千冬のアイアンクローを喰らい軽く意識を飛ばされた翌日、平日にも関わらずオレとヤンは学校を休み軍服に身を包み基地へと来ていた。
滑走路の隅にガルーダ隊を含めた基地にいる士官と警備にあたっている兵を除いたほぼ全員が集まり整列していた。
正式にIS学園基地は国連軍中央、つまりは参謀本部に移管され新しい司令官が今日着任するのだ。
グリーヴァス中佐は前回の責任を負って中東の部隊へと"栄転"することが決まったようだ。
基本的に上の失態にも関わらず現場指揮官が責任を負わされる形になるのは全くもって胸糞悪いが、結局どこの組織でも変わらないと言うことだろう。
整列して待っていると空自のF-15に護衛されながら要人輸送用のヘリ、スーパーピューマが一機飛んできた。
オレたちの前に着陸するとヘリの扉が開き軍服に身を包んだ男が出てきた。
鋭い眼光と右頬に深々と存在する縦に入った傷跡が印象的で、まさに歴戦の指揮官と言った感じだ。
場にいる全員が敬礼をすると、彼は表情ひとつ変えることなく敬礼を返した。
ヘリの搭乗員に会釈するとこちらへ向かって歩きオレたちの前へと立つ。
ヘリが飛び立ち周りが静かになるのを待って口を開いた。
「本日よりこの基地の指揮を行うこととなるアレクサンドル・ジョセフ・ブラスコヴィッチ准将である。」
渋くよく透き通る声で自己紹介を行う。
「この基地は先日、我が参謀本部そしてアジア・太平洋方面軍の怠慢もあり大きな被害を被った。....しかしその状況にあってもなお、守るべき学生に誰一人として死傷者を出さなかったことは感嘆に値し、そのような隊の指揮を行えることは身に余る光栄である。」
正直驚いた。
まさか自分達の非を認め、挙句"怠慢"とまで言ったのだ。
それとおべっかかも知れんが言ってることが事実なら司令官殿からの評価は上々のようだ。
「今後ともアジア地域の平和と本学園の学生の警護に対し、諸君らの奮戦と奮闘に期待するものとし挨拶とさせてもらう。」
司令官殿の短い挨拶が終わると、司令官補佐となったリカルド少佐が声を張り上げる。
「総員っ!司令官閣下に敬礼っ!」
バッとその場にいる全員が敬礼を行う。
綺麗に揃った敬礼に対し満足げに頷くとブラスコヴィッチ准将が返礼をし基地へと入っていった。
取り敢えず堅苦しいのはこれで終わりかと部下を引き連れてガルーダ隊の隊室へと向かおうとするとリカルド少佐が慌てた走ってきた。
「少佐、どうしたんですかそんな慌てて?」
「はぁ、はぁ、准将がお前と話したいんだとさ。」
「は?」
「取り敢えず着いてきてくれ。」
なんだかよくわからんが准将はオレに用があるようなので、クラリッサに後を任せリカルド少佐に着いていく。
なんかやらかしたっけな....?
♢
「こちらでお待ちだ。」
リカルド少佐の案内で司令官室までやってきた。
少佐には別件があるらしくここで別れ一人で部屋の前に立ち、扉を叩く。
「入りたまえ。」
扉を叩くとあの渋い声が聞こえてきたため中に入る。
「ガルーダ隊隊長、カズキ・センドウ大尉出頭しました。......それで何の御用で?」
オレが自己紹介と同時に用件を聞くと、そう焦るなと言いながら応接用のソファに座るよう促した。
ポッドに淹れておいたであろうコーヒーを2つのカップに注ぎ机にコーヒーを置くとオレの対面に座った。
一口コーヒーを啜ると准将は口を開いた。
「あまり回りくどいことは好きではないのでな、単刀直入に聞かせてもらう。......今度あるタッグマッチトーナメント、襲撃は発生すると思うか?」
なるほど...この人は確証はなくとも事件が起きるだろうと考えているのか。
それで最前線にいたオレに話を聞きたいわけか。
「どんな形かはわかりませんがあると考えています。」
そう短く答えると准将は"やはりか"とひとりごち、ため息を零す。
そんな様子を見ながら懐からタバコを取り出し喫煙をしていいか確認を取ると灰皿を差し出された。
一本咥え准将にも差し出すと一本受け取った。
ライターで准将のタバコに火をつけ自分のものにも火をつける。
ひと吸いすると准将は目に入ったタバコのケースに対し苦笑いを浮かべた。
「ふっ...Peaceとはな、皮肉なものを吸ってるじゃないか。」
「いいじゃないですか"Peace"。我々軍人が愛し慈しみ守るべきものです。」
「そして我々が疎ましがられる状態だ。」
それはその通りなんだよな。
平和な時、軍隊とは必要のない金食い虫に成り下がる。
今いる日本なんてまさしくその状態だ。
無論、先の戦争の影響など色々と原因はあるのだが、それにしても嫌われている。
震災の影響で好意的な感情が出てきているものの、軍事組織としては好かれていないのが現状だ。
紛争の現場も遠く、戦争は他人事であり自分達に降りかかることはないと信じているからだ。
本来は軍人なら嫌な顔でもするべきなのだろうが、その状態はそれ程までに平和な国であるということの裏返しでもあるのだ。
だからこそ
「オレらは疎ましがられることも仕事でしょう?その役目も含めて高い給料もらってんですから。第一、オレたち軍人がありがたられるってことは有事が起きて人が死んでるときですよ。疎ましがられる程、人が死んでないならいいことじゃないですか。」
そうだ。
オレたち軍人がありがたられる時なんて戦争か災害の時なのだ。
それが起きてないからこそ疎まれる。
ならその状況に耐え忍び喜ぶのが我々の役目なのだ。
オレの考えを馬鹿正直に伝えると准将はふぅーっと息を吐くとこちらに向き直った。
そうするとオレに向かって頭を下げた。
「すまない大尉。君を試した。」
「なるほど、急な話題転換はそういう訳でしたか。」
オレがそう言うと准将は頷いた。
頷いた時の表情は陰り事の深刻さが滲み出ていた。
そして准将は重たそうに口を開いた。
「....実はな、最近各国の軍で戦略研究という名目で色々と組織ができているのだがどうもきな臭い。反IS派や過激な論調で知られる保守派、未確認の情報では救国同盟や解放同盟と言った過激派との接触も噂されている。」
「つまり救国同盟とかのシンパが紛れ込んでいて前回の襲撃との関連が疑われているというわけですか。」
「そうだ。」
救国同盟とは現状の女尊男卑思想に対し、国を作り上げ守ってきたのは男でありそれを一方的に排除することは国を破壊することであるとして現体制の打倒を訴える国際的なテロリスト集団である。
厄介なことにISによってクビを切られた元軍人も参加しておりかなり高度に組織化されているという点だ。
次の解放同盟も似たようなもので女尊男卑思想に対する反発から生まれた過激派の組織なのだが、こちらは活動家集団であり過激ではあるがテロではなく時折暴動などを起こす厄介な集団だ。
どちらにせよテロリストや過激な活動家とのつながりも考えるときな臭さは凄まじい。
「オレを試したってことはそういう連中が国連軍内部にも?」
「ああ。前回の譲報の錯綜や防衛体制の情報漏洩は国連軍内部のシンパによる工作だと参謀本部は判断した。」
「グリーヴァス中佐はシンパと判断されたんですか?」
その話が事実ならグリーヴァス中佐が解任され左遷される必要はないはずなのだ。
つまり参謀本部は中佐がシンパであると判断したのではないか、そう疑ったが准将は否定した。
「いや、それはない。彼はあの状況で正しいことをした。だが、対外的な説明ではどうしても.....。」
「スケープゴートが必要だった、と?」
「......ああ。情けない話だが国連軍の地位は決して高くない。組織を保つためにはこうするしかなかったんだ。.....いや、ただの言い訳だな。」
正直言って腹立たしい限りだがしょうがないという気持ちも湧いてくる。
世界各地で治安維持と平和維持活動に尽力しているものの、国際的な調停機関でしかない国連に固有の軍事組織は必要ないのではという議論は収まる気配はないし、ISの登場によってさらに不要論が噴出しているのだ。
そのため不祥事の際には組織を守るために有能な人物であろうともスケープゴートにして吊る必要があるのだ。
全ては組織の立場の弱さが悪いのだが、こればかりはどうしようもないのが現状である。
「それで話を戻すが。前回襲ってきた連中が再度来るとして何が目的だと思う?」
「さぁ?前回の襲撃時もあんな大事をしでかした割には犯行声明の一つもないんでしょう?」
実は前回襲撃してきた連中は何も犯行声明を出しておらず、まるで襲撃こそが目的であったとすら思えてくる。
もしくは実験....?
襲撃者に関して思考を巡らせて黙っていると准将がこちらを見ていた。
「.......すみません、考えに耽ってしまいましたね。」
「いや、構わんさ。....何か心当たりでもあるのか?」
心当たり...か。
無いわけではない。
襲撃してきた無人機は、かつてドイツのキームゼー研究所で見た人間の脳をCPUにしたものと同じものであった。
となれば同一組織による行動か、もしくは協力関係にある組織となる。
そして気になるのはメキシコの研究所で話した"ノーバディ"だ。
今に至るまで奴の正体に関して何も掴めておらず、奴が直接名乗ることもあの時以外なく表に全く出てきていない。
やはり....
「心当たりがないわけではありません。」
「ほう?」
「機密も含まれるため詳しくは申し上げられませんが、"ノーバディ"という男に心当たりは?」
オレの問いに准将は少し考え込むがすぐに首を振り「知らんな。」と短く答えた。
「目的も組織も主義も、そして誰であり何人なのか、何も情報がない謎の男でテロリストではありませんが、多数の人体実験への関与が疑われている危険人物です。」
「そんな男が....。」
驚いたように目を剥く准将だがこんなものではない。
「加えて前回の襲撃で使用された無人機はその研究で生み出されたものです。」
「つまりその"ノーバディ"が糸を引いている可能性があると?」
「ええ。あの無人機に使用されていた脳髄から見て間違いないでしょう。」
「脳髄だと?」
聞き捨てならない言葉に反応し目を細める。
オレもあまり思い出したくない光景だったため少し顔を顰めながら答える。
「はい。文字通り人間の脳髄です。イカれた天才が作り出した超高性能のコンピューターです。」
「なんとも胸糞の悪い....。」
「全くです。」
そこで会話は途切れしばしの沈黙が訪れる。
准将はコーヒーを一口口に含むと決心したように口を開いた。
「"ノーバディ“に関してはこちらでも少し探ってみる。大尉、君には普段の業務つまりは学生の護衛に集中してもらう。裏方は任せてもらおう。」
「こちらのツテでも当たってますのでそちらの情報が上がったらお知らせします。」
「頼む。」
その言葉を最後に立ち上がり敬礼するとオレは退室した。
取り敢えずある程度信用できる人をゲットできたのはラッキーだろう。
ま、全部話したわけじゃないけどね。
♢
退室したセンドウ大尉を見送った後、懐から自分のタバコを取り出し火を着ける。
煙を吐き一息つくと先程の話と大尉のことを思い出す。
「なかなかどうして、極東にもいい人材がいるじゃないか。」
あの男、こちらを多少は信用しただろうが全ては話してはいないだろう。
こちらに対してのカードはしっかり残しているようだ。
すぐに信用して全て話す無能なら切り捨てたが取り敢えずは及第点と言ったところだろう。
「しかし"ノーバディ"か....。」
大尉が話した内容。
"ノーバディ“という存在に脳髄をコンピュータとした無人機、全くもって厄介な存在だ。
世界規模で考えれば失踪者なぞ無限にいるし、表に出てこない男など探しようがない。
その上、思想も目的も不明では行動の予測ができない。
厄介すぎる。
「取り敢えずリーガンに伝えておくか。」
私は携帯を取り出すと、友であり戦友の情報部のリーガン大佐を巻き込むべく電話をかけるのであった。
無論、文句は言われたものの聞いてしまった以上は手を貸すと渋々了承したのであった。
♢
広くシャンデリアによって照らされる豪勢な部屋の中、2人の男が対面で座っていた。
「取り敢えず実機を用いたテストはこの前成功したわけだが、これからどうするつもりだ。」
2人のうち片割れの鋭い目の黒髪の東洋人が問いかける。
すると対面に座る赤髪の白人がワインを揺らす。
「そう慌てるものじゃないさ。君の見たいものも前回見れたわけだろ?....それに今はまだ仕込みの段階だ。次は彼ももっと楽しんでくれるはずさ。」
赤髪の男は薄く笑いながらそう返す。
すると東洋人は少し不満げながらも頷きを返す。
「確かに見たいものは見れた。仙洞が変わりきっていなくて安心したものだ。だが、やはり鈍ってるな。」
どうやら不満だったのはカズキの動きのようだ。
「キミは本当に彼に執着するね。まぁ、僕は楽しめるから別に構わないんだがね。」
「ああ。"約束"だからな。必ず死なせてやらなくては。」
そう語る東洋人の男に浮かぶ笑みは邪悪にに染まった、まさに狂人の笑みだった。
しばしの静寂の後、赤髪の男が口を開く。
「彼にトルーパー計画は潰されたが、ガイスト計画は上手く行った。そして次の行動に向けた仕込みも順調。.....ただキミの出番はもう少し後だから契約通り待っていてくれたまえよ。」
「わかってる。お前とはあくまでも協力関係でお前に仙洞との対決の場を作ってもらう契約だからな。....お前こそ契約を破るなよ、"ノーバディ"。」
そう言われたノーバディは満足げに微笑み、もちろんと答えるにとどめた。
ノーバディはワインを掲げる。
「精々、僕を楽しませてくれよ。仙洞一樹くん。」
その顔に浮かぶ笑みはどこまでも軽薄で胡散臭いものであった。
♢
夢を見る。
あの頃の夢を。
私がIS適合移植手術に失敗し"落ちこぼれ“と言われていた頃だ。
周りからは嘲笑され研究者たちからは見捨てられ孤独だった。
どこまでも孤独だった。
幼い私には耐えられなかった。
周りからの奇異の視線、周りが全て的に思えてきた頃あの人に救われた。
教官に、織斑千冬という強い女性に。
あの人は私を強くしてくれた。
強くなった私は嘲笑されることは無くなった。
奇異の視線に晒されることも無くなった。
畏敬の念を抱くようになった。
そして私は強く優しい教官の在り方に憧れた。
だが、あの人の経歴に泥を塗った男の話を聞いた。
織斑一夏、奴さえいなければ教官の経歴はっ....⁉︎
まるで今までのことを思い出すように流れてくる夢。
だが、そんな夢の中でふと疑問が浮かんだ。
私は一体いつから織斑一夏を憎むようになったんだ?
この疑問が浮かんだ直後、私にどこからともなく囁く声が聞こえてきた。
『織斑一夏さえいなければ織斑千冬はあの様な悲しい笑みは浮かべなかった。』
『織斑一夏さえいなければラウラ・ボーデヴィッヒこそが織斑千冬の一番になれる』
『織斑一夏さえいなければ.....。』
アァ、ソウダ。
ヤツサエイナケレバ。
ワタシガ....。
お久しぶりです.....!
最近、乗船して仕事でヘトヘトになっていて更新が遅れました。
さて、今回は新しい登場人物が2人ほど出ました。
それと新しい組織が2つ出てきましたね。
新司令官のアレクサンドル・ジョセフ・ブラスコヴィッチ准将と謎の東洋人の男です。
おっさん出したい病が再発してしまいブラスコヴィッチ准将が出てきました。
ちなみに残念ですがひとまずグリーヴァス中佐はここで退場です。
今話は情報量が多いですね。
軽い紹介
アレクサンドル・ジョセフ・ブラスコヴィッチ
元はポーランド陸軍の軍人で大のロシア嫌いで知られる。作中まるで自分は過激派ではないかのような口振りだが元は対露強硬派筆頭であり、「さっさと旧ソ連製の戦車なぞ潰してレオパルドを買え。」や「ロシアとの戦争のために戦車の拡充を。」などと発言している。
とはいえ、基本は冷静沈着であり優秀な指揮官である。東部の要である第18機械科師団の戦車連隊の指揮官であったことからも優秀さが窺える。
実はロシア嫌いからかチェチェン紛争やグルジア戦争にしれっと義勇兵として参加している。
クリミア危機の際には軍から再三行くなと言われたが無視して義勇兵として参加して、とうとう軍から放逐された。
そこで実戦経験豊富な指揮官を求めていた国連軍に誘われ国連軍に参加し、参謀本部に入った後にIS学園基地の司令官として着任した。
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