二つのコスモス~続・新世紀エヴァンゲリオン 第二部・夏のペンタグラム   作:VIA MEDIA

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第二十話・臥薪嘗胆

 ここはIBO総務部室。ミサトは今年の仕事を全て終え、帰り支度をしていた。

 

トゥル トゥル トゥル トゥル

 

「はい、総務部葛城です」

 

『五大です』

 

「あ、はい、どうも、本部長」

 

『葛城部長、チルドレンの補充の件だが、相田研究員の息子さんのケンスケ君をテンポラリスタッフとして採用したんだな』

 

「はい、そうです。相田研究員の許可も取りました」

 

『うむ、それ自体はわかった。しかし、念のため、もう一人探しておいてくれ』

 

「もう一人ですか?」

 

『そうだ。女子がいい。年末のややこしい時期で申し訳ないが、早急に頼む』

 

「あ、はい。……了解致しました」

 

 五大にしては珍しく、「強い命令口調」だった。ミサトは釈然としないものを感じながらも、「拝承」する以外なかった。

 

 +  +  +  +  +

 

第二十話・臥薪嘗胆

 

 +  +  +  +  +

 

 芦ノ湖ハイキングから戻って来た六人は駅のバスターミナルで別れ、シンジとアスカも夕刻にはマンションに帰って来た。

 

 二人とも即刻順番にシャワーを浴び、着替えてリビングに出て来た。

 

「あー、きょうはたのしかったわねえ♪」

 

「うん、ほんと、よかったね」

 

「あ、そうだ、シンジ、おひるに言ってた話だけど、レイがどうしたっての?」

 

「うん、お昼に言ってたようにさ、前に、綾波のうしろ姿がさびしそうだ、って思った、って言ったことあったろ」

 

「うん」

 

「それでさ、今考えてみると、あの日、ケンスケに綾波のこと聞かれて、僕といとこ同士だ、ってわかった、って言ったんだ」

 

「うんうん、あたしもヒカリに聞かれてそう言ったわ」

 

「その時さ、ほら、綾波が明るくなった理由も話したから、それがクラスのみんなに伝わって、何人かの男が綾波の方、チラチラ見てたんだよ」

 

「うんうん、それで?」

 

「その時さ、なんか急に綾波のこと、心配になった、って言うかさ、だいじょうぶかな、なんて思ってさ」

 

「ふーん、それで」

 

「いやさ、もちろん僕が一番好きなのはアスカだよ。でもさ、なんか、へんに心配になったんだ」

 

「ふーん」

 

「それがさ、今日、綾波が渚君となかよくしてるの見ても、なんとも思わなかったんだ。それだけじゃなくてさ、へんに安心した、って言うか、綾波にもほんとになかよく出来そうな人があらわれてほっとした、って言うか……」

 

「へえー、それ、どう言うこと?」

 

「それがさ、よくわからないんだけど、僕もアスカもひとりっ子だろ。だから、兄弟のいる人の気持ちって、わからないんだよね。だけど、綾波と僕は、なんのかんのって言っても、血が近いだろ。だから、もしかしたら、これが、兄弟に対する気持ちみたいなものなんじゃないかな、なんて、思ってさ……」

 

「兄弟愛か……。ま、そう言ってみればさ、シンジとレイは、いとこ同士だ、って言っても、お母さん同士は双子の兄弟だもんね。たしかに兄弟に近いかもね……」

 

「そうなんだよね……。兄弟愛……。ま、そう言うことなんだよ」

 

「そっか……。兄弟愛、ねえ……」

 

 二人とも、決して知る事が出来ない、「兄弟に対する気持ち」に思いを馳せていた。

 

「ねえシンジ、ところでさ、今日のばんごはんどうする?」

 

「そうだね、今日はつかれてるからさ、かんたんにすまそうよ」

 

「うん、そうしよっか。でも、ミサトはきょうはおそいのかな」

 

ピンポーン

 

「あれ? ミサトさんかな。けっこう早いけど……」

 

 シンジはインタホンを取り上げた。

 

「あ、ミサトさん。すぐあけます」

 

 シンジが玄関の方へ消えてから程無くして、ミサトとシンジがリビングに顔を表した。

 

「ただいまー♪」

 

「おかえりミサト、けっこうはやかったじゃない♪」

 

「うん、今日で今年の仕事も終わりだかんね。……ところでさ、二人ともどうだった? ハイキングの方は?」

 

「うん♪ とってもたのしかったわよ♪」

 

「たのしかったです♪」

 

「そっか、よかったわね♪ ……で、二人とももうお風呂入ったの?」

 

「うん、あたしもシンジもシャワーあびたわよ」

 

「そう、じゃさ、ちょーっち待っててよ。私、シャワー浴びたら、三人で晩ご飯食べに行こ♪」

 

「ラッキー♪ さすがはミサトね♪」

 

「ミサトさん、ありがとうございます」

 

「なにかしこまってんのよシンちゃん♪ あんたたちも今日は疲れてるだろうからさ、たまには三人で行きましょ♪ ……あ、じゃさ、シンちゃん、わたしがシャワー浴びてる間にさ、ペンペンにご飯あげといてよ♪」

 

「はい」

 

 +  +  +  +  +

 

(渚くん……、いい人みたい……)

 

 自室に帰って来たレイは、シャワーを浴びた後、帰りに買ってきたおにぎりで簡素な食事を済ますと、ベッドの上で膝を抱えていた。

 

(……こんな気持ち初めて……、シンちゃんにも、サトシくんにも感じたことなかったわ……。なんだか、心があたたまるみたい……)

 

 レイにしてみれば、シンジに愛情を感じた時は、「感情を知らない、かつての自分の時代」であったし、サトシに感じた愛情は、「異常な状態におけるクリティカルな愛情」だった。現在の状況で感じる「カヲルへの感情」はかつて感じた事のないものだったのだ。

 

(……でも、わたし、どうしたらいいの……、シンちゃん、サトシくん……、わたし、どうしたらいいの……)

 

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(なんでこんなに急に綾波さんのことが気になりだしたんだ……)

 

 カヲルも自室のベッドの上に寝転んでレイの事を考えていた。

 

(……綾波さんには、なにか身近なものを感じる。それがなにかはわからないけど、まるで自分の家に帰った時のようなやすらぎみたいな……)

 

 その時カヲルは妙な感覚に囚われた。

 

(ん? なんだ、この感じは……。そうだ。転校して来た時、碇君に感じたものだ。……あの時も、まるで碇君を昔から知っているように感じたんだ。それで、ふっと、「縁」なんて言ってしまってたんだ……。どうしたんだろ……)

 

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「おおっ!! ナイスだねえ!! いいねえ♪ いいねえ♪」

 

 ケンスケは自室で今日の写真を見ながら狂喜乱舞していた。無論、「お目当て」は「ナツミとのツーショット」である。帰りに高速プリントに出し、さっき出来上がって受け取って来たばかりであった。無論、その場でも見て「大喜び」したのだが、家に帰って来て、改めて「穴の開くほど」見ていたのである。アスカに撮ってもらったので少々心配がなくもなかったのだが、出来上がってみるとちゃんと写っていた。

 

「おおっ! 俺の八雲ちゃん!♪ 俺のナツミちゃん!♪ 愛してるよっ!♪」

 

 +  +  +  +  +

 

「ふんふんふん♪ きょうはとってもたのしかったな、っと♪」

 

 ナツミも自室に帰って来た後、入浴と食事を済ませてから、鼻歌まじりに日記を付けていた。

 

「12月29日。今日はみんなで芦ノ湖にハイキングに行きました。アスカさん、碇さん、渚さん、綾波さん、相田さん、そしてわたしの六人です。渚さんと綾波さんは、わたしが思ったとおり、ピッタリおにあいのカップルでした。あのふたりがしあわせになってくれたらすてきだな、って思います。アスカさんと碇さんもほんとにおにあいでした。とってもいいコンビです。相田さんもとってもいいひとでした。写真のとり方をおそわって、とってもたのしかったです。よくわからないけど、相田さんとはこれからもなかよくして行きたいな、って、ちょっぴり思いました。もちろん、みんなとなかよくしたいです。……さてと、これで今日の日記はおしまいだ、っと♪」

 

 +  +  +  +  +

 

(もう一人か……。困ったわね……)

 

 三人で食事を終えて帰って来た後、ミサトは自室で考え込んでいた。

 

(……でも、どうして本部長は、「もう一人テンポラリスタッフを探せ」なんておっしゃったのかしら……)

 

 色々と考えてみるが、五大の意図は判らない。確かに今の仕事の予定を考えればもう一人いた方が心強いには違いなかったが、こうも連続してスタッフを増員しなければならない状況である事に関しては、ミサトとしても軽い不安を覚えずにはいられなかった。

 

(……もう一人、……しかも女の子、……誰に頼めば……。仕方ないわ。シンちゃんとアスカに相談するしかないわね……)

 

 ミサトは意を決すると、机から立ち上り、戸を開けてリビング越しにそれぞれの自室にいるシンジとアスカに声をかけた。

 

「ねえ、アスカあ、シンちゃあん、ちょっと頼むわあ」

 

 ほぼ同時に二人の部屋の戸が開いた。

 

「なにミサト」

 

「なんですか」

 

「ちょっち相談があるのよ。ま、台所行ってさ、コーヒーでも飲みながら話しましょ」

 

 +  +  +  +  +

 

 ミサトの話を聞いたアスカは、

 

「もうひとり? そうねえ……。ねえシンジ、もうひとり、って言ったら、ヒカリぐらいしかいないんじゃない?」

 

「そうだよねえ。委員長ならなんとかたのめるかな」

 

 二人の話にミサトは頷き、

 

「やっぱそうかな。わたしもそう思ったのよ。洞木さんに頼もうか、ってね……」

 

と、言うのへ、アスカは、

 

「ま、いまの状態をかんがえたらさ、たしかにヒカリはいちばん適任よね♪ うふふふ♪」

 

 シンジも笑って、

 

「あ、そう言えばそうだよねえ♪」

 

 ミサトは、きょとんとして、

 

「え、どう言うことなの? それに二人ともニヤついちゃってさ」

 

 アスカは少し苦笑し、

 

「それがさ、ま、仕事とは関係ない話なんだけど、レイがさ、なんだか渚くんとちょっといいふんいきなのよ♪」

 

「え? レイが渚君と?!」

 

「そうなのよ。ほんとにかんがえられない話なんだけどさ、なんだかなかよくなっちゃったみたいでさ♪」

 

「へえー、なんとねえ……」

 

「しかもよ、そのきっかけが、ひょっとすると、ナツミの『縁結び』なのかもしれない、ってんだから、おどろきよね」

 

「八雲さんの縁結びい?」

 

「そ。あの子さあ、『おにあいだ』って思ったふたりを縁結びすると、そのふたりがなぜかなかよくなっちゃうんだってさ」

 

 ここに来て、ミサトもニヤリと笑い、

 

「へえー、そんなことがあるの……。ふーん……。あ、それじゃあんたたちも縁結びしてもらった、とかねー♪」

 

「いえ、そ、その……」

「えへへへへ♪」

 

と、少し照れ気味なシンジとアスカに、ミサトは更に笑って、

 

「ははーん、やっぱりそうか♪ ……ま、あんたたち、こっち帰って来てからはまあまあなかよくしてたけど、ここんとこ、急になかよくなったみたいだもんねー♪」

 

 シンジとアスカは、更に照れ、

 

「そんなあ……」

 

「やーねーミサト、シンジはあたしの子分みたいなもんよ♪」

 

「あ、ひどいよアスカ、子分だなんてさ」

 

「へへっ♪ いーの♪」

 

 ミサトは、大いに苦笑し、

 

「ま、好きにしてらっしゃい♪ ……で、それはいいとしてさ、それがなんで洞木さんと関係あんの?」

 

 アスカは頷いて、

 

「うん、ケンスケはナツミにメロメロじゃない。ま、あたしとシンジが一応コンビ組むとするでしょ。それで、レイと渚くんがなかよくしたら、トウジだけがあぶれるじゃない。まあ、トウジのやつはあんまり女の子に興味ないかもしれないけどさ、そこにヒカリがきたらピッタリでしょ♪」

 

「え? どう言うこと? あ、そうか、洞木さん、鈴原君のこと、好きなんだ♪」

 

「そうそう、だから、ヒカリならよろこんでてつだってくれるんじゃないかな、って、おもったのよ♪」

 

「そゆことか……。ま、仕事にあんまり私情を差しはさんじゃいけないけど、そう言う事情ならまあ許容範囲としましょ♪ じゃ、近い内に洞木さんに聞いてみるわ♪」

 

 その時シンジが、

 

「でも、考えてみたら、話ができすぎですよね。まるで男女ペアで仕事するみたいでしょ」

 

 アスカも頷き、

 

「あ、そう言えばそうよねえ。ねえミサト、こんどの仕事は男女ペアでやるの?」

 

「うーん、そう言われてみるとそうよねえ……。少なくともわたしはそんなこと聞いてないけど。……ただ……」

 

「ただ、なに?」

 

「うん、今度の仕事はさ、機械制御じゃない。だったら、二人一組でやるケースも充分ありうるわよ。だって、例えば飛行機の操縦でも、機長と副長はいるでしょ。そう言う場合もあるかもね。……ま、どっちにしても、別に戦争やるわけじゃないんだからさ、和気あいあいとやりましょ♪」

 

「そうよね。シンジ、もしあたしと組むことになったら、足ひっぱったら許さないからねっ」

 

「あ、なに言ってんだよアスカ、そっちこそ足ひっぱるなよ」

 

「なんであたしがシンジの足ひっぱるのよ。そんなことするわけないじゃない」

 

「ふーん、今の言葉、わすれるなよ」

 

「…………♪」

(うふふ、やっぱり「縁結び」の効果かな♪)

 

と、ミサトは心の中で微笑んでいた。

 

 +  +  +  +  +

 

 12月30日。京都。

 

(京都もしばらくぶりだな。例のマルドゥック機関絡みの調査の時以来か……)

 

 加持は今朝第3新東京を立ち、リニア新幹線で京都にやって来た。一応、ミサトには朝一番に電話で京都行きを告げておいてある。

 

(まずは寺町の古本屋回りからだな……)

 

 加持は手にした「原初の光」を一瞥すると、地下鉄乗り場に向かった。

 

 +  +  +  +  +

 

「赤木さん、お昼ご飯ですよ」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

 本堂で読経していた赤木律照は、住職の尼僧の言葉に立ち上がった。

 

 ここは奈良県桜井市のさる尼寺。元ネルフ技術部責任者だった赤木リツコは、冬月と同じく出家し、赤木律照と名乗って尼僧となっていた。

 

 律照が出家したのも、結局は、冬月と同じく、「人類補完計画=サード・インパクト」に深く荷担していたため、事件解決後は法の裁きを受ける事はまず間違いなかったので、それを見かねた加持とミサトのはからいによるものである。

 

 一応、建前としては「殉職した碇ゲンドウの菩提を弔うため」と言う事になっているが、この寺も内務省関係者の目の届く範囲であり、「半監視生活」には違いなかった。

 

 律照は、かつての金髪を黒く染め、常に頭巾をかぶっている。本来、剃髪してもおかしくはないのだが、まだ妙齢の女性である、と言う事から、剃髪だけは勘弁して貰っていた。

 

 +  +  +  +  +

 

 食事をしながら住職が言った。

 

「赤木さん、確か今日は30日ですよね」

 

「はい、そうです」

 

「すみませんけど、後で奈良市までお使いに行って下さい。今日までに届け物をしておかないといけない用事があったのを忘れてました」

 

「はい、わかりました」

 

 律照は車の運転が得意だったので、ここに来るとすぐに「お抱え運転手」のようになっていた。しかし、それ自体は特に彼女にとっては苦痛ではなかった。

 

 確かに、「ゲンドウの菩提を弔う」と言う事では出家生活にある程度納得出来る点もなくはなかったが、何と言っても律照もまだ30歳である。こんな生活に満足する訳もなく、内心は常に悔しさで満ちていた。

 

 それだけに、「運転手」とは言え、比較的自由に外出出来ると言う事は気晴らしにもなっていたのである。

 

 +  +  +  +  +

 

「あら、故障だわ。エンジンがかからない……」

 

 律照は眉をひそめた。

 

 車から降りてエンジンルームを点検して見ると、スパークプラグがくすぶっている。

 

(困ったわね……)

 

 特別な所でもない限り、普通はスパークプラグの予備など置いている家などない。ましてや尼寺となると、そんな事を意識してすらいないのも当然であった。

 

(仕方ないわ。修理を呼ぼう……)

 

 律照は憮然とした表情で寺務所に戻って行った。

 

 続く

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