TS魔法少女の刑に処す 作:TS魔法少女を曇らせ隊
ドクターヘリに乗り込み、ショッピングモールから離れていく間、俺はずっと奴が消えていった場所を眺めていた。
あの気色悪い最後の言葉。速攻で中指を突き立ててやったが、背筋を這う悪寒は消えない。あれだけの鉛玉を叩き込まれたのだから、臨終したと思いたいが……。
だが、まさかいつまでも怯え続けるわけにもいかない。
「……警戒、頼むぜ」
“承知した”
俺の中にある俺でない誰か、姿を消した硝子の異形に言葉をかける。
完全に信用したわけではないが、それでも利用しなければ意味がない。張り詰めた神経を意図的に弛緩させながら、俺は窓から目線を外した。
「…………」
担架に縛られ、穏やかに眠る赤毛の少女。
竜胆あかね──と、側に控える見覚えのある黄色の少女。
彼女は俺の目線に気が付くと、にこりと笑って手を振った。
それに俺も苦笑して、彼女の隣に足を進める。
「今回は助かったぜ。ありがとな」
「いえいえ〜。あかねちゃんを助けられたのは、ひなたちゃんと……彼女自身の行動のおかげですよ」
ふと微笑みを暗くして、イエローアイはあかねの髪をこわごわと、とても不器用に優しく撫でた。
「突然、あかねちゃんのスマホから信号が途絶えたんです。それでこちらも、緊急事態が発生したことに気が付いて……」
「……そうか、なるほどな」
だから硝子の異形は、“救援を呼ぶ必要はない”と言ったのだ。
とっくのとうに、あかねが救援を呼んでいた。悠長に通話などせずに咄嗟にスマホを破壊するという、あの変態野郎にも気取られぬ手段によって。
彼女と俺はそれによって命を拾った。
あるいは、近隣の住民すべての命をも。
「すげェな、あかねは」
対して俺はひどいものだ。
意地を張って己の心を主張して、彼女を救うための力を手放しかけていた。
結果論と言えばそうかもしれない。だが、結果論だから仕方ないと……そう納得できるほど俺は無責任になりたくない。
「ええ。本当に、この子はすごい。魔法少女としてだけでなく、学校の勉強もこなして、下の子たちのお世話まで……この子は、ほんとうに」
イエローアイはどこか、眩いものを目の前にしたように俯いて。
「とても、情に溢れている」
苦悶にも似た呟きを漏らして、力なく笑った。
それにかけるべき言葉などなく、俺もつられるように苦く笑う。必然、空気がどんよりと重みを増した。
「……なんだか暗くなっちゃいましたね〜。さ、はやく治療しちゃいましょう〜」
雰囲気を誤魔化すように立ち上がった彼女の言葉に、目を見開く。
「治療……できるのか? この傷を、この場で?」
「え、……ああ、そうでしたね。ひなたちゃんはまだ知らないか」
納得したように独りごちた後、まずは実演と言わんばかりにイエローアイは左手をあかねに翳した。
「
次いで彼女が英語か何かの言語を紡いだ瞬間──彼女の手から生じた淡い光が、あかねの身体を包み込んだ。
その姿は幻想的で、大概非日常にも慣れたと思っていた俺でも、思わず見入ってしまうほどに美しい。
「これは……魔法……?」
「ええ、これは私たちが汎用魔法と呼んでいるものです〜」
思わず口からこぼれた言葉に、イエローアイは手を翳したまま答えた。
「人々が無意識のうちに夢想する、“こんな魔法があったらいいな”とか……そういう幻想への憧れ、信仰とも言い換えられるそれを、無意識と繋がっているアマイガスを通して私たちが現実に出力する……原理で言えばそんな感じですね〜」
「……哲学的な話だな。汎用ってことは、そうじゃないのも……あァ」
つまり、それこそが第一魔法か。俺はヘリの運転席をチラリと見た。
その視線で俺が察したことを理解したのか、イエローアイは右手をこちらに差し出す。
──その掌で、ぴりり、と静電気のようにまたたく雷光。
「人々が夢想する汎用魔法とは違い、魔法少女にのみ許された固有魔法は“魔法少女の強い意識”によって決定される……ミストレスさんはそう言っていました」
イエローアイは掌を閉じ、その雷光を握りつぶす。
彼女の微笑みは変わらない。額面通りに、あまりにも歪みなく整えられた美しい笑顔。
「私の第一魔法、名を《
その魔法によって、彼女はこのヘリを動かしている。
否、それは適切ではない。
彼女は、プログラム化した電流を飛ばすことで、無数の
このヘリを動かす操縦士も、あの時あかねを担架に乗せた救助隊員も。
すべて彼女が思うがままに動かし、同時に並行して複数の作業を行わせている。
加えて言えば、ヘリ自体にもプログラムを飛ばして操作の助けにしているのかもしれない。
──人の意識で動く機械。
それは確かに、人類の夢だ。
「別に卑下する必要はねェだろ」
だからこそ俺は言った。
彼女の笑顔のその裏で、どこか己を卑下するような色が見えたから。
俺の言葉にイエローアイが動揺する。それでも左手はあかねに翳したままで、彼女の冷静さが垣間見えた。
「俺ァおまえに助けられた。今回だけじゃなくて、ずっと、目覚めてから何度も助けられてきた。だからおまえの魔法はすごいんだ」
「あはは〜。卑下なんて、してませんよ〜?」
「それならそれでいいんだよ。……それがホントなら、一番良い」
俺の言葉に誰かを変える力はない。
けれど、気付きを得る機会になれば。もしも良い方向に向かうための一助になれるなら。
それは、どれだけ嬉しいことだろう。
故意に道を踏み外した俺が偉そうに言えたことではないが、それでも、このくらいは手を、口を出してもバチは当たらないだろう。
“それでバチが当たるわけがないだろう”
そんなことを考えた折、脳裏に響くは呆れたような男の声。
それに小さく頬を緩めて、息を吐いた。
──なんだよ、結構喋れるじゃねェの。
“……以前語りかけたときより、汝が柔らかくなっていたからか? 驚いて口を出してしまった”
柔らかくなった、俺が? 肉体的には変わらずのぷにぷに……じゃない、精神面の話だろうが馬鹿か俺は。かぶりを振って逸れた思考を洗い流すと同時に、水晶玉以前のやりとりを思い出して──
──途端、胸中にわずかな驚きが満ちるも、しかし不快感はない。
そうか、そうかと呟いて、俺と同じように考え込んでいるイエローアイを見て薄く笑う。
「変わってない、変われてないって思ってたが」
自分でも気付かないうちに、少しは変わっていたんだな。
それが良いことか、あるいは悪いことか、将来のことはわからない。
それでも今、俺は愉快な気分になった。
今はそれだけで充分だった。
──今はそれだけが、唯一手に入れた真実だった。
少し主人公が変われたところで、とりあえずここで一区切りとなりますが、章的には終わっていませんので明日も続けて投稿していきます。
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