ソラを駆ける衛士   作:タリズマン

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気づけば季節も冬になろうとしています...。
うん、遅々として投稿ペースが上がらん。

毎度のことながら遅くなりましたが、どうぞ。


第五十九話

カツカツと苛立たしげな軍靴の音が廊下に響く。

カズキは先ほどのヤンの言葉を思い返していた。

 

"キミの戦争は、もう終わったんだ!"

 

わかってんだよ。そんなこと。

理解はできても納得はできないんだよッ!

 

"君は戦友から託された事を忘れてしまっているんじゃないか⁉︎"

 

そんなわけない。

託されたことは全部覚えてる。

だが、オレにそれは達成できなかっただけのことだ!

 

"今度こそ守り抜けばいいだろ!救い出せばいいだろ!!"

 

簡単に言いやがって。

それができてりゃ苦労しねぇんだよッ!

 

気がつけばカズキは自分達に与えられたロッカーに拳を叩き込んでいた。

ヤンの何もわかってない言葉に苛立っていた。

...いや、どこか図星を突かれていた。

その事実がさらにカズキを苛立たせていた。

 

ひしゃげたロッカーから血が滴り落ちる。

どうやら叩き込んだ拳から出血してしまったようだ。

カズキはひしゃげたロッカーと滴る己の血を見て、茹で上がった頭が少し冷静になっていくことを感じていた。

 

「......カズキくん?」

 

苛立ちからか注意が散漫になっている中、急に背後から声をかけられる。

近くに人がいるなど全く感じていなかったカズキは驚き、声のした方へ振り向く。

 

「どうしたの?....大丈夫?」

 

そこにいたのは心配そうにカズキを見つめる清香とクロエの2人だった。

知ってる顔であったことに安心したが、自分の現状を思い出し気まずそうに目を逸らす。

しかし、クロエは血の匂いを感じていたし、ロッカーを殴った音は2人にバッチリ聞こえていたため、すぐにバレた。

 

「お父様!手から血が⁉︎ 」

 

「ええっ⁉︎ ちょっと手を見せて!」

 

「いや、これは...。」

 

「いいからっ!」

 

カズキは誤魔化そうとしたが清香は叱るように声を上げると、渋々自分の右手を差し出した。

清香は右手の傷を見てすぐにポケットの中からハンカチを取り出し傷口に当てる。

 

「なんで...こんな....。」

 

悲しげな彼女の声に申し訳ない感情が込み上げてくるが、訳を話すわけにもいかない。

カズキは逃げるように彼女から目を逸らす。

が、回り込むようにクロエがそちらに回り込んでいた。

 

「お父様は気まずくなったり隠し事があると、こういうふうに目を逸らすんですよ。」

 

「....うん。ちゃんと覚えておくね。」

 

クロエはバッチリとカズキと目を合わせながら清香にレクチャーするように話す。

 

「あっ!また目を逸らしましたね!お父様!」

 

再び目を逸らしたカズキにどこか楽しげにクロエは微笑む。

そんな様子を見て清香も先ほどまでの、傷を見て混乱していた頭がいくらか落ち着いてきた。

 

ロッカーを殴ってできた傷だろうが、ロッカーを殴った理由はわからない。

たまたま持っていたヘアゴムを使って簡単にハンカチを固定しながら、理由を聞くべきか聞かないべきか少し悩む。

表情を見る限り気まずげだし話しにくい事なのだろう。

 

「....うん。とりあえずこれでいいかな?あとでちゃんと傷を見てもらうんだよ。」

 

そう言うと改めてカズキを見やる。

相変わらずか気まずげに視線を合わせようとはしない。

そんな弱々しげな彼の姿を見て、ふぅと小さく息を吐く。

 

「カズキくん。」

 

「.....なんだ?」

 

「カズキくんに何があったのかを今聞く気はないよ。」

 

その言葉に少し驚いたように清香の方を見る。

そんな様が少しおかしく感じて、クスッと思わず笑ってしまう。

 

「やっとこっち見てくれたね。」

 

そう言って微笑む清香。

 

「カズキくんはさ....いっつも無茶するよね。もちろん私達を守るために、お仕事だからっていうのもわかってる。そんなカズキくんだからこそ、色々と抱え込んでることも想像できるの。」

 

清香はそう言いながらカズキの傷に添えられたハンカチにそっと手を添える。

 

「だからさ...その....頼りないとは思うけど、私達を頼って欲しいんだ。」

 

「頼る....?」

 

「うん。一緒に戦う事はできないけどさ、たまに溜め込んだことを聞くぐらいはできると思うんだ。もちろん話せないこともあると思う。でも、苦しい、悲しい、そういった感情をほんの少し吐き出すだけでも少しは楽になると思うんだ。」

 

その言葉は妙なほどに胸にスッと入ってきた。

何故だろうか。

どこかで同じようなことを言われた気がする。

 

「だからさ....それぐらいは私にも支えさせてよ。」

 

「清香.....。」

 

カズキは清香の目を見る。

彼女の瞳は真っ直ぐにこちらを見つめていた。

 

「......ありがとな。そうだな、帰ってきたら少し、吐き出してみようかな。」

 

小さく、だが確かに口にした言葉に清香は微笑みを浮かべる。

しかし、至近距離で話していたことに気がつき顔を赤くさせわたわたと慌て出す。

 

「ご、ごめんね!急にこんなこと言っちゃって!あっ、クロエちゃん渡すものがあったんじゃなかったっけ⁉︎」

 

コロコロと表情を変えながら誤魔化すように早口で捲し立てる清香を見て自然と笑みを浮かべてしまう。

 

「ちょっと!笑うことないじゃん!」

 

「ふふっ、いや、思わずな。」

 

羞恥から顔を赤く染める彼女に少し笑いながら答える。

清香は「もーっ!」と怒ったように声を上げる。

 

「クロエ、それで渡すものって?」

 

「そうでした!これを渡したくてお父様を探していたんです!」

 

そう言ってポケットから一つ小さな小袋を取り出した。

 

「これは?」

 

「清香さん達に手伝ってもらって作った御守りです!....これぐらいしかできませんから。」

 

少し縫い目ががたついている御守りを受け取る。

御守りの表面には安全祈願と縫い付けてあり、中には何か入っているようだが中身については聞かずに受け取っておく。

懐にしまうとカズキはクロエの頭を撫でる。

 

「ありがとう。こんなもの貰っちまった以上は無事に帰ってこないとな。」

 

「はい!怪我なく帰ってきてください!」

 

「努力するよ。谷本達にも礼を言っといてくれ。」

 

その言葉に元気な返事を返すクロエの頭をさらに撫でる。

 

「さて、そろそろ部屋に戻れ。見つかったら怒られるぞ。」

 

「そうだね。....クロエちゃん、戻ろっか。」

 

「はい!お父様、頑張ってくださいね。」

 

「無事に帰ってきてよ。みんな心配してるから。」

 

「ああ。」

 

2人を見送ると、冷静になれたことで盗み聞きをしていた女に声をかける。

 

「盗み聞きなんて趣味が悪いんじゃないか。」

 

すると、ちょうど死角になっていたロッカーの影から女が出てくる。

 

「FSBに盗み聞きを咎めても無意味だぞ。」

 

ラーノチカはそう言いながらカズキのそばまで歩いてくる。

 

「....いい子達だな。」

 

「....ああ。だからこそ守り抜かなくちゃいけない。」

 

カズキは覚悟を決めた表情になる。

こんな自分にどこまでできるかはわからない。

だが、せめて彼女達が戦場なんて知らずに済むように、相棒を殺す覚悟を再び確認した。

 

「状況は把握してる。私が臨時でお前のエレメントになろう。」

 

「....いいのか?」

 

ロシアから身を隠している人間なのに表に出てもいいのか、という確認。

そして、自分と同じ"同志“と認めた人間を殺すことになるが構わないのか、という疑問。

カズキの言葉にフッと笑みを浮かべると、彼女は口を開く。

 

「構わんさ。どうせ私の行動はある程度バレている。そこまで祖国はアホじゃない。」

 

そこで言葉を切りふぅ、と息を吐き「それに」と続ける。

 

「私はFSB、それもA局の人間だぞ。汚れ仕事は慣れてる。あのヤンキー(アリシア)クラウツ(クラリッサ)より私の方が適任だろう。」

 

「....そうか。それなら頼む。」

 

「お前には手伝ってもらわなくちゃならんことがあるからな。」

 

そう言うと、2人は指令室へ足を向けた。

 

 

司令室には装備を整えたクラリッサとアリシアが待っていた。

ヤンはいないようだが、IS学園の面々は相変わらず居座っていた。

部屋に入ったカズキはため息をこぼしそうになるが、あえて無視して2人の部下を見据える。

 

どちらも不安そうな表情を浮かべていたが、ラーノチカを見て表情を変えた。

 

「.....そちらのロシア人は?」

 

冷戦期から、下手をすればそれより昔から仮想敵国人であるロシア人が装備を整えていれば当然の疑問だろう。

特に目標である銀の福音はアメリカ軍の機体であるのだから尚更だ。

 

「こいつはスヴェトラーナ•マヤコフスキー大尉。今回はこいつとエレメントを組む。」

 

「なっ⁉︎ 」

 

「質問があるなら受け付けるが?」

 

エレメントを組むことを伝えられるとアリシアは驚きの声を上げる。

本来のエレメントであるヤンを外しておきながら、信用できるかもわからないロシア人とエレメントを組むことが信じられなかった。

その声にカズキからジロリと視線を向けられ少し怯むが声を上げた。

 

「....でしたら、そのマヤコフスキー大尉の所属は?」

 

「それは...。」

 

「私の口から言おう。」

 

質問に対してカズキが答えようとするが、ラーノチカがそれを遮る。

アリシアは飄々とした態度を崩さないロシア人を見やる。

 

「それでは、改めて聞きます。あなたの所属は?」

 

「ロシア連邦内務省のFSB、A局に所属している。」

 

FSBのA局。

生粋のアメリカ軍人であるアリシアからすればFSBと言えば反体制派を弾圧し、強行的な手段も厭わない悪逆の存在。

認められるわけがなかった。

 

「隊長!FSBなんかを信用するんですか⁉︎ 」

 

「ああ。顔も知らないラングレーの連中なんかよりもよっぽどな。」

 

「これはアメリカの国益にッ!」

 

「アメリカの国益が現在の任務に関係があるのか?」

 

「それはッ.....⁉︎ 」

 

アリシアはカズキからの淡々とした反応に声を荒げるが一蹴され口を噤む。

そんな彼女にラーノチカが声をかけた。

 

「合衆国の人間であるキミが私を信用できないのはわかる。....だが、ナターシャもカズキも私の友人だ。悔しい気持ちもあるしできれば助けたいとも思わないわけではない。」

 

「それなら!」

 

「だがな、ここの指揮官はコイツだ。コイツが白といえば白になるし、黒と言えば黒になる。それが軍隊だ。それができないなら除隊を勧めるよ。」

 

ラーノチカの言葉に顔を顰めながら唇を噛む。

言ってることは正論であり、どこまでも正しい。

だが、アリシアは自分が憧れた人を救いたいのだ。

1人の合衆国軍人として、戦友を決して見捨てないという合衆国軍の誇りを忘れたくないのだ。

その様子を眺めていたカズキが口を開く。

 

「....わかった。それならハルフォーフ中尉、アンダーセン少尉の両名は、CPの直掩に当たってくれ。」

 

「待てカズキ。小隊ですらない最低単位のエレメントで性能もわからない敵に当たるなど無謀だ!」

 

「だからこそ後詰めが必要だ。第一、不信感を抱いてる人間をそばに置いて戦ってカバーが遅れては元も子もない。」

 

「しかしっ!」

 

「これは決定事項だ。」

 

「ッ!.....了解した。」

 

もっともらしい理由を言ったがカズキは最初からこうするつもりであった。

ダーティミッションの経験のある自分とラーノチカでナターシャを殺す。

正規軍人であり敵を殺したこと、もしくは殺す覚悟をしていても仲間や顔見知りを殺すなどという経験のない2人には叶うなら綺麗なままでいてほしい。

カズキもラーノチカもそう考えていた。

わざわざ手を汚しに行く必要などないのだから。

 

「それでは改めて説明する。まずオレとラーノチカが敵との交戦を行う。これは強行偵察として行うつもりだ。可能ならばそのまま撃墜に持っていく。だが万が一、我々のみでの撃墜が不可能と判断した場合、増援として貴様らに出てもらう。基本としては遠距離からの支援攻撃のみに徹してもらう。」

 

「つまり、出番が回ってきたとしても直接火力支援のみに留めろと?」

 

「そうだ。近中距離戦は我々で行う。」

 

「....わかった。それでは装備編成は遠距離戦用のC装備にしておく。」

 

「頼んだ。....それでは、ガルーダ隊出撃!」

 

 

「仕方ないとはいえ、あそこまでズバリ切り捨ててよかったのか?」

 

銀の福音との接敵予測ポイントまで巡航速度で飛行している中、ラーノチカが問いかける。

カズキは気にしてもしょうがないと割り切っているのか、鼻をふんっと鳴らすだけで返す。

そんな彼にラーノチカはため息をこぼしながら正面を向き直す。

 

拠点を出発してから15分が経ち、接敵までもう少しといったところだ。

目標が小さいため目視距離まではまだだがISのハイパーセンサーに反応がある。

すでに装備の安全装置は解除しており接敵と同時に交戦が可能だ。

 

目標捕捉(タリホー)!米粒レベルだが視認した!」

 

CP(コマンドポスト)了解。交戦規定に則り警告を実施せよ。』

 

カズキがCPからの指示に従い警告を始める。

 

「ガルーダ1了解。...あ〜、接近中の不明機に告げる。こちらは国連軍第16特務小隊、貴機は日本国領空に接近中である。速やかに武装解除の上、本機に従え。本機に従わない場合は撃墜する。繰り返す、本機の...ッ⁉︎ 」

 

繰り返しの警告を述べようとした瞬間、警報が鳴り響き出す。

 

「ロックオンされた!ブレイク!ブレイク!」

 

「明確な敵対行動を確認!」

 

『CP了解。撃墜を許可。』

 

「了解!ガルーダ隊、兵器使用自由(ウェポンズフリー)!エンゲージ!」

 

戦闘が始まった。

まるで戦闘機が行う模擬空戦のように互いにすれ違ったのちに旋回を始める。

しかし、機動性能は新鋭機である銀の福音に軍配が上がる。

 

銀の福音は一気に高度を上げると、まるで舞でも踊っているかのようにクルリと一回転ロールをする。

瞬間、辺りに光弾が放たれる。

 

「クソっ⁉︎ 」

 

その攻撃はまるで数十年前の軍艦の対空砲火のように濃密で激しいものだった。

カズキは必死に回避運動をしながら全4門の突撃砲で適当に球をばら撒く。

運良く何発か当たり光弾は爆発するが、その爆炎の中からさらに光弾が迫る。

 

「クソっ!知ってはいたがこの密度で追尾してくんのかよッ!」

 

追尾性能がある以上、ただ回避してるだけではキリが無いため高空まで一気に高度を上げる。

回避行動を続けた甲斐もあり追尾してきていた光弾の密度は相当薄くなっていた。

それを確認するとマニュアルでPICを切る。

慣性制御を失った機体は今までの上昇をやめ一直線に落下していく。

弾幕の間をすり抜けつつ、補助腕の突撃砲で発砲しつつ手は長刀に持ち替える。

 

銀の福音はこちらに接近されるのを嫌ったのか、再び射撃のためにロールを行おうとする。

その瞬間、頭と腕に弾丸が叩き込まれる。

 

ラーノチカである。

 

カズキが銀の福音とすれ違った時点で少し離れた位置で狙撃態勢を整えていたのだ。

叩き込んだ弾丸は76mm、フリゲート艦などの主砲弾と同サイズである。

それが人間大のモノに命中したのだ。

その衝撃は凄まじく、銀の福音は大きく仰け反りとてつもなく大きな隙が生まれた。

ラーノチカは"ナターシャではなく機械相手ならこの程度か"と心の中で呟き、カズキが一撃を叩き込み終わるモノだと確信した。

 

「ナターシャァァァアアアアアアア!!!」

 

その期待通り、一直線に銀の福音に向け降下したカズキは一刀のもとに切り伏せる"はず"だった。

 

そう"はず"だった。

 

この空にいるのはナターシャの搭乗する銀の福音しかいないと、この戦場に関与しているほぼ全員が認識していた。

だが、それは間違いであった。

 

"切り伏せて終わらせる"、その悲壮な覚悟と共に突撃したカズキは突然銀の福音もろとも爆発に巻き込まれた。

ラーノチカは突如起きた予想だにしない事態に思考が硬直したが、すぐに索敵を行う。

 

すると、少し離れた位置に4機の見たこともない機体がいた。

見たこともないのは無理も無いだろう。

その機体は"本来の姿"に比べれば遥かに小さい。

だが、それ以前に"この世界"には存在していなかったモノ。

 

それはその世界においては無用の長物であるはずのステルス性能を付与し、一部の特務部隊にのみ配備された"マンハンター"

 

その名を『F-22 ラプター』

 

この世界に解き放たれた猛禽類が今、狩を始めようとしてた。

 

 




いかがだったでしょうか。

ようやく、ようやくラプターを出せましたよ。
ここまで長かった....。

ここからの続きの構想は多々あるんですが、このペースで進めると一体完結はいつになることやらといった感じですのでもう少しペースをあげたいんですけどね。言うは易し、行うは難しですね。

さて、ところどころ専門用語がありますので一応解説。

FSB(ロシア連邦保安庁)
連邦保安局という名前で一般的には知られ、全身組織はチェカーやKGBでありロシアの諜報機関である。
諜報機関といえどその業務は多岐に渡り、対テロ特殊部隊(A局)や原子力施設防護部隊(V局)といった実力組織から麻薬の取り締まりといった警察業務、そして諜報活動などがある。
ラーノチカはA局の対テロ部隊所属。

ラングレー
CIA(中央情報局)のこと。CIAは言わずとも知れたアメリカの対外諜報機関である。
所在地がバージニア州マクレーンにあり、その一帯をラングレーと呼称していたことからCIA本部を指しラングレーと呼ばれることがある。

CP(コマンドポスト)
軍の指揮所のことを指す。
似たようなものでHQ(ヘッドクォーター)があるがこちらは本部や司令部を意味するものであり、作中のガルーダ隊の現在のHQはIS学園に設置された横浜HQである。
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