ソラを駆ける衛士   作:タリズマン

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はい、一月に一話どころじゃないですね。
3か月たってしまいましたね。

理由は活動報告(下記)に書いている通りです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=311381&uid=223799
更新が遅れ本当に申し訳ありませんでした。


第五十六話

重い足取りで部屋に戻りつつ考えに耽っていた。

よしんば行動を起こすにしてもどうするべきか…。

 

ラーノチカの話した内容は正直看過できるものではなかった。

もたらされた情報、それはロシア軍内の過激派、そしてに同調する拡大派の軍人によって穏健派のニカノール大統領が拘束され行方不明というものだった。

無論フリーガン大統領に話すという案も浮かんだが即座に却下した。

アメリカが介入したことが万が一にでも露見してしまえば、ロシアの反米感情は悪化するだろう。

もし救出が失敗すれば現ロシア首脳部は間違いなく責任を擦り付け開戦の口実ができたことに手を叩いて喜ぶだろう。

ラーノチカと二人で潜入するにしてもバックアップのない救出作戦など危険すぎるし、少数すぎて打てる手が限られてしまう。

 

良い案が浮かばないことにイラつきつつ、気が付けば部屋のすぐ近くまでたどり着いていた。

大きくため息を吐くと、眼前に見覚えのある数人がこちらに尻を向けながら静かに扉に耳を当てているのが見えた。

思いもしない光景に頭を痛めていた考えなど丸々吹き飛び硬直していると、勢いよく扉が開いて聞き耳を立てていたやつらがそのまま倒れこんだ。

 

「貴様ら、教師の部屋で盗み聞きとはいい度胸だな。」

 

開いた扉の向こうには不敵な笑みを浮かべた鬼がいた。

 

「…。」

 

千冬にギロっと勢いよくにらみつけられる。

なんだか盗み聞きしてた連中からこちらにヘイトが向いた気がする。

さらっと人の心読むのやめてくれ。

そんなことを考えていると、何か思いついたのかニヤリと千冬が笑みを浮かべると部屋のほうへと顔を向ける。

 

「おい一夏、これでアイスでも食べてくるといい。ヤンも誘ってな。」

 

「え?マッサージは?」

 

「もう十分やってもらったから、男同士で語り合って来い。」

 

そういうと茶色いシンプルな財布を握りしめた一夏が出てきた。

可愛げのない財布だな。

というかわざわざ男だけ省くってことは、

 

「さては女子会か、似合わねぇ…」

 

ガっ

 

「何か言ったか」

 

「いえ…なにも…」

 

目にも見えない速度アイアンクロー決められた。

思わずこぼれ出た言葉はしっかりと聞き取られていたらしい。

この地獄耳めッ…。

 

 

「まったく…。」

 

千冬は己より三歳下なだけの大人なくせして弟よりもよっぽどガキのようなことを抜かす男にため息をこぼす。

そのバカと一夏はすでに財布片手に売店のほうへと向かっていった。

さて、と部屋を見渡す。

部屋の中にいるのは、箒にセシリア、シャルロットといった一夏を少なからず想っている女たちと巻き込まれてしまったラウラ。

そしてこれから聞こうと思っている内容から呼んできてもらった鈴と清香、本音に簪を含めた合計八人。

 

「そう警戒するな。これでも飲んで落ち着け。」

 

そういうとそれぞれにジュースを手渡し、口につけたのを確認するとニヤリと口角を上げる。

 

「よし口をつけたな。」

 

「え?」

 

彼女らの疑問を代表するかのように放棄が声を上げる。

その疑問に答えるかのように傍らにある冷蔵庫を開き缶を取り出す。

プルタブを開くとプシュッという音ともに特徴的な香りを感じ、千冬はさらに笑みを深めると一気に煽った。

まさかの教師による暴挙に唖然として固まってしまう。

 

「あの…先生、ひょっとして…。」

 

「このジュース、口止め料ってやつじゃ…。」

 

「そうだが?」

 

おずおずとシャルと鈴が指摘するも何食わぬ顔で返答され、ひきつった笑みを浮かべる。

そんな中まっさきに復活することができた簪が疑問を飛ばした。

 

「あの、織斑先生。」

 

「どうした?」

 

「私たちを集めた理由って何なんですか?」

 

「そうだな…本題に入ろう。」

 

簪の疑問に対してまじめな声で返され、身構える。

口内に渇きを覚え、もらったばかりのジュースに口をつけた。

その瞬間、千冬の口角が上げたかと思うと口を開いた。

 

「お前たち、アイツ等のどこに惚れた?」

 

「「「「ごふっ⁉」」」」

 

爆弾が飛んできた。

ペットボトルに口をつけていた面々に至っては勢いよく吹き出しむせかえっていた。

今、眼前で笑みを浮かべている教師が先ほど挙げた“アイツ等”というのは、まず間違いなくカズキ、ヤン、一夏の三人のことだろう。

挙句、一夏に気がある三人にとっては思い人の実姉からの質問なのだから、むせ返ったり思考が停止するのは仕方のないことだろう。

 

「なんだ、更識妹の反応は思ったより薄いな。」

 

他が動揺を隠しきれていない中、比較的平静(を装っている)な簪がロックオンされる。

 

「別にヤンに惚れてなんか「誰もヤンなんて言ってないが?」…。」

 

すごい勢いで墓穴を掘ってしまい硬直する。

隣の本音は「やっぱり…。」なんてつぶやきながら横目で見ていた。

他の面々も即座に自滅した人間を見て落ち着いたのか簪と千冬のやり取りに耳を傾けていた。

そんな中、鈴はふといつぞやのカズキとの会話を思い出した。

 

『簪っていうのは自分でISを組んでる奴で、ヤンがよく弁当作って持って行ってやってるんだよ。』

 

『え?なにそれ恋する乙女?』

 

簪からヤンに対してそういった矢印が向いているのかは別として、少なくともヤンからは向いているのではないだろうか。

カズキも目に見えて機嫌がよかったと言っていたし。

 

「そ、それなら弟さんのほうが人気ですし!ここには織斑くんのことが好きな子がいるんじゃないんですかね⁉なんならヤンに対して好意を抱いてるのは私より本音のほうが!」

 

「かんちゃん⁉」

 

そんなことを思考したのもつかの間、ターゲットを自分から引き離すために流れるように哀れな恋愛クソ雑魚幼馴染が売り払われてしまっている。

あまりにも唐突な流れ弾に抗議の声を上げる。

とはいえ流れ弾に当たったのは本音だけではないようで、一夏に少なからず好意を抱いている三人も顔を赤くしてうつむいていた。

 

「ほう、本音か。」

 

「あうぅ…。」

 

コレでもかとニヤつきながら本音にロックオンした千冬に、蛇に睨まれた蛙の如く縮こまる。

そんな中、別方向から思わぬ助けが来た。

 

「なに教え子を虐めてるのさ?」

 

「....束か。」

 

スパンッと勢いよく扉を開いた彼女はスタスタと千冬にジト目を送りながら輪の中に加わり座る。

少女たちは思わぬところから現れた救世主にホッとした。

一名は複雑そうな表情を浮かべていたが。

 

「虐めてはおらんさ。それに非常識に関してお前に言われる筋合いはないな。」

 

「はぁ.....そんなだから結婚願望は人並みにあるくせに相手が見つからないんだよ。」

 

悪びれもせずそんなことを言う千冬に対して束は大きくため息を吐き、呆れたように返す。

束の言葉は思った以上に千冬に効いたのか、呻き声をこぼしながら睨んでくるが素知らぬ顔をして、少女たちの方を向く。

すると微笑みながら頭を下げた。

彼女たちの大半にとって雲の上の存在である女性による突然の行動にぎょっとしていると、声が聞こえた。

 

「くーちゃん、クロエちゃんと仲良くしてくれてありがとうね。」

 

「い、いえ。私たちにとって可愛い妹みたいな感じですし!」

 

「そ、そうですよ!頭を上げてください!」

 

束はコレを伝えるために彼女たちに会いにきていたのだ。

自分が、自分たちが救い出し、何より自分を救ってくれた娘のような子供。

そして研究所に長らくいたために、少々世間知らずなところのあるクロエのことを心配していたのだ。

だが、カズキからはみんなに仲良くしてもらってることを聞かされ心から安心できたのだ。

 

そんな彼女の感謝の言葉にあたふたする一同であったが、束が顔を上げ破顔したことでとりあえず一旦の落ち着きを取り戻せたのだった。

ちなみに千冬は先程のダメージを癒すためにビールを煽っていた。

 

 

その後は他愛もない話が続いた。

学校でのクロエの様子やカズキの様子、出かけた時の話などをして、嬉しそうに笑う束という平和的な時間が過ぎていた。

 

「そんな感じでよくカズキの奴は1人で晩酌してるんですよ。」

 

「かーくんらしいな。晩酌はウチでもよくやってるけど、学校だから場所探してやってるんだろうなぁ....。それにしても鈴ちゃんの中華と一緒にウイスキーか、羨ましいなぁ〜!かーくんめっ!」

 

「機会があればご馳走しますよ。」

 

「ほんと⁉︎ 約束だからね!」

 

鈴がカズキの晩酌のツマミをたまに作っている話を聞いて、笑いながら束は微笑んでいた。

が、ここで失言をしていたのだ。

カズキは孤児院の話はしていたのだが、そこの孤児院がどういう施設かは話してないし、無論運営者の話など全くしていないのである。

そして、平和な会話は何気ない箒の一言で崩れた。

 

「あの....姉さん。」

 

「なになに箒ちゃん?私に聞きたいことでもあるのかな?」

 

「晩酌をよくしてると言いましたけど、カズキと姉さんは同棲してるのですか?」

 

「............はぇ?」

 

思っても見なかった質問に束は硬直し周りも硬直する。

そう、間借りしている孤児院の運営者が束とは一言も言ってない。

説明など全くしていないのだ。

同居ならば反応できただろうが、同棲という恋人同士のような関係を示唆されたことで思考が硬直してしまう。

硬直してしまった束を見た箒は質問の意図が伝わっていないのかと勘違いをしてしまう。

 

「だから、その...カズキと姉さんは付き合っているんですか?」

 

その言葉に完全に場は凍りついた。

あるものはビーチでの2人の姿を思い出し、またあるものは自分の想い人を、またある教師は先を越されてしまった可能性を思い浮かべた。

だが彼女たちの胸の内にあったのこの一言に尽きるだろう。

 

『あえてスルーしてたことを聞きやがった』

 

実の姉妹なのだからこれを容易く聞いてしまうことは仕方ないだろうが、さまざまな理由からあえて目を逸らしていた部分に踏み込んだのだ。

箒からすれば自分たちをほっぽり出して世界中を逃げ回り、最終的にアメリカに行っていた姉に彼氏がいるかもしれない。

それも同級生がその彼氏かもしれないという考えに至り混乱してしまっていた。

 

だが同時に問いかけられた束も混乱していた。

確かにカズキに対して少なからず感情を抱いていることは否定できない。

それを踏まえて、わざと千冬を揺さぶって遊んでやろうぐらいしか考えていなかったなか、可愛い妹から交際疑惑をかけられているのだ。

 

「....つ、付き合っ⁉︎ ないない!付き合ってないよ!確かに同じ家に住んで入るけど孤児院だし!どちらかって言うと家主と居候だから!」

 

付き合ってないと言おうとしたが"付き合う"という言葉に詰まってしまい、なんだかしどろもどろな返事になってしまう。

無論、それを見逃す彼女たちではなかった。

 

「怪しいですわね...。」

 

「うん、怪しいな。」

 

そんな怪しさ満点な回答に訝しむ視線を向けられ、束はさらに焦ってしまう。

 

「べ、別にやましいことなんてなにもしてないし!そんな関係じゃないったらないよっ!」

 

「何かやましいことがあるからそんな必死に否定するんじゃないのか?」

 

追加で出てきた反論に対して、先ほどまで意気消沈していた千冬が復活してやり返しの如くニヤニヤしながらツッコむ。

"余計なことを"などと内心思いながら千冬を睨むが酒を煽って無視されてしまう。

そんな中、箒がふと思い出したように尋ねる。

 

「やましいといえば、姉さんの人の布団に入る癖は治ったんですか?」

 

「..........な、なななななに言ってるのさ!流石に治ってるよ‼︎ 」

 

昔、まだ束も箒も小さい頃は同じ布団で寝ており、束が中学生になった後も寝ぼけた状態だと箒の布団の中に潜り込んでくることがよくあったのだ。

ちなみに千冬も何回かやられている。

 

そのことを思い出した箒による一言だが、束としては想い当たる節が多過ぎて焦りに焦った。

それはそうだろう。

カズキとはよく一緒に寝ていたし、潜り込みもすれば引き摺り込むこともしていた。

なんなら全裸や下着の状態でそれをやったこともしばしばあるのだ。

 

「まさか.....⁉︎ 」

 

「カズキくんの布団に潜り込んでるんですかっ⁉︎ 」

 

鈴と清香は戦慄し、他もそれぞれ驚いていたり自分に置き換えて顔を赤くしたりしていた。

誰も束の否定を信じてなどいなかった。

 

「そ、そんなことするわけないでしょ!もう24歳なんだよ!」

 

「だが、そのあたりの常識が通じないのがお前だろう束。」

 

束は必死に否定するも千冬が横槍を入れる。

驚きで目を見開いてはいたがすぐに復活し、束を揶揄うことにシフトしたようだ。

 

「それにお前の態度を見ている限り、カズキに対して悪い感情を抱いているようには見えんしな。それに昼間の時だって.......ん?いや、待て。」

 

「織斑先生....?」

 

さらに束を揶揄うために昼間のことをネタにしようとした千冬はそこで何か思い出したように硬直した。

不思議そうに学生たちは千冬を見つめる。

千冬は静かに束に近づくと周りに聞こえないように顔を寄せた。

 

「....なにさ?」

 

どうせ揶揄いに来たのだろうと、拗ねたように尋ねると、千冬が耳元で囁いた。

 

「.....カズキとヤったのか?」

 

「.........へ?」

 

「まさか、もう処女を.....。」

 

「散らしてないからね!」

 

とんでもないことをぶっ込んできた千冬に対し思わず顔を真っ赤にしながら大声をあげて否定する。

だが、その言葉にすら若干の不信感を覚えているのか千冬はさらに寄ってくる。

 

「年頃の男女が同じ布団に入ってやることなど一つしか....。」

 

「そんな短絡的思考に陥らないでよ!別に同じ布団に寝てたとしてもそうならない時だってあるでしょ!」

 

「"そうならない時だってある"という言い方だと、基本的にはそうなるということだろう。つまり...」

 

「言葉狩りが過ぎるぅ!そもそも一緒に寝てないからねっ!」

 

千冬の隅を突くような口撃にうがーっと怒りを露わにしながら束は叫ぶ。

ついでに同衾も否定するがその場にいる全員からは冷めた目を向けられる。

 

「嘘だな。」

「嘘ですね。」

「嘘ですわね。」

 

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!」

 

冷めた視線ともに即座に嘘判定を喰らいさらに抗議の声を上げる。

しかし、抗議の声も虚しく冷め切った疑惑の視線は止まない。

 

「一緒に寝てないって言ったら寝てないんだからぁ~!」

 

「あの姉さんがここまでムキになって否定するなんて…。」

 

「箒ちゃんっ⁉」

 

さらに否定し何とか逃げ切ろうと模索するが効果はなく、それどころかムキになって否定しすぎてしまったせいで最愛の妹に妙な確信を抱かせてしまった。

 

「カズキ…義兄さん…?」

 

「違うからねっ⁉」

 

「「違うでしょ⁉」」

 

そんな妙な確信から出てきたとんでもない発言を慌てて否定する。

ただその否定は束だけではなく、鈴と清香からも思わず声が上がっていた。

 

そんな姦しい夜はさらに更けていく。

結局騒ぎは消灯時間ギリギリに男たちが戻って来るまで続いた。

 

 

とある基地の一室。

美しい金髪を持つ女性がフライトジャケットをロッカーにしまっていた。

 

「ふふっ」

 

女性はロッカーの扉に貼ってある懐かしい写真が目に入り笑みがこぼれる。

写真には女性三人と男性が一人、全員が笑顔で写っている。

一年程度の付き合いなのにまるで昔から、何年もの付き合いがあったかのようにすら感じれるほど濃密な時間を過ごせた掛け替えのない戦友。

いつも馬鹿二人の起こす問題に頭を抱えていた隊長。

様々な場面で獣のような笑みを浮かべる酒乱の同僚。

そして馬鹿でアホの朴念仁だが、戦場においては誰よりも頼りになって信頼している男。

 

「あのバカに笑われないようにするためにも、テストは完璧にしなくちゃね。」

 

そういいながら写真の中で目一杯笑ってる男の顔を指ではじく。

すると背後の扉がノックされ声が響いた。

 

「ファイルス中尉。そろそろお時間です。」

 

「了解。すぐに向かうわ。」

 

返事をすると一つ伸びをする。

 

「さて、しっかり働いて、あの子と空を楽しみますかね。」

 

そういうと、ロッカーの扉を勢い良く閉じた。

 




いかがだったでしょうか。
次話は今度こそ早く投稿します。

何かあるたびに行っている気がしますが、失踪するつもりは全くございません。

ちなみに次回からようやく事件が始まり、物語が加速します。
期待していただけると幸いです。

それでは次回お会いしましょう。
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