オペレーターの百合ヤンデレ   作:狼黒

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気付かぬうちに堕天使に(モスティマ)

ここに閉じ込められてからもう何日たったのだろうか、いやもう数カ月になるのかもしれない

分かっている事と言えば自分が丸腰だということ、ここが何処なのか分からない事、合わせてここから出る手段が今のところ全くないということだけだ

始めは逃げようと思った、だけどアーツユニットがなければ所詮自分は無力なわけで

素手で扉を開けようにも鍵がかかっているのかビクともせず、窓もないこの部屋ではどうしようもなかった

私の趣味である読書のためなのだろうか、いろいろな本が置かれているけど今は読む気にすらなれない

誰かに助けを求めようにも時折運んでくる料理に薬でも入っているのだろう、頭がうまく回らない

拒否したら無理やり食べさせてくるから大人しく食べないといけないんだけど、そうするとさっき言ったみたいに薬が体の中に回るわけで

気づけば歩くどころか、ベットから起き上がることすら億劫になっていた

回らない頭でぼんやりとする頭で照明を眺めていると、扉の鍵が開く音がし、誰かが入ってくる

 

「おはよう、起きてたんだね、まだ朝になる前だよ?」

 

そう言って入ってきたのは青く鮮やかな髪を揺らし微笑を浮かべる堕天使

 

「モス、ティマ…」

 

「そうだね、君の幼馴染で恋人のモスティマだよ?」

 

そう言って後ろ手に扉を閉めるモスティマ

 

「ねぇ、何で…」

 

「ここに閉じ込めた理由?もう何回も話したじゃないか」

 

そう言ってため息をつき、もう何回目かも分からない説明を聞く

トランスポーターの仕事から君が帰ってきたら怪我をしていた、話を聞けば野盗に襲われたと聞いた

これ以上トランスポーターの仕事をするのは危ない、だからここで暮らしてもらう、そんな話だった

だけど私にはそこまでしてもらう、されてもらえる覚えなんてまるでない

さっきモスティマが言っていた恋人云々にしてもそうだ、私はモスティマとはラテラーノから幼馴染なだけであってそれ以上でもそれ以下の関係でもない

それに私がトランスポーターになってあちこちに行くようになってからはたまに会うと話をするというぐらいで特別親密な関係ではなかったはずだ

 

「…大丈夫?顔真っ青だよ?」

 

「…っ、ぁ、いや、大丈夫だから…」

 

「ならいいんだけどさ…何処か痛いとか風邪を引いたとかあったらちゃんと言ってね」

 

出もしない答えを出そうと回らない頭で思考をグルグルと巡らせていると心配そうな声音にはっとする

体の怪我はもう完全に治っており、昔から少し体が弱いことを除けば悪いところなんてない

何度同じ説明を受けても肝心の”何故私に対して”ということが分からない

困惑する私を余所にゆっくりと近づいてくる彼女の手にはもはや見慣れてしまった手錠と足枷

それを見て思わず体を強ばらせれば、それを察してなのか優しい手つきで髪を撫でてきた

 

「モスティマ…それ…やめて…」

 

「だーめ、これがないと君は私がいない間に何処かへ行っちゃうだろう?」

 

「そ、そんな事、ないから…いや、あの、もう私大丈夫だから、無理しないから、だから」

 

「しつこいよ」

 

底冷えするような一言と共にいつの間にか持っていた杖をこちらへ向けてくるモスティマを見て、私の体は竦みあがる

 

「ひっ…ご、ごめん、なさい…」

 

「うんうん、わかってくれてうれしいよ」

 

そう言ってこちらへ向けていた杖を元に戻すと優しい手つきで頬を撫でてくる

怪我が治って動けるようになってから毎日、モスティマが居なくてなおかつ私が起きているときは必ず手錠と足枷をつけられる

寝ているときも気が付けばついている、そんな状態

自身がいない間は必ず着けるようにしているようだった

抵抗や説得を試みてもモスティマのアーツで呼吸を止められ、その間につけられる

そんなやり取りが何回も続くと、それはやがて恐怖と虚しさ、そして絶望がごちゃ混ぜになった感情になる

重くなっていく感情につられるかのように開く口も重くなる

段々とこの状況を受け入れるしかないのだと分からせるようでうまく言葉が出てこない

そうして口を噤んでいると足首と手首に冷たい感触がした

 

「じゃあ私は行くから、今日はいつもより少し早いと思うから、いい子にしててね?」

 

そう言って私の頬にキスをして部屋から出ていく後ろ姿を絶望に染まった感情で見送るのはもう何回目だろうか、バタンと音を立てて扉が閉まると同時にカチャリと鍵をかける音がして、再び一人きりの空間に取り残される

言葉に表すことのできない不安や恐怖が再び頭を支配して呼吸が苦しくなっていく

ベットに繋がれた手錠と足首につけられている足枷の冷たい感触が現実をより深く認識させた

 

無駄だとはわかっていてもここで手錠と足枷さえ外せばここから出ることも可能かもしれない

扉はそこまで頑丈ではない作りだと思うし、体当たりすれば突き破ることもできるかもしれない

そんな蜘蛛の糸のような希望を捨てることがないよう、力の入らない片手で足枷に手を伸ばす

引っ張ってみたり、足枷の合わせを外そうとしても当然うまくいかない

手錠も同様で、何かの拍子に外れたり手錠の鎖が破けたりはしないはしなかった

何度も外そうと試みたけど結局一度たりとも開いた試しはなかった

初めてつけられた日はそれはもう混乱して、壁に足枷をぶつけたり手錠を何回も引っ張ったりした

当然そんなことをして壊れるはずがなく、彼女が帰ってくる頃には足首と手首から出血していた

それをみた彼女は心配そうな顔で傷の手当てをしながら

 

「逃げようとするなんて悪い子だね…今夜はお仕置きかな」

 

と呟いていた

そしてその言葉通り、私は「お仕置き」と称して彼女の手によって何回も果てた

そして行為が終わった後

 

「これ以上するなら私がいない間はずっと”寝てて”もらおうかな」

 

と呟いていた

直後に彼女は「冗談だよ」と言っていたが、ただでさえ自由という言葉からは程遠い中、これ以上拘束されるのが怖くて、もしまた怪我をしてしまったらどうなるのか、また強引に果てさせられるのかという想像が働いて力がうまく入らなくなり、今しているささやかな抵抗ですらできなくなりつつある

どうにかなってしまいそうな一人ぼっちの空間で、いつの間にか流れてきていた涙に温かさを覚えつつ、意識を手放した

 

 

 

「…あ、起きたね、おはよう」

 

人の気配と、誰かに髪の毛を撫でられるような感覚で目を覚ます

ここに来てから満足な睡眠など取れておらず、今回も浅い睡眠だったのか体に倦怠感がまとわりついている

くらくらとする頭で彼女を見上げれば、いつもよりどこか機嫌がよさそうな微笑を浮かべていた

 

「…お、おかえり、なさい…」

 

「うん、ただいま、あんまり寝れてなかったから心配してたんだけど…大丈夫そうだね」

 

未だにぼんやりとする頭でこくりと頷けば「いい子だね」と言って頭を撫でてくる

体を動かそうとすればカチャリ、と音がする

音の出所へ視線を向ければまだ手足につけられたままのそれが目に入った

帰ってきたら真っ先に外されはずのそれ、不思議に思いながら見詰めていれば、気づいたらしい彼女の手が足枷へ伸びる

 

「あぁごめんごめん…ふふっ、嬉しかったからね」

 

「え…?どういう…?」

 

「君がこの部屋にいてくれたことさ」

 

「私…が…?」

 

いつもの事のはずなのになぜそんな嬉しそうなのだろうか

そもそもこの状態へ何処に行けるというのだろう、アーツユニットがあるならともかく、それすらない今の私は無力だ

当たり前の事なのに何故そんなに嬉しがるのだろう

疑問に思っている私を余所に、彼女の手が足枷へと伸びていくと、ガチャリと音がして呆気なく外れる

私が寝ている間に錠が外されたのだろう、手錠も外してもらおうとぼんやりとしながらも体を起こした、その瞬間だった

 

「そっちも外れるはずだよ?今日はどっちも鍵かけてなかったから」

 

「…え…?」

 

「本当ならこんな試すようなことはしたくなかったんだけどね…だけどずっとこれ着けてるのも不便だし可哀そうだと思ったんだ」

 

嘘だ、そんな、はず、ない

だってわたし、確かめた

もしかしたら、鍵、かけ忘れてたのかもしれないから、外れるかもしれないからって

鍵が、かかっていなかった?じゃあ、何で、開かなかったの?

 

「どうしたんだい?まだ寝ぼけてる?私が取ろうか?」

 

固まった私を見て心配したのか、顔を覗き込んでくるモスティマ

そんなこと思ってない、違う、私は、今日、逃げられたの?ここから、出られたの?

とても信じることができない情報に、頭が殴られたかのような衝撃を受ける

どうして、どうして、あの時、外れなかったの?

震えだす手から優しい手つきで手錠が外され、力の入らない両手がだらんと垂れる

呆然自失している私を余所に、まるでドラマで見る男性が女性を抱き締めるシーンのように、ぎゅっと抱き締められる、耳元からは楽しそうに弾む声が聞こえた

 

「本当は逃げちゃうと思ったんだけどね…でも私が帰ってきた時もここに居てくれた、つまりずっとここに居てくれるって決めてくれたんだよね?良かった、これで安心だよ」

 

さらさらと髪を撫でられる感触は、心地良いより恐怖が勝っていて、思わず体が震える

怖い、怖い筈…だけど、確かに、私は逃げなかった、何時でも逃げられたはずなのに

もしかすると私は…無意識のうちにこの堕天使に心を奪われていたのかもしれない、依存していたのかもしれない、ここに居たかったのかもしれない、だって、逃げなかったんだから

泣いている子供をあやすように頭を撫でられ続け、だんだんと思考が鈍くなってくるのを感じた私は、そんな現実から目を背けるように意識を手放した

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