二つのコスモス~続・新世紀エヴァンゲリオン 第三部・トップはオレだ!   作:VIA MEDIA

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第五話・大慈大悲

 ゆかりに、「清水寺」と言う言葉を出されたサトシとアキコは少々慌てた。

 

 清水寺と言えば、サトシとアキコにとっては「痛恨のトラウマ」の場所である。無論別に清水寺の責任ではないのだが、「清水の舞台」での「鉢合わせと誤解」がその後の「沖縄での失敗」に発展してしまったのだから人生は判らない。まるで、「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな話である事は充分承知しているとは言うものの、「清水」と言うと何となく敬遠してしまっていたのである。

 

 二人の様子に気付いたゆかりは、少々心配そうに、

 

「あら、どうなさいました? 清水寺がどうかしましたの?」

 

 サトシは慌てて、

 

「いや、なんでもないですよ。いやあ、綾小路さんが、清水寺、なんて、誰でも言うようなありきたりの場所をおっしゃったので、それが意外だっただけでして、……ははは」

 

 自分でも変な言い訳だと思ったが仕方ない、サトシは懸命にごまかした。

 

「あら、そうですの? 私、何もそんな通ぶった事は知りませんのよ。大体、私、金沢ですから、京都の事はそんなに判りませんわ。うふふ」

 

(沢田くん、へんなこと言うて……。そんなこと言うたら、皮肉になってしまうよ……)

 

 アキコはサトシの対応に心の中で眉を顰めた。確かに、「誰でも言うようなありきたりの場所を言うなんて思わなかった」等と言う言葉は皮肉と解釈されても仕方がない。

 

 しかしゆかりは笑っているだけである。場合によっては皮肉になりかねないサトシの「ごまかし」を軽く受け流すのだから大したものだ。その様子を見たアキコは、

 

(……綾小路さん、って、すごい人じゃねえ……。ちゃんとフォローしてくれとるよ……。それにしても、沢田くんも、すぐ顔に出るタイプなんじゃから……。ま、しかたないけんどね……。まだ高一なんじゃもんね……)

 

 自分の事は棚に上げ、アキコはサトシの「お子様ぶり」に苦笑した。

 

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第五話・大慈大悲

 

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 サトシは、笑ったまま一呼吸考え、

 

「……はは、そうですか。それはどうも……、ははは、じゃ、清水の舞台から飛び降りるつもりで清水寺へ、なんちゃって、ははは……」

 

(あちゃー、なに言うとるんよ……)

 

 余りにベタなギャグに、流石のアキコも「天を仰ぎたい心境」だった。

 

 その時突然、

 

「うふ、うふふふ、おほほほほほ」

 

 ゆかりが笑い出したのである。二人は呆気に取られたが、ゆかりは我関せずと言った様子で、

 

「あーおかしい。おほほほ、沢田さん、っておもしろい方なんですのね。うふ、うふふふふ」

 

と、笑い続けた。

 

「えっ? そ、そうですかあ? あはははははは」

 

「うくくっ、ぷぷっ、うふふふふふ。ははははは」

 

 サトシとアキコもつられて思わず笑い出してしまった。

 

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 三人は三年坂にやって来ていた。ゆかりが目を輝かせ、

 

「素敵ですわねえ。ここが三年坂ですの。如何にも京都らしい風情がありますわ」

 

 アキコがそれを受け、

 

「そうです。清水寺の参道の一つで、本当は、『産寧坂』って言うと聞いとります」

 

「金沢も古都ですが、やはり京都は素晴らしいですわ。日本の故郷ですわ」

 

 その時サトシが突然、

 

「ねえ、綾小路さん。『京のぶぶ漬け』って、知ってます?」

 

「ええ、言葉だけは聞いた事が……。どう言う意味ですの?」

 

「京都の人は裏表が激しくて、排他的だ、お客さんを迎えても、心の中では歓迎していない、って事を言うらしいです」

 

 それを聞いたアキコは心の中で顔を顰めた。

 

「…………」

(あちゃー、沢田くん、またわけのわからんこと言うて……)

 

 しかしゆかりは平然と、

 

「それが、『ぶぶづけ』ですの?」

 

「はい。僕も京都へ来た時は、それほど外での付き合いがありませんでしたからよくわからなかったんですけど、事件が解決してから色々と外とも付き合うようになって感じました。『ぶぶ漬け』って言うのは、『お茶漬け』のことなんですが、京都の人の家に行ってしばらく歓談した後、『ぶぶ漬けでもどうどす』って言われたら、それは、『早うお帰りやす』と言う意味だから、早々に退散しなさい、って言うことらしいです」

 

「まあ、そうですの。初めて聞きましたわ。……でも、何となく判るような気もしますわね」

 

 サトシは驚き、

 

「え? どうしてですか?」

 

「確かに京都は排他的なところがあるのかも知れませんわ。でも、私はそこに京都人の気概を感じますのよ。それが1000年以上に亘って日本の文化の中心であり続けた京都の意地なんでしょうね」

 

 サトシは、判ったような判らないような顔で、

 

「はあ……」

 

 ゆかりは続けた。

 

「沢田さん、形代さん、『蝸牛考』って、ご存知ですこと?」

 

 サトシとアキコは、

 

「かぎゅうこう? ……知りません……」

 

「わたしも知らんです」

 

「民俗学者の柳田国男の著書ですわ。蝸牛、とはカタツムリの事ですの。その本によりますとね、カタツムリには色々な方言がありますが、何故か東日本と西日本で同じ言葉を使っている場所がありますのよ」

 

「はあ……」

 

「へえー……」

 

「そして、その言葉を日本地図に置きますとね、ちょうど京都を中心とする同心円上に、同じ言葉が並びますの。私も、カタツムリに関しては詳しくは知りませんが、ちょっと下品でごめんなさいね。……バカ」

 

「ええっ?!」

「ええっ!!??」

 

 いきなり発せられた「意外な言葉」に、二人は驚いたが、ゆかりは気にする様子もなく、

 

「この、バカ、と言う言葉は、主に関東で使われている言葉ですわね。関西では、アホ、と言うでしょ」

 

「あ、……はい」

「はい……」

 

「ところが、九州に行きますとね、バカ、なんですのよ」

 

 ここに至ってサトシとアキコも感心し、

 

「へえー……」

「そう言えば、広島でも……」

 

「つまり、全ての言葉は京都から全国に伝播して行った、と言う事なんですの。先に、バカ、と言う言葉が京都から全国に伝わり、その後に、アホ、と言う言葉が京都で生まれて関西を席巻した、と言う事なんでしょうね。この、アホ、と言う言葉は、室町時代のあたりで生まれた言葉らしいですが、明治になって首都が東京に移るまでは、江戸時代ですら文化の発信基地は京都だったんですのよ」

 

「なるほど……」

「京都から……」

 

「日本の政治の中心が江戸に移っても、文化の世界では京都はずっと日本の中心であり続けた、と言う事ですの。……外へ向かって情報を出し続けた……、それが京都の誇りだったんじゃないでしょうか。全ての文化は京都から、と言う誇りですわね。私は、そう思いますわ。そしてそれが、結果的に、『排他的な土地柄』につながったのではないか、と思いますわ」

 

 サトシとアキコはすっかり感服し、

 

「なるほどねえ……」

(綾小路さん、って、なんだかすごい人だ……)

 

「なるほどねえ……」

(綾小路さん、って、すごい人じゃねえ……)

 

 その時、ゆかりは突然表情を変えた。

 

「……あら、つまらない話をしてしまいましたわ。どうもごめんなさいね。昔読んだ本の受け売りですの。……お恥ずかしいですわ」

 

 二人は非常に恐縮し、

 

「いえいえそんな。勉強になりました」

「わたしも面白かったですけん」

 

「ねえ、沢田さん、形代さん。少しこのあたりの喫茶店で休憩でも致しませんこと? 私、京都のお茶を戴きたいですわ」

 

「はい、喜んで」

「ええ、わたしも喜んで♪」

 

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「北原さん、待たせましたか」

 

「いえ、わたしも少し前に来たばかりです」

 

 四条河原町交差点の一角で待つリョウコの所に草野大作が姿を現した。

 

「すみませんねえ。本屋回りなんかにお付き合いしてもらって」

 

「いえ、わたしも本屋さん回るの好きですから」

 

「じゃ、行きましょうか」

 

「はい」

 

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 ゆかり、サトシ、アキコの三人は、「清水の舞台」に来ていた。ゆかりが眼を丸くし、

 

「ここが『清水の舞台』ですか。初めて参りましたわ♪」

 

 サトシとアキコも、

 

「そうですか。実は僕もまだ2回目なんです。有名なところなんですが」

 

「わたしも結局なんのかんの、って言っても、2回目ですけん」

 

「ここからの眺めは、何となく歴史を感じさせますわねえ。……おかしいでしょ。私、歴史的なところが凄く好きですの。回りからは、年寄りくさい、って言われますのよ」

 

「いえそんな、年寄りくさいだなんて……」

(それよりも、しゃべり方が同世代とは思えないよなあ……)

 

 恐縮するサトシを尻目に、アキコは、

 

「綾小路さん、一つ聞いていいですか?」

 

「はい、どうぞ、何なりと♪」

 

「綾小路さん、って、わたしらと一つしか違わんのに、すごく落ち着いたしゃべりかたをなさるでしょう。ずっとそんなふうに話されていらしたんですか?」

 

 ゆかりは苦笑し、

 

「ええ。……こんな事を申し上げるのもなんですが、私の父方の家系は、元々は京都の公家の流れを汲むものなんだそうですの。今の時代には全くどうでも良い事には違いないのですが、どう言う訳か、綾小路家は代々言葉遣いだけにはうるさく、昔からずっとこんな風に子供をしつけて来たらしいですのよ。それで、私もこんな古臭い言葉遣いになってしまった、と言う訳なんですの。……何だか少々恥ずかしいですわ」

 

 アキコは慌てて、

 

「そんな。恥ずかしい、なんてことないですけん、誇りになさって下さい。わたしなんか、相変わらず広島弁じゃけん、うらやましいです」

 

 しかしゆかりは、にっこり笑って、

 

「広島弁が恥ずかしいと言う事などはありませんわ。それこそ誇りになさるべきですわよ♪」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 アキコも嬉しそうに笑った。

 

 その時ゆかりが、

 

「あ、申し訳ございません。私、少々お手洗いに行って参ります。少しお待ち戴けませんこと?」

 

 サトシがそれを受け、

 

「あ、どうぞどうぞ。僕ら、ここで待ってますから」

 

「有り難うございます。では少々失礼致します」

 

 ゆかりは一礼すると去って行った。

 

 +  +  +  +  +

 

「清水の舞台」の手摺のところで、サトシが、

 

「……ねえ形代、綾小路さん、って、よくわからないけど、なんか、すごい人だねえ」

 

「うん、わたしもそう思うたよ。しゃべり方と言い、人当たりと言い、知識と言い、ふんいきと言い、とても一つ年上には見えんよねえ」

 

「それとさあ、一つ思ったんだけど、僕ら、清水寺、って言えば、あまりいい思い出ないだろ。なのにさ、綾小路さんと一緒に来たせいなのか、ちっとも嫌な感じがしないんだよなあ」

 

「あ、沢田くんもなの。わたしもそうなんよ。来る前は、つらいかなあ、って、思うとったんじゃけんど、いざ来てみたら、なんかすごく楽しいんよ。……あの人、堅苦しいみたいに見えて、人の心をすごくなごませてくれるんよね。ほんとに意外じゃったよ」

 

「そうなんだよなあ。なんと言うか、あの人を例えると、……そうだ、観音様、って感じしない?」

 

「あ、それ言えとるよ。観音様、って感じじゃね。物腰やわらかいし、いつもににこにしてるし……。ほんと、観音様じゃよ」

 

 その時だった。

 

「観音様がどうかなさいましたか?♪」

 

「あっ! 綾小路さん。……いえ、別になんでもないんです。そう言えば、ここのご本尊様は観音様だったかな、って、形代と話してたんです。ははは……;」

 

「清水寺は西国三十三ヶ所観音霊場の第十六番札所、御本尊様は千手観世音菩薩様でいらっしゃいますのよ。ご真言はオン・バザラ・ダラマ・キリク、もしくはオン・バザラ・ダラマ・キリク・ソワカ。さ、お参りに行きましょう♪」

 

「は、はあ……」

(すごい……、すごすぎる……;)

 

「はい……」

(すごいわあ……;)

 

 +  +  +  +  +

 

 リョウコと大作は、大きな紙袋を持って、河原町を歩いていた。

 

 大作の知識欲は相当なものである。リョウコは感心し、

 

「たくさん買い込みましたねえ」

 

「ええ、北原さんのおかげですよ。京都へ来たばかりで本屋もあまり知りませんでしたから。……とても助かりました。……そうだ、まだ時間もありますし、よかったら東山あたりにでも行きませんか」

 

 大作の言葉にリョウコは一瞬うろたえ、

 

「え? ええ、……でも……」

 

「ご都合、悪いですか?」

 

「い、いえ、悪いと言うことは……」

 

「じゃ、行きましょうよ」

 

「……は、はい……」

 

 +  +  +  +  +

 

「ここはなんて言うお寺なのかなあ……。いずみわきでら……」

 

と、サトシが言うのへ、ゆかりが、

 

「せんにゅうじ、と読みますのよ。泉涌寺は天皇家の菩提寺としても有名な所ですわ」

 

 サトシとアキコの二人はすっかり毒気を抜かれ、

 

「…………;」

(すごすぎる……。京都は初めてなんて、うそだろ……)

 

「…………;」

(信じられんわ……。京都は初めてなんて……)

 

「さ、参りましょうか♪」

 

 +  +  +  +  +

 

「ここが天皇家の菩提寺としても有名な泉涌寺ですか。いい雰囲気のところですねえ。……北原さん、よかったらこのあたりの喫茶店でコーヒーでもいかがですか?」

 

と、大作が微笑んだ。リョウコは一瞬迷ったが、

 

「……は、はい」

 

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 ゆかりはすっかりゴキゲンで、

 

「心が洗われるようでしたわ。やっぱり京都のお寺はいいですわねえ。京都に来て本当に良かったと思いますわ♪」

 

 サトシとアキコは、最早「無条件降伏」の状態となり、

 

「……いやしかし、感服しましたよ。……綾小路さんの方が、僕らよりよほど京都におくわしいじゃないですか」

 

「ほんと、すごいですね……」

 

 意外にも、ゆかりは少し頬を染め、

 

「お恥ずかしいですわ。本の知識だけですのよ。ところで如何でしょう。このあたりでまたお茶でも♪」

 

「はい♪」

(たすかったあ……)

 

「はい、喜んで♪」

(たすかったわあ……)

 

 +  +  +  +  +

 

 ゆかり、サトシ、アキコの三人は、泉涌寺前の喫茶店に入った。

 

「いらっしゃいませ」

 

と、注文を取りに来た店員に、サトシは、

 

「えっと、アイスコーヒーね」

 

 アキコは、

 

「わたしはホット」

 

 ゆかりは、

 

「お抹茶戴けますこと?」

 

「はい、アイスコーヒー、ホットコーヒー、お抹茶、ですね」

 

と、言って店員が去った後、アキコが立ち上がり、

 

「すみません。ちょっとお手洗いへ……」

 

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 大作は、リョウコの向かい側で、

 

「今日はいろいろとお付き合いいただいてありがとうございました。……あ、コーヒーが冷めないうちにどうぞ」

 

「はい、ありがとうございます。……いただきます」

 

「……それでね。北原さん」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「もしよろしかったらこれからも僕とお付き合いしていただけませんか」

 

 いきなり「告白」され、リョウコは驚いた。

 

「え!? で、でも……」

 

「どうでしょうか?」

 

「ええ……、でも……」

 

 リョウコが返答に困っていた時、急に大作が、

 

「……あれ? ちょっとすみません。……あの声は……、あれっ! ゆかり姉さん!」

 

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 突然聞こえて来た自分を呼ぶ声に、ゆかりは、

 

「あら!? 大作君?! あら?! そちらの方は……」

 

「あーーーっ!! リョウコ!! なんで草野と!?」

 

 サトシは思わず立ち上がった。

 

 +  +  +  +  +

 

 喫茶店の端と端で、サトシとリョウコは立ち上がり、睨み合った。

 

「サトシくん!! なによ! なんで綾小路さんと!!?」

 

「今日はちょっと用事がある、って言ってたのは草野とデートなのか!」

 

「なによそっちこそ! アキコちゃんと出かける、って言ってたくせに、なんで綾小路さんと一緒なのよ!!」

 

「たまたま一緒になったんだよ!! 形代もちゃんと一緒だよ!!」

 

 その時、店員がオロオロと、

 

「あ、あの……、お客様……」

 

 ゆかりも立ち上がり、努めて冷静に、

 

「二人とも、ちょっとおまちなさい……」

 

 +  +  +  +  +

 

 その時トイレから出て来たアキコが、店内の異様な雰囲気に、

 

「どうなってんの? あらっ??…… ああっ!!!!……」

 

と、眼を剥いたが、どうしようもない。

 

 +  +  +  +  +

 

 リョウコはすっかり頭に血が昇ってしまい、一瞬は黙ったが、すぐに、

 

「……ふーん、どーだか。アキコちゃんをダシにして綾小路さんとデートなんじゃないの?! サトシくんのやりそうなことよ!!」

 

「なんだよその言い方は!! おい草野!! だいたいなんでお前がリョウコと一緒なんだよ!!」

 

 大作は、困った顔で、

 

「いや、単に本屋回りに付き合ってもらっただけなんだけど……」

 

 リョウコも、

 

「そうよ!! 草野さんは悪くないわよ!! だいたいわたしが誰と一緒に本屋に行ったって、サトシくんには関係ないでしょ!!」

 

「!!……」

 

 サトシは思わず絶句した。その時ゆかりが、相変わらず冷静に、

 

「みんな、ちょっとしずかになさい……」

 

 店員も相変わらずオロオロと、

 

「あの……、お客様……」

 

 その時、沈黙していたサトシが、

 

「……なんだよその言い方は!! だいたいリョウコは——」

 

 その時だった。ゆかりが、

 

「おやめなさいいいっ!!!!!」

 

「!…………」

「!…………」

 

 驚いて絶句したサトシとリョウコに、ゆかりは続けて、

 

「こんな所で何ですかっ!! 皆さんに御迷惑でしょっ!! やるなら外でおやりなさいっ!!」

 

「……は、はい、すみません……」

「ごめんなさい……」

 

 二人はっすかり恐縮し、頭を下げるだけだった。その様子をトイレの前でずっと見ていたアキコは、

 

「…………;」

(観音様じゃないね。こりゃお不動さんじゃわ……)

 

 続く

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