二つのコスモス~続・新世紀エヴァンゲリオン 第二部・夏のペンタグラム   作:VIA MEDIA

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第四十九話・不言実行

 2月7日。

 

「起立! 礼! 着席!」

 

 今日の授業も終わり、生徒はそれぞれ帰り支度を始める。

 

(……渚君、さすがに元気なかったよな……)

 

 カヲルの席はシンジの隣だから、シンジにはカヲルの様子が嫌でも判ってしまう。気丈には振舞っていても、昨日の話が相当なショックだったろうと言う事は想像に難くない。それだけに、シンジとしても「普通に」接してやる事が一番、と思い、そうするより他になかった。

 

「碇君、今日も本部に行くだろ」

 

「ああ、そのつもりだけど」

 

「じゃ、行こうか」

 

 二人は立ち上がって出口に向う。無論の事、他の六人のパイロット達も黙ったまま、二人と歩みを共にした。

 

 +  +  +  +  +

 

第四十九話・不言実行

 

 +  +  +  +  +

 

 IBO本部中央制御室。

 

 パイロット八人を代表してシンジが顔を出した。忙しく動き回るスタッフを掻き分けるようにしてマヤの所に歩み寄り、

 

「あの、伊吹さん」

 

「あ、シンジ君、今日も来てくれたの」

 

と、やや驚き顔で振り返ったマヤに、シンジは続けて、

 

「はい、みんなで来ました。後の七人は待機室に行ってます。今日はどうでしょう。訓練の方はできますか」

 

「訓練? あ、そうなのよね……。『実験』じゃなくって、『訓練』になってしまってるのよね……。ちょっと待ってね。今、データをセーブするから……」

 

と、言いつつ、コンソールを操作するマヤを、シンジは無言で見ている。

 

「…………」

 

 コンソールに、セーブが完了したメッセージが表示され、マヤが頷いて振り返った。

 

「実は今日実験室の方を改造したのよ。防音壁で部屋を四つに区切ってね、エヴァのエントリープラグと同じように二つずつ座席を並べたの。それで、シミュレーションプログラムの開始と終了もそっちで出来るようにしておいたわ」

 

 流石のシンジも少々驚き、

 

「そこまでして下さったんですか」

 

「ええ、本部長の指示よ。だから、これからは一言こちらに声をかけてくれたら、後は自由に使ってもらえるようになったの」

 

「わかりました。どうもありがとうございます。じゃ、実験室に行きます」

 

「がんばってね」

 

 その時、丁度五大がやって来た。マヤが気付き、

 

「あ、本部長」

 

 シンジも一礼し、

 

「あ、こんにちは」

 

 五大も、少し驚いた顔で、

 

「お、今日も来てくれたのか」

 

と、言った後、マヤに、

 

「そうだ、ちょうどいい。伊吹君、エヴァの遠隔操作実験の用意は出来ているかね?」

 

「え?」

 

と、マヤは一瞬躊躇したが、すぐに、

 

「は、はい。出来ています……」

 

 五大は、頷くと、

 

「そうか。では一度やってみよう」

 

「はい、では準備します」

 

「……あの、エヴァの遠隔操作、って、そんなことができるようになったんですか?」

 

と、意外そうな顔をしたシンジに、五大は、

 

「うむ。昨日単独起動実験をやった後でな、折角脳神経スキャンインタフェースを使っているんだから、エヴァを遠隔操作で動かせないだろうか、と、伊吹君が言ってくれてな」

 

「えっ? 伊吹さんが?」

 

 シンジは一段と驚いてマヤを見た。マヤは、やや照れ臭そうに、

 

「……え、……ええ……」

 

 五大は続けて、シンジに、

 

「それで、今日実験室を改造する時に、そのための専用回路を追加したんだ。昨日の実験ではマギを経由してリンクしていたが、その改造で実験室とエヴァが直接繋がったんだよ。まあ、それも含めて実験してみよう」

 

「はい、わかりました」

 

「君達は実験室でシミュレーションをやっていてくれたまえ。実験の準備が出来たら連絡するから」

 

「はい」

 

 +  +  +  +  +

 

 実験室。

 

 シンジとアスカは一区画に陣取り、席に座った。

 

 アスカが、ポツリと、

 

「シンジ、じゃ、はじめよっか……」

 

「うん……」

 

 やはりシンジも元気がない。

 

 始めよう、とは言ったものの、二人ともスイッチを入れるのを躊躇っていた。心に溜まっているわだかまりが、二人のやる気を奪っている。

 

「…………」

「…………」

 

 暗い話題は極力避けようとしていた二人であったが、流石にここに来て、黙っていられなくなったアスカが、

 

「……ねえシンジ」

 

「うん?」

 

「今回の事件の裏話だけどさ、あたしとあんたとレイは先に聞いてたでしょ。それでさ、渚くんはきのう知ったわよね。……ほかのみんなさ、聞いたら、どう思うかな……」

 

「……わからないよ。でも、ショックだ、ってことはまちがいないだろうね……」

 

「そうよね……。ねえ、こんなこと、いつまでつづくのかな……」

 

「……わからないよ。……わからない……、けど……」

 

「けど、なに?」

 

「絶対にきっと解決するよ。いや、しなくちゃならいんだ。……絶対に……」

 

「!……」

 

「さっきみんなにも言ったけどさ、伊吹さんや本部長が僕らのために、エヴァをなんとか遠隔で操作できるようにならないか、って、改造までして下さっただろ。……それを思うとさ、僕らもがんばらなきゃ、って、思うんだ……」

 

「……うん、そうね。……そうよね。がんばらなくちゃね。……じゃ、はじめよ」

 

「うん。じゃ、バイザーとインカム着けて」

 

「オッケーよ」

 

「スイッチ入れるよ」

 

「シミュレーション開始」

(シンジ、元気出してね。……あたしもがんばるからさ。あんたのためにさ……)

 

 +  +  +  +  +

 

 中央制御室。

 

 コンソールを操作していたマヤが、振り返って、五大に、

 

「本部長、遠隔操作実験の準備が完了しました。エヴァは3機とも手足を動かすぐらいは可能なだけの空間を確保してあります」

 

 五大は、頷くと、

 

「よし、では始めるか」

 

「はい……」

 

 マヤは心なしか元気がない。それを見た五大は、

 

「伊吹君、君の気持ちはわかる。少しでも彼等の負担を減らしてやろう、と言う意味も込めての提案だったんだろう」

 

「は、はい……。でも、マギによるシミュレーションでは操縦が可能なだけのシンクロ率は確保出来そうにありませんでしたし、……私が余計な事を言ったために手間ばかり取ってしまったみたいで……」

 

「何を言う。私が脳神経スキャンインタフェースを開発したのも結局はそのためだ。上手く行けばエヴァに乗らずに操縦が可能になるかも知れない、と考えたからな。

 

 しかしまあ、今君が言ったようにだ、昨日の単独起動実験のデータでシミュレーションをやった限りでは、確かに今の所、起動は出来ても、安定して操縦させられるだけのシンクロ率は得られそうにないな。理由はわからんが……」

 

「……はい……」

 

「まあしかし、何事もやってみないとわからん、と言う事もある。そのための直結回路だ。やってみようじゃないか」

 

「はい。了解しました。…………みんな聞こえる? エヴァの遠隔操作実験を行うから、一時シミュレーションを中断してちょうだい」

 

 +  +  +  +  +

 

 実験室。トウジとヒカリの区画。

 

 マヤの声がインカムに響く。

 

『では、遠隔操作実験を開始します。順番としては、いつもの組み合わせでやるから、鈴原君と洞木さんは待機していてちょうだい』

 

「了解です」

 

「了解しました」

 

 トウジとヒカリは頷いた。

 

 +  +  +  +  +

 

 シンジとアスカの区画。

 

『零号機、初号機、弐号機、起動開始。パイロットはエヴァを起動するようにイメージを描いてちょうだい』

 

 マヤの声に、シンジとアスカは、

 

「了解」

(……どうなんだろ……。動くんだろうか……)

 

「了解」

(……動いて、……おねがい……)

 

 +  +  +  +  +

 

 技術部。

 

 強化ガラスの向こうのドックには、培養LCLの中で基質を変化させられ、「参号機」となりつつある模擬体の姿がある。それを見詰めつつ、日向が、確と頷き、

 

「よし、これでほとんど全身、細胞が新しい遺伝子のものに更新されたな。最終チェックに入るか」

 

「うむ」

 

 青葉も真剣な顔で頷いた。

 

 +  +  +  +  +

 

 レイとカヲルの区画。

 

 二人は無言で瞑目し、祈るような気持ちで意識を集中している。

 

「…………」

「…………」

 

 +  +  +  +  +

 

 ケンスケとナツミの区画。

 

 この二人も無言で意識を集中している。特にナツミは手を組んで膝の上に置き、やや俯き加減の姿勢で黙祷を捧げているかのような様子である。

 

「…………」

「…………」

 

『全員そのままの意識状態を保ってちょうだい。もし雑念が湧いてどうしようもなくなったら言って。キーワード制御に切り換えるから』

 

「了解」

「了解しました……」

 

 +  +  +  +  +

 

 中央制御室。

 

 五大が、渋い顔で、

 

「……だめだな。やはり思った通りか。シンクロ率が安定せんな……」

 

 マヤも、苦渋の表情で、

 

「本部長、例えどんな方法を使っても、エヴァは『人が乗らないと動かない』んでしょうか……」

 

「わからん。エヴァンゲリオンに関しては、不明な部分が多過ぎる。それに関しては、私以上に君の方がよく知っているはずだ」

 

「はい……」

 

「まあとにかく今日はこの実験は終了だな。後は続いてシミュレーションをやっておいてもらう事にしよう」

 

「了解しました。……みんな聞こえる? 遠隔操作実験は終了します。シミュレーションに戻ってちょうだい」

 

 +  +  +  +  +

 

 情報部。

 

 今日も加持、冬月、服部の三人は情報分析を続けていた。

 

 加持が、立ち上がり、

 

「服部」

 

「はい」

 

「すまんが、俺は中央に寄って、それから待機室に行く。後は頼むから、冬月先生を手伝って情報をまとめておいてくれ」

 

「了解しました」

 

 冬月が、顔を上げ、

 

「子供達に事情を伝えるのかね」

 

 加持は、苦笑気味に頷き、

 

「ええ、嫌な役目ですが、仕方ありませんからね」

 

「そうだな。……本当に嫌な話だな……」

 

「では、冬月先生、後はよろしくお願いします」

 

「ああ、やっておくよ」

 

 部屋を出て行こうとした時、加持は思わずまた苦笑して、

 

「おっと忘れてた。葛城に連絡しておかなくちゃな……」

 

 +  +  +  +  +

 

 総務部。

 

トゥル トゥル トゥル

 

「総務部葛城です」

 

『俺だ』

 

「あ、加持君」

 

『パイロットのみんなだが、幸いにして今日も全員来てくれたようなんだ。それでな、思い切って今日話そうかと思ってるんだが」

 

「わかったわ。じゃ、待機室で話しましょ」

 

『そうだな。それから、もし都合が悪くなかったら、本部長に今夜「打ち合わせ」を頼むつもりだ』

 

「わかったわ。わたしはいいわよ」

 

『じゃ、俺は中央に寄ってから待機室に行く。葛城は待機室に行っておいてくれ』

 

「わかった」

(いよいよ、か……)

 

 ミサトは受話器を置き、レナに、

 

「レナちゃん」

 

「はい」

 

「あなたも知っての通りなんだけど、いよいよ『あの話』をパイロット全員にする事になったわ。待機室に行くから後は頼むわよ」

 

「了解しました」

 

「あ、それから、昨日と同じようにさ、技術部の方の応援もお願いね」

 

「はい」

 

 +  +  +  +  +

 

 中央制御室。

 

「失礼します」

 

と、現れた加持に、五大は、

 

「お、どうしたね」

 

「昨夜、渚には事情を説明し、情報を公開する事に関しての許諾を得ました。つきましては、残りの四人にも事情を説明致しますので、待機室に集合させて戴きたいのですが」

 

「そうか。わかった。では訓練を中止させよう」

 

と、頷いた後、五大はマヤに、

 

「伊吹君、連絡を頼む」

 

「了解しました」

 

「では私は待機室に参ります」

 

と、加持が言うのへ、五大は、

 

「私も行こう」

 

「そうですか。よろしくお願い致します」

 

 +  +  +  +  +

 

 待機室。

 

 待っているミサトの所に八人がやって来た。流石に事情を知らない四人はやや不安気な顔をしている。

 

 ミサトは、全員を見回すと、

 

「みんなお疲れのとこ、悪いわね」

(……みんな神妙な顔してるわね。事情を知らない子は特に……)

 

 一番に、トウジが、

 

「あ、ミサトさん。いきなり『シミュレーションを中止して全員待機室に行くように』て言われたんですけど、なんぞあったんでっか?」

 

「それはね、もうすぐ加持君が来るから……」

 

 丁度その時、加持が入って来て、

 

「みんな待たせたな」

 

 続いて五大が、

 

「お疲れの所をすまないな」

 

 ミサトは、やや驚いて、

 

「あ、本部長もいらして下さったんですか」

 

 五大は、頷くと、

 

「ああ、なにか重要な質問が出た時は、本部長として答える事が必要になるかと思ってね」

 

と、言いつつ席に着く。先に席に着いていた加持が、八人を見回し、

 

「では早速始めるか。まず最初にだ、鈴原君、八雲君、相田君、洞木君の四人は特にしっかり聞いて欲しい」

 

「え? は、はい」

「?……。はい」

「はい……。?……」

「?……。はい」

 

 トウジ、ケンスケ、ヒカリ、ナツミの四人は、訳が判らないまま頷く。

 

 加持は、

 

「話の内容の都合上、この話は、綾波君、惣流君、碇君、渚君の四人は既に知っている事なんだが……」

 

と、言った後、一瞬言葉を切って、レイ、アスカ、シンジ、カヲルの四人をチラリと見た。流石に四人とも表情は暗い。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 加持は、続けて、

 

「今回の使徒の襲来に関して重要な情報が判明した。それを君達に伝えておきたい。……この資料を順に回してくれ」

 

 +  +  +  +  +

 

 技術部。

 

 青葉が日向に、

 

「もうすぐチェックも完了だぜ。今の所異状なしだ」

 

「ああ、後はちゃんと動いてくれるかどうか、だな。……外装はどうする?」

 

「そろそろいいだろう。取付の指示を出そう」

 

「培養LCLはどうする? 抜くか?」

 

「どうするかな。作業性を考えると抜いた方がいいんだが……。思い切って抜くか……」

 

 その時、レナがやって来て、

 

「おじゃまします。状況はいかがですか?」

 

 青葉と日向は表情を一変させ、

 

「おっ、田沢さん。もう殆ど終わりだよ」

 

「そうそう。そろそろ外装取り付けの指示を出すところなんだ」

 

 それを聞き、レナは微笑んで、

 

「そうですか。思ったより早かったですね」

 

「うん。幸いにして模擬体がそのまま使えたからね。エヴァの復元力を最大に活かしてやればこの程度の事は可能なんだ」

 

と、青葉が言ったのへ、レナは、

 

「そうですか。じゃ、このへんでコーヒーでもいかがです?」

 

 日向と青葉は一層顔を緩めて、

 

「おっ♪ うれしいねえ。じゃ、お願いするかな♪」

 

「頼むよ。どうもありがと♪」

 

「いえいえ♪ じゃ、みなさんの分、いれて来ますね♪」

 

 +  +  +  +  +

 

 待機室。

 

 一応の説明を終えた後、加持は、

 

「説明は以上だ。ショッキングな話だと思うが、全てを公開して欲しいと言ってくれた、碇君、綾波君、渚君の三人の気持ちを汲んで、事実のみを冷徹に受け入れてもらいたいと思う」

 

 トウジとヒカリは、唯々、

 

「……そんな、……なんでそんなアホなことが……」

 

「……とても、……とても、信じられません……」

 

 ケンスケとナツミも、

 

「……こんな、ことって……」

 

「……こんな、こんなことが許されていいんですか!……」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

「…………」

 

 シンジ、レイ、カヲルの三人は、やや俯いたまま黙っているだけだった。その横で、アスカは何とも悲しげな顔をしている。

 

 暫しの沈黙の後、五大が口を開き、

 

「本部長として私からも一言言っておこう。この件に関しては一切私情を挟む事を禁ずる。今、加持情報部長が言った通り、事実だけを冷徹に認識するように。それが出来ない者には、ここを去って貰うから、そのつもりでいてくれ」

 

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

 

 八人のチルドレンは驚き、絶句した。ミサトと加持も、

 

「!……」

「!……」

 

と、呆気に取られ、思わず五大を見たが、五大は、淡々と、

 

「私からは以上だ」

 

 ここで、ミサトが頷いて、

 

「じゃ、今日のミーティングはここまでとしましょう。今日はこれで解散します」

 

 +  +  +  +  +

 

 技術部。

 

「はい、コーヒーどうぞ♪」

 

と、コーヒーを運んで来たレナに、日向は、

 

「お、ありがとう♪」

 

 青葉も、

 

「サンキュー♪」

 

 その時、レナが急に真顔になり、

 

「あ、そうです。今、待機室の方でミーティングをやってるんですけど、子供達全員に今回の事件の事情を話すそうですよ」

 

「!……」

「!……」

 

 流石に二人も顔色を変える。

 

 一瞬の沈黙の後、まず、青葉が、頷いて、

 

「……結局、な……。やむを得んよな……」

 

 日向も、

 

「まあ、あの子達も辛いだろうけど、ここはみんなで頑張るしかない、って事だな……」

 

 レナも、

 

「そうですよね……」

 

 三人は、また黙ってしまったが、ややあって、青葉が顔を上げ、

 

「よし、じゃ、もう一踏ん張りするかあ。……どうもコーヒーごちそうさま♪」

 

 日向も、

 

「どうもごちそうさま。また頼むよ♪」

 

 レナも、また微笑んで、

 

「はい♪ いつでもどうぞ♪」

 

 +  +  +  +  +

 

 待機室。

 

 八人のチルドレンと五大が退室した後、資料の後片付けのため、ミサトと加持が残っている。

 

 ミサトが、ポツリと、

 

「……ねえ、加持君」

 

 加持が、手を止め、

 

「ん?」

 

「……今日の本部長の言葉、意外だったわね……」

 

 加持は、再び手を動かしながら、

 

「ああ、俺もそう思ったよ。……まあ、当たり前といえば当たり前の事なんだが、あの温厚な本部長があれほど強く言うとはなあ……」

 

「うん。……でもさ、結局はああ言うのが一番の『やさしさ』なのよね。……あの子たちにとってはさ……」

 

「そう言うこったな。……じゃ、部屋に戻って今日の後始末をしてから俺達も帰ろうか。今日は『打ち合わせ』もあるしな」

 

「本部長にはもう言ったの?」

 

「ああ、ここに来る前、通路を歩いている時にこそっと頼んでおいたよ。いつも通り、葛城のマンションに19時半だ」

 

「わかったわ。じゃ、私は帰ったらシンジ君とアスカにそう言うから、加持君はレイを連れて来てよ」

 

「わかった」

 

 +  +  +  +  +

 

 京都財団理事長室。

 

 安倍が、やって来た中河原に、

 

「元締の御様子はどうだ?」

 

「ずっと篭りっ切りですよ。何かあればインタホンで御連絡戴けるようにはしてありますが……」

 

「そうか。……で、他の行者は?」

 

「だめですね。全く『五里霧中』です」

 

「……何とか連中の『尻尾』でも捕まえたいところだな……」

 

 +  +  +  +  +

 

 19:30。ミサトのマンションにいつもの五人に五大を加えた六人が集まった。シンジ、アスカ、レイの三人も流石に神妙な顔をしている。

 

 全員の顔を見渡しながら、加持が、

 

「さて、全員揃ったから始めようか。今日は本部長においで戴いている。しっかり打ち合わせをして、認識レベルの統一を図っておきたいから、みんな、よろしく頼む」

 

 シンジ達三人は一層表情を引き締めた。続いて五大が口を開き、

 

「君達五人は、『とんでもない体験』をして来た訳だ。色々と言いにくい事もあるだろうとは思うが、今後の我々の運命にも関わる事だから、出来る限り正確に思い出して話してくれ」

 

 +  +  +  +  +

 

 京都財団本部の地下道場では、持明院が座禅の姿勢で祭壇の大日如来像に対峙し、ひたすらマントラを唱え続けている。

 

「……オムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカム……」

 

 無論の事、「敵」に「霊的波動」を察知されぬように強力な「結界」を張っているが、逆に、結界が強力であればあるほど「入って来る情報の量」も減る。それは「ゴミ情報」がカットされると言う事でもあり、それ自体は有り難いが、いつ入って来るとも知れない「霊的情報」をひたすら待つと言う作業は退屈な事この上ない。更には「自分の雑念」を「外的情報」と勘違いする可能性も高く、相当の「達人」でないとなし得ない「行」であった。

 

「……オムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカムオムアヴィラフムカム……」

 

 続く

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