ヤンデレは世界を救う ─ホロライブ・オルタナティブ外伝─ 作:らっくぅ
翌朝になっても『奴ら』は襲ってこなかった。ここは森から外れたところであり、さすがに自分たちの居場所を一発で当てられるほどの索敵能力は持ち合わせていないようだった。
「……」
これからどうするべきか。
それが目下の課題であった。
というのも、状況がこれまでとは変わってきている。目の前で眠っている少女を守らねばならないし、その為に自分は今までのように殺されてはいけないのだ。
誰かを守るなんて、いつぶりだろうか。もちろん今まで犠牲となり続けてきたのも目の前の少女を始め、記憶の中にかすかに残っている仲間達を守る為のものだったが。しかしこうして直接関わるのは初めてだ。
不思議な気持ちだった。自分の使命を果たすことができず、少女の存在を厄介に思う一方で、どこかで安堵している自分がいる。
(笑えるな…。もうこの運命を受け入れたはずだったのに…)
スメラギは気持ちを切り替え、当面の動きについて考えを戻す。
とりあえず、この少女と共に行動するのは確定だ。
問題は『奴ら』からどう逃げるかだ。
常に進化し、増え続ける相手から逃げ切るのは、自身の持つ『力』をもってしても困難だろう。
(……)
いつかは必ず限界が来る。
覚悟する必要があった。しかし、その時が来るのはできるだけ遅くあるべきだ。スメラギはそう思った。
「ん…」
と、スメラギのすぐそばで眠っていた少女がゆっくりと目を開ける。
「…あぁ、目が覚めたか」
「え…あ、あれ、るしあ、お腹撃たれたはずじゃ…」
少女──潤羽るしあは起き上がって、不思議そうに腹部をさする。そこには不自然な穴も、それを治した傷痕もなかった。
「これ、あなたが──あぅっ」
驚きつつ横にいたスメラギの方を向くが、突然目眩がして体勢を崩してしまう。
「傷は治ったとは言え、血を流しすぎてる。少し休んだほうがいい」
スメラギは倒れそうになったるしあを介抱し、ゆっくりと横たわらせた。本当は何かしら栄養を摂取させた方が良いのだが、スメラギ自身、そういったものはとっくに必要としていなかった為に持ち歩いてはいなかった。水と食料を調達してこなければ、とスメラギは頭の片隅で考えた。
「う、うん…ありがとうなのです。……二度もあなたに助けられちゃった。感謝してもしきれないのです」
「気にしなくていい。目の前で危険な目に遭ってる人がいて、それを助けない人なんていないだろ?」
嘘をつくのは相も変わらず得意であるようだ。スメラギは内心で自嘲する。
「…それより。ここには長く居られない。そう遅くないうちに『奴ら』はここを見つけ出すはずだ」
「え、えと……急すぎて分からないことだらけなのですけど…その『奴ら』って、何者なんですか?」
るしあは理解が追いついてない、といった様子で、やや呆然としながらスメラギに尋ねた。
「詳しくは言えないが、あれは戦闘アンドロイド『カドモニ』だ。俺を殺すことを目的としている、はずだったんだが…」
「あなたを…?」
「君まで標的にされてしまった……。すまない、君に接触してしまった俺の責任だ…」
「い、いえ、あなたのせいじゃないのですよっ。あなたとるしあが森にいたのも、そこにちょうどカドモニ?がやって来たのも、全部偶然なのですっ」
「……」
確かに偶発的な要素はあったかもしれない。だが自分が『力』を使い、それに反応してカドモニがやって来たのは必然の結果だ。
やはりあの時、強引にでも彼女を振り払うべきだったかもしれない。そうすれば何事もなく、今まで通り死の螺旋をなぞっていくだけで良かったのに……
「…それより、これからどうするのです…? その追手を倒すことってできないのですか?」
るしあのその言葉で、スメラギは我に帰る。ネガティブな思考はずっと前から抜けない悪い癖だ。今という時はまだ終わってはいないのだ。
「生憎だが、俺ではカドモニを完全に倒すことはできない。一つ一つの個体なら
「そんな……じゃあ、どうしたら…」
「見つからないように逃げ回るしかない。…俺と一緒に来て欲しい。奴らの標的は、もう俺だけではないかもしれない。そうだとしたら、俺だけが逃げても意味がない。それに、一緒にいた方が守りやすくなる」
「に、逃げるって…いつか追いつかれちゃうんじゃ…」
「大丈夫。自分で言うのもなんだが、逃げ足は誰よりも速いつもりだ。……突然、こんな事になってすまない…。君の自由を奪ってしまって…」
「そんなに謝らなくてもいいのですよっ。確かに急に命を狙われて、逃げなきゃいけないってなって、ちょっと驚いてるけど……でも、少しだけ嬉しい、かな…」
「?」
「な、何でもないのですっ! ……あ、そうだ名前っ」
と、るしあは強引に話を切り替える。とはいえ、こんなに話しておいて未だに自己紹介がまだであるというのは事実だった。
「改めて、潤羽るしあなのです。これからよろしくなのです」
「俺はスメラギ。スメラギ・カランコエだ。…こちらこそよろしく」
少なくとも、こちらは仲良くなる気などなかった。できれば赤の他人のままで終わることを願いつつ、スメラギはそう付け加えた。
こんな状況で、あんな感情が沸き起こるのは変だと思う。普通なら不自由さを嘆くか、巻き込まれたことを怒るんだろう。
でも私は、誰かに気にかけられたことが嬉しかった。私の素性を知らないとは言え、人の優しさに触れられた事に喜んでしまったのだ。
あの人はきっと訳ありだ。何で命を狙われているのか、私を最初に助けてくれた時に発した力は何なのか。それに、どうしてここまで私を守ってくれるのか。
けどそんなの、些細な事だ。あの人は色んなものを背負い込んでいて、それでも私のことを見捨てなかった。
多分この先、誇張なしに大変な事が起こるんだと思う。今までとはかけ離れた非日常が、当たり前のように襲ってくるはずだ。
だけど、あの人となら──
スメラギさんが一緒なら、何が起こっても大丈夫って気がしたんだ。
ヤンデレ要素無くてすみません。もう少しお待ちください…