二つのコスモス~続・新世紀エヴァンゲリオン 第二部・夏のペンタグラム   作:VIA MEDIA

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第十四話・乾坤一擲

 五大は、組んだ手を机の上に置き、

 

「伊吹君、そもそも、エヴァンゲリオンとは何のために造られたのだね」

 

「え? ……はい。……エヴァは使徒との戦闘用に開発されました」

 

「そうだな。『汎用決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオン』だったな」

 

「はい、その通りです」

 

「ならば聞こう。兵器に求められる最も重要な要素は何かね」

 

「え? ……それは……」

 

 マヤは表情をこわばらせた。

 

 +  +  +  +  +

 

第十四話・乾坤一擲

 

 +  +  +  +  +

 

 その時ミサトが、

 

「本部長、割り込んで申し訳ありませんが、伊吹主任は技術畑の人間です。その件に関しては、元作戦部長たる私が代わって答えさせて戴いてもよろしいでしょうか」

 

 五大は頷き、

 

「うむ、よかろう。答えたまえ」

 

 ミサトは、呼吸を整えると、

 

「兵器に求められるべき最重要の要素は、端的に申しますと、『強さ』だと認識致しておりますが」

 

「その通りだ。ならば、その『強さ』を発揮するためには何が必要だね」

 

「それは……、一概には申せませんが、『高い出力』ではないかと」

 

「その『出力』を発揮するためには何が必要だね」

 

「……『エネルギー源』です」

 

「その通り。付け加えれば、兵器に要求される重要な要素として、『安定性』と『扱い易さ』がある。いくら『強さ』を持っていても、それを安定して、なおかつ、容易に発揮出来なければ実用性はゼロだ。それは認めるかね」

 

 ミサトは頷き、

 

「はい、同意致します」

 

「よろしい。では改めて聞こう」

 

と、言って、五大はまたマヤの方を向き、

 

「伊吹君、エヴァの『エネルギー源』は何だったのかね」

 

 マヤはすかさず、

 

「電力です」

 

「どうやって電力を供給するのだ」

 

「アンビリカルケーブルでの外部電源、及び、内部の電池です」

 

「電池は蓄電池だな」

 

「そうです」

 

「蓄電池はエネルギー供給源としては、単位重量当たりの出力が、発電設備を含めても石油や燃料電池に比べると遥かに低い事は認識しているかね」

 

「!!………」

 

 意外な指摘に、マヤは言葉をなくした。五大は続けて、

 

「どうしたね」

 

「……認識…致しております。……しかし……」

 

「しかし、何だね」

 

「はい。しかし、エヴァに石油タンクや燃料電池を搭載する事は、安全面から問題があります」

 

「どう言う問題だね」

 

「爆発の危険性です」

 

「エヴァは爆発しないのかね」

 

「!!!!……」

 

 マヤはまた驚いたが、何とか、

 

「いえ、自爆装置が搭載されていました……」

 

 五大は、相変わらず淡々と、

 

「ならば、『爆発を防ぐために敢えて蓄電池を採用した』と言う論理は成立しないな。細かい事を言えば、蓄電池も爆発の危険性は皆無ではない。電池は使用すると熱を持つ。そして、熱膨張した電池は内圧が上昇し、かなりの潜在的爆発力を持つ」

 

「おっしゃる通りです……」

 

「更に付け加えると、外部からケーブルで電源を供給する、と言う方法が、いかに戦闘においては不合理であるか、と言う事は認識しているな」

 

 ここで五大はミサトの方に向き直り、

 

「……葛城君、君も作戦部長だったのだからよくわかっているだろう」

 

 ミサトは、返す言葉がなく、

 

「……はい。……おっしゃる通りです……」

 

「エヴァは電気で動かす必要があったのだから、外部電源として、携帯用の発電機もしくは燃料電池を開発すべきだ、と言う事は、容易に考え付くはずだ。それをエヴァに背負わせ、もし爆発の危険性があると判断したなら、その時点で切り離せば良い。そのための予備としての内蔵電池は必要だろう……」

 

と、ここで五大は一呼吸置き、

 

「しかしだ」

 

 ミサトは、やや緊張気味に、

 

「しかし、なんでしょう」

 

 五大は、さらりと、

 

「背負った石油や燃料電池の爆発で致命的なダメージを食らうだろうと考え、だから外付けの発電機や燃料電池を作らなかった、と言うのならば、そもそもそんな程度の防御能力しかないものが、『決戦兵器』の名に値するのか。君達はそんな事も思い付かなかったのか」

 

「!!!……」

「!!!……」

「!!!……」

「!!!……」

 

 絶句するしかなかった四人に、五大は続けて、

 

「エヴァは堅牢な特殊装甲とATフィールドで守られていたはずだ。その内側、それも敵と正対しない背中にこれまた堅牢な装甲を持った燃料電池を背負わせる方法は安全レベルも高く、活動時間を大幅に延長する方法としては一番現実的だ。ケーブルを切られたら電気を節約しても精々5分、最大戦速では1分しか動けなってしまうようなエヴァは、『決戦兵器』とは言えない。

 

 この方法ならば、もし燃料電池が爆発しても、本体には殆ど影響を及ぼさないだろうし、外付けの電池を切り離しても、次に電源を確保するまでの間は内蔵電源がバックアップしてくれる。伊吹君が言った、『石油タンクや燃料電池の搭載の危険性』とは次元の違う話だ。

 

 敢えて穿った見方をすれば、君達が、外付けの電源装置など全く考えもせず、『電源は内蔵しなければならない。よって爆発の危険性がある燃料電池は使えない』との固定観念に囚われていて、燃料電池を背負わせる事すら考えなかったとも考えられる。もしそうだったとしたら、最早、何をか言わんや、だ。全員万死に値する愚かさだが、そうではあるまい。

 

 なぜなら、エヴァ用の外部電池は実用化されていたし、停電時には君達もそれを使用した実績があるからだ。しかしその電池は重く、かつまた、大き過ぎてエヴァの運動性能を阻害していたはずだ。ならば、なぜ、もう一歩進んで、小型軽量で高効率の外部電源を開発する事を考えようとはしなかったのだね。

 

 さっき言った、『安定性』と『扱い易さ』の問題もここで絡んで来る。活動時間が短いと言う事は、当方のエネルギーが切れる前に敵を倒さねばならない、と言うプレッシャーをパイロットに与え、安定性と扱い易さを阻害するための最大の要因となる。

 

 無論、初期段階ではそれも仕方なかったかも知れないが、最初の使徒の襲来以降、君達がその点を改善しようと動いた形跡は全く見られなかった。S2機関はまだ実用化されておらず、北米のネルフ第2支部はその実験中に『消滅』してしまった。よって、S2機関の搭載は、現実問題としては『夢のまた夢』だったのだから、その時点でも代替のエネルギー供給源として高効率の燃料電池を開発する、と言う発想に行き当たってしかるべきだった。

 

 ………どうだ、わかったか。君達の『発想』や『思想』のレベルが低い、と言った意味が」

 

 ミサトは深々と頭を下げ、

 

「……申し訳ありませんでした。返す言葉もございません……」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 マヤ、日向、青葉の三人は黙り込んだままである。

 

 一呼吸置いた後、五大は続けた。

 

「次にマギに関して言おう。マギは3つのCPUを持っていて、合議制で判断を下す。しかし、戦闘時においては、『合議制』は『無責任』と同義だ。それもわかるな。葛城君」

 

「はい。おっしゃる通りです」

 

「通常時はそれでもよかろう。しかし、生死をかけた決断を下さなければならない場合は、他の者の意見を吸収した上で、最終責任者が決定しなければならない。そのための、『要となるべき上位CPU』がマギにはない。君達はそれを開発せねばならなかったはずだ」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

「無論、最終決断は人間が下せばよい、と言う考えも出来る。ならば、マギは合議制にすべきではない。3つのCPUに独自の判断をさせ、それを元にして、最終的に責任者たる人間が決定すべきだ。

 

 私が調べた限りでは、マギの3つのCPUはそれぞれが全く違う『気質』の下に動いている。これを言い換えると、3つのCPUが同じ結論にたどり着く可能性は元々低いと言う事だ。それがマギの特徴であり、長所でもある。

 

 しかるに、そう言う状況の下でもし3つのCPUが同じ結論に達したとするならば……」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

「それは、『誰が見てもそうせざるを得ない結論しか出しようがなかった』と言う事であり、そんなものをわざわざマギに考えさせるだけ時間のムダだ、と言う事にならないかね。

 

 つまり、君達は、元々これ以外に選択の余地がなかった、と言う事例について、自分達が決定したと言う責任から逃れるために、マギの決定をイクスキューズに使っていた、と解釈されても仕方ないのではないかね」

 

「!!!……」

「!!!……」

「!!!……」

「!!!……」

 

 一瞬置いて、五大は、

 

「来たばかりの私が君達にここまで厳しい事を言うのは気の毒だとは思う。しかし、私が少し調査しただけでこれだけ問題点が洗い出されて来たのだ。それを勘案した結果、最初に言った結論を出さざるを得なかった、と言う事だ」

 

「……了解致しました」

 

 ミサトはまた深々と頭を下げた。技術部の三人は黙ったままである。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 しかし、突然五大は、やや明るい声で、

 

「さて、ではその点を考慮し、技術部の人事に関して指示しておこう。伊吹君、日向君、青葉君、の三人は、現状通り、主任として頑張って貰いたい。技術部長は当分の間私が兼任する」

 

 ミサトは驚いた。

 

「えっ、本部長がですか」

 

 五大は少し笑い、

 

「そうだ。私が直接面倒を見よう」

 

と、言った後、

 

「そして、実務上は、伊吹君には生体工学、日向君には機械制御、青葉君には遺伝子工学に関し、それぞれ部長代行の兼務を命ずる」

 

 五大の言葉の余りの意外さに、マヤ、日向、青葉は、呆気に取られ、

 

「えっ! 私が部長代行を……」

「僕が機械制御の……」

「遺伝子工学の部長代行……」

 

 言葉をなくした三人に、五大は笑って、

 

「そう言う事だ。では私の話は以上だ。がんばってくれたまえ」

 

 それを聞いた三人は、深々と頭を下げ、

 

「はいっ。了解致しました」

「謹んで拝命させて戴きます!」

「了解致しました! 頑張ります」

 

 ミサトも、一気に緊張から解放された顔で、

 

「では御指示戴いた件に関し、即刻手続を行います」

 

 五大は大きく頷いた。

 

「うむ、頼んだぞ。……ああ、それから伊吹君」

 

 マヤは一歩進み出た。

 

「はい、なんでしょう」

 

 五大は、書類を渡し、

 

「これは私が設計した新しいインタフェースの仕様書だ。これに基づいて即刻製作を進めておいてくれ」

 

「了解致しました」

 

 一段落した、と見たミサトは、

 

「では、私達はこれで失礼致します」

 

 +  +  +  +  +

 

 廊下に出た後、気の抜けた顔のミサトが、

 

「ねえみんな、わたし、ちょっち力が抜けちゃって、すぐに部屋に戻る気にならないのよ。ラウンジでコーヒーブレイクしない?」

 

 マヤ、日向、青葉も、

 

「はい、わたしもです。よろこんでご一緒します……」

 

「大賛成ですね……」

 

「俺も行きますよ。……今日は仕事にならないかも知れないな……」

 

 +  +  +  +  +

 

 ラウンジでコーヒーを飲みながら、ミサトは大きな溜息をつき、

 

「あーコーヒーがおいしい。……やっと落ち着いたわ。……でも、まいったわよ。まさか今度の本部長があれほどの人とはねえ」

 

 マヤも、感服した、と言った顔で、

 

「部長のおっしゃるとおりですね。……ほんとにびっくりしました」

 

 日向も同じく、

 

「まったく反論できませんでしたよ……」

 

 青葉も、

 

「言われてみりゃ、もっともなんですよねえ。『木を見て森を見ず』って、まさにこの事だったんだ……」

 

 ミサトは頷いて、

 

「ほんと、そうよねえ。エヴァの電源に関する指摘なんか、冷汗が出たわよ……」

 

 その時マヤが、

 

「……でも、なんで本部長は、いらしたばかりなのにあんなにエヴァやマギに関してお詳しいんでしょうね。……ネルフがIBOに変わった時、国連に提出した内部資料をよほどよく見てらした、としか思えないです……」

 

 ミサトは、軽く首を捻り、

 

「そうなのかしらね。……それにしてもすごいわ……。でもさ、みんな、なんのかんの、って言ってもさ、三人とも部長代行に任命されたじゃない。それもすごいことだと思うわよ」

 

 日向が表情を一変させ、

 

「そうですよねえ。びっくりしましたよ」

 

 マヤも同じく、

 

「はい。わたしも、がんばろう、って思いました」

 

 青葉も、

 

「同感だな。……ちょっと身の引き締まる思いですよ」

 

 ミサトは、また頷き、

 

「そうよ。そのへん、今度の本部長は、よく考えてくださってる、と思うわ。ま、だからみんなもがんばってね」

 

「はいっ、がんばります」

「がんばりますよ」

「俺もしっかりやりますよ」

 

「じゃ、そろそろ行こうか。……あ、そうだ。マヤちゃん、さっき本部長から渡された書類、ちょーっち見せてよ」

 

「はい、どうぞ」

 

 書類を手にしたミサトは、表紙を見て首を傾げた。

 

「『脳神経スキャンインタフェース設計仕様書』? ……どっかで聞いたような気が……、えっ!! まさか!!」

 

 マヤが、訝しげに、

 

「どうしたんです?」

 

 ミサトは慌ててごまかし、

 

「いえ、なんでもないわ。……かんちがいよ。……はい、これ」

 

「はいどうも。……じゃ部長、失礼します♪」

 

と、言ってマヤは立ち上がった。日向と青葉も、

 

「じゃ、僕も行きます」

「俺も失礼します」

 

「うん、……じゃあね」

 

 三人が去った後、ミサトはすぐに立ち上がれなかった。

 

(『脳神経スキャンインタフェース』……、まさか……)

 

 +  +  +  +  +

 

 シンジとアスカはマンションに帰って来た。二人とも着替えもせず、ダイニングのテーブルに着いたまま黙りこくっている。

 

「……ねえアスカ」

 

「…………」

 

「アスカってばあ」

 

「うるさいわね! ちょっとしずかにしてよ! 考えごとしてんだから!」

 

「なんでそんなにおこってんだよお。八雲さんの言ったことは僕の責任じゃないだろ。それに、さっきは『たっぷり話がある』って言ってたくせに……」

 

「わかってるわよ……。そんなことぐらい……」

 

「じゃ、きげんなおしてよお。……僕はべつに、八雲さんのことを好きでもなんでもないんだから……」

 

「……ねえ、シンジ」

 

「なに?」

 

「あんたさあ、……ほんとにあたしのこと、好き?」

 

「……そ、そりゃ、もちろんそうに決まってるじゃないか……」

 

「なんでちょっとためらったみたいに言うのよ」

 

「そんなあ、ためらってなんかいないよ。だいたい、なんでアスカはいつもそんなふうにばっかり言うんだよ……」

 

「じゃ、あたしのことほんとに好きなら、証拠みせてよ」

 

「……どうやって見せるんだよ」

 

「そんなこと自分で考えなさいよ」

 

「……じゃ、こうするよ」

 

 シンジは自室に行って、S−DATを持って来た。

 

「これ……」

 

「なにそれ、あんたのウォークマンじゃないの」

 

「これ、僕にとっては大切なものだけど、アスカが、捨てろ、って言ったら、ベランダから捨てるよ」

 

「なにバカなこと言ってんのよ。それがどうしてあたしのことを好きだ、ってことになるのよ」

 

「うん。……でも、僕にはこれぐらいしかできないから……」

 

「ふーん。……じゃ、捨てなさいよ」

 

「うん、わかった」

 

と、言うと、シンジは平然とベランダに向かった。

 

「……ちょっとシンジ……」

 

と、アスカもシンジの後を追って来た。

 

「じゃ、捨てるよ」

 

 シンジはそう言いながら腕を上げた。アスカは慌てて、

 

「まちなさいよ! そんなことして下にいる人にあたったらどうすんのよ!」

 

 シンジは下の方を見て、

 

「……だいじょうぶだよ。……下にはだれもいないから」

 

 ここに来て、アスカも、

 

「まちなさいよシンジ! ……うん。……わかった。……もういいわよ。シンジのきもちはよくわかったから……。捨てないでよ……」

 

「……いいの?」

 

「……うん。……いいよ。……部屋にもどってさ、きがえよか」

 

「うん、着替えおわったら、コーヒー入れるよ」

 

「うん、ありがと」

 

 +  +  +  +  +

 

「はい、コーヒー入ったよ」

 

「ありがと。……ねえシンジ、……ちょっとこまったわねえ。ナツミのこと」

 

「うん。……どうしたらいいんだろ……」

 

「ま、ナツミのようすからしたらさあ、シンジみたいなタイプが好きだ、って言ったのは、じょうだんだとは思うけど、どうやってケンスケとくっつければいいのかなあ……。今のままじゃ、むりやりくっつけるわけにもいかないだろうしねえ」

 

「……思いきって、僕がアスカのこと好きだ、ってこと、言っちゃったらどうかな」

 

「性格にもよるけど、逆効果になるかもしれないわよ。……女の子ってさ、やきもちで気持ちがもえ上がることあるから」

 

「そっかあ……。ねえアスカ、こんなこと言うとさ、アスカにまたおこられるかも知れないけど、……アスカはどうして僕のことを好きになってくれたの?」

 

「えっ!? ……な、なによ急に……」

 

「うん。……女の子が男の子を好きになるきっかけがわかればさ、なにか思いつくかな、って、思ってさ……」

 

「そっか……。あたしはね、もともとシンジのことなんか、なんとも思ってなかったわよ。……でもさ、さいしょ会った時から、ほんのちょっとだけど……、なんか心にはひっかかってたな……」

 

「ひっかかり、か……」

 

「うん。……それでね、あんたすごくたよりないと思ってたのよね。こんなさえない男の子なんか、だいっきらい、って、思ってたわ」

 

「たしかにね。……僕、たよりないもんなあ……」

 

「でもさ、浅間山の中にもぐった時ね、あたし、最後は死にそうになったじゃない。……その時、シンジが助けにきてくれたのは、うれしかったんだ……」

 

「そうか……」

 

「それからさ、いっしょ仕事するうちに、意識はしてなかったけど、だんだん好きになってったのかなあ……」

 

「……ねえアスカ、僕ら、最初にキスした時のこと、おぼえてる?」

 

「……うん。おぼえてるわよ」

 

「あの時さ、僕、チェロ弾いてて、アスカにはじめてほめられたような気がするんだけど、あの時はどう思ったの?」

 

「今考えてみたら、あの時はねえ、もうシンジのこと好きだったと思うわ。……でもさあ、あんたはたよりないからきらい、って、むりに思いこもうとしてたような気がするわねえ。……あの日さ、加持さんとミサトがいっしょにでかけてたじゃない。それで、なんか意地になってたと思うわ。あたし、加持さんのこと好きなのに、加持さんはちっともあたしのこと見てくれない、って思いこんでたなあ。……それでさ、なんとなく、意地はってさ、『キスしようか』、なんて言っちゃったような気がするわ。……あ、ちょっとシンジ、あたしにばっかり話させないで、あんたも言いなさいよ。あんたこそ、いつあたしのこと好きになったのよ」

 

「えっ?! う、うん。……僕がアスカのこと好きになったのは、二人で組んで、ここで特訓した時だよ。いっしょにやってるうちにさ、アスカってがんばり屋だな、って思って、……それから、なんとなく……」

 

「へー、じゃ、やっぱりあの夜、あたしのくちびるうばおうとしたんだ」

 

「う、うん……。でもさ、アスカが寝言で、『ママ』、なんて言ったからさ、できなかったよ……」

 

「あたし、そんなこと言ったあ?」

 

「言ったよ。……それからさあ、アスカのことはなんとなく好きだけど、いつもぽんぽん言われるばっかりで、なんかこわい子だな、って思って、アスカに対する気持ちをおさえようとしてたな……。どうせ僕なんかだめだから、って、自分で思いこもうとしてた」

 

「ふーん、そっかあ……。ちょっとまってよ。こうしてみるとさあ、なんか、あたしとあんたがおたがいに好きになってったのは、結局、ずっといっしょにいたからじゃないの? もしあんたがさあ、もうちょっとしっかりしてたら、あたしももうちょっと早くすなおになってたかも知んないわね」

 

「え? そ、そりゃそうかも知れないけどさあ、アスカももうちょっとやさしく、って言うか、にこにこしてくれてたら、僕もあそこまでこわがらなかったと思うよ」

 

「なんであたしがこわいのよ。こんなにいい子なのにさ」

 

「あ、そんなこと言ってる。じゃ、なんでいつもあんなに僕にどなるんだよお」

 

「それはあんたがたよりないからでしょ。男の子なんだから、もっとしっかりしなさいよ」

 

「ちえっ、またこんな時にかぎって『男の子なんだから』、なんて言うんだもんなあ」

 

「いーの。……それよりさあ、こうやって考えてみると、好きになる、って、けっこういいかげんなもんよねえ」

 

「そうだよねえ。……て、ことはさ、結局、いっしょにいて、相手を好きになる小さなきっかけがすこしずつ積み重なって行ってさ、そして、最後にそれが心にあふれ出した時、『好きだ』、って思うんじゃないかな。……ま、ケンスケの場合は一目ぼれだけど、あれもさあ、あいつが言ってたように、みんななかよくしてるの見てて、それがちょっとずつ積み重なってったから、八雲さん見た時に、ガーンと来ちゃったんじゃないかな」

 

「あらシンジ、いいこと言うじゃない。なるほどねえ。……て、ことはさ、ケンスケの場合、ナツミといっしょにいられる時間をできるだけ作ることがかんじんだ、ってことよね」

 

「そうなるよねえ。……じゃ、結局、なんとかIBOでいっしょに仕事するようにするのが一番、てことになるよね。それとさ、後は、みんなでいっしょに遊びに行ったりとか」

 

「うん。ありきたりだけど、それがいちばんみたいね。もう一回、ミサトにたのんでみようよ。ケンスケをつかってやって、ってさ」

 

「そうだね。そうしよう。それから、学校が休みに入ったらさあ、みんなで遊びに行こうよ。綾波や渚君も誘ってさ」

 

「そうね。トウジとかヒカリもさそってやりたいけど、トウジはまだ足がわるいから、今はしかたないしね。……六人でハイキングでも行こうか」

 

「あ、それいいね。みんなで芦ノ湖にでも行こうよ」

 

「うん♪ そうしよう。……あ、もうこんな時間、そろそろばんごはんのおかいものに行かなくちゃ」

 

「そうだね。……たまにはいっしょにかいものに行こうよ」

 

「うん♪」

 

 続く

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