転生失敗 ~異世界トラックに跳ねられたら全治三ヶ月で、しかも超美少女の婚約者が出来ました~ 作:無神 タカト
俺の不安や心配など、まるで些事だと嘲笑うかのように時は変わらぬ速さで流れ、約束の刻が訪れた。
俺は既に舞台の上にいて、目の前には斯波さんが立っている。
「よろしくお願いします、無神様」
「えぇ、こちらこそ」
斯波さんは、夏風家の玄関で俺を迎えてくれた時と変わらぬ西洋風の執事服を身に纏い、さらに今は両腕に金属製のガントレットを装着いた。
恐らく、というか確実にあのガントレットが彼のデバイスなのだろう。
魔術士の弱点ともいえる近接戦にも対応できる。俺の苦手なタイプの魔術士だ。
体つきはがっちりとしていて、それでいて靱やか。経験上、このタイプは技術に優れていて力押しは下策も下策だろう。
そういえば、孫の実や奥さんの栞さんは日本風の給仕服であるのに、その祖父は西洋風の執事服なのは好みの違いからなのだろうか。
「両者、準備は良いですか?」
審判役に抜擢された若い執事の言葉に俺と斯波さんが頷く。
「それでは──────」
魔術士も魔法使も操る技に大きな差は存在しているが、結局その技を使うためには魔力を消費する必要がある、ということは変わらない。
そして、魔力を使う、消費する感覚というのは十人十色で多種多様だ。
バーンって感じ、みたいな抽象的なことを言うやつもいれば、量りのついたコップで適量を注ぐようになどと細かいことを言うやつもいる。
俺のイメージは炉だ。
体が炉で、魔力が薪、燃え上がる火が魔術。
そして、火種が抜刀だ。
「始め!」
さぁ、口火を切ろう。
▽▽▽□□□□▽▽▽
「暁人が戦うところを見るのはこれが初めてね」
「そうですね」
構えたビデオカメラのレンズ越しに暁人を見る私の言葉に、隣の実が頷いた。
「この前、使徒を斬った時は早すぎてよく分からなかったもの。そういえば実は、あの時なにか見えた?」
「いえ、私もあまり・・・」
先日、使徒が暁人に襲いかかった時、出会った時と同じように暁人に突き飛ばされた私は、一瞬だけ見えたものがあった。
暁人の顔だ。
あの時、涼し気な笑みを浮かべていた筈の暁人の顔は、あの一瞬だけなんの表情も浮かべていなかった。
「魔法使って、いったいどうやったらなれるのかしら」
その言葉に、実は何も返してくれなかった。
きっと、この子も同じ、あの有咲さんと暁人の会話を思い出しているのだろう。
魔法使達は、なにか重大な秘密を抱えている。
それはきっと魔法使達ならば皆、当たり前のように知っているもので、そして暁人にとっては外に出したくないものなのだろう。
これは、確信。
「そろそろ始まるみたいね」
第一体育館の天井近くにある観戦室から、眼下の暁人を見る。
初めて見る私服姿は、ゆったりとしたとても動きやすそうな物で、カッコイイ。
刀を手に佇むその姿は、いつも通り涼し気でまるで散歩にでも行くかのように感じられる。
「お爺様も、準備はよろしいようですね」
実の言葉に一稀さんを見ると、いつもの訓練では着けていない彼のデバイスを腕に装着し、本来かけているはずの眼鏡を外していた。
本気、なのだろう。
思えば、今日は帰ってきた時から眼鏡を外していた気がする。恐らく、暁人を迎えたその時から眼鏡は掛けていないのだろう。
彼は、本気で戦う時眼鏡を外すのだ。本人の談で、戦闘を眼鏡に頼ると、壊された時戦えなくなる、との事だ。
「一稀さんも本気のようね」
二人の元に審判役の若い執事が近づき、何らかを語りかけている。それに二人が頷くと、審判役は少し距離を取り、右手を高くあげた。
始まる。
「始め!」
右手が勢いよく振り下ろされ、試合が始まった。
「! 珍しいですね」
最初にしかけたのは、なんと一稀さんの方だった。
これは実が言う通り、非常に珍しいことなだ。いつもは様子見から始める一稀さんが、【身体強化】も使い人間離れしたスピードで暁人に迫る。
が、両足と片手を地面につけて勢いを殺し、無理やり止まった。
『お、気づきました?』
舞台に設置された集音器が、暁人の声を拾い、部屋に設置されたスピーカーから流れ出す。
『・・・長年の、勘と言うやつですかな』
気づけば、暁人の右手には鞘のみが握られており、抜きみの刀は左手に握られていた。
「いつの間に・・・」
「開始の合図と同時に、なのでしょうね。私にも、全く見えなかったわ。そんな素振りすら、なかったはず・・・」
『長年の勘、ですか。やっぱり戦闘経験の差ってやつは、こういう闘いでモロに出ますね。普通の人だったら、今の突っ込んできて、そのまま終わってたと思いますよ』
暁人が刀を握った左手を空中で振り抜くと、暁人を中心に半径三メートル程の円が、一瞬にして芝生を切り裂き現れた。
いや、描かれたと言った方が正確なのだろう。あの円は、暁人があの一瞬の一振りだけで描いたのだ。
そして、一稀さんの足はその円の一歩手前で止まっていた。気づいたのだろう。その間合いに。
だからあれ程までの急ブレーキをかけたのだ。
『これが俺の間合いです。小さいでしょう? 魔法使の中でも下から数えた方が早いぐらいの小ささだ』
クルリと刀を回しながら、自嘲気味に暁人が笑う。
『俺は、これしか出来ません。でも、これだけは絶対です』
その声音には絶対的な自信が込められていた。きっと、彼の言う通りあの円の中は、絶対的なまでに彼の領域なのだろう。私のような近接線に心得のない者が、あの線を踏み越えれば一瞬の間も無く切り刻まれる。
『近づきすぎるのは、あまり得策ではないようですな』
一稀さんが後ろに飛び退き、元の位置まで戻って暁人と距離を取る。
『近接線でやらないんですか?』
『えぇ、少々分が悪そうなので、この距離から行かせていただきます。【岩石砲】!』
一稀さんのガントレットが土色の光を放ったかと思うと、突き出した手の先に陣が出現し、そこから拳大ぐらいの大きさが弾丸並みのスピードで発射される。彼がよく使う攻撃魔術、土属性中級【岩石砲】だ。岩の砲弾が向かう先には、もちろん暁人がいる。
恐らく、暁人本人から見ればとてつもない程の速度で迫っていた岩を、首を捻るだけの最小の動作で避けた。
ドゴンッ!
暁人に避けられた岩は、そのまま空気を切り裂いて進み壁に当たって砕け散った。
『すごい威力だ』
射出された岩が当たってしまった部分の壁は、傷つき、大きく凹んでいた。
あの岩石がもし暁人に当たっていれば、最悪の場合暁人は命を落としていただろう。
『でも、当たらなければどうということは──────』
『ない、でしょうな。ならば、これなら如何でしょう、【岩石砲・ガトリング】!』
その言葉と共に、一稀さんの腕から再び陣が現れ、今度は無数の岩が射出された。
通常のガトリング砲より更に威力の高いそれは、無数の岩が集まり、壁となって暁人を襲う。
『あー、こりゃダメだな・・・』
そんな声が聞こえた気がした。
「「!!」」
次の瞬間には、暁人が一稀さんの間合いの内側に現れ、その白銀に輝く刃を一稀さんの首元目掛けて振り下ろしていた。
『ぐ・・・!?』
一稀さんは自身を袈裟斬りにしようと迫る刃を、肩に触れる寸前、ギリギリのところで受け止めていた。
『お、止めた』
『ぬ、うっ』
地に足をつけた暁人が、握る刀に力を込める。暁人の刃と一稀さんのガントレットは、擦れ合いギリギリと音を立てる。
「今のは、【瞬間移動】・・・!?」
空間を越え、一瞬で一稀さんの懐に現れた。そう見えるような、瞬間的な移動。
「い、いえ・・・今回の試合では魔法は使わないと明言しているので、【瞬間移動】ではないはず、です・・・」
実もその目で暁人の動きを捉えることは出来ず。
【瞬間移動】ではないと明言できないでいた。
2人の疑問に答えるように、舞台上の暁人が喋りだす。
『今の、結構な速さの踏み込みだったと思うんだけどなぁ』
『ぐっ・・・まだまだですな』
『傷つく、なぁ!』
ガントレットと触れ合っていた刃を力で振り抜き、一稀さんの右手が上へ弾き飛ばされる。
暁人は上手く勢いを操り、振り抜いた刃をその勢いのまま反転させた。返す刀の行先に一稀さんの体を捉える。
『むんっ。・・・!』
『ダメですね』
空いていた左手を前に出し、迫り来る斬撃を防ごうとすると、その左手は暁人が右手に持っていた鞘の先で抑えられた。
『おっと』
もうダメだ、私も恐らく隣の実も思ったことだろう、だが一稀さんはその危機的状況の中、暁人の足を払う事で無理矢理難を逃れた。
『さすが、上手いですね』
『いえいえ、無神様こそとてもお上手ですね。今のはさすがにヒヤッとしました』
『うーん・・・よしっ』
何か悩むような仕草を見せた後、暁人は再び刀を構えた。今度は下段ではなく、中段で。刃と鞘を使いまるで二刀流のような構えだ。
そのまま弓を引き絞るように上体を下げ、走り出した。
一稀さんとの距離が半分まで来たところで、回転をかけ、その勢いのまま横に倒れた。
「あっ」
「すごい腕力ですね」
驚いた。
倒れかかった暁人が、鞘を地面に突き立てて支えにし、さらに腕バネのように使って飛び上がったのだ。
実の言う通り、なんという腕力だろうか。
足ではなく、片手のみで4メートルは跳躍している。
そのままさらに空中でコマのように回転をかけ、勢いそのまま一稀さんに斬りかかった。
『重い・・・。ですが、所詮重いだけですなっ、【ウォール】!』
『おおっ、すげぇ!』
暁人の斬撃を受け止めた一稀さんの足元の床がせり上がり、岩壁を形成する。その岩壁が隆起する勢いを使い、暁人を弾き返した。
弾かれた暁人の体は、2メートルの岩壁の上に乗る一稀さんよりも更に上を舞っている。足の踏み場もない空中で身動きの取れない暁人を、見逃すような一稀さんではない。
「終わり、ですかね・・・」
『【岩石砲・ガトリング】』
ただの【岩石砲】でも事足りたであろう状況を、わざわざ連射で仕留めに行ったということは、暁人をそれだけの相手であると認めたということだろう。
『仕方ない。────それじゃ、第2ラウンドってことで』
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