TS魔法少女の刑に処す 作:TS魔法少女を曇らせ隊
「つまり、俺にあいつらの仲立ちをしてほしいって?」
「はい〜」
「念の為一つ聞いておくけどよ……冗談だよな?」
「いいえ〜?」
肩を落として嘆息する。
イエローアイの話とは、端的に言えば仲が悪い二人の仲を取り持ってほしい──そういう頼みだった。
俺はひらひらと手を振って、結論をどうにか装飾するための言葉を探す。
「あのなァ、言っとくけど俺はここに来て一日目のほぼ部外者だぜ? そもそも楓信寺静理がなんでああなのか、竜胆あかねの詳しい事情も性格だって知らねェのに、どう仲立ちしろってんだよ」
つまるところ無理である。一応経験はあれど、それは乱暴な解決法であって今回のような花の女子生徒たちにはまったくもって似合わない。
いくら機嫌が良くても無理なものは無理だ、と断りを入れると、イエローアイはにこにこと微笑んで口を開いた。
「ひなたさんって、魔法少女が持つ力が何か知ってますか〜?」
「あ? 魔法だろ?」
名前からしてそうであるし、メディアでも散々取り上げられていた。その魔法の内容自体は、機密保持ゆえか触れられることはなかったが。
「ええ〜。正確には汎用魔法と──第一魔法と表現される〜、固有の魔法があります〜」
第一魔法、それは聞いたことがある。
あの時、二人の言い争いの中にあった言葉だ。状況がそれどころではなかったので後回しにしていたが、思えば随分とファンシーな、魔法少女らしい言葉である。
「私の第一魔法は“電子機器の遠隔操作”です〜。正式名称は別にあるんですけどね〜」
「……それで監視カメラか何かの映像を見たってことかよ」
俺が吐いた後にすぐに駆けつけたのも、施設を彷徨っている俺を見つけたのも、先ほどのように俺が落ち着いた頃の登場も、やたらタイミングが良かったそれらの符号に合う。
「はい〜。これでも魔法少女のサポートとして、本部内のほとんどの業務を執り行う権利がありますので〜」
「……一人で全部やってんのか?」
「
一瞬、探るようにその目を見て、しかしすぐに息を吐く。
考察するのは後でいい。それにどうやら、口止めされていそうだし、な。
「二人の第一魔法は矛と盾のようなもので〜、それもあって仲が悪いんです〜」
「矛と盾……」
それと言い争いの時の言葉を思い返せば、自ずとそれが見えてくる。
おそらく、楓信寺静理の第一魔法は“防御に特化したバリア”。
そして竜胆あかねの第一魔法は──“攻撃に特化した銃火器”。
そのどちらが勝るかは、“落ちこぼれのあかねちゃん”という言葉からして察しがついた。
「それはなんだ、アレか? 単純に才能だとか、そういう問題じゃないのか?」
この四、五年でそういう不条理は染み付いているから、今更惑うことでもない。
だがイエローアイは横に首を振る。
「ミストレスさんはこう言っていました──“魔法少女の才能は肉体に根付くものではない。私が選んだ君たちは、皆等しく多大な素養を持っている。あとはそれを自覚できるかどうかだ”と〜」
「……また小難しいことを」
ううむと唸る。その言葉を考えるに、条件は同等のはずだ。
であるなら足りないのは──自覚?
「そもそも魔法少女の才能ってなんだ? 自覚でどうにかなるものがあるのか?」
「──それについて〜、ミストレスさんはこう言っていました〜」
イエローアイはふと笑みを消して、感情の伺えない目でこちらを見る。
どこか人形じみた雰囲気に部屋の空気がピリついて、自然、身構えてしまう。
「──“現時点で、君たちの中で一番魔法少女の才能に富み──そして誰よりも
「……ァ?」
それは、つまり。
「自己紹介が終わった後、あなたが倒れているときに、ミストレスさんは私にだけそう告げていきました。あかねちゃんや静理ちゃんには、そんなことは匂わせもせず」
間伸びした口調はどこにもない。抑揚がなく平坦で、どこまでも鋭利なその言葉を、俺に向けて突き出してくる。
もしも言葉のナイフというものがあるならば、これ以上に相応しい声はあるまいと確信できるほどだ。
「すでに魔法少女として活動している私たちより、あなたの方が可能性に溢れている?」
「いいえ、あの人は人類は大好きだけど人間のことは見下している。そんな殊勝なことは言わない──けれど彼は、あるいは人以上に誠実です」
「だからその言葉にあるのは真実だけ」
「──教えてください、ひなたさん。
あなたは“自覚”しているはず。あのミストレスさんに、私の理想に相応しいとまで言わしめたあなたの才能を。
その才能で──どうか、彼女に与えるべき言葉を、見出してはくれませんか?」
「……私には、わからないんです」
ただひたすらに
その言葉には泣きそうになるほどの哀しさも、あるいは身命を賭して叶えたいという激しさもない。
どこまでも冷えたその言葉は、しかしそれゆえに必要なのだとこちらに迫り来る合理性に溢れている。
俺はどう答えるべきか。
どう考えるべきか。
俺は──
/
──無理だ、と答えようとした。
俺は部外者だ。魔法少女ではなく、そして、彼女たちと関わっていい人間ではない。
だから無理だ、そう答えようとして、その寸前に脳裏に声が蘇る。
──“汝が心の解釈を、唯一無二と定めるべからず”
俺の心は、なんと言っている。
俺は俺を、なんと心得る。
俺は俺を、どう解釈すればいい?
そう考えた時、自ずと言葉が口から出た。
「イエローアイ、あんたの頼みは聞けねェよ」
イエローアイの瞳にわずかな失望が宿る。
あるいは失望とも呼べず、冷めきっている落胆に過ぎないかもしれないが──
「だが、やらないとも言ってねェ」
俺はベッドの上に立ち、イエローアイを見下ろした。
こちらを見上げる彼女の瞳は、相変わらずの無色透明──しかしその瞳が、見間違いかと思う程度に見開かれているのを見て、俺は笑う。
「悪ィが、俺にはミストレスの理想だとかは知らん。だからお前が寄せる期待には答えられねェ……けどよ、ちょっとばかし考えさせられることがあってなァ」
「考えさせられること、ですか?」
「ああ。だから、
ハナから拒むのではなく、選択肢を置いておく。
その上でよく考えて拒むのなら、それならそれで納得できるはずだ。
ミストレスの理想とか、才能だとか、自覚だとか、そういったもので決められるのではなく……俺が俺として、きちんと考えて決められるように。
ポカンとするイエローアイにそう告げると、彼女はわずかに、くすりとだけ笑った。
「それ、“善処する”っていう言葉をそれっぽく言い繕ってるだけじゃないですか〜」
「ん、……痛いところを突きやがる」
「けど〜、すげなく断られるよりはマシ……ですかね〜?」
ゆったりと首を傾げて、少女はわざとらしくため息を吐いた。
「私のお願い、断られてしまいましたね〜。残念です〜」
「ん、おお? いや、善処するって」
「それは一般的に受諾とは言いません〜」
ばっさり切られてしまい、苦い顔をするしかない。
対してイエローアイの方は、何故かとても嬉しそうだ。
「あ〜あ、残念だな〜。ひなたさんのことベッドまで運んだり〜、吐瀉物片付けたり〜、お着替えさせてあげたのにな〜。残念だな〜」
「っぐ」
「道案内もしてあげたのにな〜。色々やってあげたんだけどなぁ〜〜〜?」
「っぐぐ」
「……なので〜、代わりに一つだけお願いを聞いてくれませんか〜?」
にんまりと笑いながら突きつけられた言葉に、それが目的かと嘆息する。散々人の罪悪感を煽っておいてこれとは、なかなかのやり手である。
観念して頷くと、ぱぁっと花が咲き誇るような、見間違いでないのなら今までで一番の笑顔を浮かべやがったイエローアイは、こう言った。
「色々落ち着いたら〜、私と一緒にデパートに行ってくれませんか〜?」
「……そんだけでいいのか?」
「ええ〜。できれば着せ替え人形になってくれると嬉しいです〜」
まるで気負うことなくそう言い放つイエローアイに、いっそ呆れにも似た感心を滲ませ……服飾屋には付き物の
その顔を見て察したのか、あるいは自分が片づけた惨状のことを思い出したのか、あはは〜と間伸びして笑いながら首を振る。
「もちろん〜最大限の配慮はしますよ〜。鏡は見ないでいいようにしますし〜、きちんと気を配りますから〜」
そうまで配慮されてしまうと、断りづらさに拍車がかかりそうである。
……そもそも拒否権なんざ与えられているかどうかは別として。
「……まあ、それなら」
「えへへ、楽しみに待ってますね〜」
渋々と頷いた俺の手を握って、本当に楽しそうにイエローアイは笑っている。
そんなに俺のことを着せ替え人形にしたいのか……何が楽しいのか、俺も経験すればわかるだろうか。
些細な疑問を残しつつも、俺とイエローアイは終始和やかに時を過ごした。
ウンウン悩んでいたらこんな時間になっていました。