TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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レンセイ……レンッセイ……


第二十三話 誤魔化さないという『誠実』③

「よっ、さっきぶり。暇して……は、なかったみたいだな」

 

 あかねに声をかけてすぐ、嘆息する。傍目から見てわかるほど空気が重い。

 楓信寺静理は一体、どんな毒を吐きかけたのか。急いであかねが寝ているベッドに近づいていくと、むくり、と彼女が起き上がった。

 

「……なぁ」

 

「ん、おォ? 喋れるように」

 

「んなこと、どーでも、いい、だろ」

 

 なったのか、と続く言葉を切り捨てて、あかねはこちらを睨みつける。

 だがその割に威圧感はなく……むしろその顔は、俺に苛立っているというより、

 

「ひなた……おまえ、魔法少女に、なったって、本当、か?」

 

 今にも泣きそうな子供の、精一杯の虚勢のような──

 

 たどたどしくもはっきりと呈された疑問──とも呼べない確信を孕んだそれに、思わず口をつぐんでしまう。

 同時に、楓信寺静理が吐きかけた毒とはこれのことか、と納得した。とはいえ、納得したところでこの状況が変わるわけでもないのだが……まったく、楓信寺静理め。やってくれる。

 

「……ああ」

 

 だからこそ、ここで誤魔化す意味はない。もう少し落ち着いてから話すつもりだったが、仕方ない。

 睨みつけてくるあかねを正面から見つめ返す。俺の肯定を聞いたあかねは、わずかに目を伏せて「そうか……」と呟いた後、静かに肩を震わせる。

 

「そ、っか……そう、か。……アタシ、ほんと……」

 

「おい、どうした? アイツから何を言われたんだ?」

 

 やんわりと肩を撫でてやると、あかねは顔を上げないままにポツポツと。

 音もなく雨に降られた河川のように、言葉がこぼれた。

 

 

 /

 

 

『貴女が無様に敗北した後、救援が来るまで誰がその場で持ち堪えたと思いますか?』

 

 病室を訪れた彼女は、そう言った。

 それは、あえて考えずにいた可能性──とてもとても、恐ろしいこと。

 

『あの新入りの娘ですよ。あの娘がその場で契約して、魔法少女になったそうです。そして貴女が敗れたあのアマイガスと真正面から殴り合い、イエローアイの救援まで時を稼ぎ』

 

『──そして、貴女を迅速に救助した』

 

 彼女の口から語られるのは、己が意識を失っていた後の話。

 まだ知らされていなかったそれを客観的に語られ、呆然とする己をふんと見下して、少女は己の胸に手を当てた。

 

『貴女がやったことは獣型を一匹殺しただけ。その後のヒトガタには、不意を突かれたとしても一矢報いることもできず、いいようにあしらわれた』

 

『──私であれば、あのヒトガタは私に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、私であれば』

 

 そこで言葉を切って、楓信寺静理はあかねを見た。

 嘲るように、あるいはわざとらしいほど冷酷に──

 

()()()()()、そう息巻いていた貴女は、逆に新入りに守られている』

 

『──貴女は一体、何がしたいのですか?』

 

 どこまでも鋭い苛立ちが、少女の首元を貫いた。

 

 

 /

 

 

「……アタシ、は」

 

 絞り出すような声。それを聞いて、俺の胸元も締め付けられる。

 かつて、二人の喧嘩を目にしたことがある。あの時はおそらく、楓信寺静理があかねを煽り、それを受け流せなかった彼女が手を出してしまった、という経緯なのだろう。

 

 だが、今回のそれは、以前のものとはいささか異なるようにも見えた。

 

「…………」

 

 守る魔法と壊す魔法。

 楓信寺静理と、竜胆あかね。

 固有魔法──第一魔法の性質、“魔法少女の強い意識”。

 一方的に、劣る関係。

 ミストレスの言葉。

 

 もしかしたら。

 もしかしたら、二人の間にわだかまるものは、単純に仲が悪いとか──そんな一つの言葉で形容できるものではないのかもしれない、そう感じた。

 

 だが、わからない。

 俺にそれ以上のことはわからない。

 あまりにも情報が足らない。考察するには何もかもが不足している。

 

「………………」

 

 であればそれは切り捨てよう。

 考えても答えが出ないものを考えても仕方がない。時間、熱量、容量の無駄だ。

 

 肩を震わせるあかねの側で、彼女の背をあやすように静かに撫でる。

 赤く染まった彼女の耳に、子守唄を歌うように、かすかな、けれど聞こえる程度に明晰な声を囁いた。

 

「俺ァ、後悔はしてねェよ」

 

「でも、アタシ、は……」

 

「……自分を責め続けるのは、辛ェぞ。俺も経験があるけどな……いつまで経っても終わらねェ」

 

 他人の説教はいずれ終わる。どうしたって顔を合わせない、離さなければならない時間が生まれる。

 だが、自責は話が別だ。なにしろ己が己を責め続けるのだから、そこに際限はない。

 自責とは、すなわち己を責める己をも苛むということ。それで生まれる鬱憤は、溜まっていくだけで晴れやしない。

 

 俺も、よくわかる。

 

「俺ァその時、自責の原因に当たることにした。俺がこうなったのはテメエらのせいだ、許さねえ、ぶっ殺してやる、死んで詫びろってな」

 

「……だいぶ、物騒、じゃん」

 

「物騒なほど活力になるってモンよ。……ただまァ、それができないってンなら仕方ねェ」

 

 くすりと笑ったあかねに微笑んで、俺は俺の胸を叩く。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

「おまえがなんでそうまで自分を責めるのか、まァなんとなくわかる。アレだろ、俺を守りきれなかった、俺を戦わせてしまった、とか、そんなモンだろ?」

 

 訝しげに頷くあかねの頬に手を添えて……ペちり。

 手首のスナップを効かせて、頬を軽くはたく。

 

「もっかい言うぞ、俺ァ後悔してねェんだ。そンで迷いなくそう思えるくらい、()()()()()()()()()()。ならそれでいいじゃねェか。結果オーライってヤツだ」

 

「で、でも、それ、は、無責任じゃっ……!」

 

「叫ぶな叫ぶな、また喉を痛めるぞ」

 

 からからの喉を酷使しようとするあかねを宥めて、ピン、と指を立てる。

 

「これは無責任とは違ェぞ。確かに現実逃避だが、いつまでも逃げていいわけじゃねェ……これは先送りだ」

 

「……先、送り?」

 

「そうだ。そもそもの話、病み上がりに加えて馬が合わねェヤツに煽られた今のおまえが、まともに答えなんて出せるはずがねェ。そういうときは一旦逃げて、まずは体調を整えてから存分に苦悩しやがれ」

 

 第一、せっかく目覚めたのに精神的なストレスを抱え込むなど合理に欠ける。

 まずは体と心を整えて、それから自分と殴り合えばいい。疲れた自分と殴り合ってもスッキリするはずがないのだから。

 

 と、まあつらつらと語ったものの、あかねはまだ釈然としない様子である。

 そんな彼女に苦笑して、俺はポン、と頭に手を置いた。

 

「ま、簡単に言えば……めんどくせェことは後に回して、今はお互いの無事を喜ぼうぜってことだよ」

 

「……ぁ」

 

 そのままうりうりと撫で回して、はぁあ、と息を吐いた。

 

 色々と語ってみせたが、結局はそれに帰結する。

 俺も、あかねのことをとても心配していたのだ。……正直なことを言えば、治癒魔法のことを信じきれていなかった。

 あかねが目を覚まさないのではないか、脳裏にそんな不安がよぎって仕方なかったのだ。

 

 あかねが起きてすぐにミストレスのところに行ったのも、実は目覚める前から呼ばれていたのを無理言って引き伸ばしていたせいである。

 アイツは胡散臭いし微妙に信頼できないが、こういった機微には不思議と理解を示してくれる。そのことには、素直に感謝を示すほかない。

 

「ホント……無事で良かったよ」

 

「ぁ」

 

 俺の口からこぼれた言葉に、あかねの瞳がわずかに強張る。

 震え、赤くなり、俯いて──また顔を上げたとき、彼女の顔には、不器用ながらも笑顔が浮かんでいて。

 

「うんっ……ひなたも、無事で、良かったっ……!」

 

「そうだな」

 

 一瞬、彼女の背に手を伸ばそうとして、しかし気付かれないよう引っ込める。

 それはダメだと、そう訴える声に逆らわず──同時に心の底から誓う。

 

 彼女を守らなければ、と。

 




更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
傀異の錬成術師として現在討究に明け暮れておりまして、その影響に加えて色々ありまして遅れました
今後とも頑張りますのでよろしくお願いします
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