二つのコスモス~続・新世紀エヴァンゲリオン 第二部・夏のペンタグラム   作:VIA MEDIA

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第十一話・邪正一如

「JAを! いや、ジェットアローンを再製作しろですと!!」

「なんですと!! ジェットアローンを!!」

 

 時田と真田は驚きの声を上げた。

 

「そうです。資金と技術者はいくらでも提供致します。なんでしたら、現金で先払いしても構いません」

 

「……しかし、なんのためにですか? 使徒は全て撃退されたはずですが……」

 

 加納の話の余りの意外さに、流石の時田もうろたえていた。

 

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第十一話・邪正一如

 

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 その頃、ミサトと加持は、黄昏の芦ノ湖畔の駐車場に停めた車の中で話し合っていた。

 

「ねえ、加持君。……いよいよなにか動き出したのかしら……」

 

「わからんな……。本部長の着任は元々決められていたものだ。多少遅かったとは思うがな。それに、シクスの配属にしても、特になにか不穏な動きに結びつくとは考えにくい……。しかし、一つだけ心配な事があるな。本部長にしても、シクスにしても、なんでこんなに急に来るんだ。正式に連絡があったのは今日で、着任と配属は来週の月曜だろ。……まあ用心しておくに越した事はないな。……それから、これは俺が調べたシクスの経歴と写真だ。特に怪しい所はなにもないがな」

 

「……経歴と写真、ね……」

 

と、言いながら、ミサトは加持から受け取った写真と経歴書を一瞥し、

 

「そうね。これを見る限りでは、この子はただの中学生だわ。特にエヴァとなにか関係があったとも思えないしね……」

 

と、軽く頷くや、感心した口調で、

 

「しっかし、この子も可愛い子ねえ。アスカやレイとは全く違うタイプだけど、すごく清純で垢抜けた感じだわ。……ねえ、この子さ、季節にたとえると、『春』って感じしない?」

 

 加持はミサトが差し出した写真を改めて見た。スナップ写真の中では、背中まであるロングヘアーをポニーテールにした、大きな瞳が愛くるしい制服姿の美少女が微笑んでいる。

 

「そうだな。『春』って感じだ。……でも、こんな例え話、俺達の世代が最後になっちまったな……」

 

「そうよねえ。……シンちゃん達は季節を知らないもんねえ……」

 

「シンジ君と言えば、最近結構女の子とも上手くやれるようになって来たみたいだな。……案外、この子にシンジ君、まいってしまったりして……、ははは」

 

「もう……、なに言ってんのよ。今シンちゃんはアスカと結構仲良くしてるから、そんなことになるはずないじゃない」

 

「いやいや、わからないぜ。シンジ君だって男だからな。ははは」

 

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 その頃シンジとアスカは近所のレストランに来ていた。

 

「ねえシンジ、ここのレストランもなかなかいけるじゃない♪」

 

「そうだね。けっこうおいしいな」

 

「……ねえアスカ、そう言えばさ、僕ら、二人で外食なんて、はじめてだね」

 

「そう言えばそうよねえ。……どうシンジ、このあたしと二人でいっしょに外でごはんたべる気分は?♪」

 

「え?……、そ、そりゃ、うれしいよ……」

 

「そうよね。……ま、とうぜんだわね。このあたしといっしょなんだもんねー♪」

 

「う、うん……。でも、二人っきりで外食なんて、なんかてれくさいな……」

 

「うふふふっ♪ シンジったら」

 

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 食事が終わった二人はマンションに帰って来た。アスカは御満悦、と言った顔で、

 

「あーたべたたべた。もうおなかいっぱい♪」

 

 シンジも笑って、

 

「けっこうおいしかったよねえ」

 

 壁の時計を見ると19:00前である。ミサトはまだ帰って来ていない。アスカはシンジに、

 

「ねえシンジ、先におふろに入っていいかな」

 

「うん、いいよ。お先にどうぞ」

 

「じゃ、お先に♪」

 

と、言うとアスカは部屋に戻ってバスタオルと着替えを取り、風呂場に向かった。

 

 その時、シンジはミサトの留守の夜にアスカと交わしたキスの事をふと思い出し、

 

(今日も、ミサトさん、おそいのかな……)

 

 また、アスカの唇の甘さが自分の唇に蘇って来る。

 

(……今日も、あんなことになったら……)

 

 シンジとしてはアスカとの「行為」には少々罪悪感を持っている。ましてやミサトの目を盗んでアスカと「二人だけの秘め事」をしてしまったのだから気が引けない訳がない。その上今のシンジはアスカに感じた「肉欲」を自覚している。その欲望のやり場をどうすれば良いのか、シンジには判らなかった。

 

 その時、

 

ピンポーン

 

「はい。……あ、ミサトさん。すぐ開けます」

 

 思ったより早くミサトが帰って来た。シンジは「残念と安堵」を少し感じながら玄関に向かった。

 

「ただいま♪」

 

「おかえりなさい。……早かったんですね」

 

「うん。加持君とちょっち打ち合わせただけだったからね。アスカは? お風呂かな?」

 

「はい。今入ったところです」

 

「あらそう。じゃ、シンちゃん次に入ってよ。わたしはその後で入るわ。お風呂から上がったら今日のこと話すから」

 

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 こちらはレイの部屋である。

 

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

 

「はい、綾波です」

 

『レイか。加持だ』

 

「あ、こんばんは」

 

『連絡だ。シクスの配属と新本部長の件だが……』

 

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 ミサトは風呂から上がるなり冷蔵庫に直行し、

 

「……お待たせー。もうちょーっち待ってねー。ビールビールと♪」

 

 エビチュビールを手に、リビングに入って来た。

 

「……んぐ、……んぐ、……んぐ、……ぷはああああっ! かああああっ!! ……あーっ! やっぱ、人生って、この瞬間のためにあるのよねえ♪」

 

 アスカとシンジは、リビングのテーブルでミサトの様子を見ながら、

 

「そのようすじゃ、きょうは大したことなさそうね、ミサト。ふふ♪」

 

「……♪」

 

と、苦笑した。

 

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「この子がシクスよ」

 

と、ミサトが差し出した写真を、二人は額を合わせんばかりにして覗き込み、

 

「へえ……。かわいいじゃない。……なかなか……」

 

と、ややぶっきらぼうに言ったアスカに、シンジは、

 

「そうだね。とってもかわいい子だね」

 

「…………」

(もう、シンジったら、「アスカには勝てないけど」、ぐらい言いなさいよ)

 

 無論シンジは、アスカの心中を察する筈もなく、

 

「……どうしたの? アスカ」

 

「なんでもない。……ねえミサト、この子、なんて名前なの?」

 

「八雲ナツミ、って言うの。あんたたちと同じ14歳で、5月5日生まれよ」

 

「僕たちとおなじ……、やっぱり僕たちのクラスに転校して来るんですか?」

 

「そうよ。来週の月曜に転校して来るわ。ま、怪しいことはないと思うわよ。上からの命令で、もうすぐ機械制御の研究も本格的に始まるし、人手が必要なことも確かだからね。その意味ではシクスが配属されても別に不思議じゃないわ」

 

 シンジは、少々驚いた顔で、

 

「上から、って……、国連からですか?」

 

「そう。いよいよ本格的に始まるのよ。あんたたちには、年明け早々ぐらいから実験に参加してもらうことになると思うわ。……ま、エヴァのシンクロテストみたいなもんだから、気楽にやってちょうだい♪」

 

と、笑って言ったミサトへ、二人は、

 

「はい、わかりました」

 

「うん、わかったわ」

 

 続いてミサトは書類を取り出し、

 

「ところで、こっちが新任の本部長の経歴よ」

 

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 加持はレイに一応の説明を行い、

 

『シクスと新任の本部長の経歴は以上だ。シクスの件、一応注意しておいてくれ。来週から宜しく頼むぞ』

 

「はい、わかりました」

 

『じゃ、これで。おやすみ』

 

「おやすみなさい」

 

(どんな子が来るのかしら……)

 

 電話の後、レイは少しの不安と期待が入り混じった気持ちで「新しい仲間」の事を考えていた。

 

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 翌朝、通学途上でシンジ達と一緒になったレイは、二人が持って来た八雲ナツミの写真を見た。

 

「へえ、……この子がシクスチルドレンの八雲ナツミさん……」

 

と、結構興味深そうに写真を見ているレイに、アスカは、

 

「そう。……ま、かくすほどのことじゃないと思うけど、とりあえず、このことは渚くんや鈴原にはまだ言わないほうがいいと思うわ」

 

「そうね。来週までは注意しましょ。……じゃ、これ……」

 

と、言って、レイはアスカに写真を返した。

 

「うん、どうも……。あ、渚くんだ」

 

 アスカがナツミの写真をカバンにしまった丁度その時、少し前方の曲がり角からカヲルが現れた。シンジ達に気付いたカヲルは立ち止まって待っている。

 

「おはよう」

 

と、カヲルが笑いかけ、三人は、

 

「おはよう、渚君」

 

「おはよう♪」

 

「おはよう、渚くん……」

 

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 今日は12月23日。

 

「お姉ちゃん、そっちのお皿とってよ。ノゾミ、お菓子用意してね」

 

 白いエプロン姿のヒカリは昼過ぎからクリスマスパーティーの準備に大童である。姉のコダマと妹のノゾミもヒカリにすっかり「仕切られて」いる。

 

「……はい、お皿。……ヒカリ、しっかしあんたも世話女房タイプよねえ。パーティーの幹事やるなんてさ。……いい主婦になるわ……」

 

 テキパキと準備をこなすヒカリに、コダマも呆れ顔で苦笑している。

 

「もう、主婦だなんて、……なに言ってんのよお姉ちゃん」

 

「主婦」と言う言葉に、思わずトウジの事を思い浮かべてしまったヒカリは少々慌てた。

 

「あれ、あわてちゃって。……好きな人でもいるのかな、っと♪」

 

「お姉ちゃん! ……へんなこと言ってないでちゃんとてつだってよ」

 

「ヒカリ姉ちゃん。お菓子の準備できたよ」

 

「あ、ありがとう。……じゃ、次はさ、お花とか、かざりつけしてよ」

 

「はーい」

 

 壁の時計は14:30を指している。そろそろ誰か来てもいい頃だ。

 

ピンポーン

 

 インタホンのチャイムが鳴った。

 

「あっ、だれか来たわ♪ ……はい、あっ、鈴原、今あけるわね♪」

 

 ヒカリはいそいそと玄関に向かった。

 

 ドアを開けると、松葉杖を突き、いつも通りのジャージ姿のトウジと買い物袋を下げたポロシャツ姿のケンスケが立っていた。トウジの妹のサクラもやや緊張した面持ちで立っている。

 

「来たでー」

 

「こんにちは委員長」

 

「いらっしゃい♪ あら、サクラちゃんね♪ はじめまして、洞木ヒカリです♪」

 

「こんにちは。はじめまして、すずはらサクラです」

 

 ヒカリの微笑みに安心したのか、サクラもほっとした顔でにっこり笑った。

 

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 シンジとアスカも昼過ぎから腕によりをかけて差し入れの料理を用意していた。ミサトも今日は休日なので二人の料理を「味利き」したりしながらリビングで過ごしていた。

 

「二人とも、もうそろそろ時間じゃない?」

 

と、笑うミサトに、アスカは、

 

「うん、そうね♪ ……シンジ、そろそろ行こうか」

 

「そうだね。さしいれはこれでいいし、会費、わすれてないよね」

 

「だあいじょうぶ。ちゃあんと用意してあるわよ♪ お花も買ってあるしね。………ところでどう? この服、にあうかな」

 

 シンジは相変わらずいつも通りの学生服姿だが、今日のアスカは「ちょっとおめかし」している。オレンジのワンピースがとても良く似合っているし、胸元にはあの小さな真珠のペンダントが柔らかく光っている。ミサトのカンパで奮発したランの花束を手にすると、真っ赤なカトレアと黄色のシンビジウムが一層アスカの可憐さを引き立てた。

 

 シンジは改めてアスカをしげしげと見た後、

 

「……うん。だいじょうぶだよ」

 

 如何にもシンジらしい言い方にアスカとミサトは苦笑し、

 

「もう、シンジったら、『だいじょうぶ』っていいかたないでしょ」

 

「そうよ、シンちゃん、女の子の服ほめるのに、『だいじょうぶ』はないわよ」

 

と、二人に言われてしまったシンジは、やや申し訳なさそうに、

 

「あ、そうなの……。ごめんアスカ」

 

「ま、いいわ。いかにもシンジらしいしね。うふふ。……じゃミサト、いってきまーす♪」

 

「いってきます」

 

「行ってらっさいっ♪」

「キュウウウッ♪」

 

 +  +  +  +  +

 

 シンジとアスカは大通りに出た。見ると少し前をレイが歩いている。

 

「あ、綾波じゃないの」

 

「あ、ほんとだ。レーイ!」

 

 レイはアスカの呼び声に立ち止まり、こちらを振り返った。

 

「こんにちは綾波」

 

「ハローレイ♪」

 

「こんにちは、アスカ、シンちゃん」

 

 見るとレイは珍しく水色のワンピースを着て、手には白いユリの花束を持っていた。如何にもレイらしくやや地味で清楚な感じの服だがなかなか良く似合っている。三人は連れ立って歩き出した。

 

「へー、レイのプラグスーツと制服以外のすがた、はじめて見たわ。めずらしいこともあるものね。……でも、なかなかいいじゃない♪」

 

「ありがと……。ちょっとはずかしいけど……」

 

 アスカに誉められて、レイは少し顔を赤らめた。その時シンジが、

 

「そんなことないよ。ほんと、よくにあってるよ」

 

と、言ったのへ、すかさずアスカが、

 

「あっシンジ、なによ。あたしのときは、『だいじょうぶ』なんていったくせに、レイには『よくにあってる』なの!」

 

「なんだよアスカ、アスカやミサトさんが言うから、綾波には、にあってる、って言ったんじゃないか。なんで怒るんだよ!」

 

「もう、知らない! バカシンジ!」

 

「なんでバカなんだよ! わけがわからないじゃないか!」

 

「?……」

 

 二人の様子にレイはきょとんとしていた。

 

 +  +  +  +  +

 

 ヒカリの家のリビングではすっかりパーティーの準備が整っている。そこへヒカリに連れられて三人が入って来た。

 

「三人来たわよ♪」

 

 アスカを見たトウジは眼を剥き、

 

「おおきよったきよった。おっ、今日の惣流はすごいおめかししよって」

 

「トウジ、どう、ちょっとは見直した?♪」

 

 アスカは笑って応えた。

 

「おお、見直したで。……それになんとなあ、綾波の私服、はじめてやで」

 

「ほんとだ。俺もはじめて見たよ」

 

 トウジとケンスケもレイの私服姿に驚いている。レイは少し頬を染め、

 

「……ちょっとはずかしいけど、……おもいきって着てみたの……」

 

 ヒカリは笑って、

 

「綾波さんも、私服もっと着なさいよ。よくにあうわ♪」

 

「ありがと……」

 

と、レイは微笑んだ。

 

 その時、アスカが、

 

「あっ、あいさつがまだだったわね。……こんにちは、はじめまして、惣流アスカ・ラングレーです♪」

 

「はじめまして、碇シンジです」

 

「綾波レイです。……よろしく」

 

 コダマとノゾミが微笑み、

 

「はじめまして♪ ヒカリの姉のコダマです」

 

「はじめまして♪ 妹のノゾミです」

 

 トウジの妹のサクラも、

 

「すずはらサクラです。はじめまして」

 

 アスカは笑ってやや屈み、

 

「あら、鈴原の妹さんのサクラちゃんね♪ あたしアスカ、よろしくね♪」

 

「サクラです。よろしくね」

 

 愛らしいサクラの挨拶にアスカも微笑している。

 

「後は渚くんだけね♪ 地図はわたしてあるから道のほうはだいじょうぶだと思うんだけど……」

 

 丁度その時、

 

ピンポーン

 

「あっ、来たかな♪」

 

 ヒカリは笑って立ち上がり、インタホンの所に行った。

 

「……あ、渚くん♪ すぐ行くわ♪」

 

 程なくしてヒカリと一緒に紫のバラの花束を手にしたカヲルが入って来た。カヲルを見たコダマとノゾミは眼を見開き、

 

「!!!!」

「!!!!」

 

 無理もない。日本人離れした容貌の美少年が凛々しい学生服姿でバラの花束と共に現れたのだ。注目しない方がおかしい。

 

 カヲルは微笑み、

 

「こんにちは、初めまして。渚カヲルです」

 

 シンジ、アスカ、レイは、いつも通りに、

 

「あ、渚君、こんにちは」

 

「こんにちは♪」

 

「こんにちは渚くん……」

 

 トウジとケンスケも、

 

「おおまいど」

 

「よう渚君」

 

 ヒカリとノゾミは、身を乗り出さんばかりの勢いで、

 

「はじめまして! ヒカリの姉のコダマです♪」

 

「妹のノゾミです。はじめまして♪!」

 

 しかし、その後、

 

「はじめまして。すずはらサクラです」

 

と、可愛い挨拶をしたサクラに、体を折って微笑みかけたカヲルは、

 

「君が鈴原君の妹さんのサクラちゃんかい。はじめまして、渚カヲルです。よろしくね。………はい、これプレゼント」

 

と、バラの花を一輪抜いて手渡した。

 

「わあきれい。おにいちゃん。ありがとう」

 

「トゲがあるから気を付けるんだよ」

 

「うん」

 

 この様子を見たコダマとノゾミは、

 

「…………」

「…………」

 

と、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、

 

「……;」

「……;」

 

 カヲルの「女嫌い」を知っているトウジとケンスケは苦笑していた。

 

 +  +  +  +  +

 

「じゃ、みんなそろったし、これから今年のクリスマスパーティーをはじめまーす♪ ……かんぱーい!♪」

 

 ヒカリの音頭にグラスを手にした全員が唱和し、

 

「かんぱーい!♪」

「かんぱーい!♪」

「かんぱーい!♪」

「かんぱーい!♪」

「かんぱーい!♪」

「かんぱーい!♪」

「かんぱーい!♪」

「かんぱーい!♪」

 

 少し遅れて、サクラが可愛い声で、

 

「……かんぱーい」

 

と、言うのへ、カヲルがすかさず、もう一度、

 

「かんぱーい」

 

と合わせた。

 

 その様子を一瞬きょとんとして見ていた全員だったが、すぐに、

 

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 笑いながら拍手した。カヲルとサクラも、

 

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 +  +  +  +  +

 

 カヲルはサクラにすっかり気に入られてしまい、トランプをせがまれ、

 

「はい、つぎはおにいちゃんのばんよ」

 

「うーん、どれにしようかな。……これと、これだな。あはは、はずれだ」

 

と、「神経衰弱」に興じていた。コダマとノゾミも当然ながら参加している。

 

 コダマは現在中三なので年齢はカヲルと同じなのだが、それを知らない彼女は年下の男の子に対する感覚でカヲルに接していた。カヲルも級友の姉に対する感覚でコダマに接している。

 

 突然コダマが、

 

「ねえねえ、渚くん、ちょっと聞いていい?」

 

「なんですか?」

 

「渚くんはどんなタイプの女の子が好きなの?♪」

 

「えっ?」

 

 コダマの言葉に、「ダイヤモンド・ゲーム」と言う三人用のボードゲームに興じていたシンジ、アスカ、レイは一斉に振り返った。別の場所で「七並べ」をしていたトウジ、ケンスケ、ヒカリもそちらを見る。

 

 カヲルは少々戸惑った顔で、

 

「……そうですね。……僕は、……そうだな。ぬくもりを感じさせてくれる人が好きですね……;」

 

「へえー、じゃ、年上の女の人なんか好きなの?♪」

 

「え、ええ、……まあ、……そうですね……;」

 

 その時ヒカリがニヤリと笑い、

 

「お姉ちゃん、渚くんはお姉ちゃんと同い年よ♪」

 

「な、なに言ってんのよ。……なにもそんなこと、聞いてないわよ……」

 

と、コダマは少々慌てたが、すぐに不思議そうな顔で、

 

「でも、同い年、って?……」

 

 カヲルはにっこり笑い、

 

「ええ、実は病気でしばらく入院していまして、出席日数が足りなくなったので二年生に編入されたんですけど、僕は15歳です」

 

「あら、そう。……そうなの。……それはそれは。……あはは……;」

 

 コダマの照れ隠し笑いに反応してみんな微笑んだ。サクラは訳が判らずにきょとんとしている。

 

「コダマ姉ちゃん、早くしたら。お姉ちゃんの番よ」

 

と、こちらもニヤニヤしながら言ったノゾミに、コダマは、

 

「わかってるわよ、ノゾミ。うるさいわねえ」

 

 リビングに和やかな空気が流れていた。

 

 +  +  +  +  +

 

 シンジが、勝ち誇った声で、

 

「やった! 僕の勝ちだ!」

 

「くやしーい! シンジに負けるなんてさ!」

 

 ゲームには絶対の自信を持っていたアスカはシンジにトップを取られて悔し顔である。

 

「このままじゃおさまらないわ! シンジ、もう一回やるわよ!」

 

「え、…そんな、別のにしようよ」

 

「いいの! もういっかいするの! いいわねレイ」

 

「いいわよ」

 

と、レイは苦笑している。すっかり感情が豊かになったようだ。シンジもやむなく、

 

「……しょうがないなあ……」

 

 すかさずアスカは、

 

「じゃ、順番決めるわよ。ジャン・ケン・ポン! ……よおしっ、あたしが一番ねっ♪ ほらほら、シンジ、レイ、あんたたちの順番きめてきめて」

 

 +  +  +  +  +

 

 トウジが手持ちのカードを投げ捨て、

 

「あかん、また委員長の勝ちや。ホンマにまいったわ……」

 

「まったくだよなあ。こう言うこととなると、委員長は強すぎるよ」

 

「へへっ、わるいわね。二人とももっとがんばって♪」

 

 知的ゲームとなるとヒカリの強さは抜群である。トウジとケンスケは全く歯が立たない。

 

「よし、次はポーカーしようぜ」

 

「よっしゃ、ポーカーやったら負けへんで」

 

「どっからでもかかってらっしゃい♪ ……ところで、ねえ、鈴原、時間のほうはだいじょうぶ? サクラちゃん病み上がりだけど……」

 

 そう言われてトウジは壁の時計を見た。17:30を指している。

 

「ああまだだいじょうぶやろ」

 

と、いいつつ、サクラの方を向き、

 

「おいサクラ、しんどいことあらへんか?」

 

 サクラは元気に、

 

「うん、あらへんよ」

 

「そうか。しんどうなったらすぐに兄ちゃんに言うんやで」

 

「うん」

 

「そう言うこっちゃ。ま、8時ぐらいまではかまへんと思うさかい、あんまり気にせんでええで」

 

「うん、わかった♪」

 

 ヒカリは安心した様子で微笑んだ。そのやりとりを見ていたケンスケは思った。

 

(あーあ、トウジの奴は意識してないみたいだけど、委員長はトウジを好きなんだよなあ。……シンジはアスカと綾波に囲まれてるし、渚はあの通りだ……。俺だけかあ、一人なのは……)

 

 軍事マニアで、今までは女の子の事など気にも留めていなかったケンスケだが、何故か今日は「自分にはガールフレンドがいない」事を妙に寂しく感じた。

 

「相田くん、どうしたの?」

 

 ケンスケの表情の変化に気付いたヒカリが少々心配そうに言った。ケンスケは慌てて明るい表情を作り、

 

「いや、別になんでもないよ。……じゃ、トランプ配るぜ」

 

 +  +  +  +  +

 

 アスカが、右手を振って、

 

「やったー!♪ 勝っちゃった!♪」

 

 シンジは悔しそうに、

 

「負けちゃったかあ。……がんばったつもりなんだけどなあ」

 

「へっへっへー、そうそうシンジばかりに勝たせないわよ♪」

 

「仇討ち」を果たしたアスカは大喜びである。

 

「でも接戦だったわ。……ちょっとくやしいな」

 

 レイも苦笑しているが大いに楽しんだようだ。壁の時計は18:30を指している。

 

 その時ヒカリが、

 

「みんな。一段落したみたいだしさあ、そろそろごはんにしない?♪ おわったらケーキもあるわよ♪」

 

 真っ先にトウジが賛成し、

 

「おお、ええなあ」

 

「さんせーい♪ あたしのさしいれもあるからねー♪」

 

と、料理の腕に自信を付けて来たアスカも張り切っている。

 

「じゃ、かたづけてごはんの用意しましょ♪」

 

 ヒカリの音頭で全員が立ち上がった。

 

 +  +  +  +  +

 

「シンジ、そのからあげとってよ」

 

「……と、はい、アスカ」

 

「サンキューシンジ♪」

 

「サラダおいしいわ……」

 

 肉嫌いのレイはもっぱら野菜中心だ。

 

「綾波はあいかわらずお肉たべないね」

 

「うん。……まだちょっと苦手なの。……でも、たまごはたべられるから、この和風サラダに金糸たまごのせたのなんか、だいすきよ」

 

「うまいわあ。シンジと惣流の作って来よったヤツ、最高やで♪」

 

「……鈴原、……わたしの料理、口にあわない?……」

 

と、少々心配そうなヒカリに、

 

「そんなことあるかいな。委員長の料理も抜群やで♪ このエビフライなんか最高やがな♪ ……おお、うまいっ♪」

 

「そう……、よかった……」

 

 ヒカリも安心したようだ。

 

 トウジは更に、

 

「どやサクラ、ちゃんと食うとるかあ?」

 

「うん、とってもおいしいよ」

 

「そうかあ。しっかり食うて、元気つけなあかんで」

 

「うん」

 

 愛らしいサクラの応対にみんな和やかな顔をしている。カヲルもゴキゲンな様子で食べ、

 

「みんなとても料理が上手だね。僕も自炊生活だからがんばらないと」

 

 コダマとノゾミは、ここぞとばかりに、

 

「渚くん、またいつでも食べに来てよ♪」

 

「え? ……どうもありがとうございます」

 

「わたし中一だけど、料理ちゃんとできるよ。よかったらわたしのもたべてね♪」

 

「うん、……どうもありがとう」

 

 二人の「攻勢」の前には流石のカヲルもタジタジの様子だ。

 

 その時ヒカリがまたニヤリと笑って、

 

「お姉ちゃんもノゾミも、いつのまにお料理が得意になったのかな、っと♪」

 

「こらヒカリ!」

「ヒカリ姉ちゃん!」

 

 三姉妹のやりとりにみんなが微笑んでいる。

 

 ヒカリはケンスケに、

 

「相田くん、食べてる?」

 

「あ、ああ、……もちろん。委員長の料理、うまいじゃん♪」

 

と、言いながらも、今日のケンスケは「一人の寂しさ」を妙に感じていた。

 

(……やっぱり、一人なのは俺だけなんだよなあ……。でも、なんで俺、今日はこんなことばっか考えてんだろ……)

 

 ケンスケも思春期真っ只中の少年であり、そう感じても何の不思議もない。要するには「春の目覚め」なのだが、その時のケンスケは自分の感情の変化を直視する事は出来なかった。

 

 +  +  +  +  +

 

 トウジが腹をさすりながら、

 

「ああ食うた食うた。もう腹いっぱいや」

 

 それを受けたヒカリが、

 

「みんなよく食べたわよねえ♪ じゃ、ケーキとお茶にしようか♪」

 

「さんせーい♪ そうこなくっちゃ♪」

 

 アスカは、「ケーキ」と言う言葉に相好を崩した。それを見たシンジは、

 

「あれアスカ、いつもダイエットに気をつかってるのに、だいじょうぶなの?」

 

「シンジ! よけいなこといわないの!」

 

 二人のやりとりに全員が笑っている。時刻も19:45になっていた。

 

 +  +  +  +  +

 

 ケーキタイムが終わった後、トウジは妹の事もあるので一足早く帰る事になり、ケンスケも、トウジの足の事があるからとヒカリに言われて一緒に帰って行った。

 

 残ったシンジ達四人は後片付けを手伝っていたため、なんのかんのでシンジ達四人が洞木家の玄関に立った時には20:50になっていた。

 

 シンジとアスカが、

 

「じゃ、今日はこれで。どうもごちそうさまでした」

 

「ごちそうさま、ヒカリ。またね♪」

 

 レイとカヲルも、

 

「ごちそうさまでした……」

 

「今日はどうもありがとう。ごちそうさまでした」

 

 ヒカリが笑いながら、

 

「みんなおつかれさま♪ またね♪」

 

 コダマとノゾミも、

 

「また来てくださいね♪」

 

「また来てね♪」

 

と、笑っていた。

 

 +  +  +  +  +

 

 いつもの別れ道の交差点で、カヲルは、

 

「じゃ、僕はここで。月曜またね」

 

「うん。おやすみ」

 

「おやすみ♪ 渚くん」

 

「またね。渚くん……」

 

 カヲルが去った後、三人は再び連れ立って歩き出した。

 

「あーたのしかったよねえ♪」

 

 アスカはすっかり堪能したようだ。シンジも、

 

「うん、ほんと、たのしかったね」

 

 レイも微笑んで、

 

「わたしもたのしかったわ」

 

と、言ったのへ、アスカが笑って、

 

「レイもこんなことたのしめるようになって、よかったわね」

 

「そうね。ありがと……。じゃ、わたしはここで。おやすみなさい」

 

「おやすみ綾波」

 

「おやすみレイ」

 

 レイも別れ道で去って行き、シンジとアスカは再び歩き出したが、その時アスカが、

 

「ねえシンジ、きょうはきょうでたのしかったけどさ、ほんとのイブはあしたなのよね」

 

「うん、そうだね」

 

「でさあ、もしよかったら、あしたの晩、二人で教会に行ってみない?」

 

「教会かあ。……そうだね。いっしょに行こうか。……でもアスカ、教会なんて知ってるの?」

 

「うん、ちゃんとしらべてあるわよ」

 

「わかった。じゃ、あした行こうね」

 

 歩きながら、アスカは何気なく夜空を見上げ、

 

「……シンジ、見て、月がきれいよ……」

 

「ほんとだ……」

 

 夜空にかかった満月前の月がとても美しい。二人は月明かりの家路を歩いた。

 

 +  +  +  +  +

 

 そのころケンスケは自室のベッドの上で考え事をしていた。

 

(……女の子かあ……、どうやったらなかよくなれるんだ……)

 

 部屋には軍事関係のものばかり並んでいる。どうみても女の子の興味を惹きそうなものはない。いつもは輝いて見える「大切な自分のお宝」も、今夜のケンスケには色褪せていた。

 

(委員長はトウジを好きだし、アスカはシンジと両想い、綾波はとくに決まってないみたいだけど、どうも結局はシンジのことを好きみたいだし……)

 

 ケンスケはクラスの他の女の子の事を思い浮かべてみたが、さりとて特別好きになりそうな子もいない。更にシンジと仲の良いアスカやレイの事を考えると、あれだけの美少女はそうそういる訳もなく、トウジを想うヒカリも結構可愛いだけに、どうしても対抗心から「自分も可愛い子と付き合いたい」と思ってしまう。

 

(……どっかに俺となかよくしてくれる可愛い子いないかなあ……)

 

 +  +  +  +  +

 

(……きょうはたのしかったな……)

 

 アパートに帰って来たレイは着替えを済ませるとベッドの上で膝を抱えて窓から月を見ていた。今日ヒカリの家に行く途中でアスカやシンジと交わした言葉が心に蘇って来る。

 

(「へー、レイのプラグスーツと制服以外のすがた、はじめて見たわ。めずらしいこともあるものね。……でも、なかなかいいじゃない」)

 

(「ありがと……。ちょっとはずかしいけど……」)

 

(「そんなことないよ。ほんと、よくにあってるよ」)

 

 今日初めて着た水色のワンピースは壁に掛けてある。レイはふとそちらを見た。

 

(今日のアスカ、ほんとにきれいだったな。……でも、……シンちゃん、……わたしにも、にあう、って言ってくれたのよね……)

 

 シンジの言葉を思い出し、レイは少し幸せな気持ちになった。

 

「……さて、と、……もうねよう。おやすみ、シンちゃん……」

 

 +  +  +  +  +

 

 12月24日の朝が来た。ミサトは急用が出来たと言って朝早くからIBO本部に行ってしまったので、今日はシンジとアスカの二人きりである。

 

「アスカ、あさごはんできたよ」

 

 シンジは台所からリビングにいるアスカに声をかけた。

 

「いま行くわ」

 

と、アスカがダイニングに入って来る。

 

「ねえシンジ、きょうはどうする?」

 

「夜まではなにもすることないよねえ。……どうしようかな……」

 

 大体がシンジは普段から外へ遊びに行く事は余りない。使徒の撃退の任務で来たのだから当然と言えば当然なのだが、アスカも日本に来てから余り外で遊ぶ事もなかった。しかし事件も解決した今となっては、ずっと家にいるのも退屈な事には違いなかった。

 

(こう言うとこって、シンジはまだまだなのよねえ……)

 

 アスカは少々不満気である。その時シンジが、

 

「よかったら、遊園地にでも行ってみようか」

 

「へえー、シンジにしてはめずらしいこと言うのね」

 

と、アスカは少々驚いた。

 

「……考えてみたら、アスカといっしょに遊びに行くなんてなかっただろ、だから、たまにはいいんじゃないかな、と思ってさ……」

 

「うん、わかった。行こう♪」

(……ちょっと見なおしちゃったな……。うふふ)

 

「じゃ、ごはん食べたらしたくしようよ」

 

「うん♪」

 

 アスカは機嫌を取り戻したようだ。

 

 +  +  +  +  +

 

ゴオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

「「「「キャアアアアアアアアアッ!!♪♪」」」」

 

 遊園地のジェットコースター乗り場でシンジはしりごみしていた。アスカは平気で張り切っている。

 

「アスカあ、やっぱりやめようよ。……ちょっとこわいよ」

 

「なに言ってんのよ。たかがジェットコースターぐらいで、ほらほら、さっさとならんでならんで」

 

「で、でもお。……ほかのにしようよ。……大観覧車とかさあ、メリーゴーランドとか……」

 

「エヴァパイロットだったくせになに言ってんのよ。もう、だらしないわねえ。ほら、いらっしゃい!」

 

 +  +  +  +  +

 

ゴオオオオオオオオオオオッ!!

 

「「「「キャアアアアアアアアアッ!!♪♪」」」」

 

「うわああああああああっ!! たすけてええっ!!」

 

「キヤアアアッ!!♪ すごいわあっ!♪」

 

 +  +  +  +  +

 

「あーすごかったわあ♪ ……あらシンジ、まだふるえてんの。なさけないわねえ」

 

「だって、僕、ジェットコースターは苦手なんだよ。アスカだって知ってるくせに……」

 

「さ、つぎ行くわよ。……うん、きめた。フリーフォールにしよ♪」

 

「ええっ!? かんべんしてよお」

 

「なに言ってんのよ。さっさといらっしゃい!」

 

 アスカの張り切りぶりは大したものである。シンジはタジタジだ。

 

 +  +  +  +  +

 

「あーおもしろかった♪ ……もう、シンジ、しっかりしなさいよ!」

 

「だって、……アスカが僕の苦手な乗り物ばかりさそうからじゃないか……」

 

「どうってことないでしょ! あれぐらい。……ま、でもしかたないかな。わたしはおばけやしきはだめだもんね」

 

「あ、おばけやしきならだいじょうぶだよ。なんなら行こうか」

 

「だめよお。……だって、こわいもん」

 

「ほらみなよ。アスカだって苦手はあるだろ」

 

「そっか。……うふふふふっ♪」

 

「あはははは」

 

 +  +  +  +  +

 

 夜になった。

 

 夕方にマンションに帰って来たシンジとアスカは、既に帰宅していたミサトと三人で適当に食事を済ました後、二人で近所の教会にやって来た。

 

 今日は日曜日と言う事もあり、昨日の世間の喧騒も収まった静かなイブであるが、なんのかんのと言いながらも結構な数の参列者がいる。二人も他の人と同様にキャンドルを手にして席に着き、神妙にしていた。

 

「今日の佳き日にお集まり戴いた皆様に、主、イエス・キリストの御加護があらん事を。……アーメン」

 

 牧師の言葉に続いてオルガン奏者が賛美歌を演奏し始めた。エコーがとても心地よく耳に響く。シンジはふと隣のアスカを見た。

 

「…………」

 

 アスカは手を組み、眼を伏せて黙祷している。キャンドルライトの揺らめきがアスカの長い睫の影を瞼に落としていた。

 

 +  +  +  +  +

 

 ここはドイツの首都ベルリンの郊外にある、さる豪邸の地下室。現地時間の12月24日の夜に、黒い法衣を身に纏った何やら怪しげな雰囲気の五人の男達が、部屋の中央に置かれた祭壇を前に、これまた何やら怪しげな儀式を行っていた。

 

 祭壇の上には直径30センチ、高さは50センチもあろうかと言うガラスのビンが置かれてあり、その中はオレンジ色の液体で満たされていた。更に、ビンの底には鶏の卵ぐらいの大きさで、白くて丸い石のようなものが置かれている。そしてビンの四方には東南西北の順にそれぞれ黄色、赤、青、緑の大きなキャンドルが置かれており、点された炎が暗い部屋に浮かんでいた。

 

 祭壇の東の男が、

 

「御身ノ手ノ内ニ」

 

 続いて、南の男が、

 

「御国ト」

 

 西の男が、

 

「チカラト」

 

 北の男が、

 

「栄エアリ」

 

 祭壇の前の司祭が、

「永遠ニ、尽キル事ナク」

 

 そして、五人揃って、

「AMEN」

「AMEN」

「AMEN」

「AMEN」

「AMEN」

 

 部屋の四方の壁には、五芒星が描かれた掛け軸が掛けられている。しかし、何故かその五芒星は上下が通常とは逆の向きに描かれていた。まるで尖った耳を持つ悪魔の顔のようにさえ見える。

 

 司祭は祭壇の東側にいて、西を向いて立っている。他の四人の男達はその外側で祭壇を囲むように、中央を向いて四方に立っていた。男達の後にはそれぞれ椅子が置かれていた。

 

 しばしの黙祷の後、司祭は顔を上げ、

「掛ケ巻クモ綾ニ畏キ『原初ノ暗黒』ノ神ヨ、我等、今日ノ佳キ日ニ此処ニ集イ、新タナル救世主ノ生誕ニ立チ合ワントス。願ワクバ、我等ガ願イ、聞キ届ケ給エ」

 

 東が、

 

「イイイイイアアアアアウウウウウエエエエエ」

 

 南が、

 

「アアアアアドオオオオナアアアアイイイイイ」

 

 西が、

 

「エエエエエヘエエエエイエエエエエエエエエ」

 

 北が、

 

「アアアアアグウウウウラアアアアアアアアア」

 

 また、東が、

 

「我ガ前ニ、Hastur」

 

 南が、

 

「我ガ前ニ、Cthulhu」

 

 西が、

 

「我ガ前ニ、Yog−Sothoth」

 

 北が、

 

「我ガ前ニ、Shub−Niggurath」

 

 司祭は、両手を広げ、

 

「逆ペンタグラムハ四囲ニ燃エ、光柱ニ暗黒ノユニカーサル・ヘキサグラム輝キタリ」

 

 東が、

 

「御身ノ手ノ内ニ」

 

 南が、

 

「御国ト」

 

 西が、

 

「チカラト」

 

 北が、

 

「栄エアリ」

 

 そして、司祭が、

 

「永遠ニ、尽キル事ナク」

 

「AMEN」

「AMEN」

「AMEN」

「AMEN」

「AMEN」

 

 全員の「AMEN」の声に呼応するかのように、祭壇のビンの中にある白い石のようなものが鈍い光を発し始めた。

 

 続く

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