TS魔法少女の刑に処す 作:TS魔法少女を曇らせ隊
夜更かしのお供にどうぞ!
「……ま、ってくれ」
かろうじて絞り出せたその言葉を契機にして、呆然としていた俺の脳が動き出す。
その言葉が意味することはすなわち、魔法少女とは──アマイガスと契約を結んだ人間、ということだ。
何故? アマイガスは人類の敵ではなかったのか? そんな疑問が脳裏に浮かび……イエローアイの『相棒』や、あかねが従えていたサラマンダーの存在で、否応にも納得させられてしまう。
「お前に、何の得がある。俺と契約して、何のメリットが……」
『
「……現代社会じゃきょうび聞かねェ話だな」
『汝には馴染みある言葉だろう?』
渋々ながら頷く。自己救済、それは文字通り己の力で己を救う……近代国家に属するために、真っ先に捨てなければいけない概念だ。
そして硝子の異形の言う通り、俺の復讐も広義的に言えばそれになるから馴染みが薄いわけではない。
あまり愉快な話ではないが。
その辺の感情が目つきから漏れていたのか、硝子の異形は歪みない宝石じみた貌でクツクツと笑う。
『我々は我々を、汝らを救うために我々と敵対することを選んだ。その筆頭こそが──いいや、なんでもない』
「そこまで言ったンなら言えやテメェ」
『生憎と、口止めされた。
「そうかよ」
自然、舌打ちが漏れる。薄々察しがついているから余計に苛ついているのだ。
否、正確にはそれだけではない。
苛立ちの原因は、もっと根本的なところにある。
……契約。
魔法少女としての、契約。
それは、かつて断ったミストレスの誘いに、今更になって乗るということ。
「…………」
俺は、ミストレスの誘いを断った時から何も変わっていない。
俺は死ぬべきだと考え、その通りに誘いを断り、……暗い部屋の中、おそらくはコイツに語りかけられて、それでも俺は迷っている。
正しく、
「………………」
だが──それは果たして、本当に必要なのだろうか。
俺は、後ろで倒れ込むあかねの姿を見た。
「……助けられるのか?」
『確証はない』
硝子の異形は、助けられるとは言わなかった。
あるいは、助けられないとも言わなかった。
──俺の選択肢でどちらか決まる、そう告げているようだった。
「なるほど、な」
ふぅ、と息を吐く。
であれば、覚悟はできた。
納得なんて必要ない──俺の心なんざ、どうでもいい。
彼女を助けられるのなら、それでいい。
そう結論付けて、硝子の異形に向き合って、拳を突き出す。
「俺に、この子を守れる力をよこせ」
『それは──』
俺の言葉を聞いて、硝子の異形はなにか物言いたげにこちらに身を乗り出した。
だが数瞬、逡巡するように頭を抑え──こちらに手を差し伸べる。
『あるいはそれも、汝の本心か。いいだろう』
硝子の異形の掌が、俺の拳を受け止める。
……彼の掌はひどく硬い。人ではあり得ない、人外の掌。
だがそれがかえって、頼もしさを感じさせる。
俺は笑う。口角を上げて、わざとらしく勝気に笑う。
「さあ、
/
『いた、タ。まったク』
瓦礫から這い出たアマイガスの口から、ため息とともに声が漏れる。
せっかく極上の食事を楽しめるところだったのに、ケチが付いてしまった──その苛立ちに任せ、手元の瓦礫を握りつぶす。
『あア、久しぶリの食事なノに……』
折れた骨がずるずると、逆再生のように一体化していく。“食”を起源とする彼にとって、再生とはすなわちエネルギーの消費に他ならない。
ただでさえ腹が減っているのにさらに消耗するなどたまったものではないが、そのように生まれてきた以上仕方のないことだと己を納得させるしかない。
『でスが、空腹は最高のスパイス……あァ……』
魔法少女、魔法少女、なんと素晴らしい響きだろう。
特に見目麗しい少女しかいないのが素晴らしい。そのような仕組みを作った裏切り者には感謝しかない──裏切り者とともに、己を一度殺した存在も、とても美味しそうだった。
だが、油断したのはいただけない。
魔法少女の友人の、見目麗しい少女。
そんな存在が、常人であるはずがなかったのに。
現に、今。
その少女が、己の前に立っている。
毅然として。
敵として。
少女は、赤毛の少女を守るようにして立っている。
『ふフ、随分と修羅場をくぐっているようで』
だが、彼女の全身からたぎらせるものは、そのような献身的な動きとはまったく異なるものだった。
憎悪、あるいは殺意。尋常に生きていれば決して得られるはずのない、ドス黒い情動。
それを完全に御している。御して、その上で“殺してやる”と──こちらを睨みつけている。
まるで荒野に吹き抜ける風のようだ。
あらゆるものを砂塵に帰す風。長く浴びれば、全身が風化しかねない。
『随分と、
だからこそアマイガスは嗤う。
足りていない。
それではまったく足りていないと、愚かな少女を嘲るのだ。
「──やるか」
そんな彼の内心を他所に、少女の凛とした声が響く。
よく通るハスキーな美声。そこに気恥ずかしさも、まして躊躇いなど存在せず、街角で歌えばおそらくは時の人になるだろう。
──だが、アマイガスは咄嗟に身構えた。
透き通るようなその声は。
あらゆる障害を貫き、首元に迫り来るナイフのようで。
『な、ニ……?』
身構えたアマイガスは、眼前の少女に意識を集中させ──気付く。
その口角が、歪に弧を描いたことに。
「『
彼女の口が紡いだのは、男女の声色を織り込むがごとき、純粋な殺意。
あまりにも傲慢に、その存在を否定する──抹消宣言。
「『──
獰猛に笑う。
片手で胸を、掻きむしるように握り締め──血反吐を絞り出すように、唱えた。
「《
バキン、と何かが砕け散る。
舞い上がったそれは、光を乱反射する硝子の欠片。
それが少女を包み込むように集い、戦にふさわしい姿を形作っていく。
肩から手の先まで、一切の肌を包み隠すように光が覆う。
ゆったりと腹部を這うように、くびれた腰に張り付くように。
そして光が脚部までもに届き、それらがふわりと風にたわむ。
硝子のドレス、そう形容して差し支えない美しい光──だが少女が手を掲げた瞬間に、それらが一気に
輝いていた布地は黒く。
真っ白なキャンパスを墨に浸したがごとく、隅々にまで黒が行き渡る。
それはまるで、少女の憎悪がドレスを染め上げるように。
「来い」
行き場をなくし、残された光が掲げられた右手に集う。
少女は光を握り締め、大気を裂くようにして鋭く振るう。それによって光が振り落とされ、姿を表すは鈍色の剣。
『……なンて』
わなわなと、アマイガスの身が震える。
抑えきれない
ああ、なんということだろう。
足りていない。まったくもって足りていない──だというのに、彼女はどこまでも美しい。
『なん、テッ!』
──少女もまた、何も遮るものがないその瞳をアマイガスに向ける。
ただそこに宿るのは凄絶なる殺意。冷たく、静かに手段を見定めるその瞳に翳りはない。
『なんテ、食べ応えがあルんでしょう──ッ!!』
「──死ね、クソ野郎」
風に黒髪をたなびかせて、少女は震える化け物に突貫した。
これから感想がえしと一緒に更新ペースをもとに戻していきます、お楽しみに。