転生失敗 ~異世界トラックに跳ねられたら全治三ヶ月で、しかも超美少女の婚約者が出来ました~   作:無神 タカト

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その1ー9【剛腕獅子、出現!】

──────────────ピシッ

 

「・・・・・・・・・あぁそうかい」

 

 ほんの一瞬、ただの一度、避難所に集まった人々から発せられる声や音、喧騒ともいえる雑音の中で鳴ったその小さな小さな異音を、暁人の耳は正確に聞き取っていた。

 木が軋むようで、そうではなく。

 ガラスにヒビが入るようで、そうではない。

 そんな曖昧な、だが確実に何かが割れた音で会った。

 この音はきっと誰もが聞こえていただろう、だが誰も気にしない。生活音、いや、空気が摺れる音以下のその音を気にする者など、虫の音を声と感じる希有な日本人ですら少数だ。

 では何故、暁人はその音を明確に感じ取ったのだろうか。

 その理由はひとつ、慣れだ。

 何百と聞いたその音に、暁人の生存本能が刺激された。全身の毛が逆立った。魔力が昂った。[ドウジ切]を握る手に力が籠った。

 戦闘体制。

 これは、この音に慣れた者たちにとって共通する反射だ。

 

 ピシッ

 

「どうしたの暁人?」

 

 ピシッ

 

「どうかしましたか?」

 

 ピシッピシッ

 

「──────あら、これは何かしら?」

 

 避難所の中央付近にいた老婆が、虚空を指さしそう言った。

 

「うーん、そうだなぁ──────ここに来るんだって、思ってね」

 

 老婆が指さした虚空には、亀裂のような何かが広がっていた。その亀裂のような何かは、音を立てながらどんどん広がり、僅かに見える隙間からは白い光が漏れだしていた。

 そしてついに──────

 

 パリンッ──────!!!

 

「夕華、実、【対物理障壁】」

 

 俺がそう言うと同時に、2人はそれぞれのデバイスを抜いた。

 いい反応だ。

 夕華は40センチほどの杖型、実は1尺ほどの短刀だった。

 

「「【対物理障壁】!!」」

 

 夕華は40cmほどの杖、実は1尺ほどの短刀、それぞれのデバイスを手に2人は俺の指示通り無属性魔術【対物理障壁】で空間に空いた穴、いや《門ゲート》を囲った。

 魔術士資格を持つ夕華と、そんな夕華のメイドとしてあの親バカがつけたメイドなら当然使えるだろうと思った中級魔術だが、無事2人共使えて結構安心した。

【対物理障壁】は無属性初級魔術【バリア】の派生魔術だ。物理と非物理の両方に対しての防御である【バリア】の非物理面への耐性効果を削り、物理面への耐性効果を大幅に強化した障壁系魔術。

 この【対物理障壁】と、更に対をなす【対非物理障壁】で《門ゲート》を囲うのが《門ゲート》災害対策の第一段階なのだが、明らか慣れていなさそうな夕華と実にはどちかに注力してもらっていた方がいいだろう。

 まぁこれで、《門ゲート》から実体を持たないタイプの使徒が出てきたら何の意味もないんだけど・・・。

 

「・・・どっちが出てくるかなぁ」

 

「あ─────ひ、避難、皆さん直ちにここから避難してください!!!」

 

 突然の《門ゲート》の出現に驚き、思考停止していた職員が叫んだ。

 その声を聴き、避難所内にいた人々が出口に向かって殺到した。

 

「落ち着いて、落ち着いて避難してください!!」

 

 職員が必死に叫んでいるが、誰も聞く耳を持っていない。次々に人がなだれ込み、転倒する人もいた。

 というか、松葉杖をついたおじいちゃんがすごい速さで跳ねていった・・・。

 

「人って必死になるとあんなことできるんだなぁ・・・────────────お、来るぞ」

 

 白色の光を放つ《門ゲート》の表面に紫電が迸る。

 使徒出現の兆候だ。

 

「なーにが出るかなぁ〜?───おっ」

 

放電を続ける白い虚空から銀色のライオンのような顔が飛び出した。

 

「よかったぁ〜、実態持ちだ」

 

 あの顔の色は《門ゲート》から現れる使徒の中では最もポピュラーな使徒、No.3系統{異界機獣}達が持つ肌の色、つまり実体を持つタイプの使徒の手だ。

 ちなみに顔から出てきてくれたので、分類もすぐに分かった。

 ライオンの顔を持つ{異界機獣}は一種類のみ、ならばあれは{異界機獣}剛腕獅子。

 

「他の方は避難されましたので、みなさんも早く!」

 

 職員からそんな声をかけられ、辺りを見回してみると誰もいなかった。視線をずっと使徒に向けていたせいで、避難が終わっていることに気づかなかったのだろう。

 

「いえ、俺たちはもう少しこれを抑えてから行きますので、次の避難所の場所だけ教えて頂けますか?」

 

「ちょっ!?」

 

 【対物理障壁】を維持したまま、実が驚愕の声を上げる。

 

「しょうがないわよ、実。あれは使徒の中でも特に機動力に長けると言われている、{異界機獣}種。今逃げ出しても直ぐに追いつかれてしまうわ」

 

 よく知っているな、と素直にそう思った。

 {異界機獣}は俺たちの世界に存在する生物を、二体以上足し合わせたような姿を持つ。わかりやすく例えると、キメラとか、日本で言うと鵺とかそんな感じだ。

 その特徴は主に三つ。

 一つ目は高い機動力。

 胴体や足部分が俺たちの世界でどれほど遅く、のろまな生物であろうとも、{異界機獣}にそれは当てはまらない。とにかくすばしっこく、そして速度を維持して動き続けるスタミナを持っている。

 二つ目は、死んだら消えるということ。

 この{異界機獣}と呼ばれる使徒は、死ぬ、というか活動停止というか、まぁそれっぽくなると突如として消える。イメージとしては、光の剣を振り回して銃弾を弾くあの騎士たちの消え方、死に方をイメージするとわかりやすいだろう。

 具体例をあげるなら、ep4のオビワ○、ep6のヨ○ダ、認めがたき(私怨)ep8のル○クのような感じだな。

 つまり検体採取不可能で、最も研究の進んでいない使徒と言ってもいいだろう。

 そして三つ目だが、これはすぐ分かる。

 

「で、ですがっ、それだったら夕華様だけでも」

 

「いや、それはきついなぁ」

 

「なぜ!?」

 

「下半身がゴリラだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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