二つのコスモス~続・新世紀エヴァンゲリオン 第一部・原初の光   作:VIA MEDIA

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第二十三話・苦悩

「……ああ、山之内です。こっちの用事はすんだから、……ええ、お願いします」

 

 山之内は電話を切った後、アキコに、

 

「すぐ来てくれるから」

 

「ねえ。アキコちゃんにお客さん、って、誰なのよ。沖縄の人?」

 

 由美子の言葉に山之内は苦笑し、

 

「いや、違うよ。……ま、それはいらしてからのお楽しみ、って事で」

 

 その時、

 

コンコン

 

「どうぞ」

 

 山之内の言葉に呼応してドアが開く。

 

「……ひなたさん……!」

 

 アキコは思わず立ち上がった。入ってきたのは川口ひなただった。

 

 +  +  +  +  +

 

第二十三話・苦悩

 

 +  +  +  +  +

 

「アキコちゃん! 大丈夫やった?!」

 

「……ひなたさん……。わたし……、わあああああああっ!」

 

 アキコは泣きながらひなたに抱き着いた。ひなたも涙を流し、

 

「山之内さんに無理言うて連れて来てもろたんよ。ぐすっ。昨日の晩、アキコちゃんの電話の様子がおかしかったさかい、今日のニュース見て心配になって、ジェネシスに電話したら、たまたま情報部につながって、ぐすっ、山之内さんが応対してくれはったの……。ぐすっ……、それで事情を話したら、くわしい話聞きたい、言うてくれはったさかい、知ってること言うたんよ。……ぐすっ、……そしたら山之内さんから、アキコちゃんの様子が確かにおかしい、て聞いて、……ひっく、……どうしても心配になったさかい、沖縄へ同行させて下さい、言うて、連れて来てもろたんやわ……。ぐすっ」

 

 ようやく由美子も少し余裕が出て来たのか、苦笑して、

 

「ふーん、……山之内君。あんたもなかなか隅に置けないわね……」

 

「ま、そう言う事だ。せっかくだから形代君の事は川口さんにおねがいしてだな、このホテルの部屋でゆっくりしてもらおうじゃないの。で、僕らは僕らで次の課題に取り掛かろうじゃないの」

 

と、山之内も苦笑した。ここでひなたが、

 

「じゃ、すみませんけど、わたしたち、部屋の方へ行かせてもらいますさかい。……どうもありがとうございました」

 

「うん。じゃ、アキコちゃんのことはよろしく頼むわね。なんか、初対面のあなたにいきなり頼んであつかましいみたいだけど、おねがいします」

 

 由美子の言葉に対し、ひなたは一礼してアキコと共に部屋を出て行った。残されたサトシは、

 

「あの……、僕はどうしたら……」

 

「おっと、そうだったな。沢田君も部屋でゆっくりしたらどうだ。それとも僕と食事でも行くかい。……ま、君が同行してくれたら中畑君もメシぐらいは付き合ってくれるだろうしな……。ふふっ」

 

「もう、……こんな時になにバカ言ってんのよ。……しょうがないわねえ」

 

 そう言いながらも由美子も苦笑している。その時由美子のスマートフォンが、

 

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

 

「はい。中畑です。……病院? ……はい、……はい、……そうですか、わかりました。

 

 ……サトシ君。病院から電話で、リョウコちゃんがあなたにどうしても話したいことがあるから来て欲しい、って言ってるらしいの。行ってくれる?」

 

 サトシは少し驚いたが無論異存などある筈もない。アキコの事も気にはなるが、今はそれを考えている余裕はなかった。

 

「はい、すぐ行きます」

 

 そう言うと、サトシは急いで部屋を出て行った。それを見送った由美子は、

 

「サトシ君一人に行かせて大丈夫かしら。……わたしも行こうか」

 

 山之内はまた苦笑し、

 

「なにヤボな事言ってんだよ。病室なんだから変な事になる筈なんかないだろ、せっかくなんだから二人きりにしておいてやれよ。ふふっ」

 

「そうね……。あーあ、わたしもすっかりオバサンしてるな。ふふ」

 

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 病室に駆け付けたサトシに、リョウコは、

 

「……沢田くん……」

 

「北原……、だいじょうぶ?」

 

「うん、……だいじょうぶよ」

 

 流石にリョウコは苦しそうである。その様子を見たサトシは心が痛んだ。

 

「僕に話、って、なに?」

 

「うん……。わたしね、考えたんだけど……、わたしたちね……、すこし、今みたいなつきあいかたはひかえた方がいいと思うの……」

 

 サトシはリョウコの言葉に愕然となったが、出来るだけ冷静に、

 

「えっ?! どう言うこと?…… ひかえた方が、って……?」

 

「うん……。わたしね……、いろいろと考えたんだけど……、今、こんな状態のときに、……任務にさしさわりが出るようなことはひかえたいのよ……」

 

「任務に……、さしさわり、が……、って?……」

 

「うん……。今回ね……、こんなことになっちゃったでしょ……。わたしがけがをしたのはわたしのミスだったから……、それは、どうこう言うことじゃないわ……。でも、……今日の形代さん……、なんか変だった……」

 

「え? ……形代が、って……?」

 

 流石にサトシはドキリとした。リョウコもアキコの様子がおかしい事に気付いていたのである。

 

「沢田くんがとびだしたあと、……形代さん、沢田くんをおいかけるように走って行ったでしょ……。そのあと本部から、わたしに攻撃命令が下ったのに、形代さん、『わたしがやる』って言ってとびだしたでしょ……。まるで、『沢田くんはわたしが守る』って言いたいみたいだったわ」

 

「…………」

 

「そのときね。……わたし、思ったの……。形代さん……、沢田くんのこと好きなんじゃないか、って……」

 

「えっ!? でも、……それは……」

 

 またもやサトシは愕然となったが、リョウコは続けて、

 

「うん、……わかってるわ……。それは任務には関係ないことよ。……でも、わたしも女の子だからわかるの……。もしわたしが形代さんの立場だったら、同じことをしてしまうだろう、って、思うわ」

 

「北原……、実は……」

 

 サトシはこの期に及んで最早黙っている訳にはいかないと考え、さっき山之内と由美子に自分とアキコが事情を聞かれた事を話し、

 

「と、言うわけなんだ……」

 

「そうだったの……」

 

 リョウコは一呼吸置き、続けた。

 

「わたし、沢田くんのこと、好きよ……。今までずっと施設で一人で生きて来て……、家族もいないし、友達もいなかった……。ジェネシスへ来て、沢田くんと知り合って……、初めて男の人を好きになったわ……。自分の心に今までになかったあたたかいものが生まれたと思った……。昨日の晩のこと……。すこしはずかしかったけど、とってもうれしかったわ……」

 

「…………」

 

「自分で今考えたら、なんであんな大胆なこと言ったのかな、って思うぐらい、わたし、心がおどってた……。沢田くんと、好き同士になれたのも、とてもうれしかったの……。沢田くんといると、ほんとの自分になれるじゃないか、って、思ったわ……」

 

「北原……」

 

「でも、それがもとで、わたしたちのチームワークを乱してしまったんだとしたら……、わたし、それは、ゆるされないことだと思うの……」

 

「…………」

 

 小声ながらもしっかりした言葉で話すリョウコに対し、サトシは返す言葉がなかった。

 

「もちろん、わたし、沢田くんのこと好きよ。それは今でも変わらないわ……。でも、わたしたちが知り合ったのも、ジェネシスがあったからよ。そして、わたしたちには大切な任務があるわ……。この事件を解決しないといけないでしょ」

 

「…………」

 

「……だから、この事件が解決するまでは、……あくまでもパイロット仲間としてのお付き合いにとどめておいた方がいいんじゃないかな、って、思うの……」

 

「北原……。でも、僕らが今、急に付き合いやめても、形代はかえってつらいんじゃないかな……。あてつけみたいだし……」

 

 サトシは「苦しい反論」と思いながらもそう言うしかなかった。

 

「うん……。それはわかるわ。……もしわたしが形代さんなら、そう思うでしょうね……。でも、今までと同じようにされたら、もっとつらいと思うわ……。女の子って、そうだと思うの」

 

「…………」

 

「……それに、今回は、人がたくさん亡くなったでしょ。……そのことを考えたら、わたし、……自分だけが浮かれていることはできないわ。……今は自分たちの気持ちだけで動いたらだめだと思うの……」

 

「…………」

 

「だからね……。この事件が解決して……、みんなもとの平和な生活に戻ったら……、そして、その時、沢田くんが……、まだわたしのことを好きでいてくれてたら……、そのとき、……わたしをむかえに来て……」

 

「北原!……」

 

「わたし、それまで自分の気持ちをおさえて、任務に集中するわ……。だから、それまでは……、沢田くんもがんばって任務に集中してほしいの。……かってなおねがいだけど、きいてほしいの……。ぐすっ」

 

 リョウコは涙声になっていた。瞳には涙が溢れている。最早サトシは何も言えなかった。

 

「わかったよ。……じゃ、おだいじにね。一日も早く治って帰って来いよ……」

 

 サトシはそれだけ言うと立ち上がって病室を出た。不意に涙が溢れて来たが、どうする事も出来なかった。

 

 +  +  +  +  +

 

 サトシの去った後の病室で、リョウコは暫くの間無言で天井を見つめていた。サトシの事は気になるが、それを考えれば自分も悲しくなってしまう。リョウコは無理にサトシの事を考えないようにしていた。

 

 その時、不意に、

 

(そう言えば……)

 

 戦闘中に、気を失う寸前の事を思い出し、

 

(あの声はなんだったんだろう……。「あなたには代わりはいないのよ」、って言われたような気がした……。まるで、自分の声みたいだった……。あの声で、最後の気力をふりしぼって、……右手で左手をつかんで血を止めたんだわ……。あの声がなかったら、わたし……)

 

 +  +  +  +  +

 

 サトシは日が西に傾いた那覇の街をあてもなく歩いていた。胸にぽっかり穴が開いたような気持ちである。しかし、今のサトシにはどうする事も出来なかった。

 

 +  +  +  +  +

 

 アキコとひなたはホテルの一室でしばらく無言で座っていたが、暫くしてアキコが口を開き、

 

「ひなたさん……、わたしね……、ぐすっ……」

 

と、昨夜から今日にかけての経緯をひなたに語った後、

 

「ひなたさん……、わたし、どうしたらいいんじゃろ……。わたしのせいで、北原さん、おおけがしちゃったし……、きっと……、わたしのこと、うらんどるわ……。ぐすっ」

 

 しかし、ひなたは意外にも冷静な声で、

 

「なあ、アキコちゃん……。わたしはあんたたちの任務のことはわからへんけど、もし、逆の立場やったら、あんた、どう思う?」

 

「え?……」

 

「もし、北原さんがあぶない目に会うて、あんたがとっさになんも考えんと飛び込んで、それで大怪我したら、……あんた、北原さん、うらむか?」

 

「いや、……そんな、……うらんだりせんと思う……」

 

「そやろ……。今回のことは、あんたに責任があることはまちがいないよ。そやけど、北原さんが命がけであんたを助けてくれはったんやろ。……もしあんたがこのことで、『北原さんにうらまれたんとちがうか』、なんて思うたりしたら、かえって北原さんの気持ちを裏切ることにならへんかな」

 

「…………」

 

「もしあんたが今回のことで、ほんまに北原さんに悪い、思うんやったら、あんたがしっかり立ち直ってまたがんばることが恩返しになるんとちゃうかな……。わたしはそう思うんやけどな……」

 

「…………」

 

「沢田くんのこともそうやね……。わたし、あんたの好きな男の子のことは、今まで聞いてたことしか知らへんかったけど、今、言うてくれたさかい、だいたいの事情はわかったわ」

 

「…………」

 

「こんなふうになってしもうたんは、めぐりあわせが悪かったなあとしか言いようがあらへんわ……。そやけど、ひとつ言うてええかな……」

 

「なに?……」

 

「アキコちゃんな……、あんたは言うてみたら、『仕事』でジェネシスへ来たんやろ。……そら、仕事やさかい、それ以外のことは一切考えるな、とは言わへんよ。そやけど、そのことをくよくよ考えて、結局、失敗してしもたんやわね。それやったら、つらいやろうとは思うけど、しばらくそのことは考えへんようにした方がええのんとちがうかなあ……。わたしがこんなこと言うのもなんやけど、そんな気持ちで乗ってたら、こんどはあんたが大怪我するか、下手したら、死ぬよ……」

 

「死ぬ……」

 

 アキコはひなたの言葉に流石に気を引き締めた。

 

「そやで。……もしこんどそんなことであんたが大怪我したり、死んだりしたら、一番苦しむのんは、沢田くんやで……」

 

「沢田くんが……」

 

「そや。もしわたしが沢田くんの立場やったら、自分のことで女の子が悩んで、その結果、失敗して事故で死んだら、……もう立ち直れへんと思うわ」

 

「…………」

 

「前にも言うたと思うけど、人の気持ちなんて、いつ変わるかわからへんのやさかい、今ちょっとうまいこと行かへんかったさかい言うて、そのことばっかりにとらわれてたら、なにも見えへんようになってしまうと思うよ。……ええかっこ言うつもりはないけど、今はしっかり任務に集中したらどうえ。わたしが男の子やったら、最後はそんな女の子に魅力を感じるように思うんやけどね…」

 

「…………」

 

 ひなたの一言一言がアキコの心に染み込んで行った。

 

 +  +  +  +  +

 

 ホテルの最上階にあるスカイラウンジの窓際の席で、山之内と一緒にコーヒーを飲見ながら、由美子は、

 

「でも、正直言って今回は参ったわよ……。まさか、あの子たちが『三角関係』になってたなんてさ……」

 

「なに言ってんだい。自分が中学生だった時の事を考えてみろよ。男の事ばっかり気になって、勉強も手に付かなかったんじゃないのか」

 

「失礼ね。私はそんなことはなかったわよ。……なあんて、言っても説得力ないわよね……。確かに、好きな子のことばっかり気にしてた時もあったわ……」

 

「だろ……。こんな事言っちゃなんだが、君はあの子達の『保護者』なんだぜ。プライバシーに踏み込むのはまずいとしても、もう少し彼等の『メンタルケア』には注意してやらんといかんのじゃないかな……」

 

「そうね……。ご忠告、ありがたくいただいとくわ……。これで山之内君には、二つも借りが出来ちゃったわね……」

 

「おやおや……。今日はやけに素直なんだな……。ふふ。どう言う風の吹き回しかな」

 

「なに言ってんのよ。……あの子達は私の大切な部下なんですもの。当然でしょ」

 

「まあ、上司と部下には違いないが、『お姉さん』でもあるんだ、って事を忘れるなよ。……ふふ」

 

「『お姉さん』、か。……頼りないお姉さんよね……。ねえ、そう言えばあの川口さん、て子ね、すごくいい『お姉さん』、て感じだけど、アキコちゃんとどう言う知り合いなの? 年も少し上みたいだから、クラスメイトでもないだろうし」

 

「ああ、あの子はね。四条君の『幼なじみ』だよ。とってもいいお嬢さんだな。『四人兄弟の一番上』だって言ってたよ」

 

「ふーん。マサキ君もやるわね。あんないい子と付き合ってるなんて……」

 

「それが、ここだけの話だが、彼女の話だと、付き合ってる訳じゃないみたいだよ。……ま、僕の見たところでは、彼女は四条君を好きみたいだけどね」

 

「またそんな事ばっかりに興味持って……。しょうがないわねえ。うふふ。……あら見て、夕日がすごくきれい……」

 

「ほんとだ。……見事なもんだね」

 

 由美子に言われて山之内は窓の外を見た。サファイアブルーの海に夕日が沈んで行く。二人は暫くその美しい光景を見ていた。

 

 +  +  +  +  +

 

「本部応答願います。こちら沖縄の山上です」

 

『伊集院だ。状況はどうだ?』

 

「3体のサラマンダーは全て炭化していますが、何とか運搬出来そうです。米軍からの要請で、3体の内1体はこちらに残す事になりました」

 

『了解した。ディーヴァはどうだ。動きそうか』

 

「だめですね。反重力エンジンが完全にやられています。他のオクタを使って運搬します」

 

『判った。宜しく頼む。ところで、米軍側の被害はどうだ』

 

「基地は完全に壊滅しました。シェルターへの避難が何とか間に合ったので、基地の従業員はかなり助かりましたが、兵士には相当数の戦死者が出ました。……ガルーダが発見した二人は、たまたま基地に来ていて逃げ遅れた関係者の家族だったそうです」

 

『そうか……。まあとにかく後の処理は一任する。よろしく頼む』

 

 +  +  +  +  +

 

 那覇の街を歩いていたサトシはいつしか港に来ていた。埠頭にたたずんで夕日を見ていたのである。考えないようにしようとは思うが、さっきリョウコに言われた言葉が心に蘇って来る。

 

(「わたし、それまで自分の気持ちをおさえて、任務に集中するわ……。だから、それまでは……、沢田くんもがんばって任務に集中してほしいの。……かってなおねがいだけど、聞いてほしいの……」)

 

(こんな時なんだもの……、しょうがないよな……)

 

 リョウコと付き合えなくなるのは辛いが、「嫌われた訳じゃないんだ」と自分に言い聞かせ、サトシは何とか気持ちを落ち着かせようとしていた。

 

(いつまでもここにいてもしょうがない……。ホテルへ戻ろう……)

 

 自分の心に鞭打ち、サトシはタクシー乗り場に向かった。

 

 +  +  +  +  +

 

 10月1日になった。ジェネシスの処理班は一応の処理を終え、サラマンダーの残骸とディーヴァを輸送して帰る事になった。サラマンダーの残骸はコンテナに積み込まれ、ディーヴァはガルーダとガンダルヴァを遠隔操縦して運ぶため、カプセルをドッキングした状態でワイヤーで2機と連結されている。由美子の乗って来たカプセルは遠隔誘導で飛ばす事になり、マサキ、タカシ、サリナの三人は、それぞれオクタヘドロンを操縦して処理班を護衛する事になった。

 

「こちら山上。オクタ各機、準備はいいか?」

 

『アスラ準備完了です』

『キナラ準備完了です』

『ナーガ準備完了です』

 

「では出発する」

 

 処理班とオクタヘドロンは次々と離陸して行った。

 

 +  +  +  +  +

 

 サトシの学校の修学旅行の一行は飛行機の運航が再開されたので帰って行った。流石に全員重苦しい表情をしてはいたが、喜んでいいのか悲しんでいいのか、マーラ襲来に関しては彼等もある程度の「覚悟」のようなものが出来ていたので、大して混乱する事もなかったのである。しかし、教師からリョウコの負傷について聞かされた事は、やはりショックだったらしく、河野エリや中田浩介、黒沢正などは一様に心配そうな顔をしていた。

 

 空港ロビーで浩介がエリに、

 

「なあなあ、委員長。北原、大怪我したんやろ。どんなぐあいやろな?」

 

「うん、きのう手術したらしいんだけど、しばらくは入院しないとだめなんだって」

 

「そうか。……京都に帰ってきたら、お見舞いに行ったらなあかんな……」

 

 正も心配そうに話に加わって来て、

 

「形代と沢田も戻って来とらへんしな……。あいつら、だいじょうぶなんやろか……」

 

 エリは頷き、

 

「形代さんと沢田君はだいじょうぶらしいわよ。任務の関係でわたしたちとはいっしょに帰れない、って、先生が言ってたけど」

 

「そうか……。あいつらも大変やなあ……」

 

と、正も頷くだけだった。

 

 +  +  +  +  +

 

 サトシ、アキコ、ひなた、由美子、山之内、の五人は一緒に京都に帰る事になった。処理班もオクタヘドロンも先に帰ってしまったが、五人のために処理班の飛行機が1機残っていたのである。ただし、離陸は空港から、と言う事になったため、五人はタクシーに分乗して空港に向かった。

 

 流石にサトシとアキコは元気がない。それを察してか、由美子も山之内も余り言葉を発しない。ひなたはアキコにずっと付きっ切りである。少しでも元気付けてやりたいとの気持ちがあったのだろう。言葉にこそ出さないが、態度で優しく接していた。

 

 続く

 

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