ソラを駆ける衛士   作:タリズマン

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乗船がとうとう決まり準備や乗船前の陸を楽しんでいたら思ったより遅くなってしまいました。
今後も船に乗ってからはしばらく遅いと思いますがご了承ください。
乗船中の更新に関しては都度、活動報告にてお知らせしますので気になる方はちょくちょく見てみてください。



第二十三話

今は病室にいる。

襲撃から2日が経った。

あちらこちらをギプスや包帯で覆われた状態で目覚めないカズキのお見舞いだ。

 

アタシたちはあの後、いつもより声のトーンが明らかに低く怒りに包まれた表情をしたヤンに「よくやってくれた、ありがとう。」と声をかけられ休むように言われた。

カズキがどうなったか聞きたかったがあの状態のヤンに聞く気にはなれなかった。

後から聞いた話によれば、カズキは自爆しようとしていた敵を引き連れ、アタシたちや学校に被害が出ないように洋上で爆発させたらしい。

その後、海上保安庁に拾われ病院へと直行し手当を受けたのち命に関わるような傷はなかったようで学園の病室に転院されることとなったのだ。

 

「......。」

 

どうしてもあの時こうしていればというIfを考えてしまう。

もう終わったことなのだからどうしようもないのに。

 

カズキの無事な右手を握る。

 

暖かいことがちゃんと生きてることを教えてくれる。

じわっと目の端から涙が出てくる。

 

人の死を見たことがない訳ではないが、あんな死に方は初めて見た。

そこで初めて私たちは命のやり取りをしていることに気がついた。

そして他の人の命も背負っているのだと気がついた。

そしてその重責や目に入ってきた光景に思わず硬直してしまった。

その結果アタシたちのカバーにカズキやヤンが大急ぎで入り隙を晒したり彼らに無駄な動きをさせてしまった。

 

ああ、ダメだ。

Ifの考えを振り切ろうとしてもどうしてもよぎってしまう。

コイツに言われたのに。

お前はスパッとキレるタイプだろ、って言われたのに。

割り切れずにずっとずっと引き摺って勝手に泣いている。

泣くことしかできない自分自身が嫌だ。

 

「アンタがこんなに傷付いてるのにっ...アタシにはっ....何もできないっ....! 」

 

コイツは大切な友人だ。

正直、自分でもメンドくさいと思うことにも嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。

時折、苦笑いはしてたけど...。

励ましてくれたし赤裸々に色んなことを話せる仲だとも思ってる。

散々してもらった側だというのにアタシは何もできていない。

そんな自分が不甲斐なくて嫌になる。

そう思うとやっぱり涙が出てくる。

 

涙を拭いふと目をやると、外は夕暮れ時で、もう間も無く陽が落ちようとしていた。

そろそろ部屋に戻ろう。

 

「また、明日来るから....。」

 

そう言い離した手にはまだ温もりが残っていた。

 

 

報告書を書きながら襲撃事件を振り返る。

今回の一件は何か思い当たる節がカズキにはあったようだがあんな有様だから聴きたくても聞けない。

 

「ハァ...。」

 

自分の拳を見て箒さんを殴ってしまったことを思い出す。

 

.......

 

 

 

ピットまで下がり一夏と鈴の2人を織斑先生に預けようとした時のことだ。

 

「一夏!」

 

箒さんは一夏を見つけると一目散に駆け出してきた。

ボクは自然と体が動き一夏の下にたどり着く前に箒さんの前へと立ち塞がる。

 

「ヤン?なんだ?」

 

心底不思議そうな表情でこちらを見てくる彼女にイライラが湧き上がってくる。

 

「キミは....自分が何をしたかわかってるのかい?」

 

「何のことだ?」

 

深く息を吸い自分を落ち着ける。

思わず手を上げてしまいそうになるがここは学校だし相手は子供だ。

 

「放送席から一夏を激励しただろ。」

 

「ああ。それがどうかしたのか?」

 

「っ!」

 

何もわかっていない表情でこちらを見上げる。

僕はカズキが行方不明であったことも重なりそもそも自分にあった憤りがここで爆発してしまった。

 

「ぐうっ⁉︎ 」

 

気がつくと僕は思いっきり拳を彼女に叩き込んでいた。

 

「貴様がやった行為は戦闘を妨害する行為だったんだよっ!お前を守るためにコッチは動かざるを得ないんだよっ!わかってるのかっ⁉︎ 」

 

殴られた彼女は酷く狼狽していたがそんなことはお構いなしに言葉が溢れてくる。

 

「わ、私はそんな...。」

 

「そんなこと考えてませんでしたってか?ふざけるなっ!貴様の行動で必要のない死傷者が出る可能性だって十分にあったんだぞっ!こんなことやっても精々が反省文や謹慎で済むだろうがなっ、それはお前が嫌いなお姉ちゃんのおかげなんだよっ!何が一緒にするなだっ!結局姉貴頼りでしか動けないじゃねえかっ!舐めてんじゃないぞっ!」

 

僕は今にも掴みかかるような勢いで捲し立てていたので護衛についていた兵士が慌ててボクを羽交締めにして止める。

 

「中尉!落ち着いてくださいっ!彼女に当たっても変わらんでしょ!」

 

肩で息をしながら僕は段々と落ち着きを取り戻していった。

そしてもういいと離すように促し、項垂れている箒さんを見る。

 

「今回は運良くキミが原因で人が死ぬことはなかった。けどキミが原因の死傷者が出る可能性は十分にあったことを受け止めて自分の行いをよく見直しなよ。」

 

そう吐き捨てると僕はアリーナ内の指揮へと戻った。

 

........

 

何度思い出してもやってしまったという感情が湧き上がってくるだけだ。

やはり僚機を失うことがトラウマになっているのかもしれない。

あの時のボクははっきり言って異常だった。

どうかしてた。

 

「頼むから早く目覚めてくれよ、カズキ。」

 

ボクは何もない空間にそうぼやくと、報告書の作成に再びとりかかった。

 

 

あれからヤンの様子がおかしい。

襲撃にあってからヤンのことが心配だった私と本音は手が空いたヤンの下にすぐさま向かった。

何やら気まずそうにしている兵隊さんに尋ねて休んでる部屋に向かった。

そこには大声で罵声をあげながらロッカーを蹴り上げているヤンがいた。

 

「クソッタレ!僕がっ!しっかりしていればっ!畜生っ!畜生...。」

 

蹴られていたロッカーはひしゃげ、扉は開きそうにないほどまでに歪んでいた。

見たこともなく予想だにしていなかったヤンの姿にしばしば呆然としてしまった。

 

それからというもの笑うことはあっても以前と同じどこか気持ち悪い作った笑顔だった。

 

「はぁ、やっぱりあのセンドウって人のことなんだろうな...。」

 

相棒という立場にいたあの男を思い出す。

ヤンが整備室に来た2回目の時の案内をしていた男だ。

あれ以来顔を合わすことはあってもあまり話すことのない人だ。

初対面の時にはヤンの世話を私にぶん投げてさっさと帰って行った人物でどちらかというとあまり良いイメージは持ってない。

お姉ちゃんと特に仲の良い人物でもあるみたいだし....。

 

聞いた話によれば戦闘の中で大怪我を負いまだ眠っているらしい。

だが、聞こえてくる声の中には彼を非難する声もいくらか混ざっている。

曰く

「やられるなんて役に立たない。」

「結局、教師の方が役に立つ。」

etc....

 

彼女達は戦いを直接見ずにさっさと逃げることが出来てその誘導をおこなった教師の方に注目が行ってるのだろう。

ヤンが話すには、避難計画はセンドウが計画して何度も確認作業と訓練を実施していたというのに。

そういうことも知っていると尚更このような言説に対し苛立ちが募りストレスとなっているのだろう。

 

対等の友達ではあるけど私には何もしようがない。

あの時だって観客席に座る私達を守ってくれたのに...。

精々、センドウという男の快復を祈ることしかできない。

 

「ホント、肝心な時に役に立たないな....私....。」

 

自嘲するように笑って窓の外に見える月を見上げた。

 

「早く快復してくれないと、アナタのバディはずっとしょぼくれたままよ....。」

 

煌々と輝く月にそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

ここは....どこだろう...?

 

深く沈む.....深くどこまでも....。

 

この感覚前にも....?

 

どこかで感じたことのある深くどこまでも沈み落ちていく感じ。

まるで明かりひとつない海に沈んでいくような感覚。

そんな不思議な感覚を覚えながらも沈むのに任せどこまでも落ちていく。

どこを向いているのかわからない目を開けると、視界の端に黒い長髪が見えた。

 

何か声が聞こえる....。

 

「全く...世話のかかる人ですこと....。」

 

どこか呆れかえるような声が聞こえた。

だがその声はとても安心するどこかで聞き覚えのある女性の声。

 

「大したことない怪我でいつまでも寝てるんじゃない!彼女ではないが、ホントに手のかかる奴だなお前は...。」

 

どこか怒りを孕んだ声。

だが同時に呆れたような声。

苦笑いでも浮かべてそうな話し方だ。

やはりコイツもどこかで聞いたことのある男の声。

 

やっと眠れそうなんだ、静かにしてくれ。

 

そう言おうとしたが声が出ない。

だがコイツらには聞こえていたようで、2人揃って大きな溜息を吐いた。

 

「感じないですの?手の温もりを。」

 

「勝手に寝るなよ。お前を待ってる奴がいるだろ。彼女の為にも起きなきゃいかんだろ。」

 

手の温もり?

オレを待っている奴?

 

ふと手に意識をやると温もりを感じた。

人などいないのに手を握られているような感覚がある。

そして啜り泣く女の声が聞こえた。

 

これは?

 

鈴....?

 

そうか待ってる奴ってお前か。

はぁ、愚痴を散々聞かされたり泣いたりと世話のかかる奴だ...。

 

「アナタがそれを言いいますの?」

「お前が言うな!」

 

ほぼ同時に飛んできた罵倒を背中に受けたものの、鈴の温もりを感じた瞬間から沈むのが止まり体が上昇を始めた。

少し登って行ったところで背後から再び声がかけられた。

 

「「いってらっしゃい。」」

 

誰か分からない2人からどこまでも優しい声を聞いた。

そこでハッとした。

まさかっ!? お前らはっ....⁉︎

 

 

瞼が重い。

それと手を誰かに握られている。

 

重い瞼を恐る恐る開けると泣きながら手を握りしめる鈴がいた。

 

「.....おはよう。」

 

どうすればいいのか分からず取り敢えず挨拶をした。

すると、涙を流しながらポカンとコチラを見つめた。

 

「えっ?」

 

「何、間抜けな顔してんだよ...。」

 

まだ混乱から戻って来れてないのか相変わらず涙を流しながら口をパクパクさせている。

まるで鯉だな。

思わず少し笑みを浮かべる。

 

「あ、アンタ....大丈夫なの...? 」

 

「オレが知るかよ。取り敢えずその顔、何とかしろよ。」

 

オレが顔を拭くように言うも更に涙をボロボロと流しオレに勢いよく抱きついてきた。

 

「かずきぃ!」

 

しかしあまりの勢いで怪我をした部位まで巻き込んで抱きついているようで左腕と胸、そして脇腹から激痛が走る。

 

「あだだだだだだっ!怪我巻き込んでるっ!一旦離れろっ!鈴っ!」

 

必死で叫ぶも鈴の耳には届いていないようでむしろ力が強まっていく。

何とか引き剥がそうとするも、左腕が使えずそこそこ力のある鈴だからか全く引き剥がせずに痛みは止まらない。

激痛に悶えていると、何者かがドアを勢いよく開けて入って来た。

 

「カズキくんっ⁉︎ 起き...た....のね....? 」

 

入って来たのは楯無だった。

勢い良く入って来た割には段々と尻すぼみになって行ったがそんなことはどうでもいい。

 

「楯無っ!いいところに来たっ!助け、助けてくれぇ!」

 

楯無にがむしゃらに助けを求める。

しかし、なんだかプルプルと震え出したかと思えば突然叫んだ。

 

「私が心配してる間に何ねんごろな関係になってるのよっ⁉︎ 」

 

一瞬何を言ってるか分からずフリーズしたものの慌てて再起動して弁明する。

 

「待て!何か勘違いしてるっ!って痛えって!楯無!コレのどこがねんごろだっ。むっつりスケベの脳内ピンク野郎っ!早く助けろっ!」

 

痛みのせいでうまく頭が回らず、もはや弁明ではなくただの罵倒をしてしまう。

クソッ!なんでこうなるっ!

何が待ってる奴がいるだっ!

待ってた奴に危うくもう一辺眠らされそうだわ!

そんなこと無駄な考えに貴重な脳内リソースを割いていると罵倒された楯無が顔を真っ赤にしながら騒ぎ出す。

 

「なっ⁉︎ 誰が脳内ピンクのむっつりスケベよっ⁉︎ 」

 

ホントにこのバカはっ!

早く助けろって言ってんだろ!

そっちに反応する前に助けろよ!

 

「お前以外に誰がいるっ⁉︎ いいから早くっ、早く助けろって!ホントに逝くっ、もう一回逝っちまうからっ!」

 

「イクっ⁉︎ やっぱりねんごろじゃない⁉︎ 」

 

ホントにコイツは何言ってんだっ⁉︎

脳内ピンクはこれだから肝心な時に役にたたねぇんだよ。

早くっ!誰かっ、助けてくれぇ!

 

「全く、騒がしいですよ。ここは病室なんですか...ら....。」

 

開けっ放しの扉から入って来たのはヤンだった。

言葉は楯無と同じく尻すぼみになっているがそんな事はどうでもいい。

 

「ヤンっ!助け、っ!」

 

ヤンに助けを求めんと叫んだがオレの言葉は途中で止まり、騒いでいた楯無は固まった。

理由は簡単だ。

 

「人に心配かけておいて随分と楽しそうだね。」

 

般若の如き形相で立っていたからだ。

楯無は身の危険を感じたのか今までの騒動など無かったかのように佇まいを正し澄まし顔になった。

 

「ヤンくんも来たことだし私は...。」

 

「会長は私と話をいたしましょう。」

 

関係はないとさっさと退室しようとした楯無に冷たい声が掛かる。

 

「あ、あれ?虚ちゃん?し、仕事はどうしたのかな?」

 

「会長がいなければ決裁できないもの以外は終わらせました。」

 

「し、仕事が早いわね...。あは、あははは....。」

 

楯無は冷や汗を流しながら何とか誤魔化そうと乾いた笑いを上げるも虚さんを前にそんな誤魔化しが効くはずもなく。

 

「それではカズキさん。お大事に。」

 

「離してよ虚ちゃん!私にははっきりとさせないことがっ!」

 

「知りません。仕事を終わらせてからにしてください。」

 

何とか残ろうともがくが全く効果はなく、ただ引きずられて消えて行った。

ここまで来ると流石に冷静になったのか鈴も離してくれていた。

今までの自分の痴態をおもい出したのか顔をトマトの如く真っ赤に染めているが。

 

「カズキ、話をしようか。」

 

鈴と楯無の様子を見て現実逃避しようとしたが、凄まじい形相でコチラを見ているヤンに意味はなかったようだ。

 

 

「なぜあんな無茶をした。」

 

鈴の隣に腰を下ろしたヤンはまっすぐオレを見据えてそう切り出した。

なぜ、ね....。

コイツもわかってるだろうに。

 

「あんな怒ってた癖に心配してくれんのか?」

 

おどけたようにそう言うとすぐにヤンの怒鳴り声が響いた。

 

「僕はっ!」

 

突然の怒声に驚きつつヤンの顔を見ると少し泣きそうな感じにくしゃっと顔を歪めていた。

 

「僕は、もう二度とバディを死なせたくない。戦友を死なせたくないんだよ。」

 

震える声でヤンはそう言う。

だが、そこまで言うならコイツはやはり何故という答えをもう知ってるだろうに。

 

「ハァ....お前が理由全部言ったじゃねえか。」

 

「えっ?」

 

「それだよ。オレだって仲間を死なせたくねえし、生きたいと願ってる奴を死なせたくない。」

 

オレたちは所詮はバカの集まり。

どうしようもない大馬鹿野郎どもの集まりにすぎない。

自分の命を他のヤツのためにすぐに捨てようとする大馬鹿野郎どもだ。

オレは言わずもがなだがコイツやシエラの連中だってそうだ。

 

「こんなこと言ってる癖に逆ならきっとお前も同じことしたろ。」

 

「そ、そんなことは...。」

 

「嘘つけ。」

 

言葉を濁したヤンをオレは見据える。

 

「お前だってオレと似たようなもんさ。あんな地獄にいたから死ってものに慣れてたが、天国みてえなここに来てからというものその耐性がどんどん薄れて普通の感性に戻りつつある。」

 

「.....。」

 

「でも結局、テメェの身を切り捨てることは治ってねえのさ。」

 

「僕は......。」

 

まるで説法でも説いてる気分になるがそんな上等なものではない。

それに元とはいえ死にだがりが言っていいことではない。

オレは心のどこかでは未だに死にたがってるようだしな。

今回の一件でそれを痛感した。

 

ヤンが少し考えこみオレもしんみりしていると視界にツインテールが入って来た。

 

あっ、忘れてた。

 

「鈴、もう熱烈なハグはしないのか?」

 

「う、うるさいわね!」

 

取り敢えずニヤつきながら先ほどの熱烈なハグをイジる。

すると顔を真っ赤にさせながら叫んできた。

元気はあるようで一安心だ。

そう思ったのも束の間、鈴は表情に影を落とした。

 

「........アタシ、何も出来なかった。活躍どころか、アンタらの足を引っ張っただけで、何も....。ホントにごめん....。」

 

どうやら戦いのことを引きずっているようでかなり落ち込んでいるようだ。

肩を窄めじわっと目に涙をたくわえてている。

 

そんな様子を見てオレはため息を溢すと鈴に思いっきりデコピンをしてやった。

 

「痛っ⁉︎ 何すんのよ!こっちはっ...」

 

突然来たデコの痛みに思わずのけぞると痛がりつつもしっかりと食ってかかって来た。

 

「バーカ。民間人が何言ってやがる。」

 

そんな鈴にオレはそう言ってやる。

 

「お前はただ他より戦えるだけの民間人だ。軍人に本来守られる立場なんだよ。」

 

「それでもアタシはっ!」

 

全くコイツは....。

 

「新兵なんてのはな、生き残るのが仕事だ。お前は生き残ってあまつさえ敵を追い込み痛手を与えたんだ。十分すぎるさ。どんだけ背追い込む気だ。オレの立場が無くなるだろ。」

 

まだ何か言い返そうと口篭ってる鈴にまだ続けてやる。

 

「それでもまだ責任を感じるなら、今度なんか奢れ。」

 

「は?」

 

思いもよらない言葉だったのだろう。

鈴は驚いて口をポカンと開けている。

 

「それがこの前のツマミでもいいぞ。ありゃ美味かったからな。」

 

「ちょ、ちょっと!なんでそうなるのよっ⁉︎ 」

 

少し浮かんでいた涙なんて引っ込んでコチラに掴みかかる勢いで捲し立てて来た。

 

「そりゃ軍人の最大の楽しみは美味いメシと酒だからな。それで返してもらうのさ。それでおしまい!この一件はチャラだ。」

 

軍人なんてそんなもんだ。

現場で戦う奴らなんかは特に。

戦った後に死んだヤツを思い返しつつも美味いメシと酒をお供に騒いでその死を悼み明日の活力とする。

原隊でもよくやったものだ。

 

「でもっ!」

 

「謝られた方がそれでいいって言ってんだから素直に受け取れ。それに前も言ったろ。お前は暗い顔よりも笑ってる方が似合うんだよ。笑ってろよ。」

 

「っ⁉︎ 」

 

それでも食い下がる鈴にオレが諭すように言ってやると顔を赤くして黙った。

口は一文字となり何故か目を泳がせていた。

 

「ま、ともかくお前には笑ってもらわないとな。戦った甲斐がないんだよ。オレ、というかオレたちは誰かの幸福を守るために命をかけてるんだから。何より美人の笑顔こそ最高の報酬だからな!」

 

そんな鈴の状態に気が付かずにオレは笑顔でそう語った。

すると鈴はスッと立ち上がりぎこちなく扉に向かって行った。

 

「帰るのか?」

 

「うっさい!また明日来るからね!お大事にっ!」

 

コチラを見ることなくそう叫ぶと扉を勢いよく閉めて出て行った。

立ち去る足音は凄い勢いで走っているような中々に大きな音が聞こえて消えて行った。

ふとヤンの方を向くとすごい呆れたような疲れたような顔をしてコチラを見ていた。

 

「キミって奴は本当に....色々悩んで考え込んでいた僕が馬鹿みたいじゃないか....。」

 

その声色からは疲労が強く感じられた。

 

「疲れたならさっさと帰って休めよ。」

 

「キミには言われたくないよ....。まぁ、僕もこの辺でお暇させてもらうよ。お大事にね、カズキ。」

 

ヤンはそう言うと立ち上がり部屋を出て行った。

さっきまで沢山の人がいた部屋に1人になりなんだか寂しさが込み上げて来た。

 

「オレも、弱くなったな...。」

 

オレの呟きは静寂に溶けて消えて行った。




いかがでしたでしょうか。
今回はいつもの六千字程度ではなく七千五百字程度と少し文字量は多いですがようやく鈴編が終わりそうです。
この後少し閑話を挟みつつ2人の転入生の話へと移って行く予定です。

なお、前書きでも書いたように乗船が決まり来週から乗り込みますので更新がどうなるかは未知数です。
船上生活に慣れて来たら更新が多少は安定すると思いますが、いかんせん会社の船は初なので想像がつきませんので全く想像がつきません。
船上での更新は活動報告にてお知らせしますので更新や執筆状況が知りたい方はちょくちょく活動報告を覗いていただけると幸いです。

それでは!
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