TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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前話の内容が少し違和感があるので、少し書き直すかもしれません。
それを踏まえて今話では前の話の一部を含んでおりますのでご承知いただけますようお願いします。


第二十一話 誤魔化さないという『誠実』①

 あかねの病室から出て、ミストレスの執務室に足を進める。

 

 “あの少女の容態はどうだった?”

 

 その最中、脳裏に声が響いた。

 俺は胸元に吊り下げたネックレス……削り出したばかりの原石のような硝子の装飾を握りしめた。

 

「ああ、傷自体はイエローアイの魔法で少しは塞がったらしいが……血液が足りてねェし、寝たきりだから筋肉も衰えてる。死にはしねェが、戦線復帰はしばらく難しいってよ」

 

 “それは良き結果だ。魔法少女の死者数を鑑みれば、幸運と言ってもいい”

 

「……そうだな」

 

 事実として、もしも俺がいなかったら、救援が間に合わずにあかねは死んでいただろう。

 あの変態クソ吸血鬼なら変な理屈で生かしたかもしれないが……敵にそれを期待するほど愚かなこともない。

 

「それで、本当に……」

 

 “何度も言っているだろう。我と治療の想念は相性が悪い……魔法少女になったばかりの汝が扱えるものではない”

 

「チッ、そうかよ」

 

 “心配する気持ちもわかる。だが()()()()()()()()()()()()それが覆ることはないぞ”

 

 つまり無理ってことじゃねェか、と手の中にあるネックレスを睨みつけるも、その先にいるだろう怪物は素知らぬ顔だ。

 はぁ、とため息を一つ落とし、握りしめていたネックレスから手を離した。

 

 

 ──本部に戻り、あかねが病室に運び込まれた後。

 そのままあかねの病室に入ろうとした俺を止めたイエローアイに言われた通り、変身を解除すると硝子の異形は姿を消した。

 その代わりとして現れたのが、この硝子のネックレス。

 

『それは〜変身の時に使う道具ですね〜』警戒して手を伸ばそうとしない俺を見かねたイエローアイによると、それは彼女が持っている片眼鏡……俺がゲロを吐き散らかしてぶっ倒れた医務室で見せたモノクルに当たるモノだという。

 

 それを握りしめて《変身(アマド)》と宣言すれば、また変身できるのだとか。

 

 ただ、ネックレスを見たときに、彼女がひっそりと呟いた。

 

『本当はもっと明確な形になると思うんですけど〜……ひなたちゃんだから特別なのかな〜?』

 

 今もその言葉が、何故か脳裏に染み付いている。

 

 そんなことを考えていると、いつの間にか豪奢な黒木の扉の前にたどり着いた。

 

「……行くか」

 

 “異論はない”

 

 やけに理屈っぽい言葉に苦笑して、コンコン、と上質なドアをノックする。

 声がかかるまで十秒と少し──経っても声がかからないので、気付けの意味を込めてもう一度ドアをノックした。

 

 ゴンッ、コン──「入りたまえよ」

 

「おう、入るぜ」

 

 一声かけてからドアを開いた俺を出迎えたのは、優雅に寛ぐミストレス。

 

「君はいちいち真面目だね。許可を得る必要なんてないのに」

 

 中でソファーに腰掛けて待っていたミストレスは、気品ある所作でティーカップを傾けながら俺に呆れたような目線を寄越した。

 

「社会の一般常識だ。テメェが良くても俺ァ気にするんだよ……そもそも、それはテメェを蔑ろにしてるってことにならねェのか?」

 

「それもその通りだね。ふふ、いいだろう、今後私の部屋に入る時は必ず許可を取るように」

 

「なんでそこで上から目線なんだテメェは……」

 

 呆れと一緒にため息を吐き、ともかく、と話を戻すように俺も対面のソファーに腰掛ける。

 柔軟に沈み込むその感触に少しだけ危機感を覚えながら、俺は本題を切り出した。

 

「わざわざテメェから俺を呼んだンだ……説明、してくれるよな?」

 

「まあね。誤魔化し、はぐらかしは悪魔の特権だが、ここでうやむやにする意味はない」

 

 こほん、とわざとらしく咳をして、ミストレスは飲みかけのティーカップをテーブルに置く。

 そのまま体勢を崩し、天を仰ぐようにして両腕をソファーの背もたれに乗せる。当たり前だが、その所作には気負いも何も感じられない。

 

 ありのままの自然体で、ミストレスは微笑んだ。

 

「それで、何が聞きたいんだい? 君が魔法少女になった記念だ、聞くだけ聞いてみるといい」

 

「……言い方は腹立つが……まあ、いい。それより重要なことがある」

 

 俺もまた身を乗り出して、ミストレスを睨みつけた。

 

全部だ。すべて、きっちり話せ。

 魔法少女のこと、アマイガスのこと……そして」

 

 

「──()()()()()()()、とか?」

 

 

 ミストレスの微笑みに翳りはない。

 それに臆することもなく、俺ははっきりと頷いた。

 

 それにますますミストレスの……彼、あるいは彼女の笑みが、深まった。

 

 

「私の正体、か。おそらく君は、もう察しているんじゃないかな?」

 

「なんとなくはな。だがテメェの口から言われねェと納得できねェんだよ、こっちは」

 

「なるほどなるほど、ヒトらしく答えを求めるか。いいね、そういうところは好きだよ……()()()()()()()()()()()()

 であるならば、私は君にこう答えよう」

 

 ミストレスの唇が震える。

 

 

「──()()()

 

 

「あ゛?」

 

 今(なん)()った、テメェ。

 

「おっと、誤解しないでくれたまえよ。確かに私は聞くと言った……だが答えるとは言っていない。話さない方が都合が良い、そう判断しているからだ」

 

「……それが体の良い誤魔化しと何が違うってンだ、あ゛ァ?」

 

()()()()()()

 

 我ながらガラの悪い声を一蹴して、ミストレスは微かに微笑む。

 

「いいかな? 君は察していることだろう……私が人外であることを。であるならばわかるはずだ。

 私にとって、君に真実を話さずして適当に誤魔化すことは、聖者が善を成すより簡単だってことをね」

 

「……それを信じる証拠はどこにある?」

 

「──()()()()()()()()。イエローアイ……本部の魔法少女の治療でも、血液を取り戻すことは難しいというのに。……その事実では足りないかな?」

 

 反論の言葉を探すも、しかし、見つからない。

 感情に任せて足りないと、そう叫ぶのは簡単だ。だがそれをしたところでミストレスは話さないだろう、彼には彼の中で納得できる理由があるのだから。

 

「……チッ。それもそうだな、クソが」

 

 だから渋々、己を納得させるしかない。

 胸中のモヤモヤごと悪態を吐いた俺を見て、ミストレスがにっこりと微笑む。

 

「君なら理解してくれると思ったよ。……とはいえ、だ」

 

 続く言葉に、否応なしに俺の心臓が跳ね上がった。

 

「さすがにそれは不親切にすぎる。そもそも、君が魔法少女になったことを祝いたい……という気持ちに嘘はないのだから」

 

「ッ、なら……!」

 

「そうだね。私の正体、君が察するモノを超える事実は言えないけれど……それ以外の事柄なら、答えてあげよう。──そもそも、アマイガスとはなんなのか、とかね」

 

 パチリ、とウィンクしたミストレスの言葉。そこに嘘はないと思えた。

 俺は自然と胸元のネックレスを握りしめ……頷く。

 

「教えてくれ。俺が知りたいことを……おまえが許す限りのことを」

 

「ふふ、なんだか教師のようだね。──いいだろう」

 

 ミストレスは立ち上がり、懐から見覚えのあるものを取り出した。

 それは透き通るように美しく、光を反射して輝く──水晶玉。

 

「アマイガス。それはヒトの心を起源とする存在だ。

 そうだね、ドイツのとある心理学者の言葉を借りるなら……()()()()()()

 

「集合的無意識……」

 

「ヒトの無意識(ココロ)の深層。人類全体が共有する認識の元型(アーキタイプ)。そう形容されるモノから、特定の概念に向けられる想念によって形作られ、現実に()()()()ものたち」

 

 浮上。それはまるで、海中から海面に顔を出すような──

 ──ああ、なるほど。俺は一人でに納得した。

 

 ヒトの、動物にとっての起源は海だと伝えられている。

 それを踏まえて考えれば……それらにとっては、ヒトの心こそが母なる海に当たるのだろう。

 

 ゆえにこそ、浮上。

 

「彼らはヒトの心から生まれる、いわばヒトの生み出した無意識(ココロ)の代弁者。だから彼らは相応の、現実を変えるための力を大なり小なり持っている。

 ……けれどまあ、ヒトの心はどうやら二元論ではないらしい。善悪双方入り混じっているから、その両方からアマイガスが出現する可能性があるんだよ」

 

 ミストレスは水晶玉を光に照らして、薄く微笑む。

 

「この水晶玉はね、その顕現を手助けするものなんだ。今、君の側に控えている彼のように……ヒトに味方するモノもいるから」

 

「……コイツは、人を助けるメリットは自己救済っつってたが。それはどうなんだ?」

 

「自己救済。言い得て妙だね……うん、個体差はあれど概ねその考えが一般的、そう言っていいだろう。もっとも彼の性質上、それだけではないだろうけど」

 

 

「アマイガスは人類を起源とし、そして()()()()()()()()()()()()()()()()だ。人が滅びればアマイガスもまた滅びる、ゆえにヒトに味方するアマイガスも存在する」

 

 

 ……待て。

 

「それならなんで人類に敵対的なアマイガスがいるンだよ。自分達だって滅びるんじゃ意味ねェじゃねェか」

 

「そこを深く考えているアマイガスは人類の味方になるんだよ。……あるいは深く考えた上で、人類を滅ぼそうと考えている者もいる。つまるところ個体差だ」

 

「なんだそりゃ……」

 

 何がしたいんだ、アマイガスは。

 そんな心の声が漏れていたのか、ミストレスはため息を吐いて……口を開いた。

 

 

「己が司るモノに則って行動する。それがアマイガスの基本性質さ。

 だから欲望の一部を起源とするならそれに伴い行動する。ヒトの願いを起源とするなら……それを叶えるために存在する」

 

 

 ……だから、善悪双方か。

 悪に分類される心を起源とすれば敵対し、善に分類される心を起源とすれば味方する。

 その中でも個体差が存在し、それによって味方か敵かはさらに変わる。

 

「で、味方するアマイガスと契約したのが魔法少女、か」

 

「その通り」

 

「……おまえ、魔法少女の現状をなんとかしたいって言ってたよな。だけど、おまえの話を聞く限り……魔法少女の戦いに、終わりがあるとは思えない」

 

 あの、変態野郎の言葉が、耳に染み付いて離れないのだ。

 

 俺の言葉に──しかし、ミストレスは、首を振る。

 

「いいや、違うさ」

 

 

「私は、この状況を根本的に変えるつもりでいる」

 

 

「……どうやって?」

 

 もはや、問いかけることしか俺にはできなかった。

 

()()()()()

 

「っ」

 

()()()に、私から言えるのはそれだけだ」

 

 ミストレスはソファーにどかりと座り込み、すっかり冷めてしまったティーカップを口に運ぶ。

 その姿は、これ以上伝える気はない、と意図があることは明らかで。

 

「さて、それ以外に聞きたいことは?」

 

「……なら、あと一つだけ。あかねを襲ったアマイガスについて、なんだが」

 

「ふぅん、“偏食”……どちらかと言うと“美食”の彼か。彼は個性的だからね、何か気になることでも?」

 

「何知り合いみてェなこと言って……いや、いい。大体察した」

 

「それはそれは」

 

 ミストレスが何を考えているか、俺にはわからない。

 だが、彼が現状をなんとかしようとしていることは理解した。

 ならば今はそれでいい。

 

 実りある話し合いをしよう。

 あとは、それを俺がどう活かすかだ。

 

 俺の中で、何かが定まっていくような気がした。

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