだな。

妹を心から愛してるのに噂やバッドコミュニケーションが積み重なって仲が拗れに拗れ、もはやどうすればいいのかわからなくなってしまっている。

それは多分簪側も似たようなものだろう。

当人達が思っている以上に似たもの姉妹なのだろう。

 

「こういうのはさっさと仲直りするのが吉だぞ。」

 

「わかってるけどできるなら苦労しないわよ。」

 

楯無ははぁ、と大きくため息を零すながらそう言った。

 

「先人から一つアドバイスしてやろう。」

 

「なによ?そんな改まって偉そうに。」

 

「まぁ聞けって。」

 

オレの言葉に凄い怪訝な顔をする楯無。

そんな表情を浮かべる楯無を宥めつつ続ける。

 

「こういうのは、失って後悔してからじゃ遅い。何もかも手遅れになってるからな。だが、お前らは遅くない。」

 

「.....。」

 

「当たって砕けろって言うだろ。まずは歩み寄らねえと。それこそヤンを利用してでもな。」

 

オレはさっきまでの少しふざけた感じではなく出来るだけ真面目に伝える。

失ってからじゃ遅い。

いっつも遅いオレが何を言ってるんだとも思うが、同じ苦しみは背負ってほしくない。

喧嘩別れほどキツイものはない。

 

「......そうね。」

 

何か察したのか目に悲しみを浮かべながら楯無はそう返す。

しんみりとしたのはオレには合わないし、空気を切るために少し外に出よう。

 

「ま、そういうわけだ。代表戦が終わったら考えてみるといいさ。」

 

そう言い席を立つ。

 

「ちょっと風にあたってくる。」

 

オレはそういうとグラスを手にして外に出た。

 

 

らしくない事はするもんじゃないな。

そう思いながらいつも通り屋上のいつもの席に座る。

深酒はするつもりは無いが軽く飲みたい気分だから持ってきおいた氷を入れたグラスにウイスキーを注ぐ。

灰皿を取り出し机に置きタバコに火をつける。

紫煙をくやらし一息つく。

 

柄にもなく緊張している。

少し嫌な予感がするのだ。

首の辺りがピリつく。

いつもの嫌な感じだが勘のようなものでしか無く確信などないためヤンにしか言っていない。

緊張を誤魔化すため酒に口をつける。

 

「全く、嫌になる。」

 

こういう予感に当たるものだ。

準備が無駄になれば良いとは言ったが多分必要になる。

思わず顰めっ面になるが額を揉み顔をほぐす。

日は沈み黄昏時となっており、幻想的な空となっている。

 

「あれ?カズキじゃない。」

 

酒を片手に黄昏ていたオレに誰かから声がかけられた。

声がした方を向くと鈴が立っていた。

 

「まだ夕方なのにお酒?」

 

「軽く酔いたい気分でな。」

 

鈴は夕方から飲んでる事に苦言を呈すが、軽くいなす。

 

「晩ごはんは食べたの?」

 

「食べてないな。」

 

そういえば忘れてた。

とりあえず酒を飲みたかったってのもあるがそこまで腹は減ってない。

 

「少し待ってなさい。世話になってるし何か作ってあげる。」

 

「ありがたいが、オレが飲んでんのはウイスキーだぞ。中華料理と合うようには思えんぞ。」

 

ありがたい提案だが、飲んでる酒がビールなら大喜びだったが生憎飲んでる酒はウイスキー。

得意な料理であろう中華とはあまり合わないように思える。

そうツッコむと鈴は呆れた表情を浮かべた。

 

「アタシをなんだと思ってんのよ。黙って任せときなさい。」

 

そう言うとそのまま屋上から出て行ってしまった。

アイツ人の世話するの結構好きだろ。

そんなことを考えながら再びタバコを咥える。

アイツがそこまで言うなら注いである分を飲んだら料理が来るまで待つとしよう。

 

 

せっかくだし持ってきている本を読んでいると思ったよりも時間がたったらしく、鈴が膨らんだバッグを持ってきた。

 

袋の中から出てきた料理は普通に中華料理だった。

オレは思わず怪訝な視線を鈴に向けるが鈴はそんなこと気にする素振りも見せない。

 

「アンタが合わせて飲んだことないだけで中華料理ってねウイスキーと結構合うのよ。文句は食べてから聞こうじゃない。」

 

そう自信満々に言ってくるため取り敢えず合わせてみる事にする。

追加で氷を入れウイスキーを注ぐ。

 

まずはエビのチリソース炒めを食べる。

うん、普通にうまい。

そしてグラスを傾ける。

 

⁉︎

 

「合うな...。」

 

「そうでしょ!昔、家の手伝いしてた時にお客さんがウイスキーと一緒に食べてたのよ。」

 

「ここまで合うとは...。というかエビチリ普通にうめえな。」

 

正直驚いてる。

中華料理なんて食べる機会は減ってたし、食べたとしても天然物ではなく合成食料というのもあってちゃんとした中華料理を食べる事はほぼ無かった。

というか食べた覚えはない。

そうオレの驚いている様子を見て鈴は「あったりまえでしょ!」と満足げに胸を張っている。

 

他にも辣子鶏という唐辛子とニンニクの効いた鶏が美味い料理や定番の餃子など美味くてウイスキーに合う料理があってかなり満足できた。

腹はそこまで減っていた訳じゃないのにしっかり食べれた。

 

「ご馳走様!ほんっとに美味かった。こんなに中華料理がウイスキーに合うとは思わなかったよ。」

 

「お粗末さま。良い食べっぷりで作った甲斐があったわよ。」

 

お互いに笑顔を浮かべ笑い合う。

ちなみにオレが美味い美味いと言ってた隣で鈴は自分の分もちゃんと確保していた。

満足げにもう一杯酒を注ぐ。

 

「飲み過ぎじゃないの?」

 

「大丈夫。自分の限界値は知ってるし、平気な分だけ計算して飲んでる。それにコレが最後だ。」

 

それならいいやと、持ち込んでおいたお茶を飲んで一息ついている。

オレはタバコを咥える。

 

「さっきも見てて思ったけどタバコ吸うのね。」

 

「まぁな。....あっ、タバコ吸っても良い?」

 

「咥えてから聞く事じゃないでしょ...。まぁ、別に良いけど。」

 

呆れた様子ではあるがありがたく吸わせてもらう。

タバコに火をつける。

辺りはすっかり暗くなっており月が浮かんでいる。

 

「そんなにタバコっておいしいの?」

 

「人によりけりだな。オレは今はうまいが昔はまずかった。」

 

「それなのに吸ってたの?」

 

「まぁな。」

 

「ふーん。」

 

なんとも興味なさげな返事を返された。

聞いてきたのは鈴だというのに。

 

「明日は大丈夫そうか。」

 

「大丈夫に決まってるでしょ。一夏のヤツをブッ飛ばしてやるんだから!」

 

「楽しみにしとくわ。」

 

「ええ。期待してて。」

 

自信をたぎらせた笑みを浮かべる鈴を見て安心感を覚えた。

コイツのためにも明日は何が起きてもなんとかしてやらんとな。

改めて決意を固め紫煙を吐き出した。

 

 

時を同じくして御前崎から南約60マイルの海域ではいつも通りの哨戒任務を実施している艦影があった。

 

「艦長、現在のところ異常なし。」

 

「そうか。まぁ、潜水艦も領空侵犯も基本的に日本海側だからな。こっちに来ることはほぼ有り得んからな。」

 

そう言い椅子に深く座る。

この艦は海上自衛隊第一護衛隊所属DD-107「いかづち」。

 

「そうですね。あ、横須賀に定時報告しておきます。」

 

「ああ、頼むよ。」

 

砲雷長が横須賀への提示報告のため離席した。

その時だった。

 

「報告待ってください!」

 

対潜の要であるソナー手の大声がCICに響き渡る。

 

「どうした⁉︎ 」

 

「ソナーに感あり。音紋はシーウルフ級と似ていますが別のものと思われます。」

 

「すぐに横須賀と米軍に問い合わせろ!ソナー手はそのまま観測を継続。方位は?」

 

砲雷長の代わりに手の空いている別のものを通信に行かせ、砲雷長をCICに待機させる。

 

「方位280、本艦後方、申し訳ありませんが距離までは分かりません。」

 

「方位280か。...総員起こし、全艦対潜戦闘用意。本艦は国籍不明の潜水艦の追尾を開始する。ソナー手はそのまま観測を続けろ。注水音や発射扉の開閉音に注意しろ。」

 

「了解。...総員起こし!全艦対潜戦闘用意っ!本艦は国籍不明の潜水艦の追尾を開始する!これは訓練ではない!繰り返すっ!...」

 

砲雷長が艦内放送を行い待機員を叩き起こす。

こちら側にきてわざわざ排他的経済水域を航行する潜水艦なぞそうそういるものではない。

普通に考えるなら作戦行動中の米潜水艦だろう。

だが、もし....。

最悪の事態を想定し背中に嫌な汗が垂れる。

CICの中は緊張に包まれる。

CICにどんどん待機員が入ってくる。

その表情は緊張で固まっている。

 

通信を終えた下士官が戻ってきた。

期待を込めた眼差しを向けるが、気まずげに首を横に振り報告してきた。

 

「米軍によれば当該海域を航行中の潜水艦は存在しないそうです。横須賀は本艦のよる追尾を行うよう命令が下りました。増援としてP-1は上げてもらえるようです。」

 

「わかった。」

 

深く息を吐き思考を落ち着ける。

そして命令を下す。

 

「面舵いっぱい。方位280。対潜警戒を厳とせよ。」

 

「いかづち」は4500トンの巨体を動かし反転した。

長い夜が始まった。

 

 

時を同じくしてまた別の海域では一隻の偽装貨物船が航行していた。

 

「短音3、第一段階成功。無事に釣れたようです。」

 

中佐の階級章をつけた軍人らしき男に報告をする。

 

「うむ。同志の献身を無駄にするわけにはいかんな。なんとしてもこの作戦を成功させるぞ。」

 

仰々しげに頷き、前を向く。

そこには多少手狭ではあるが30名ほどの人間が立っている。

中佐の階級章を付けた男の隣にいる別の男がその様子を見て声を上げる。

 

「総員傾注!艦長、お願いします。」

 

艦長呼ばれた男は自分の眼前に並ぶ男達を見渡す。

 

「諸君、ついに時はきた。明日、我らの復讐が始まる。復讐の狼煙が上がるのだ。」

 

言葉を切り、一人一人と目を合わせていく。

 

「狼煙を上げる一番槍を任せられたのは我々だ。だがコレは一歩目に過ぎん。他の者達が我らの屍を踏み越えて必ずや、我らの悲願を果たすであろう。我らが同志に栄光あれ。我ら人類に栄光あれ!.....総員乗艦!これより偽装貨物船より離脱し一路東京湾へ向かう。さぁ、眠りこけている連中を叩き起こしてやろうっ!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

狭い部屋に男達の雄叫びが響き渡る。

彼らは潜水艦に次々と乗り込んでいく。

すると潜水艦のいる空間に注水されていき船底部のハッチが解放された。

 

「各部閉鎖確認!全乗組員収容完了!」

 

「よし、ダウントリム20、前進最微速。」

 

潜水艦の全てのハッチが閉じられ船は沈降し始める。

そして貨物船から離脱した。

 

「それでは行こう。すでに賽は投げられた。あとは死地に向かうだけだ。」

 

「せいぜい派手に死んでやりましょう。」

 

暗い海の中を一隻の潜水艦が進む。

生きることなど考えず死に場所へとまっすぐに突き進む。

悲壮感などそこにはなくただ笑みを浮かべひたすら進む。

もはや止まることなど考えもせずに。

 




200も超えましたし前回のアンケートを見る限りだと本編を優先しつつ記念の話も書こうと思います。
お気に入り登録200記念の話に関してこういう話を書いて欲しいという要望があれば是非ともコメントお知らせください。
活動報告でも募集してますので要望があれば是非ともお知らせください。

それと次の話でようやくクラス代表戦へと突入します。
知っての通りあと先考えず完成次第投稿しますので更新は早くなるかもしれないし遅くなるかもしれません。
不定期更新って最初から言ってますし許してください、なんでもしますから。
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