船の上だけどなんとか書き上げた!
とはいえ、今回は少し短いかもです。
騒ぎが多々あった多忙な日から一夜明け、2日目から授業が再開された。
海上における墜落への対処講習や、アリーナやグラウンドよりも広い空域を利用しての飛行実習である。
しかしながらカズキと箒は束に連れられ他の学生とは少し離れた場所にいた。
そこにはいくつかのコンテナがいつの間にやら置いてあり、カズキはいつどうやって運び込んだのかと問いただしたい気持ちをグッと堪える。
そんな中、箒はコンテナの中身に関心が向かっているようで疑問を投げかける。
「姉さん...いったいこのコンテナは...?」
「やっぱり気になるよね〜!それじゃあ見てもらうのが早いし早速オープン!」
束はいつも通りの能天気とも取れる声と共にスイッチを押すとコンテナの扉が開いた。
「これは...ッ⁉︎」
コンテナの中身を見た箒は思わず声を上げる。
姿を見せたのは一機の真紅に輝くISだった。
それを目にしたカズキは「やりやがった...。」と呟きながら頭を抱えた。
だが、スルーしながら束は説明を始めた。
「これは箒ちゃんのために作った世界でただ一つのIS"紅椿"だよ。最近物騒だし、私のせいもあって何が起こるかわからないから護身用にと思ってね。...それに箒ちゃんの誕生日だし、何か贈り物したいなって。」
「姉さん...。」
箒の誕生日に渡せるものが何も思い浮かばなかった束が、藁にもすがる思いでファナに相談したところ"束さんは色々と作れるんですから、何か自作したプレゼントを差し上げては?“という助言に基づいて作られたものが紅椿である。
そのお手製のプレゼントを渡し仲直りを成そうとしているのだが、そんなことを知らないカズキにとってはただの厄介ごとに他ならず胃の辺りがキリキリと痛み出していた。
「どう?箒ちゃん!」
「姉さん、ありがとうございます。しかし、こんなもの使ってもいいのでしょうか?」
「もちろん!箒ちゃんのものだからね!ただ、これはあくまでも護身用だし箒ちゃんは企業や国から専用機持ちとしての教育を受けたわけじゃないからその辺りはかーくんに任せるよ!」
「丸投げかテメェ⁉︎ 」
流石に箒としても専用機なんていう物を受け取るのは気が引けるようだが、束はグイグイと押す。
そして面倒なところは全部カズキに丸投げした。
あんまりな対応に思わずカズキは声を荒げる。
そんなカズキを前にして束は下手くそな口笛を吹きながら明後日の方向を向いて誤魔化す。
痛み出した胃と頭を抑えながら、紅椿に目を向ける。
そこでふと疑問が浮かんだ。
"護身用とはいえ身内認定すればどこまでも甘やかすコイツがただのISを渡すのか"と。
「....おい、束。一つ質問いいか?」
「何?」
意識が別の方へ向いてくれたと認識した束は明るい声色でカズキに返事をした。
カズキは嫌な予感から眉を引きつかせながら質問する。
「こいつは何世代のISだ。」
「えーっと...推定4世代かな。」
当然のことと言わんばかりにサラッととんでもない答えが飛んできた。
流石のカズキも我慢の限界に達し束に近づくとアイアンクローを喰らわす。
「あだだだだだだだっ!!頭が、頭がぁ⁉︎」
「テメェはなんてことしてんだこのクソボケェ!」
なぜこんなにもカズキがキレたのか説明しよう。
この紅椿は推定第4世代のISだ。そして現行機における最新型は第3世代で、今だに各国が運用している主力機は第2世代なのだ。
第2世代と第4世代機の差は歴然であり、一概に比較はできないが戦闘機で言えば冷戦期に生まれたF-4と冷戦終結後に生まれたF-22ほどの差がある。
それ程までに差は歴然であり性能差は明白であった。
「だってだってぇ!箒ちゃんが心配なんだもん!かーくんはよく怪我するし、少しは自衛できた方が楽になるなるでしょ!」
「それは、そうだが...。」
「とりあえず離してくれないかなっ!」
束の言い分はわからないこともなかった。
家族が心配な気持ちは失ってしまった人間としては痛いほど理解できる。
それだけではなく己の身を案じてのこともあったため起こりづらくなり、少し怒りが収まり冷静になった。
怒るに怒れなくなったカズキは腹の中に残った苛立ちをため息と共に吐き出す。
「......お前の考えはわかった。だが、せめて相談するなり事前に言ってくれ。そういうのが原因でお前やコイツが狙われる原因を作りかねん。」
「......ごめんなさい。」
「いいよ。心配かけたオレにも原因がある。言っとくが次はないからな。」
「うんっ!」
カズキとしては面倒事というのもあったが、それ以上に世界から見てオーバースペックのものを気軽に作ってしまうと束がせっかくの居場所を失ってしまうことを危惧していたのだ。
心配が故に起こっていたのだと理解した束はしゅんと気落ちし申し訳なさそうに謝罪する。
見たこともない姉の姿に箒は驚いていたが、カズキの許しによって表情を明るくさせた束に訝しげな視線を向ける。
「.....やっぱり付き合ってないは嘘では?」
「ち、違うからねっ!」
「何がだよ....?」
「かーくんは気にしないで!」
♢
先ほどの恥ずかしさのせいか若干頬が赤い束が誤魔化すように大げさな咳払いを済ませ次の話に移る。
「そ、それじゃあ、次行ってみよう!こっちはかーくん用だよ。」
紅椿の時と同じように「オープン!」という声と共に押されたスイッチによりコンテナが開く。
そこにあったものは武装といくつかの機材であった。
「今度は何するつもりだ?」
「別に何も企んでないよ。これはかーくんの"不知火弍型"の改修用のパーツだよ。」
カズキから向けられた疑いの目に束は心外とでも言いたげに肩をすくめる。
束はコンテナの中から何かを引っ張り出す。
「はい、これ。ちゃんと直しておいたよ。」
他はわねの手に握られていたものは紫と黒で構成された国連軍仕様のボディスーツ。
肩には国連軍の所属を示すUNの文字と、似合もしないピンクのリボンを付けられた鎌を担いだ死神のマーク。
所属していた第1001戦術機甲大隊の部隊章である。
「強化装備....⁉︎ 」
強化装備である。
衛士の標準装備でありこの世界に流れ着いた時に着用していたものである。
一部の機能が故障してしまっていたのと、拳銃程度なら防げる防弾仕様の生地が傷ついてしまっていたのだが、捨てる気になれず着用するのをやめていたのだ。
それに気がついた束の手によって修復されバージョンアップされていた。
「ちょっと遅れたけどかーくんにも誕生日プレゼントだよ。」
そう言うと綺麗に畳まれた強化装備を手渡される。
カズキは強化装備を受け取り握りしめる。
強化装備を身につけて戦場に出てから多くを失った。
仲間、友人、家族、故郷、愛する人。
苦悩に満ちた今までの人生の記憶が頭を駆け巡り、カズキは思わず顔を顰めてしまう。
「.....ダメだった?」
不安そうな束の声にハッと我に帰る。
「......いや、色々と思い出してただけだ。大丈夫だ。」
「そっか。」
慌てて首を横に振れば安心したように束は息を吐いた。
「そういえばお前の言ってた不知火の改修は時間かかるのか?あんまり手元から離したくはないんだが。」
「いや、すぐだよ。追加プログラムをダウンロードして拡張領域の最適化と追加装備に適したFCSにアップグレードするだけだからね。」
「それなら頼む。」
「おっけー!」
任務中であるのもありできるだけ手元から不知火を離したくなかったが、束曰くすぐ終わるらしいので不知火の待機状態である腕輪を渡した。
受け取ると何やら機械に接続しカタカタとキーボードを叩きだした。
そんな中、自分の受け取ることになる紅椿をじっと見つめる箒に声をかける。
「箒。」
「なんだ?」
「お前が紅椿を受け取ったと言うことは、今まで以上にありとあらゆる悪意が向けられることになる。」
第四世代の新型IS。
それも"天災"篠ノ之束のお手製の逸品。
世界中のISに関わるものや各国からは喉が出るほど欲しいものだろう。
隣で専用機をもらって少し舞い上がっている様子の箒にカズキは声を掛ける。
「一夏の隣で戦うことができる力を手に入れて嬉しいか?」
「っ!?」
「そんな浮かれてる暇はないぞ。力を持つということはそれ相応の責任が伴う。正直お前には多少の知識はあってもIS操縦の腕はない。そんなお前には過剰な力だが製造者本人からの、お前の姉からの願いによってこれはお前のものになる。....束の想いを裏切るなよ。」
「.....わかっている。」
「それだけではないぞ。今後ありとあらゆる悪意がお前を襲うことになる。そのことをしっかりと覚悟しておけよ。」
「.....。」
箒はカズキの言葉を噛み締めるように深く頷いた。
そんな中、話が終わるのを見計らっていたのかはわからないが束が「終わった〜!」と声を上げる。
「それじゃあ、早速『CPより展開中の全部隊へ。緊急事態発生、緊急行動プロトコルCに従い学生の保護、並びに周辺警戒に移れ。休憩中の部隊も全てだ。繰り返す...』
束の言葉を遮るようにカズキの耳にささっているインカムからCPからの通信が響いた。
冷静だが、声が若干上擦っており焦燥が感じられた。
通信にあった緊急行動プロトコルCとは敵性ISの出現を示している。
「束、すまんが緊急事態だ。子供達を集めて避難しろ。」
「えっ⁉︎ 」
「箒お前も学生と合流して避難しろ。」
「わかった。」
束はこんな突発的な事態に困惑していたが、流石に何回か経験がある箒は冷静にその切迫した事態を察した。
その素早い動きに束は驚きながらも、箒と共に駆け出して行った。
♢
「なんでコイツらがここにいるんだ?」
カズキは苛立ちから吐き捨てるように疑問を投げた。
司令室に辿り着き、各部隊の隊長が集まるのを待っていたのだが、千冬と真耶の他専用機乗りのメンバーが続々と集まってきたのだ。
「それが、その。」
「IS委員会からISに関してはISで対処せよとの通達が来まして....。」
苛立ちのこもったカズキの低い声に涙目になりながら答えようとした真耶を哀れに思った司令室の通信士官が説明する。
曰く、国連軍総司令部を飛び越えて国際IS委員会からの指示が千冬の元に来たらしいのだ。
内容は以下の通りである。
『すべてのISは国際IS委員会の名のもとに管理されるべきものであるため、国連軍ではなくIS委員会によって目下暴走中のISは鎮圧されなければならないものである。よって本委員会管轄の組織であるIS学園所属のISをもって迎撃せよ。』
なんとも上から目線であり、事前協議など何一つしていないことが窺い知れる内容である。
「何を考えてやがるあのクソババァども....ッ」
内容を聞いたカズキは忌々しげに吐き捨てる。
そんな姿に一介の学生にすぎない彼女たちは怯んでしまう。
「落ち着きなよスターク。」
見かねたヤンがTACネームで呼び諌める。
「...すまん、取り乱した。」
「いいさ。....それで、どうするんだい?」
落ち着きを取り戻したカズキにヤンは今後の方針を尋ねる。
短いため息をこぼすと、短く悩みすぐに答えを出す。
「とりあえずそちらの事情は把握した。言い訳が効くようにここに居ることは認めるが指示には従え。」
「了承しました。協力感謝します。」
「.....さて、ザハロフ中尉。現状を説明してくれ。」
千冬たちに滞在の許可を出し、さっさと現状把握のためCP士官であるザハロフに説明を促す。
ザハロフは頷くと、中央に置かれた装置を操作しホログラムを出す。
ホログラムには地図が表示され、ハワイに時刻が表示されザハロフが話を進める。
説明によれば日本時間0820時において、アメリカ合衆国オアフ島沖にて実証試験中であった試験機が暴走。
試験機は暴走後、呼びかけに応答せず支援任務中であった第二世代IS“ヴァルキリー”二機を撃墜。(撃墜されたIS搭乗者は負傷はあるものの生存)
その後、空軍のF-22が四機スクランブル発進し追撃に入ったが振り切られたらしい。
「暴走だと....。」
「はい、国防総省は搭乗者による反乱の可能性は少ないと判断したようです。」
「すまないな。話の腰を折ってしまった。」
「お気になさらず。....続けます。」
話の途中に引っかかった部分があったようでカズキが途中で疑問をこぼしたが、話は続く。
米空軍を振り切ったISはそのまま北東方向へと飛行を続け段違いへと遁走。
監視衛星にて捜索を行ったが目標物は人よりも少し多い程度のもであり捜索は難航、とうとう発見はできなかった。
次に探知された時には硫黄島沖500kmにまで迫っており、訓練航海中だったUSSラルフ•ジョンソンの対IS用レーダーで捉えられた。
そこまできて米軍所属機による同盟国に対する攻撃が現実味を増し急遽、即時対応可能である我々に救援要請が届いたようだ。
「そして予測進路から導き出された目標地点はここ、というわけか。」
「そういうことです。」
経緯と現状は理解できたが、カズキには疑問が浮かんでいた。
「オレたちを狙うには派手すぎるな。」
「はい、私も同意見です。やるなら現地工作員を用いて直接狙えばいい。にも関わらず米軍の試験機を暴走させるなんて面倒な手順を踏む理由がわかりません。」
「他に狙いがあるのか.....?まぁいい、そんなことを考えるのは米軍と自衛隊に任せておこう。試験機といえ新型のISの迎撃。オレとヤンだけでは苦戦しそうだな。...他に増援はいるのか?」
「はい、基地に待機中のガルーダ隊のほか二名も合流予定です。学園の防衛は在日米軍が代わりに行うようです。」
そこまで聞いてふと嫌な予感と共に思い出す。
ハワイで実証試験中だった新型のIS?
嫌な予感を抑えるためか無意識にポケットから取り出したジッポライターを握りしめた。
頭をよぎるのはナターシャからの手紙の内容。
『"銀の福音"のテストパイロットとして充実した日々を送ってる』
あり得ないと頭を横に振り、声を振るわせながらザハロフに問うた。
「....ところで、聞いてなかったな。そのISと、搭乗者の名前はなんというんだ?」
若干の声の震えにヤンや千冬、鈴、簪といった鋭い面々は訝しんでいたが、カズキに声を掛ける前にザハロフが口を開いた。
「はっ。確か......ISは"銀の福音"。アメリカとイスラエルの共同開発機です。そして搭乗者の名前はナターシャ•ファイルス。米空軍の中尉です。」
そのセリフを聞くと同時にカズキはライターの蓋を指で弾いて開いた。
部屋の中にチンっとライターの音が嫌に響いた。
相変わらず話が進まねぇ...。
てな訳で第五十七話いかがだったでしょうか。
独自設定の機体も名前だけですが登場したのでちょっと紹介。
解説
第二世代機"ヴァルキリー"
アメリカ独自開発の本機は第二世代機であり、遠•中距離戦を主体で考えられた設計であり第二世代機では随一の機動性と安定性を有している機体である。
機動力のあるISに対して高機動性を活かし敵の射程圏外から弾幕を張るというのが本機のコンセプトである。
しかしオプションパーツのグラディウスという両刃剣やスピアによる近接戦を好むパイロットも少なくない。
米国内では38機が配備され派生型も複数存在している。