夏バテで筆が止まってしまっていたので初投稿です。
「ふぅー…ここか…」
やっと到着した。アルサーにはギルドから歩いて10分程度と言われていたが、夕方近い時間帯だったせいか人混みが多く、加えてそもそもアルサーの歩幅は背の低い
だが苦労した甲斐はあったというもの。
流石は推定高ランク冒険者のアルサーが紹介してくれた宿。道中で時折見えたボロかったり妖しい雰囲気だったりな宿と違って、程々に綺麗で大きい宿だ。
「いらっしゃいッ!!よく来たねェ!!」
ホントにちょっと身体が浮いた気がする。
そう錯覚してしまう程の凄まじい声量だった。
扉を開けた先に立っていた大声の主は、元気と気前の良さそうなおばちゃん。その立ち位置から推測するに、宿屋の女将的な立場の人だろう。
「アンタが坊やの言ってた新人ちゃんだね!話は坊やから聞いてるから、さっさと入んな!」
「あ、はい。」
やはり声が大きい。ガツンと響くような声量は張り上げている訳でも無さそうなので、女将さんはきっと元々よく通る声の持ち主なのだろう。
「しっかしアンタは運が良いねぇ。つい昨日、ウチで一番良い部屋が空いたところだったんだよ。」
「は、はぁ…?ありがとう…ございます…?」
女将さんは機嫌良さげに、これから
時折流れるように聞かれる必要事項は一つ一つ答えて、手際の良い準備は十数分で完了した。
「まぁ、こんなところさね。暫くは道具一式貸し出しって事にしといたげるけど、長期滞在するんなら自前のを揃えといた方が後々困らないで済むよ。」
「あ、あぁ…んっんん、気遣いに感謝を、どれ程長くなるかは解りませんが、これから宜しくお願いします。」
女将さんがめちゃくちゃ気の利く人で助かった。
確かに言われてみるとこのままじゃ自前の道具……特に下着だとかのデリケートな品を何日も使い回す羽目になるところだった。今借りている道具を参考にして、2、3日程度を目処に一式買い揃えておこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「っはぁー、久々のベッドだ…」
諸々の事を終えて借り物のインナーに着替え、部屋のベッドに半ば飛び込むような勢いで腰を下ろす。
ベッドの上から天井の木目を眺めながら、今日という短い1日の間に起きた出来事に想いを馳せた。
この街のファンタジーらしく都合の良い文明力。
道中で見掛けた露天で売られる嗜好品の豊富さ。
そして…今泊まっているこの宿そのものの特異性。
「都合が良いで済む次元じゃないだろ…あのポンコツアホ女神、なんて世界に招いてくれたんだ…」
別に見惚れてるとかでは無い。
よく出来た美貌ではあるし正直とてつもなく可愛いが、これはどう足掻いても自分自身なので、生憎ナルシストじゃない
「文明がめちゃくちゃなのにも限度がある…」
この世界は文明の基準があまりにもおかし過ぎるのだ。外で見掛けた露店には、日本の縁日然としたベビーカステラやお好み焼きモドキ、更には焼きそばらしき料理から、精巧な造形のお土産屋まで。
ギルドの手続きはまるで現代日本における市役所のソレに近いものを感じたし、この宿にしたって風呂は西洋ファンタジーによくある体を拭くタイプでは無くしっかりとした湯船だったし、ドライヤー…この世界では温風を操る魔道具らしいが、そんな現代の影響が過剰な代物まで完備されている。
今手に持っている鏡だってそうだ。
この手の時代にある鏡と言えば、普通はそこそこ曇っててもまぁ使えるか、という程度の品質のはず。しかし今手元にある鏡は現代のソレと遜色無いレベルに澄んで、歪みも不純物の混ざりも無い。
これ程のモノを造るには、本来からまずガラス板の精製技術に銀や銅を限界まで薄くした膜を貼り付け、更にその上から保護剤を塗り付ける…なんて面倒な工程が必要になるはずだ。現代であれば機械加工で量産出来るのだろうが、当然この手の世界にはそんな科学技術は発展していないと見るのが普通だろう。
魔法で銀や銅、ガラスを加工するにしたってそれ等の保護膜となる塗料の代用が難しい。代用品を見つけるというだけでなく、それを精巧に再現し量産体制をこの世界独自で確立させる技術も必要なのだ。
そして当然、これ等の製造技術は主に他の発明、進歩の過程で産まれてくるもの。通常の発明であるのなら、これ等のみが普及しているはずが無い。
そう考えれば今考えているこの可能性は、脳裏に浮かび上がって然るべきものだろう。
「
それも、1人じゃない。少なくとも2〜3人以上だ。
そしてそれ等全員が好き勝手文化を持ち込み技術的ブレイクスルーを発生させ続ければ、自然とこんなチグハグな文明構造が出来上がる、という訳だ。
とはいえ、それが解ったからどうだという話な訳だが。他の転生者達を咎めるには
それでも知りたくはある、
そしてあわよくば親しくなっておきたい。正直言って、共通の話題が出せる気心の知れた友人というのは1人ぐらい居て欲しいのだ。ぶっちゃけ寂しい。
「その為にも…今はこの力の確認からだな。」
そう言って
直後、頭の中に情報が流れ込んできた。
[オーレオール・グラン・マイノリティ]
[性別:女] [年齢:0歳][注釈:13番目の転生者]
[属性適正:火 水 風 地 光 闇]
[ステータス:Lv 2 ]
[
[
[
[称号:六属性奏者/転生者/ズボラエルフ/方向音痴]
「ぶふっ…なん、何だこれ!?」
ステータスそのものの事では無い。この能力に関してはこの世界に転生し、樹海で目覚めてからすぐに自覚していた。おそらくは女神が気の利いたサプライズか何かで授けた能力なのだろう。
冒険者ギルドではステータスの開示に専用の魔道具を用いていた事を鑑みるに、これはきっと異世界転生モノでよくあるチートスキルの類だ。
おそらくは、自身の知りたい事に応じて項目が段々と増えていくタイプの、鑑定眼とかそういう系の能力。
樹海の泉に写った自分を見た時や、野営中、冒険者ギルドでの鑑定中にも「視た」がその度に項目が増えているし内容も少しづつ詳細になっている。
そこまでは良い。問題は新たに視えるようになった「称号」の欄だ。これは他にも視える人がいるのか、だとしたら今後大きな問題になってくる。
六属性奏者…はまぁ、珍しくはあるだろうが種族でゴリ押せば多分なんとかなるだろう。転生者…これは少し困る。もし転生者である事がバレたら、この先どんな面倒事が降り掛かるかわかったものじゃない。
そして…
「ズボラエルフに方向音痴ってなんだよ…!?これじゃ称号じゃなくてただの悪口じゃねぇか…!?」
ゆるさん。
ズボラはおそらくアルサーの法螺話が作用していると思われるので、次会ったらぶん殴る事に決めた。しかし
この手の作用を決めているのは十中八九あのポンコツアホ女神のはずなので、コイツも今度会う機会があったら覚えとけよちくしょうめ。
「ふぅー………寝よう…」
明日は色々と忙しくなる、個人的な怒りで貴重な時間を浪費する訳にはいかない。朝まで少しでも長く休息を取って、万全の体調で取り掛からなければ。
そうと決まればやる事はただ1つ、ベッドに備えられた柔らかな布団に潜って、大人しく目を閉じて……
「………、」
ふと、視線の先に置かれた水瓶が気になった。
意識を集中させて、水瓶を「視る」。
[水瓶(中身:綺麗な水)]
[品質:B+(飲用可/毒性極小)]
「……便利だなこれ。」
ちょっと楽しくなってきてしまった。
次は瓶の方も「視て」みよう。
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空が白んで来た。
夜が明け、朝が来た。
※名目上は不定期更新ですが、更新する曜日は金曜日に固定しています。