糸を絡めては解く。何度も繰り返した動作は飽きるどころか私に安心を与えてくれる。
「ねーちゃ、あやとり!」
背後から段々大きくなる足音に気づき、糸から手を離す。
「うん、一緒にしよっか」
私を姉と呼ぶレンに返事をして声の主に向き直る。突進してくるレンを受け止めバランスを保つ。
(重くなったなぁ…)
きゃっきゃと楽しそうにしいるレンを持ち上げて高さを調節する。そのまま先程離した糸を絡めて簡単な山を作る。二人あやとり定番の型だ。何を言わずともレンは私の意図を察してあやとりに向き直った。何度もしたというのに飽きないのを見て、視線を手元におとした。子ども特有の小さな手。紅葉みたいだなと思いながらレンが川を作ったのを見て田んぼを作る。
私は世に言う転生、をした女だ。それだけならよかったのか悪かったのか私は愛読していたジャンプ漫画____ハンターハンターに登場するマチ=コマチネというキャラクターにソックリだった。桃色の髪に蒼色の瞳。猫っ毛な髪に吊り上がった目。見れば見るほど彼女を想わせる容姿にため息を吐く。そして今も彼女が得意としていた糸で遊んでいる。厳密に言えば縫い物用の糸だが。
しかしここで大きな違いがあった。彼女は本来の出生地である流星街なんていう無法地帯ではなく、風影が中心になり治めている風の国である。風影____歴代最強と謳われる三代目風影。
目を閉じれば思い出させる彼の風影就任式。
大人に連れられやってきたそこは始まる前から集まった人の熱気で溢れていた。彼が風と描かれた笠を受け取り被れば一際大きな歓声が上がった。彼のその声に苦笑したような困ったようなでも、嬉しそうに笑った顔が今でも私の脳裏に浮かんでくる。歴代最強と呼ばれる三代目風影の就任式は良くも悪くも私の中で上位に入るほどの衝撃だった。
「……ちゃ、ねーちゃ!」
「ああ、ごめんごめん。…私の番?」
「うん!つぎねーちゃ!」
「教えてくれてありがとう、はい」
糸を指でとり潜らせる。元の形になるのも面白くないので、船を作った。
初めてみたのか、マジマジと見ると手を目を彷徨わせる。一通り悩んだのかレンがこちらをみる。言わなくてもわかる、糸のとりかたを教えて欲しいんだろう。賢いレンは一度習えばすぐに自分のものにしてしまう。年々頼られるのが減っていくのが寂しかった。だから、今姉として頼られるのが嬉しくて思わず目を細める。
「ほら、両方の小指を真ん中の糸…。ああ、ほら、一本ずつの…。そうそれ。を、引っ掛けるの。小指でクロスして、そうそう。小指で取ったら下に回して。ああ、ちょっと待ってそのままね。そしたら、両手の人差し指と親指で私が今持ってる糸を取って。…うん、できてる。そのまま。うん、できたじゃん」
「凄いよ!ねね、みてみて!」
「うん、見てる見てる。」
私が言ったことを理解してそこまでしたんだ十分凄い。偉い、凄いといいながら頭を撫でる。もっととせがまれ膝に乗られる。重くなったねーと言えば重くない!と否定の声が上がった。ごめんごめん軽いよ、めっちゃ軽いと言いながら手を動かす。猫っ毛のふわふわした髪質に触れて楽しむ。ほんと柔らかいなぁ。ついでに空いた手でその頬をつつく。柔らかい。
しかし姉弟のじゃれあいは家の主によってあっさりと終わることになる。ガチャリと音がしてドアが開かれる。
「おかえりなさい」
見知った顔に向けて言葉を放つ。買い出しに行ってくれていた彼女__エテアさんの周りに付き添うと言ってついて行った下の子たちがいないのを見て眉を顰める。あの子たち絶対お菓子買いに行ったろ。不機嫌になったのを察したのかはたまたエテアさんの優しさか笑みを浮かべながら労られる。
「また面倒見てくれてたの〜、ありがとうね〜。ほんとマチちゃんってばいい子ねぇ」
「いえ…」
母も父もいないなか拾ってくれた初老の彼女____エテアさんに感謝をしないでどうする。この孤児院は彼女に拾われ連れてこられた子供が大半だ。もちろん私もそれに含まれている。姉や兄と呼び慕っていた皆は自立して任務についている為帰省した時にのみ会うだけだ。
レンを膝から下ろしてエテアさんの荷物を持つ。下からブーイングが起こるが気にせず荷物を持って台所に入る。袋を広げ、傷みやすいものから順に冷蔵庫に入れて行く。エテアさんは最近あったことからご近所さんで持ちきりの話と、話を広げていく。私はそれに相槌を打ったりレンを宥めたりしながら聞く。
ああ、そうだと彼女は思いついたように口を開いた。
「最近物騒になってきたから国境の近くには行かないでね。」
ここはどちらかと言うと中心部に近いため国境付近に行くことはないだろうが、エテアさんがそんなことを言うほど悪化しているのだろうかと眉を顰める。喉元まで迫り上がった疑問を聞いてはいいのか、口を開けては閉じるを繰り返し、エテアさんから目で催促されたので意を決して口を開く。
「戦況はそんなに悪化してるんですか?」
「違うわよ、ただどうしても紛れて入ってくるのよ。警備隊も手に負えない時が稀にあるから。それに悪化なんてしてないわよ、なんだって私たちには風影さまがついてるもの」
だから大丈夫。そう言って微笑む彼女に私はそうだねと相槌を打った。
風影がいるなら安心。里の中にいるなら必ず守ってくれるから。だから大丈夫。
「んー?」
服を引っ張られ、引っ張っている元凶を見る。これ以上作業を妨害されたくなかったので目線を合わせて口を開く。
「どうしたの?」
「ねーちゃ、眠い!」
麗かな日差しにやられたのか、レンが眠気を訴えてきた。困った。お昼寝なんてしたら夜眠れなくなる。困ってエテアさんに目を向ける。
エテアさんはニコニコ微笑んでいて、何も言わなかった。判断は私に任せるんだなと思い、頭を悩ます。悩んだ末に口を開く。
「……そうだね。一緒にお昼寝しよっか」
「うん!!」
余談だが、夕飯だと言われ下の子供に起こされた時はその乱暴な起こし方に死ぬかと思った。飛び乗って起こすとかやめろ死ぬぞ。やんちゃで有り余る腕白さを私にぶつけないで欲しい。皆んながニコニコしているなか私だけ青い顔して食べていた。比較的かなり穏やかな起こし方をされたレンが心配してくれたのか、私の好物をそっと私の皿に添えてきたのを見て微笑んだ。私の味方はアンタだけだよ。レンの優しさに感謝して頭を撫でると好物に手をつけた。
初心者なのでおかしかったら教えてください(切実)