ソラを駆ける衛士   作:タリズマン

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はい少し早めですがコロナ療養で暇なので書き上げました。

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第四章 金と銀
第三十六話


今オレは学校を休み羽田空港へ向かっている。

新しく転入するシュバルツェ・ハーゼの隊長とオレの部下となるクラリッサの迎え兼護衛としてだ。

 

「ドイツの特殊部隊の隊長だなんてどんな人なんですかね。」

 

横で呑気にそんなことを言いながら運転しているのは従卒の稲田伍長だ。

 

「さぁな。ただ、いかにもって感じのやつではないと思うぞ。」

 

「でもIS乗りってことは女の人なんすよね。美人だといいなぁ...。」

 

「お前そういう欲結構ダダ漏れだよな。」

 

この稲田恭介という男が国連軍に入った理由として軍人というものに憧れがあったというのもあるが、合法的にIS学園に入れるというものがあった。

IS学園の女子のレベルが高いことはよく知られており、更に言えば国家代表や代表候補生なんてまるでアイドルのような存在らしい。

そんな人たちに一目会えるかもしれないという男としての欲ダダ漏れの状態で入ってきたのだ。

珍しい日本人であったこともあって日本の基地であるIS学園の駐屯部隊に配置されたのだろう。

ちなみに現在20歳の独身、彼女なしの童貞である。

 

「男として可愛い子を一目見たいってのは当然でしょう!それにブサイクよりも美人の方がいいでしょ⁉︎ 」

 

「まぁ、それは否定せんが。」

 

「でしょう!」

 

車を走らせながらそんな下世話な話を繰り広げる。

IS学園の方にいる時は自制しているらしいのだが、こうオレと二人きりになったりした時はすぐに下ネタや下世話な話をぶっ込んでくる。

 

「で?どんな感じなんすか?」

 

「あ?」

 

「惚けんでくださいよ!少なくとも顔の方は写真で確認してるんでしょ?」

 

「楽しみは最後までとっとけよ、堪え性無しめ。」

 

オレの言葉にぶーぶーと抗議の声を上げつつも運転する稲田。

その声を無視して窓の外を眺める。

海沿いを走っているが残念ながらこちらから海を見ることはできない。

目の前には高速道路の柵しか見えない。

 

「とはいえ美人が来たとしても司令官不在の現状で大丈夫なんすかね?」

 

稲田の下らん抗議が終わったと思えば今度は真面目なトーンで話を始めた。

 

「話によれば規模の拡大と今回の件が原因で管轄もアジア・太平洋方面軍から中央に移管されて指揮官も変わるらしいじゃないですか。オレ達がどうなるかもわからないし中佐がどうなるかもわからない。こんな状況で受け入れて大丈夫なんすかね。」

 

現在、オレ達の置かれてる状況はあまりよろしくない。

司令官であるグリーヴァス中佐には異動という名の左遷の噂が出ているし、管轄軍の移管の話も出てきており現場は動揺と混乱に包まれている。

そんな中、増員がされたところで混乱に拍車がかかるだけなのだ。

兵は拙速を尊ぶとはよく言ったもので現場の人間からすればどんな決定でもいいから早く指針を示してもらわねば困るのだ。

 

「まぁ、オレ達現場の人間からすれば全然大丈夫じゃないな。ただでさえわけわからんのに増員なんてされればさらにわけわからんくなるからな。」

 

「やっぱそうっスよね。」

 

「とはいえ上の決定には従うしかないさ。」

 

「あーあ。軍隊も結局お役所か....。」

 

「知らなかったのか?所詮は公務員だぞ。」

 

うへぇーと辟易としているような声を上げる。

辟易とするが軍人なんて所詮人殺しを生業とする公務員でしかないのだ。

そんな酷い職業に下手な憧れと欲を持って入ってきたのが運の尽きだろう。

 

「おっ!大尉、羽田が見えてきましたよ。」

 

稲田の言葉に今まで緩めていた胸元を締め軍服をしっかりと整える。

同じく着崩している稲田にわかってはいると思うが一応注意を促す。

 

「稲田、お前も羽田に着いたら軍服をしっかり整えろよ。」

 

「了解っス。」

 

稲田の気怠げな返事に大丈夫かと心配になりつつも羽田空港へと続く橋を車で走り抜けるのだった。

 

 

車を駐車場に停め現在は到着口で二人を待っている。

無論軍服はしっかりと整えてキッチリ着ている。

 

コーヒーを飲んだりしながら30分ほど待っていると見覚えのある女性と美しい銀髪の少女がやってきた。

二人を敬礼で出迎える。

 

「はじめまして。お迎えにあがりましたガルーダ隊隊長のカズキ・センドウ大尉です。」

 

「同じく、稲田恭介伍長です。」

 

少佐の階級証をつけた少女は慣れた手つきで返礼する。

 

「ご苦労。ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ。こちらは着任する私の元副官だ。」

 

そう言いクラリッサを前に立たせる。

 

「クラリッサ・ハルフォーフ中尉です。大尉、よろしくお願いします。」

 

鳥肌がたった。

今まで階級が下だったため偉ぶった口調がタメ口だったためコイツの敬語がどうしようもなく気持ち悪かった。

 

「.....おい、なぜ身震いした?」

 

見逃していなかったボーデヴィッヒ少佐から指摘され、クラリッサは軽くこちらを睨む。

そして何もわかっていない稲田がキョトンとしていた。

 

「......なんのことでしょうか?」

 

「.......まぁいいか。」

 

咄嗟に誤魔化すと少し間は空いたがひとまず納得してくれたようだ。

 

「それでは車の方へご案内します。伍長、荷物を。」

 

稲田に荷物を持たせ車へと先導する。

歩いているとクラリッサが横に並んできた。

 

「おい、さっきのはなんだ?」

 

ヒソヒソと声をかけて来たがやはり先ほどの事らしい。

 

「いやっ.....正直、敬語がとてつもなくキモかった。」

 

「きもっ....⁉︎ 」

 

「しょうがないだろ。タメ口か命令口調しか聞いたことなかったんだから!」

 

「だからといってキサマっ....!」

 

「悪かったって。」

 

オレたちはヒソヒソと互いに囁きながら話すも、側からみればとても変だろう。

オレはコイツの考えに乗ってるだけだがコイツはそんなこと思いもしてないんだろうな。

 

「...... 」

 

後ろを見れば怪訝な顔をしてコチラを見るボーデヴィッヒ少佐の姿があった。

ほれみろ。

お宅の隊長から怪しまれてるじゃん。

 

コチラの気も知らずにかなり顔を近付けて話を続けようとするため遮って教えてやる。

 

「クラリッサ。お宅の隊長が凄い怪訝な表情でこっち見てるの気がついてるか?」

 

「は?」

 

クラリッサがチラリと後ろを見ると素早く正面に顔を戻しオレから少し距離を取った。

チラッと横目で見ると頬はほのかに赤くなっていた。

相変わらずクラリッサがポンコツでオレは少し安心した。

 

 

「そういえば大尉。」

 

IS学園は向け車を走らせているとボーデヴィッヒ少佐から声を掛けられた。

 

「なんでしょう、少佐。」

 

「その腕の怪我は例の襲撃でか?」

 

オレの左腕を指しながら怪我について尋ねてきた。

 

「そうです。あんな無人機相手に不覚を取ることになるとは自分の力不足を恥じるばかりです。」

 

「.....そうか。」

 

それだけ聞くと少佐は黙り込んだ。

中々に気難しい人のようだ。

 

「大尉。よろしいでしょうか?」

 

今度はクラリッサだ。

 

「ウチの隊では公的な場を除いて基本タメ口で通してるから、そんな畏まらなくていいぞ。」

 

「いや、しかし...。」

 

普段からヤンとはタメ口きいてるし敬語は使わなくていいと伝えるも、クラリッサら横目で少佐を見ながら言い淀んでいた。

 

「安心しろ。この伍長も普段ならもっと生意気なこと言うぞ。」

 

「ちょっと大尉。余計なこと言わんでくださいや。」

 

「事実だろ。」

 

「まぁ、そうなんですがね。」

 

そう言いオレと稲田は二人で笑う。

少佐は白けた目で見ていた。

やはりというかマジメなThe軍人ってみたいだ。

いかにもドイツ軍人って感じだ。

そんなことを考えていると少佐が口を開く。

 

「その様な腑抜けた雰囲気だから不覚を取るのではないか?」

 

「これは手厳しい。しかしながらガチガチにし過ぎてもいいことはありませんぜ。多少緩い方が性に合う連中だっています。少なくともオレと相棒そういうタチの人間ですから。」

 

思いの外低い声だったからの少々驚いたがオレの持論を語る。

 

「無論カッチリしてる方が性に合う奴もいますし、オンオフの切り替えができないアホにはそんな緩くはやりませんよ。」

 

「どうだかな。」

 

ただ、少佐殿が抱いた懸念は拭えなかったらしい。

 

これが同級生になるのか...。

クラスの連中は大丈夫か?

兵器となりうるものを扱っているのに腑抜けているとか言いわれそうだな。

 

間違っちゃいないんだがね。

 

「ま、言っても信用はないでしょうがふざけた事して部下を死なせる気なんざ毛頭無いので、ハルフォーフ中尉は五体満足でお返ししますよ。」

 

「ふん。」

 

鼻を鳴らし返事をすると少佐は視線を窓の外へと向けた。

そんな態度に思わず稲田と顔を見合わせて肩をすくめる。

 

「それで?ハルフォーフ中尉はなんだったんだ?」

 

そこでそもそもクラリッサからの質問が発端だったなと改めて内容を聞く。

 

「あ、ああ。例の襲撃時の戦闘詳報は後で読ませてもらえるのだろうか?」

 

まだ少し硬いが少佐の前ではこれが妥協点だろう。

 

「読めるさ。正式に国連軍の一員になりウチの隊の人間になるんだ。ウチの隊の戦闘詳報を読めないなんてことはないさ。」

 

「それなら後で読ませてもらえないだろうか?」

 

「構わんぞ。なんなら基地に着き次第渡そう。」

 

「ありがとう。」

 

オレは片手を上げてクラリッサに返事する。

 

「あっ、そうだ。お前さん酒はイケるか?」

 

「ん?それほど強い訳ではないがイケるぞ。」

 

「ソイツは重畳。」

 

ニヤッと口角を上げる。

ま、クラリッサが飲めるかどうかなんて知ってるんだけどな。

オレらは会ったことない初対面ってことになってるからな。

じゃないとあまりにも不審になっちまうから。

そう伝えといたのに空港ではあんな感じだったのだからやはりコイツはポンコツなんだなと改めて実感した。

 

 

基地に着き少佐に関しては稲田に任せて別れ寮の方へと行ってもらった。

クラリッサと二人になりようやく気が楽になった。

クラリッサを連れガルーダ隊の事務室へと連れて行く。

 

「そこがお前の席だ。」

 

「ああ。」

 

「それと、コイツが襲撃時の戦闘詳報だ。」

 

「助かる。」

 

オレが戦闘詳報を渡すとパラパラと読み始める。

コイツはこうしておけば普通に優秀な軍人なのだがいかんせん日常においてはポンコツと化す。

今後も色々事件が起きるんだろうなと思いつつも部屋にあるコーヒーマシンでコーヒーを2杯入れる。

 

「ほれ、コーヒー飲むだろ。」

 

「すまない。」

 

「いいってこと。」

 

そういうと一口コーヒーに口をつけそこからは紙を捲る音が聞こえるだけになった。

するとオレの携帯が着信音鳴り響かせながら震えた。

 

「もしもし?」

 

『あ、カズキかい?アンダーソン少尉はいいんだがクロエちゃんはどこへ連れて行けばいいかな?』

 

「あー....。」

 

クロエに関しては同じくアメリカから来るアンダーソン少尉と一緒に来ることになっていたためヤンに拾いに行かせたのだ。

 

「面倒だろうしそのまま一緒でいいよ。」

 

『わかった。一緒に連れて行くよ。そろそろ着くから楽しみに待っとくといい。』

 

「おう。くれぐれも最後まで事故らないようにな。」

 

『誰にもの言ってんのさ。』

 

「運転してんのはテメェじゃないだろうが。」

 

『それもうだね。じゃ、後で。』

 

そう言うと電話は切れた。

クロエもまとめてこっちに来させて重要人物であることを伝えといた方がいいだろう。

 

「今の電話はなんだったんだ?」

 

「ん?ああ。ウチの隊のもう一人、ヤン中尉からの電話さ。そろそろ着くっていう話だ。」

 

「そうか。」

 

「戦闘詳報は持ち出しても?」

 

「お前なら大丈夫だろ。外部に持ち出さなきゃ許可する。」

 

「部屋で読むだけだ。」

 

「ならいいわ。」

 

そこからは暫くぶりだったからヤンがくるまで色々と話をしていた。

例えば例の少佐の話とか敬語がキモかった話とか色々と。

そんな話をしているとドアがノックされた。

 

「入れ。」

 

オレがそう言うとドアが開かれヤンとクロエ、そして長い茶髪をポニーテールしているアンダーソン少尉が入って来た。

 

「アリシア・アンダーソン少尉、着任いたしました。」

 

「遠路遥々ご苦労。席はそこだ。」

 

「はっ。」

 

うん、凄いマジメそう。

絶対オレ嫌われるやつじゃん。

はぁ.....。

 

「お父様!」

 

「クロエ久しぶりだな。みんな元気にしてるか?」

 

「もちろんです。皆さん元気にしてますよ。」

 

満面の笑みでコチラに近づいて来たクロエの頭を撫でてやる。

感情表現があまり得意ではなかったのだが、最近はどんどん感情が豊かになって来た。

この笑みなどまさにそうだ。

オレも思わず笑みをこぼしながら撫でていると何やら視線が突き刺さっているように感じ顔を上げると、クラリッサとアンダーソン少尉が目を丸くしながらコチラを凝視していた。

 

「か、カズキ、貴様そんな大きな娘を......? 」

 

「大尉.......。」

 

明らかに引いてる声に流石に慌てる。

 

「あっ!おい勘違いすんな!クロエは娘だけど養子だ。」

 

未だに怪しげな視線をコチラに向けてくる。

クッソ先に説明しておけばよかった。

というかアンダーソン少尉は聞いてないのかよ⁉︎

 

「私は戸籍上はお父様の娘ですし私自身も娘であるつもりですが、血の繋がりはありませんよ。」

 

ナイスだクロエ。

本人の言葉とあれば信じる他なくひとまずその疑惑の視線はなくなった。

 

「はぁ。....まぁ気を取り直してだ。これで我がガルーダ隊は全員揃った訳だ。」

 

そう言い新入り二人を見据える。

 

「ウチの隊は守る為の部隊だ。敵を殲滅することが仕事じゃない。そこを履き違えることがないように頼むぞ。腕が立つらしいそこの新米は特にな。」

 

「は?」

 

冗談めかして新米に向かって言うと結構低い声で帰ってきた。

 

「私がそんなことをすると思ってるのですか?」

 

「知らん。お前のことは書類上でしか知らんからな。ただ、新米はそういうことをしやすい。だから一応な。.........何か不満でも?」

 

凄い不満げに、かつ忌々しげにコチラを見てくる。

おお、やはりオレのことは嫌いなようだ。

 

「いえ、正直たかだか無人機相手に負傷された方の下で戦いたくないです。どうせさっきご自身で仰ったように負傷されたんでしょう?」

 

「おい、少尉!」

 

怪我を皮肉りクラリッサが見かねて声を上げるが手で制す。

やっぱオレの怪我をついてくるか。

 

「凄いな。戦闘詳報も読んでないのにそんなことがわかるのか。こりゃすごい超能力者が入ったな。なんだっけ?こういうのニュータイプって言うんだっけか?」

 

皮肉をこめてニヤつきながら言うと「なっ!」と声を上げる。

やはりコチラへのキツイ視線は変わらない。

オレはため息を一つ溢す。

 

「確かに無人機相手にやられたのはオレのミスだ。.....だがな、オレが死のうが守る対象が生きてりゃ勝ちなんだよ。オレの怪我を皮肉れるってのはそこが見えてねえ証拠だ。テメェは今、自分でなってねぇヒヨコってことを証明した訳だ。」

 

オレの言葉に自分の吐いたことがバカらしかったことにでも気がついたのか苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

そんな表情を見てオレはニヤッと笑う。

 

「って訳でお前は今日からchick(ヒヨコ)だ。」

 

「は?」

 

オレがコイツに名をつけてやったが何のことかわかってないらしく今までと打って変わってキョトンとした顔になった。

そんな状況が面白かったのかヤンが思わず吹き出し腹を抱えて笑い出す。

 

「だから、今日からお前をオレたちはチックと呼ぶ。」

 

「なっ⁉︎ 」

 

「お前が一人前になったら名前で呼んでやる。わかったかチック。」

 

オレの言ってることがわかったらしく屈辱に顔を歪めた。

よしよし、上手くいけばコイツは伸びるぞ...。

ちなみにクラリッサもしれっと笑っていた。

 

「おいチック!返事はどうした⁉︎ 」

 

「っ.......了解ッ!」

 

あまりの屈辱にすごい顔になってるが取り敢えず返事したからヨシ。

 

とまぁ、そんなこんなでウチの隊は四人体制の一個小隊となった。

そしてもう一人の転入生であるフランス人はどういう訳かフランスの大使館の車でこちらは来るらしい。

なんだか胡散臭いもんだから注意は多少なりとも必要だろうし、この新米の面倒も見ないといけないだろう仕事が増えて嫌になるな全く。

 

そんなことを考えつつオレは屈辱に震えるチックを見ながら軽く笑うとタバコを取り出し少しニヤけながら火をつけるのだった。

 




はい、というわけでシャルは次回登場です。
シャルロッ党の皆さんすみません!なんでもするんで許してください!

それと今回は今まで名前でしか出てこなかった従卒の稲田伍長が出て来ました。
とはいえ今後活躍するかは不明です。

解説
従卒
従卒とは、将校の身の回りの世話をする兵卒のことです。大体3年目ぐらいの兵士が担当するので階級でいえば一等兵や上等兵が担当するものです。とはいえ現代ではほぼ廃れているもので、本作においては手伝いとしてつけているいわば雑用係でしかも下士官なので厳密どころか普通に従卒には当てはまりませんが良い表現が従卒しか浮かばなかったので従卒としています。
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