二つのコスモス~続・新世紀エヴァンゲリオン 第一部・原初の光   作:VIA MEDIA

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第三十九話・未来

 こちらは「エヴァ」の世界。

 

 その後の調査の結果、やはり「使徒の少年」が「根元かつ最後の使徒」である事が判明し、ここに特務機関ネルフはその役割を終える事になって組織解体された。ネルフの業務は国連によって設立された「国際生体工学研究機関(IBO)」に引き継がれ、ネルフの職員は全員IBOに移籍する事になった。

 

 3体のエヴァンゲリオンはその後どうやっても起動しなくなり、廃棄処分となった。同時に世界中で予定されていたエヴァンゲリオンの建造計画も中止となり、今までの研究の成果は民生用に転用される事が決定。その管理はIBOが行う事になった。

 

 加持が内務省に提出した情報に政府も国連も仰天した。当然と言えば当然の事なのだが、国連内部にもゼーレに対立する派閥は存在していたのである。その派閥はこの情報で一気に活気づき、ゼーレの残党は全て粛清された。

 

 冬月とリツコは出家し、以後は一切社会の表舞台に出る事はなくなった。噂では、冬月はさる小さな山寺の執事となり、尼寺に入ったリツコは亡きゲンドウの菩提を弔う生活を送っていると言う事である。

 

 伊吹マヤ、青葉シゲル、日向マコトの三人は新組織で毎日忙しく仕事にいそしんでいる。

 

 ミサトと加持は新組織の重責を担う立場となり、二人とも酒の量が増えたようだ。

 

 シンジ、アスカ、レイの三人は、そのまま新組織で脳神経による機械制御の研究を手伝う事になった。学校は「最後の決戦」で酷く破損したため、暫くは休校と言う事になり、クラスメイト達は全員他の街に疎開して行った。

 

 こうして1ヶ月が瞬く間に過ぎて行った。

 

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第三十九話・未来

 

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「最終決戦」から1ヶ月と少し経った11月26日、ミサトのマンションに加持とレイがやって来た。全てが一段落したので「打ち上げパーティー」をやろう、と言う事になったのである。前回の「作戦会議」の時は冷蔵庫で寝ていたペンペンも、今回は起きて来てちょこんと座っている。

 

「かんぱーい!!!」

 

 ミサトの音頭で全員にこやかに乾杯した後、拍手が起こった。

 

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 アスカが満面に笑みを浮かべ、

 

「あー、おわったおわった。でも、みんなよくやったわよねえ。こんなおいしいコーラはひさしぶりよ」

 

 エプロン姿のシンジも明るい顔で、

 

「ほんとにみんなおつかれさま。料理はたっぷりあるからたくさん食べてよね」

 

 加持は早速料理をつまむと、

 

「……うーむ旨い。いやー、シンジ君の手料理は抜群だな。葛城もシンジ君にコーチして貰わなきゃな」

 

 しかしミサトは悪びれもせず、

 

「なにいってんのよお。シンちゃんがやってくれるんだからいいじゃない♪」

 

「やれやれ、シンジ君も災難だな……;」

 

 レイが心からほっとした表情で、

 

「でも、……わたしたち、こうしてもう一度やりなおせるなんて、夢みたい……」

 

 すかさずアスカが、

 

「なにいってんのよ。これは現実よ。まちがいなく現実なの」

 

 ミサトが微笑みながら、

 

「まあレイの気持ちはよくわかるわ。こうしてまたビールが飲めるなんて、……ほんと、生きててよかったわよお♪」

 

 それを聞いたシンジが神妙な顔をした。

 

「……でも、ほんとになんだか信じられないな。こんな生活ができるなんて……。神様に感謝しないとね……」

 

 加持が軽く首を横に振り、

 

「シンジ君。もうその話はよそう。……みんな感謝の気持ちは絶対に忘れないよ。……忘れる筈がない。……その気持ちを一生抱いて生きて行くのが、神様への恩返しさ。それでいいじゃないか」

 

「そうですね。はい。わかりました」

 

 その時、突然加持が神妙な顔になり、

 

「それでは、みんなの前だけど、ここで俺は重大発表をするぞ」

 

 ミサトは苦笑し、ビールのカンを手に取った。

 

「なーによ。もったいぶっちゃって」

 

 加持は一瞬置いた後、

 

「……みんな、俺は葛城と結婚する!!」

 

「ええええっ!!」

「ええええっ!!」

「ええええっ!!」

「キュウェェッ!!」

 

 三人とペンペンは仰天した。ビールを飲みかけていたミサトは、

 

「!!! ……うえっ! ごほごほ! ビールが喉に……。ちょっと!! 加持君!! 急になに言うのよ!!」

 

「言っただろ。『生きて帰れたら、8年前に言えなかった事を言う』ってな」

 

「で、でも、こんな時に急に言わなくたって……」

 

「不満か?」

 

「そんな……。不満なわけないでしょ。……ありがとう」

 

「よしっ! 決まりだな! 幸せにするぞ」

 

 俯いたミサトの顔を見て、アスカが笑った。

 

「あーらミサト、まっかになっちゃって。うふふ」

 

「アスカ! なに言ってんのよ! これはビールのせいよ!」

 

 すかさずシンジが素っ頓狂な声で、

 

「あれっ? ミサトさん、そんなにビールに弱かったんですか?」

 

「もう、シンちゃんたら!」

 

「わははははははっ」

 

 加持は大声で笑った。アスカがコーラのコップを手にし、

 

「加持さん、ミサト、おめでとう!」

 

 シンジもジュースを手に取り、

 

「おめでとうございます!」

 

 レイも控えめに微笑みながら、

 

「おめでとうございます……」

 

 ペンペンも、

 

「キュキュキュキュッ!!」

 

 アスカが笑いながら、コップを差し上げ、

 

「もういちど、ふたりにかんぱーい!♪」

 

 乾杯の後、また拍手が起こった。

 

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 加持とミサトが、

 

「ありがとう!」

 

「ありがとう、みんな……。ううっ…」

 

 アスカがまた笑い、

 

「あーあ、こんどは泣き上戸なの」

 

 ミサトは涙を流しながら笑い、

 

「もう、アスカったら!」

 

 突然加持が、大声で、

 

「よしっ! 明日は休みだ! 今夜は徹底的に飲むぞっ!」

 

 アスカもいたずらっぽく、

 

「あたしものんじゃえ!」

 

 すかさずミサトが、

 

「あんたはだめっ!」

 

「わはははははははっ!」

「あはははははははっ!」

「わはははははははっ!」

「あはははははははっ!」

 

 マンションにはいつまでも笑い声が響いていた。

 

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 みんな大騒ぎをしてすっかり疲れ、そのまま毛布を持ち出して雑魚寝してしまった。しばらくして目覚めたシンジはそっとトイレに行き、そのままベランダに出た。今夜は満月がとても美しい。

 

「すごくきれいな月だ。……父さん、母さん、安らかにね……」

 

「シンジ、どうしたの……」

 

 振り返るとそこにアスカがいる。

 

「あ、アスカ。……ちょっと眼がさめちゃって……」

 

 アスカはシンジに並んで空を見上げた。

 

「ふーん。月がきれいねー。こんな夜空みるのひさしぶりだわ……」

 

「……アスカ、あの時のことごめんね。……それとさ、ありがと……」

 

「えっ? なんのことなの?」

 

「あのとき、僕ら二人だけ残っただろ……。いいわけはしないけど、一応ちゃんとあやまりたくて……」

 

「もうそのことはいいっこなしよ。……わるい夢だったのよ。……きっと。……でもね、……あのとき、シンジが、『薬と食糧を探して来る』、っていってくれたときね、すごくうれしかったんだ。……ほんとよ」

 

「ありがと。……アスカ、もう僕はいいわけもしないし逃げもしないよ。……僕ら、まだ中学生だからえらそうなことは言えないけど、これからずっとアスカのこと大切にする。……ぜったいに幸せにするから」

 

「えっ! ……シンジ……、あんた……。ぐすっ」

 

 思いもしなかったシンジの言葉に、アスカは思わず涙ぐんだ。

 

「……いろいろあったけど、一人で別世界に行ったあの時ね、やっぱりアスカは僕にとって一番大切な人だ、ってわかったんだ。……あの時心に決めたんだ。……もし、もう一度アスカに会えたら、僕がしっかりして、アスカを必ず幸せにする、ってね……」

 

「シンジ、……ありがとう。……ぐすっ」

 

「あの時ね。神様に言われたことが、今でも心にずっと残ってるんだ。……『神はお前達一人一人を必要としている』、って言う言葉がね……。加持さんは、『もう言うな』、って言ってくれたけど、これだけは、アスカに言っておきたくてさ……」

 

「うん。……あたしもその言葉にはすごく感動した。……うれしかったわ。あたしが神様に必要とされてたなんて……」

 

「この言葉と、……それと、アスカ、君が僕のささえだよ。この言葉があって、アスカがいてくれたら、僕は強く生きて行ける、って思うんだ……」

 

「あたしもよ。……シンジ」

 

 シンジはアスカの顔を見た。月明かりに照らされたアスカの顔はこの上もなく美しかった。シンジはそっとアスカを抱きしめた。

 

「アスカ……、好きだよ……」

 

「シンジ……、愛してる……」

 

 シンジは改めてアスカの顔を見た。つぶらな瞳から一筋の涙が頬にかかっている。涙のしずくが月明かりに照らされてダイヤモンドのように輝いた。

 

「アスカ……」

 

「シンジ……」

 

 アスカはそっと眼を閉じた。シンジはアスカを抱き寄せて唇を重ねた。

 

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 レイは浅い眠いから目覚めた。ふとベランダの方を見ると、月明かりに照らされた二人のシルエットがカーテンに映っている。

 

(あ……、シンジくん……、アスカ……)

 

 重なった二人のシルエットがレイの茶色の瞳に焼き付いた。そして次の瞬間、そのシルエットはぼやけていた。

 

(あ、……涙が……)

 

 レイは何も考えられなくなって毛布をかぶった。

 

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 こちらは「オクタ」の世界。

 

 精密検査を受けた日の夜、サトシは結果が気になって流石に寝付かれなかった。仕方ないから荷物の整理でもしようと思い立ち、昼間受け取ったバッグを開けた。

 

「あっ!! そうだ!!」

 

 サトシは慌ててバッグの底を探った。そこにはティッシュペーパーに包んだ「レイの髪の毛」が入っている筈である。

 

「あった!!」

 

 サトシは恐る恐るティッシュを開いた。するとそこにはちゃんとレイの髪の毛が残っているではないか。

 

「みんな消えたはずなのに……」

 

 サトシは一瞬迷ったが次の瞬間その包みを手の中に握ってベッドに座った。

 

「オーム! アヴァラハカッ!!」

 

 サトシの意識は遠のいて行き、脳裏に小さな青い光が輝いた。

 

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 こちらは「エヴァ」の世界。

 

 ミサトのマンションから自室に帰って来たレイは制服を脱ぎ、Tシャツに着替えると丁寧に制服を畳んだ。そして何気なくポケットを探った時、

 

「あっ!! ……これは……」

 

 レイは思わず声を上げた。驚いた事に、そこにはある筈のない「サトシの髪の毛」が入っていたのだ。

 

「サトシくん……。なぜなの……」

 

 無理もない。あの時の服はサトシの世界に置いてきたはずだったのだ。しかし次の瞬間、レイはサトシの髪の毛を握り締めるとベッドの上に座って祈り始めた。

 

「オーム! アヴァラハカッ!!」

 

 レイの脳裏に小さな青い光が輝いた。

 

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「レイ!!」

 

「サトシくん!!」

 

 暗黒の世界の中でお互いを見つけた二人は駆け寄って思わず手を取り合った。

 

「無事だったんだね! よかった!!」

 

「サトシくんも無事だったのね! よかった! ほんとによかった!」

 

「ほら、これ」

 

「わたしの髪! のこってたのね! これ、あなたの!」

 

「ほんとだ! 残ってたんだ! 不思議だね。……あ、ところでさ、みんな帰れたの!?」

 

「うん! みんな無事に帰れたわ。……あの光を見た時に思ったとおりだったわよ。わたしたち、過去にもどれてね、サード・インパクトは防げたのよ」

 

「えっ! そうだったのか! よかった! ほんとによかった! 僕らの世界も助かったんだよ。……とにかくすわろうよ」

 

「うん」

 

 そして二人はあれからの事を語り合った。サトシもレイも嬉しくて仕方なかった。

 

「……よかったね。ほんとに。……ところで、碇君とはどうしてる?」

 

「……それがね。シンジくんはアスカとなかよくなっちゃった。……ちょっとくやしいけど、しかたないよね……」

 

「そうなのか……、実は僕の方はね……」

 

 サトシはレイにリョウコとの事や遺伝子検査の事を話した。

 

「……そうだったの。……じつは、わたしもね……」

 

 レイはサトシに自分の出生の秘密を話した。

 

「……そうだったのか。……いとこ同士ねえ……。でも、考えてみたら、碇君のことはしかたないとしてもさ、僕らまだ14歳なんだし、これから運命がどうなるかなんてわからないよ。レイも明るくがんばりなよ」

 

 サトシの言葉にレイは急に顔を明るくした。

 

「そう。……そうよね。わたしたち、まだ14歳なんだもんね……。これからどうなるかわからないんだもんね。……うん。がんばるわ。サトシくん。ありがとう。……あなたもがんばってね」

 

「うん。がんばるよ。まあ、どうなるかわからないことでクヨクヨしてもしかたないしね……。レイ、ほんとにありがとう」

 

 二人はお互いの顔を見詰め合った。レイは何とも穏やかに微笑んでいる。サトシはそのレイの表情を見て心から嬉しくなった。

 

「じゃ、そろそろ帰ろうか。……これで完全におわかれかな」

 

「わからないけど、わたし、いつまでもサトシくんのことはわすれないわ。……元気でいてね」

 

「僕もレイのことはわすれないよ。レイも元気でね。……あ、それからこのことは、ほかの人には話さないで、心にしまっておくから。……それじゃ」

 

 サトシはレイに手を差し出した。

 

「うん。わたしもそうするわ。……それじゃ」

 

 レイはサトシの手を取って握手した。

 

「元気でね。レイ」

 

「サトシくんも」

 

 二人は眼を閉じてマントラを唱えた。二人の脳裏に小さな青い光が輝いた。

 

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 サトシは自室で我に返った。手の中のティッシュをそっと開いてみると、その中には何もなかった。

 

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 レイも自室で我に返った。手をそっと開いたが、そこには何もなかった。

 

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 こちらは「オクタ」の世界。

 

 翌日の10月31日の夕方、サトシとリョウコは医療部に行った。山之内と由美子も立ち会ってくれている。

 

 美由紀が書類を手に、口を開いた。

 

「どうもお二人ともご苦労さま。じゃ、結果を言うわね」

 

 一瞬の沈黙が挟まる。結果を知らない四人は、思わず固唾を飲んだ。

 

「……結論から言うと、二人にはやっぱり血縁関係があるわ。……いとこよ」

 

「ええええっ!!」

「ええええっ!!」

「ええええっ!!」

「おおおおっ!!」

 

 余りにも意外な美由紀の言葉に、四人は思わず叫んだ。由美子は血相を変え、

 

「ちょっと美由紀! なんでそんなにもったいぶって言うのよ! かわいそうじゃないの!」

 

 しかし、美由紀は顔色も変えず、

 

「ま、気持ちはわかるけど、これは結構重大な事だから、順序立てて言う必要があるのよ。……よく聞いてね。……二人とも祇園寺の子供じゃないわ」

 

「ええっ!! ほんとですか!」

「まさか、……そんな……」

 

 サトシとリョウコは思わず腰を浮かした。由美子はまたもや身を乗り出し、

 

「ちょっと待ってよ! それどう言う事よ!」

 

 美由紀は眉をしかめ、

 

「ちょっと! 由美子、最後まで聞きなさいよ! 説明するから」

 

「そうね。……ごめんね」

 

「恐らくは教団の男性信者二人の子供なんでしょうね。そしてその信者二人は多分双子の兄弟よ。遺伝子のパターンをコンピュータで分析したら、そう言う結論が出たの。祇園寺との血縁関係はありえないわ。

 

 ……まあ、沢田君の場合、お父さんの事考えると辛いでしょうけど、これが結論よ」

 

 サトシは呆然となった。

 

「じゃ、僕たち……、あんなにムキになったけど、……なんだか……」

 

 美由紀は苦笑し、

 

「ま、それ以上は考えない事ね。……はい、これでおしまい。……でも、二人ともよかったわね。いとこで」

 

「はあ、でも……、いとこだったら……」

「はあ……、いとこ、ですか……」

 

 二人は、暗い顔のまま、それだけしか言えなかった。しかし美由紀はニヤリと笑い、

 

「なに言ってんのよ。いとこだったら結婚できるじゃない」

 

 美由紀の言葉に、二人はまたもや愕然となり、

 

「ええっ!! ほんとですか!!」

「!!!! そうなんですか!!」

 

 ようやく理由を察した由美子も苦笑し、

 

「そっか。サトシ君とリョウコちゃん、それ心配してたんだ。うふふっ。そうよ。いとこは法律上結婚できるのよ。知らなかったの? うふふっ」

 

「知りませんでした……」

「わたしも知らなかったです……」

 

 呆然としている二人を尻目に、美由紀が、

 

「由美子、もう事件は解決したんだから、今後はあんたが保護者としてビシビシ勉強させた方がいいわね。うふふふふふっ」

 

 山之内も「この上ない苦笑」を浮かべ、

 

「おいおい。中学生をそんなにいじめるなよ。……わはははは。よかったな。二人とも。わははははは」

 

「はあ、……ありがとうございます……」

「……ありがとうございます……」

 

 流石の二人もまだ放心状態だった。三人の大人の笑い声が医務室に響き渡った。

 

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 サトシはその夜一人で屋上に出ていた。ベンチで見る晴天の夜空が美しい。

 

「京都の夜空もきれいだったんだなあ。……こんな気持ちで星を見るのって、ほんとに久しぶりだ……」

 

「沢田くん」

 

「あ、北原」

 

「電話したらいなかったから、もしかしたら、って思って」

 

「なんか急に星が見たくなってね。……すわりなよ」

 

「うん。なんか、気が抜けちゃったね。……でも、なんかすごくほっとしてる」

 

「僕もだよ。……でも、いとこだったなんてね。ほんとにびっくりしたよ……」

 

「うん。わたしもびっくりしたわ。……でも、いまはなんだか、神様に感謝してるの。……だって、わたしにも血縁のある家族がいた、ってことでしょ。それはすごくうれしいわ」

 

「ほんとにふしぎだね。……いとこだったなんて……」

 

「ねえ沢田くん。……沖縄での約束、おぼえてる?」

 

「……も、もちろんおぼえてるよ……」

 

 サトシは少し慌てた。リョウコに言われるまで沖縄での約束なんかすっかり忘れていたからだ。

 

「あら、あわてちゃって。……ほんとかな。ふふ。レイのことばっかりかんがえてたんじゃないの。うふふ」

 

 リョウコはサトシの慌てぶりをからかうように言った。

 

「ひどいなあ。……また言うんだから……。ふふふふふっ」

 

「じゃ、おぼえてるんなら、約束守って」

 

 リョウコはサトシを見ていたずらっぽく微笑んだ。

 

「もちろん守るよ。……リョウコ、……好きだよ」

 

「わたしも……、サトシくん……」

 

 サトシはリョウコを抱き寄せて唇を重ねた。あのマシュマロのようなリョウコの唇の感触がサトシの唇に蘇った。

 

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 その頃由美子と山之内は京都御所の近くのスカイラウンジ、「月光」にいた。幸いにしてここは「最終決戦」の被害を免れていたために、今日から営業を再開したのだ。

 

「うーい、山之内、もっと飲ませろっ、てんだあ」

 

「あーあ、また始まった。ふふっ。……そろそろ潮時かな。……マスター、じゃ帰るわ。後はよろしく。おい、中畑、しっかりしろ、帰るぞ」

 

「なーに言ってんのよお。まだまだ宵の口じゃいっ! 夜はこれから本番やんけっ! うーい」

 

「はいはい、わかったから、しっかりしろ。……よっこいしょ、と。……じゃ、マスター、またな♪」

 

「まいどありっ! またよろしく」

 

 由美子は山之内におぶさって「Fly Me To The Moon」の流れる店内を後にした。

 

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 その頃アキコは自室で色々と考え事をしていた。サトシとリョウコが祇園寺とは血縁がなく、また、いとこ同士だった、と言う事は由美子がみんなに知らせていたのである。

 

(あーあ、結局、沢田くんにはふられちゃったんかなあ。……あの二人はいとこじゃったけん、どうどうと付き合えるもんねえ。……でも、ま、いっか。人生、なにがあるかわからんけんね。あしたからまたがんばろ……)

 

「よっしゃあ! がんばろうね! アキコ!」

 

 その時電話のベルが鳴った。

 

「はい。形代です」

 

『ああアキコちゃん。川口です』

 

「あ、ひなたさん。こんばんわ」

 

『ちょっと先やけど、来週の日曜日、また四条君と三人で遊びに行かへんか。ええとこ見つけたんやねん』

 

「うん、行く行く。どんなところなん?」

 

『それがやねー……』

 

 二人の会話は楽しく弾んでいた。

 

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 山之内は由美子を背負ったまま人気のない道を歩いていた。

 

「おいっ! 山之内! 約束守らんかいっ!! ……おうっと」

 

「おおっとあぶない! 背中で暴れるなよ。……なんだい、約束って?」

 

「あの日、住宅棟でドンパチやった時にさあ、あんた、レーザーガンの出所をあとで言う、って言っておきながら、ウヤムヤにしてるだろうがっ! とっとと吐かんかいっ! くおぅらあっ!」

 

「ああ、あれか。あれはな、自衛隊研からちょいと借用したんだよ。ちょっとした伝手でな。……はいっ! これで約束果たしただろ。ちょっとはおとなしくしろよ。……あぶなくて仕方ないぜ」

 

「あぶなくて悪うござんしたね、ってんだあ! うーい。もう一軒行こうぜ!」

 

「しょうがないなあ。うふふふふ。……なあ中畑。あの日、住宅棟で君が言ったこと覚えてるか」

 

「あたし、なに言ったのよお」

 

「俺が今思ってることと同じこと言ったんだぜ。……愛してる、ってな」

 

「ええええっ!! なによお急にい! そんなつまらないこと言ったら、いっぺんで酔いがさめちゃうじゃないのお!」

 

「また暴れる……。ふふ、仕方ないなあ。……愛してる。結婚してくれ」

 

「ちょっと、おろしてよ。早く」

 

 山之内は由美子を降ろした。月明かりの中、二人は向かい合った。

 

「山之内君。……マジで言ってんの……」

 

「ああ、本気だ。……今度こそ君を本当に幸せにする。……あの時はまだお互いに若過ぎた。……でも、今ならはっきり言えるよ。結婚してくれ……」

 

「豊……。うううっ、……わああああっ」

 

 由美子は泣きながら山之内に抱き着いた。山之内は由美子を抱き寄せ、唇を重ねた。月の光が一つになった二人の影を道に落としていた。

 

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 翌朝、サトシは目覚ましの音で目覚めた。

 

「あっ、いけない! 目覚ましの針が少しずれてる!」

 

 サトシが慌てて身支度を終えた時、インタホンが鳴った。

 

「はい」

 

『おはよう。サトシくん』

 

「あ、リョウコ、今行くよ」

 

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 二人が連れ立って玄関に来ると、丁度アキコがやって来た。

 

「おっはよー。いっしょにいこ」

 

 アキコは二人ににっこり微笑んだ。

 

「おはよう形代」

 

「おはよう。アキコちゃん」

 

 リョウコも微笑を返した。

 

「あらっ。これからは名前で来るのんね。じゃわたしもそうするけんね。おはよう、リョウコちゃん」

 

 丁度そこへタカシとサリナが連れ立ってやって来た。

 

「おはよう」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはようございます」

 

 そこへ慌てふためいたマサキがやって来た。

 

「久々の学校やのに遅刻やー。えらいこっちゃー」

 

「四条さん、おは——」

 

「沢田君すまんっ! 時間ないねん! またなっ!」

 

 マサキは慌てふためいて飛び出して行った。

 

「あ、あれ、ひなたさん」

 

 全員が外を見ると、丁度道路に「お客様の下僕」、MMタクシーが止まっている。後の座席にはひなたがいた。

 

「こらー、四条君! はよせんと遅刻やんかー! わざわざ迎えにきたったんやでー!」

 

「すまんー、ひなたー」

 

 二人を乗せたタクシーは走り去って行った。誰からともなく笑い声が漏れ、五人はみんなで笑った。

 

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 こちらは「エヴァ」の世界。

 

 学校が再開されたので、シンジ達は今日から登校である。

 

「いってきまーす」

「いってきまーす」

 

「いってらっさいっ!」

「キュウッ!! ククッ!」

 

 いつもは蒸し暑いのに今日は実にすがすがしい。シンジとアスカは連れ立って歩き出した。

 

「アスカ、シンちゃん、おはよう」

 

「シンちゃん? ……あれっ、綾波! どうしたの?!」

 

 二人が振り返るとそこにいるのはレイである。アスカは少しカチンと来た顔で、

 

「どうしたの。こんな時間に? それに、シンちゃん、なんて、なに言ってんのよ。なれなれしいわねえ」

 

 レイは二人に並んで歩き出した。

 

「近所に引っ越してきたのよ。これから毎日一緒に登校できるわね。それから、これからはシンジくんのこと、シンちゃん、ってよぶことにしたから」

 

「まっ! あんたシンジのいとこでしょ! いとこだったらいとこらしくしなさいよっ!」

 

「いとこなんだから、シンちゃん、ってよんでもいいじゃない! それに、いとこらしく、って、どう言うことなのよお!」

 

「いとこなんだから、兄弟みたいに付き合いなさい、って言うことよ!」

 

「あの、二人とも、……こんなとこで朝からケンカなんて……」

 

「シンジはだまってらっしゃい! ……つまり、そう言うことよ!」

 

「あーら、おあいにくさま。わたしね、ちゃんと調べたんだ。兄弟とちがって、いとこだったら結婚できるのよ」

 

「け、けっこおんんんっ!? レイ! あんたなんてこと言うのよっ!」

「綾波! 急になにを……、アスカも落ち着いて……」

 

「だまってなさいよっ! バカシンジ!」

 

「は、はい……」

 

「わたしべつになにも悪いこと言ってないじゃない」

 

「レイ、だいたいあんたはね! ふだんから……」

 

 三人は学校までの道のりを「にこやかに談笑しながら」歩いた。

 

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 シンジ達が第壱中学校2年A組の教室に入ると懐かしい顔ぶれが揃っていた。洞木ヒカリもいる。相田ケンスケも来ている。

 

「おはよう」

 

 シンジの挨拶に、まずケンスケが応え、

 

「おはよう、シンジ、惣流、綾波」

 

 続いてヒカリが明るい声で、

 

「おはよう、碇君、綾波さん、アスカ」

 

「おはよう……」

 

「おはよう……」

 

 アスカとレイはムスっとしている。ヒカリがシンジの所へ来てそっと聞いた。

 

「二人ともどうしたの?」

 

「いや、ちょっとね……」

 

 そこへ意外な人物が現れた。

 

「おはようさーん」

 

 鈴原トウジが松葉杖を突いてやって来たのである。

 

「トウジ!」

「鈴原!」

「トウジ!」

 

 シンジ、ヒカリ、ケンスケの三人が、トウジの所に飛んで行く。続いてレイとアスカも慌ててこちらにやって来た。

 

 シンジは驚き、トウジに、

 

「トウジ! 足のほうは……」

 

「ああ、足か。心配あらへん。……こんなこと言うたらアカンのやろうけど、実はホンマにありがたいことにな、ドナーが現れたんや。それですぐ移植手術してもうてな。この通りや。まだ完全やないけど、なんとか日常生活はできるようになったんや。これからリハビリが大変やけどな。……なーに。必ず元気になるで」

 

 シンジとケンスケは心から喜び、

 

「そうだったのか。……よかった。…ほんとによかった」

 

「よかったな。トウジ」

 

 アスカとレイもやや眼を潤ませ、

 

「トウジ、よかったわね」

 

「鈴原くん、よかったわね……」

 

「鈴原……。よかったわね……。ぐすっ……」

 

 ヒカリは泣き出してしまった。トウジは苦笑し、

 

「なんやなんや、みんなシケた顔して。せっかくワシが元気になって帰って来たんや。もっと、パーッと、明るう行ってんか。明るうにな」

 

 その時シンジはトウジが机に置いた古ぼけた本に眼を止めた。

 

『原初の光』

 

「なんだ? この言葉どこかで……。トウジ、この本どうしたの?」

 

「ああそれか。疎開先の病院におった時、たまたまとなりのベッドの人か持っとってな。その人が先に退院しよったんで、その時にくれよったんや。なんでもセカンドインパクト前に出た本らしいけど、ホンマにしょーもない小説やで」

 

「ちょっと見せてね」

 

「ああかまへんよ。なんやったらやるで」

 

 シンジは急いでその本を開いて冒頭の部分を見た。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 1999年6月27日。日本国東京都。

 

 トランシーバから小声が聞こえて来た。

 

『第二隊、準備はいいか。こちらは準備完了』

 

 第二隊の警官も、小声で、

 

「第一隊、聞こえますか。こちら第二隊、準備完了です」

 

『よし、踏み込め!』

 

 警官隊が一斉に家の前後から踏み込んだ。怒号が聞こえて来る。

 

「警察だ! おとなしくしろ!」

 

 その次の瞬間、踏み込んだ警官達は次々にバタバタと倒れた。後方の警官の鼻に、微かにアーモンドのような甘い香りが漂う。

 

「いかんっ! 青酸ガスだっ! 全員退去っ!」

 

 警官の怒号は悲鳴混じりの叫び声に変わり、何とも不気味な男の笑い声が響き渡った。

 

「わははははははっ! 全ての生きとし生けるものに永遠の解脱をっ!」

 

 +  +  +  +  +

 

 1999年6月28日付、毎朝新聞朝刊より。

 

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「宗教法人摘発時に青酸ガス。警官、教祖、信者等多数死傷」

 

 6月27日、警視庁は誘拐、殺人及び死体損壊の疑いでかねてから内偵中であった宗教法人「羯磨の光」(祇園寺羯磨教祖)の摘発に踏み切ったが、その際、教団側で予め用意してあった青酸ガスが放出され、警官7人が死亡。5人が意識不明の重体となった。

 

 教団側は、祇園時教祖と本部に集結中だった信者142人が全て死亡。青酸ガスは摘発を予想して準備していたと思われる。

 

 この教団は、無関係な人を誘拐し、「羯磨神への生贄の儀式」と称して、猟奇的な殺人行為を定期的に行っていたらしく、都内で行方不明になり、捜索願いの出ている人の内の何人かはこの儀式の犠牲になったと見られるが、詳細は不明。

 

 今後の解明が待たれる。

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 +  +  +  +  +

 

「いやあ、しかし酷い事件でしたねえ。課長」

 

「全くなあ。俺達は命拾いしたが、最初に踏み込んだ連中には気の毒な事をした。まさか祇園寺の野郎、あそこまで用意していたとはなあ」

 

「青酸ガスで信者全員死亡ですからねえ。……信者連中は祇園寺の奴が青酸ガスを用意して集団自決する事を知っていたんでしょうか?」

 

「まあ、今後の詳しい調査を待たねばならんが、どうも全員覚悟の上だったようだな。信者の中に日記を詳細に付けていた奴がいてな。それを見ると、『6月27日に全ての生命体は永遠の解脱への道を踏み出す』とか何とか書いてあるんだ。おまけに、踏み込んだ時、丁度連中は儀式の真っ最中だったし、そこから考えて、覚悟していたんじゃないかと思うな」

 

「と、言う事は、青酸ガスは連中が集団自決するためのものであって、警察の摘発に対抗するための物ではなかった、と?」

 

「うむ。わしはそう見ている。たまたま6月27日に信者全員が集まって儀式を行うと言う情報が入ったから、一網打尽に、と考えて摘発に踏み切ったんだが……。それにしても後味の悪い事件だったなあ」

 

「そう言えば、今日は8月15日ですね。ちょうどあれから49日ですか……。旧盆の中日に四十九日とはシャレになりませんねえ……。ええええっ! うわあああああああっ!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!

 

 その時、極めて強い地震が世界中を襲った。

 

 +  +  +  +  +

 

『臨時ニュースを申し上げます! 只今、日本全国で極めて強い地震が発生致しました! すぐに近くの火を消して下さい! すぐに近くの火を消して……』

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 シンジは全身が凍り付いた。

 

「アスカ! 綾波! こ、これを……」

 

「なによ」

 

「なに……」

 

 その本を見たアスカとレイも凍り付いた。

 

「シンジ……、これ……」

 

「シンちゃん……、これ……」

 

「なんやなんや、おまえらどうしたんや」

 

 訝しげな顔のトウジがやって来た時、丁度始業のチャイムが鳴り、担任の老教師が入って来た。

 

「起立! 礼! 着席!」

 

 しかし、シンジ、アスカ、レイは上の空である。

 

「えー、今日は、新しいみなさんの仲間を紹介します。……入りなさい」

 

 入って来た転校生を見た三人は腰を浮かして立ち上がり、そのまままたもや凍り付いてしまった。

 

「渚カヲルです。よろしく」

 

第一部・原初の光 完

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