ヤンデレは世界を救う ─ホロライブ・オルタナティブ外伝─   作:らっくぅ

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5話 逃避行⑵

「それで、どこに行くのですか? るしあ、まだ動けそうにないかも…」

 

 未だ起き上がれないるしあは心配そうに尋ねる。

 

「大丈夫、それ程長くは移動しないよ。…でも、君を抱えて動き回るのは少しリスクが高いね」

 

「そんなに移動しないって、どういう…」

 

 るしあが言い終わる前に、スメラギはその答えを見せる。

 

 つまりは。

 

「…っ⁉︎」

 

 右腕を滅紫に染め上げると、スメラギは目の前の空間に掌を向ける。

 

 すると、パリィィィン!!!! と何かが砕ける音と共に空間が割れ、漆黒が現れた。

 

「な、なに…っ? その、力は…」

 

 るしあは世界の災厄──『スターク』の力を目にし怯えた様子を見せる。邪神の力はその正体を知っていなくても、それを観測した人間に本能的な恐怖を植え付ける。現に、るしあは恐らく『スターク』を知らないのだろうが、その力の影響をしっかり受けていた。

 

「……あの時、君も見ただろう? てっきり承知の上だと思っていたんだけどな」

 

 対してスメラギは、わずかに身体を強張らせる。

 

「ご、ごめんなさい…あの時は必死で、覚えてなくて…」

 

「…それで、どうするの? こんな化け物と、それでも共に逃げる事を選ぶかい?」

 

 そして静かに問いかけた。しかしどちらにせよ、スメラギにはもう彼女を手離すという選択肢は頭になかった。この少女は既に、自分と追っ手を同じくした逃亡者なのだ。

 

「…これが、あなたの『秘密』、ですか?」

 

「ああ、そうだよ。世界の破壊者、全存在の共通悪。それが『スターク()』だ」

 

 スメラギはるしあを真っ直ぐ見つめる。

 

 しかしるしあには、その目がどこか自分と似ているように感じた。

 

 だから。

 

「もちろん。あなたと一緒に行きます」

 

 るしあは迷いなく応える。

 

「……どうして? 俺は君達とは相容れない存在なんだぞ。俺と一緒にいても、良いことなんてない」

 

「そんなの、気にしないのです。慣れっこですし。…何より、寂しそうだったから…」

 

 あるいは、この時既に気付いていたのかもしれない。彼女が自分と似ている事に。

 

 

 

 否、自分が彼女と似ている事に、だろう。

 

 

 

 

 

「…変な奴だな、君は。僕にそんな感情があるわけないだろ。…君がその道を選んだのなら、それでいい。さぁ手を。別の世界へ行くよ」

 

「別の…世界?」

 

 自力で起き上がれないるしあはスメラギに手を貸してもらいながらゆっくりと立ち上がる。

 

「この裂け目は並行世界と繋がっている。そこならしばらくは見つからないはずだ」

 

(『スターク』っていうのは、そんな事もできるんだ…)

 

 長い間外界から離れて暮らしてきたるしあは、そんな世間知らずな事を考える。

 

「並行世界ってことは…別のるしあやスメラギさんもいるのです?」

 

「俺はどうだか分からないが…君はいるかもしれないね。会っても死んだりはしないけど、会うのは避けた方がいい。余計な騒ぎを起こすからね。それに、別世界だからって無闇に露出するべきじゃない。できるだけ人目に付かないようにいこう」

 

「わ、分かったのです」

 

 スメラギの忠告を受け、るしあは少しの昂揚感と緊張と共に、漆黒の裂け目へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 回廊を抜けた先には、再び森林が広がっていた。

 

「でもマナをあんまり感じない…ここ、人間界かな?」

 

「何にせよ、まずは食糧を調達しないと。近くに魔物の巣があればいいんだが…」

 

「…えーと、もしかして()()()()感じです…? いきなりサバイバルしちゃうのです…?」

 

 スメラギの言葉に、るしあは思わず眉をひそめた。裏腹にスメラギは至って真面目な顔で答える。

 

「もちろん。人目に付かないようにって言っただろ」

 

「い、いやそれはそうなのですけど…み、水はどうするのですかっ?」

 

「血を飲めば何とかなるよ」

 

「す、ストイックすぎ……というか、そんなサバイバルしなくても素直に町に行けばいいじゃないですかっ。えぇと…木を隠すなら森の中、ですよ!」

 

 流石にそんな生活をしていたら生命より先に大事な何かを失いそうだ、と危惧したるしあは全力でそれを否定する。

 

「なるほど…人のいない所で生活痕を残したら、それこそ見つかりやすいか…。うん、分かった。ならできるだけ大きな街に行った方がいいね」

 

 その言葉にるしあは胸を撫で下ろすと、森を抜けて街道へ出る事を提案した。

 

 

 

「でも、どっちが都会に向かってるかなんて分からないのです…。何か看板とかないかなぁ」

 

 と、きょろきょろと周りを見渡すが、それらしきものは見当たらない。

 

「君、人間界に行ったことは? まだ前の世界とそう離れていないから、地理はほぼ同じなはずだよ」

 

「うーん…人間界はちょっと行ったことが……って、地理が同じなら、デバイスが使えるんじゃ?」

 

 るしあはポケットからデバイスを取り出し、地図アプリを起動させる。どうやらGPS機能も使えるらしく、現在地とその周辺が写し出された。

 

「こっちが北で、そっちが東だから…こっち向きに行けば大きな街に着くはずっ!」

 

「できるだけ早く向かおう。もたもたしているとこちらの位置を捕捉される」

 

「えぇと、1つ疑問なのですが…」

 

「なんだい?」

 

「そのカドモニっていうのは、さっきるしあ達がいた世界にいるのですよね? 何でそんなに警戒しているのですか?」

 

 その疑問は最もだ。アンドロイドが自力で世界を渡る手段を手に入れることは絶対にない。その上、スメラギ達が転移したのは並行世界だ。ヒトだってまず行くことのできない世界に、機械がやって来れる訳がない。

 

 とはいえ、それは()()()アンドロイドの話だ。

 

「俺達を襲撃してきた奴らはもう来ないだろうな。けど、カドモニはこのターミナル02 ha全域に配置されている。もちろんこの世界にも。だから並行世界を渡っても逃げ切れはしないよ」

 

 

「だ、だったら別の、全く違う世界に行ったら…!」

 

 その提案を、しかしスメラギは首を振り否定する。

 

「どういう訳か分からないけど、俺達の世界は外界から隔絶されているんだ。邪神の力を持ってしても突破できない強固な結界にね」

 

 加えて、彼らの主は並行世界だろうと別世界だろうと渡れる能力を持っている。たとえ別世界へ飛びカドモニから逃げ切れたとしても、その主から逃れる事は絶対にできない。だがそこまで説明する事はしなかった。

 

「そんな…じ、じゃあ、るしあ達、いつかは…」

 

 るしあはその先を言うことができなかった。言いたくなかった。

 

「…」

 

 スメラギもそれを否定しなかった。何を言っても気休め以上のものにはならないと分かっているから。

 

 

 

「…さぁ、そんなことより早く街に向かおう。君の調子を万全にしておきたいし、これからの生活についても考えていかないといけない。まずは目の前の事を片付けていこう」

 

 半ば強引に、スメラギは話を変える。とはいえ、スメラギの言う通り、差し当たりは生き延びる手段を模索していかなければならない。先のことは、それが終わってからでいい。

 

「うん…、そう…ですねっ。るしあ、お腹ぺこぺこなのです! 早く街に行ってご飯食べるのですっ」

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