ヤンデレは世界を救う ─ホロライブ・オルタナティブ外伝─ 作:らっくぅ
しかしたった275日空いただけで、まだ2022年度は終わってないのでセーフですね
並行世界へ渡ったスメラギはまず、先程の世界を去る前に持ってきたアンドロイド──カドモニ1648号機をぐっと持ち上げると、弾丸と見紛う程の速度で投擲した。そのまま捨て置くよりも、動きを加えた方が幾分か効果があると判断したからだ。
「上手くデコイとして機能してくれればいいけど…」
「気休めでもやらないよりはマシなはず。行こう」
別世界と言えど並行世界。廃墟が全て再開発されている世界線などほぼ無いに等しい。
というわけで次の潜伏先もやはり廃墟ということになった。
とはいえもちろん前の世界とは違う場所だから、手頃な廃墟を見つけるのには骨が折れた。
スメラギ達が見つけたのはおそらくビジネスホテルであろう建物の一室だった。
「うーん、こんなのが限界だな」
ベッドや洗面台なんかはとうの昔に朽ち果ててしまっており、原型を留めていなかった。
「大丈夫じゃないですか? 床はそれほど劣化してないみたいですし。寝袋ありますよ」
「念のため食料や生活品を携帯しておいて良かったな…」
とはいえ根本の問題が解決されなければ状況は前と変わらない。それを解決するのが不可能だしても。
「さっきバレたのは多分……いや、街の防犯カメラに俺たちの姿が映っていたからかもしれない。できるだけ外から出ないようにしよう」
「スメラギさん……そうですね。でもただじっとしててもいずれは見つかっちゃいます。常に索敵を怠らないようにしましょう」
改善はできるはずだ。否、しなくてはならない。それがスメラギが自身に課した使命なのだから。
だというのに。
(奴らは……気付いているんだ…なのに僕はまだ自分可愛さに…)
昔の悪い癖が出ている。それなのに、儚い印象すら与えるこの少女は未だに自分について来てくれる。スメラギは自分に唾を吐き捨てたい気持ちだった。
「…少しずつ、やっていきましょう? るしあはあなたのこと、信じていますから」
心情を察してか、るしあは宥めるように声をかける。
「…ごめん。今度は気を抜かない」
信じている。そんな言葉が、しかしちくりとスメラギの心を刺す。
しばらく1人になりたい。こんな気持ちがこの子に伝わってほしくない。そんな気分だった。
だから、スメラギは逃げるように部屋を出た。
「あっ、スメラギさん…」
*
「スメラギさん、元気なかった…」
気にしないで、と言いたかった。自分が襲われる事なんかこれっぽっちも嫌じゃないと。
(だってスメラギさんが守ってくれるもん…スメラギさんは優しいよ…)
その優しさに、少しでもお返しがしたい。
「…でも、るしあに何ができるだろ…どうしたらスメラギさんを元気づけてあげられるかな…」
何か贈り物をしよう。そう考えたところで、るしあはスメラギの好みを知らないことに、それどころかスメラギの事をほとんど何も知らないことに気づいた。
(う、うーん、そうだった……スメラギさん、自分の話全然しないから…だったらスメラギさんが今必要なものをあげるべき? そんなもの……あっ!)
あった。自分が持っているもので、スメラギに必要なもの。
「良いこと思いついちゃった!」
*
いっそのこと逃げてしまおうか。そんな考えが一瞬頭をよぎる。しかし、それはすぐに理性によって打ち消された。そんな事をしてもカドモニは自分の方へ引き寄せられる事はない。戦う力のないるしあが一方的に殺されるだけだ。
なのに。そんな事、当たり前なくらい分かってるのに。
これ以上苦しみたくない。喜びもなければ悲しみもない、守るものも義務も使命もない死の螺旋へ身を堕としてしまいたい。そんな我欲が頭から離れない。
(僕は…どこまでも自我がありすぎる…)
だからこそ。自分は救われなくたっていいから。
(この我儘だけは…通してみせる。絶対に)
*
「あっ! おかえりなさいスメラギさん!」
静かにドアを開けて戻ってきたスメラギに対し、るしあは元気よく声をかける。
「おかえり…か、君は俺が帰ってこない事を想定していなかったみたいだね」
「…? それはそうですよ。スメラギさんは、何があってもるしあを守ってくれるって言ってたじゃないですか」
この子は明るい、とスメラギは思った。その光は明るすぎて、自分のちっぽけな心を焦がしてしまう程だった。そして、明るい分だけ黒い闇をも作ったしまう程に。
「…もちろん。どこへも行ったりしないよ」
「えへへ…ありがとうございます! …ところで」
何故かるしあがもじもじして目を伏せている。自分が部屋にいない間に何かあったのだろうか。
「るしあ…?」
「あのですね……こ、これ! どうぞっ!」
手渡されたのは、黒い布…? いや、ロングコートだった。
「これは…?」
「『隠遁の装衣』っていう魔法具です。これを着ると、魔力や気配を消すことができるんですよ! 長い間使っていなかったのですっかり存在を忘れていましたが……」
「あ…」
その言葉で、スメラギは悟った。自分のちっぽけな嘘なんか、簡単に見破られていたのだ。
「その……スメラギさんの『力』にカドモニが反応してるってこと、知ってました。それをスメラギさんが隠そうとする気持ちも、理解できます。ですから…ええと、その……これでチャラってことで! ああぁ違う…とにかく、気にしないでってことを言いたかったんです…!!」
その気遣いに、スメラギは感謝というよりもむしろ罪悪感すら感じた。
「ごめん、るしあ……悪いのは全部僕なのに…どうしてそこまで」
「も、もぉ~、気にしないでって言ったのに…! るしあはあなたを信じてます。でも、信じているだけじゃ、守られてるだけじゃダメ。るしあも、るしあなりにできることをやりたいのです」
「守られるだけじゃ、ない?」
「そうです。だってるしあ達はたった2人で生きていくのですよ? お互いがお互いをカバーするのが運命共同体なのです!」
「運命、共同体…」
そんな考え、全く頭になかった。るしあは被害者。自分に人生を歪められてしまった不幸な運命共同体。だから守らなくちゃならない。だから、せめて彼女が幸福であることを望んでいた。
暗闇の荒野の中に、一筋の光を見たような気がした。
「…そう、だったね。僕達は運命共同体だ。生きていこう。
初めて、るしあをまっすぐ見た気がする。
その言葉に、るしあは満面の笑顔で応えた。
「あ、そうそう。実はもう1つ渡したいものがあるのです」
そう言うと、るしあは魔法陣から一振りの漆黒の剣を取り出した。
「魔剣?」
「
手渡されたそれは、スメラギが片手で扱うのはちょうどいい重さと長さだった。不思議と手に馴染む気がする。
「いいの? 大事なものじゃ…」
「だからこそです。大事な剣が大切な人を守ってくれるなら、それは道具にとっても、それをくれた人にとっても本望だと思うのです」
「ごめん…何から何まで…」
自分は何もしてあげられてないのに、こんなに贈り物をもらうなんて。スメラギは申し訳なく思った。
しかしその言葉に、るしあは少し不満げな様子だった。
「あのっ、ごめん、じゃなくて……もっとるしあの欲しい言葉、あると思うのですが…?」
「あ、ごめ、…ありがとう、るしあ。大切に使うよ」
自分でも驚くくらい、素直に言葉が出た。この子の前だと、良くも悪くもつい本音が出てしまう。でも今は、悪い気はしなかった。
「え、へへへ……どういたしまして! スメラギさんっ!」
3000字書くのに9ヶ月もかけるなと思った方
私もです。何でこんな時間かかってるんでしょうかね。
原因としては私自身のコミュ力の無さのせいで、どのように会話を続けていったらいいか分からない、といったことが挙げられると思います。おそらくこんな調子が2022年度ギリギリまで続くと思います。しかし2022年度内には終わらせますので安心してください。